だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

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第二章 闇の魔女ミランダ

第8話 魔女のレッスン

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 砂漠都市ジェルスレイムのメイン・ストリートは多くの人でにぎわっていた。
 この大通りの突き当たりには砂漠の神様を祭った大神殿があり、そこで働く多くの神官や巫女みこたち、そして旅の安全を願う参拝客らでごった返している。
 大神殿は白亜の石造りで、その入口は8本の太い柱によって分厚い天井を支えているエントランスが設けられていた。
 大勢の人たちがそこを通って奥の階段を上った先にある本殿入口へと入っていく。

「すごい大神殿だね」

 僕は壮観なその光景に感嘆の声を上げたけれど、すぐ隣にいるミランダはつまらなさそうに鼻を鳴らした。

「フンッ。神だの何だのを祭っている場所は性に合わないの。さっさと行くわよ」

 僕がプレゼントしたメガネをかけたミランダは、そう言いながら通りの真ん中を悠々と歩いていく。
 いつもとまったく異なる町娘風の衣装、そして頭に巻いたスカーフ、おまけに薄桃色のフレームのメガネをかけて、もう変装はバッチリだった。

「それにしても人が多くて鬱陶うっとうしいわね」
「うん。でもこれだけ人が多いと他の誰かをじっくり見ている余裕もないから、かえってミランダだってバレにくいかもね」

 木を隠すなら森の中と言うもんね。
 だけどそこからしばらく歩いていくと少しずつ人の数も少なくなっていき、立ち並ぶ店の業種が少し変わってきた。
 酒場、ショー・ダンスを見せる店、各種のギャンブルを楽しめる店が並び、先ほどまでとはおもむきの異なるにぎやかさに包まれていた。

「この辺りは楽しそうだよ」
「なかなかにぎやかじゃない。ほらアル。さっさと私が楽しめる店を探しなさい」

 そう言うミランダの顔に期待感に満ち溢れた笑みが浮かぶ。
 やばっ!
 早急に彼女が楽しめる店を探し出さねば。
 僕は内心であせりながら血眼ちまなこになって数々の店の看板に目をやった。
 するとほどなくして『ナイフダーツ・バー』という看板を掲げた酒場が見えてきた。
 店の前に出された立て看板を見ると、そこでは投げナイフを的に当てて点数を競うという古典的なゲームが行われているらしい。
 ミランダはグイッと身を乗り出すと、その看板の内容をジィーッと見つめた。

「へぇ。ゲーム自体はアナログな感じだけど、賞品が面白いじゃない」

 どうやら高得点を出した人には賞品が出るらしく、1~5等賞の賞品がそこに記されていた。
 1等賞はちょっとめずらしい賞品だったのでミランダは興味を持ったらしく、僕らはとりあえず店の中をのぞいてみることにした。

 僕とミランダが店の中に入ると、昼間だというのに店内は酔客でにぎわっていた。
 入り口入って正面から左側がバー・カウンターやボックス席のある飲食スペースで、右側がナイフを投げる遊戯スペースとなっている。
 まあナイフと言ってもこんな場所なので酔っ払いの客がトラブルを起こさないよう、殺傷能力がゼロに抑えられた遊戯用のものだった。
 要するに人に向けて投げたり切りつけたりしようとすると自動的に消えてしまう代物だ。

 僕はナイフ投げに興じている客の様子を見た。
 彼らがねらって当てるのは単なる的ではないみたいだ。
 店の奥に設置されたターゲティング・スペースの中は植物やら障害物なんかが置かれていて、映像で表示された鳥型の飛翔モンスターがその中をフワフワと飛び交っていた。
 映像モンスターは赤、青、黄、緑、茶色と5種類の色分けが成されていて、それぞれ1~5点のランク付けがされている。
 1点のモンスターは体が大きくて動きも遅いが、点数が上がるにつれて体が小さくなり、動きも速くなる。
 当然、点数の高いモンスターになるほどナイフを命中させるのが難しい。
 なるほど、あれに当てて点数を競うんだな。

「フン。子供のお遊びね。見てなさいアル」

 そう言うとミランダは受付係の店員にお金を支払い、ナイフを10本受け取った。
 そして意気揚々とシューティング・ボックスと呼ばれる四角い枠に囲まれた足場に立つ。
 そしてミランダは一本のナイフを右手でつかんだまま仁王立ちし、目の前に広がるターゲティング・スペースを静かに見据えた。
 彼女の眼前には様々な映像モンスターがそこかしこに漂っている。

 僕がじっと見守る中、ミランダはナイフを握った右手をスッと目の高さまで振り上げた。
 その途端、ナイフが宙を舞い、一瞬で映像モンスターを刺し貫いた。
 映像モンスターはキュッという甲高い声とともに消滅していく。
 それはもっとも動きが速く、小さくて当てにくい標的である5点の映像モンスターだった。
 僕は思わずポカンと口を開けてしまった。
 い、いや……そりゃミランダのことだから当然命中させるんだろうな、とは思ったけど。
 それはとても高度な技術のはずなのに、ミランダはまるでゴミをくずかごに放るかのような気楽な動作でそれを成し遂げてみせる。

「へぇ。実際のナイフと同じ軌道か。再現度高いじゃない」

 ミランダはそう言うとニッと笑みを浮かべ、今度は両手にナイフを持った。
 そこからは乱れ撃ちだった。
 次々とナイフを投げ放っては5点モンスターだけを撃ち落としていく。
 僕の周りにいた人たちも僕と同様に口をポカンと開けてミランダの離れわざを見つめていた。
 目立ってる目立ってる。

「フンッ。楽勝」
 
 そう言うとミランダは両手をパンパンッと打ち鳴らして胸を張った。
 10本のナイフはあっという間に投げ尽くされ、ほどなくしてゲーム終了となった。
 結果は5点×10匹のパーフェクト。
 店内はオオーッという歓声と拍手喝采はくしゅかっさいに包まれた。
 ミランダは上機嫌でそれに答える。
 僕も嬉しくてつい拍手をしてしまったけど、よく考えてみたら思い切り目立ってるな。
 大丈夫だろうか。

『おめでとうございます! 一等賞の賞品【IRリング】をお受け取り下さい!』

 歓声に沸く店内に店員さんのアナウンスが鳴り響く。
 IRリング(Invisible Recover Ring)。
 それが一等賞の賞品で、装飾品として装備する腕輪だった。
 どんな効果があるのか後で詳細を見てみよう。
 IRリングをアイテムストックに収納したミランダはシューティング・ボックスから降りてきて僕の隣に並び立った。
 すると彼女は僕の背中を押して言う。

「アル。今度はあんたがやってみなさいよ」
「え~? 僕、ナイフなんて投げたことないよ」
「いいからやんなさい。見ててあげるから」

 半ば強引に勧めてくるミランダに根負けし、僕は仕方なくお店の人にお金を支払って10本のナイフをもらった。
 遊戯用とはいえ、小型の割にずっしりとした重みのあるナイフだな。
 僕はそれを持つと今さっきミランダが使ったシューティング・ボックスに立った。

「5点のやつを当てなさい」

 後ろで見ているミランダが気楽な調子でそう言う。
 無理だって。
 僕はあまり乗り気じゃなかったけど、ナイフを一本握り、一番近くにいる1点の映像モンスターに投げつけた。

「ほあっ!」 

 あ、変な声出ちゃったよ。
 僕の投げたナイフはやはりというか何というか、モンスターに届かずに床に落ちた。
 うぅっ。
 これは我ながらにダサい。

「ダサッ! ヘタクソー! Boo~Boo~!」

 後ろから容赦なく罵声とブーイングを浴びせてくるのはもちろんミランダです。
 クソーッ!
 僕は再度ナイフを握りしめると今度はさっきよりも力を入れてナイフを投げた。

「うりゃっ!」

 だけど僕のナイフは標的にかすりもせず、障害物に当たって床に落ちた。
 む、難しいぞコレ。
 コツが分からない。

「フンヌァー!」

 僕はしゃにむに3本目のナイフを投げたけれど、的である映像モンスターに当てることは出来なかった。
 無理っ!
 止まってる的にだって当たりそうもないのに、動いてる的なんて当てられるわけないでしょうが!
 愕然がくぜんとする僕の背中にミランダが呆れた調子で声をかけてきた。

「だらしないわねぇ。まずあんたは目標物を点で見てるから、的を目で追うことしかできないの。目で追って、それから投げたって当たるわけないでしょ」

 そ、そんなこと言ったって……。
 僕が困っていると、ふいにミランダが僕の背中に寄り添うようにして背後に立った。

「ミ、ミランダ?」

 戸惑う僕に構わずにミランダは左手で僕の右ヒジを、それから右手で僕の右手首をつかんだ。
 お、教えてくれるのかな。
 そんな僕らの背後から女性店員さんが不安げに声をかけてきた。

「お、お客様。お二人でボックスに入られるのは不正になりますので……」
「うるさいわね。練習よ練習。この分はカウントしなくていいから」

 ミランダがピシャリとそう言うと、女性店員はすっかり萎縮して黙り込んだ。
 かわいそうな店員さんに構わずミランダは僕に指導を続ける。

「そのまま腰を落として前を見る」
「う、うん」
「目標物は点じゃなくて動線を見るの。動きを先読みして、そこに投げる。後追いじゃなくて先回りすることが大事」

 そう言うとミランダは僕の手首を素早く前に押し出し、それにつられて僕はナイフを投げ放った。
 するとナイフは宙にキレイな軌跡を描いて……ストッと的である1点の映像モンスターに突き立ったんだ。

「やった! 当たった!」
「簡単でしょ。ほら。どんどん行くわよ。あんたもちゃんと体で覚えなさい」

 そう言うとミランダは次々と同じ要領で僕の手首をつかんでナイフを投げさせてくれた。
 彼女が軌道とタイミングを計ってくれるおかげで僕は力を入れてナイフを投げるだけで面白いようにそれは次々と的を撃墜してくれる。
 僕は自分の目の前で繰り広げられるその光景に見惚みとれてしまった。
 す、すごい。
 これがミランダの見ている世界の一端なんだ。
 彼女が黒炎弾ヘル・バレット闇閃光ヘル・レイザーで敵を撃つ感覚が少しだけ感じ取れた気がした。

 しかし……彼女の教えは的確だったけれど一つだけ問題があった。
 それはあまりにもミランダが密着しているため、彼女のいい匂いが僕の鼻腔をくすぐるのと、そ、そして彼女の……胸が僕の背中に当たるんです。
 ミランダの豊かな胸が僕の背中に押し付けられているんです!
 彼女は教えるのに夢中になっているせいか気が付いていないようだった。

 胸がぁぁぁぁぁぁ!
 胸が僕の背中に当たってるんだよぉぉぉぉぉぉ!
 くっ!
 お、教えられるその声に集中しなければならないのに、これはある種の拷問ごうもんですか!
 つ、辛い。
 嬉しいけど辛い。
 
「最後の3本は自分で投げなさいよ」

 7本目のナイフを投げ終わるとそう言ってミランダは僕の傍から少し離れて後ろに下がった。
 ふぅ。
 た、助かった……す、少し惜しい気がするけど。
 よし。
 とにかく今の感覚を忘れずにもう一度。
 僕は背中にミランダがついていてくれるつもりでナイフを投げた。
 それは見事、1点モンスターに命中したんだ。

「やった! やったよミランダ!」
「なに1点のやつではしゃいでんの。5点を狙いなさい」

 ミランダのおかげで1点の映像モンスターは打ち落とすことが出来た。
 それなら……。
 僕は9本目のナイフを思い切って投げてみた。
 狙うは5点のモンスターだ。
 だけどそれは素早く動く5点モンスターのわずかに右側を通り過ぎてしまい、偶然にも2点のモンスターに命中した。

「何やってんのよアル。2点じゃなくて5点だってば」

 わ、分かってるって。
 僕は5点モンスターをねらって、えいやっとナイフを投げたけど、素早く動く5点モンスターは僕のナイフを嘲笑あざわらうように空中で旋回してしまった。
 ナイフは失速して床に落ち、あえなく僕はゲームオーバーとなった。
 
「あ……」

 思わず僕がミランダを振り返ると、彼女は呆れたように苦笑して肩をすくめた。

「もう。仕方のない奴ね」
「はぁ……僕、ミランダがいないとダメだね」

 自分の不甲斐なさに思わず苦笑いを浮かべ僕はそう本音をらした。
 するとミランダが急に面食らったような顔を見せたんだ。
 そして何やら戸惑ったように目を白黒させている。

「え? ……あ、ああ。そ、そうよ。今頃気付いたの? あんたは私がいないとダメなんだから、この先も私の従者としてしっかり仕えなさい」

 そう言うとミランダはなぜだかプイッと背中を向けてしまった。
 やれやれ。
 家来の次は従者ですか。
 ま、いっか。
 結局、僕の得点は最後に投げた有効な3本で得た3点のみであり、この店でもらえた賞品は5等賞の『オアシスサイド・レストラン』の無料デザート券だけだった。

「じゃ、それでデザートでも食べて行きましょ」

 そう言うとミランダは何だかウキウキした調子で僕の腕を引っ張って歩き出した。
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