だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

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第四章 下級兵士アルフレッド

第16話 NPC救出大作戦!

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 薄暗い地底の空間に光の矢が高速で宙を舞う。
 ジェネットの上位スキルである断罪の矢パニッシュメントは僕も何度も見たことのある強力無比な神聖魔法だった。
 その光の矢は僕を襲う雷蜂かみなりばちをすべてほうむり去り、さらに双子へと向かう。
 アディソンが咄嗟とっさに自身の上位魔法である暗黒蜃気楼ブラック・ミラージュを唱えると、彼女の体の前にユラユラとした蜃気楼しんきろうが発生した。

 あれは魔法を無効化するアディソンの得意技だ。
 光の矢はその蜃気楼しんきろうによって屈折し、アディソンには命中しない。
 これを見たキーラもすぐにアディソンの背後に転がり込んだ。
 光の矢は蜃気楼しんきろうはばまれて双子に届かないものの、連続で絶え間なく彼女たちを襲うため、2人は蜃気楼しんきろうの裏側から出ることが出来ずにその場に釘付けにされている。

 今だ!
 僕はすぐに小部屋から抜け出して大広間に駆け出しながら、持っている回復ドリンクを取り出してそれを服用した。
 ふぅ。
 危険水域にあった僕のライフは何とか50%程度まで回復した。
 とりあえず危機を脱した僕は大広間の中でジェネットの姿を探す。

 それにしてもあれだけ断罪の矢パニッシュメントを放ち続けているのに、その術者であるジェネットの姿がどこにもない。
 僕がジェネットへの呼びかけをしようとしたその時、僕のメイン・システムに秘匿ひとくのメッセージが送られてきた。
 その送り主はジェネットだった。

【アル様。ご無事でしたか。返信はせずにそのまま聞いて下さい】

 その言葉に僕はその場に立ち止まった。
 ジェネットからのメッセージは続く。

【アル様はすでに人の姿に戻られたのですね。今、私はまだフェレットの姿のまま、この大広間にいる一人のNPCの背後に隠れて攻撃を行っています】

 えっ?
 僕はとっくに元の姿に戻ったけど、ジェネットはまだフェレットのままなのか。
 元に戻るまでの時間には個人差があるのかな。
 それにフェレット状態でも変わらずに神聖魔法が使えるんだね。

【アル様。よく聞いて下さい。この後すぐに私の同志であるブレイディ率いるフェレット部隊がこの穴の中に到着します。総勢で50名ほどにはなるでしょう。彼らの手引きでここにいるNPCの人達をフェレット化し、地上へ運び出します】

 マ、マジか。
 確かにその方法なら、ここにいる人たちを地上へと逃すことが出来る。
 僕はジェネットの実行力と懺悔主党ザンゲストの組織力に思わず舌を巻いた。

【これから私は双子の相手をします。そしてアル様にも大事なお願いがあります。NPCたちをつないでいる鎖をタリオで全て断ち切って下さい。ブレイディたちが到着するまでに一人でも多くの人を解放しておいてほしいのです。そうすればその後の作業がスムーズになりますから】

 ジェネットの言うことは分かる。
 でも……僕は心配だった。
 フェレット状態なのに1人で双子を相手にするなんて……いや、ジェネットがそう言っているんだから、彼女は必ずやり遂げるだろう。
 僕はジェネットを信じてタリオを握り締めた。

 ここにいる人達を助けるために皆が力を合わせて動いている。
 僕もその一員として自分がやれることをやるんだ。
 そう心に念じて僕は壁際につながれているNPCたちの鎖をタリオで断ち切っていく。
 鎖から解放された人たちはその場に立ち尽くしたり、へたり込んだりしているけれど、誰も彼も自我を失っているため、その目はうつろで一言も言葉を発しない。
 ただ一部の人たちが意識を取り戻したらしく、力のない声を発し始める。

「た、助けてくれ……」
「ここから……出して」

 キーラが言っていたのは彼らのことだろう。
 彼らのコピーがつい先ほどまでミランダと戦っていて、敗れ去ったためにここにいるオリジナルたちが意識を取り戻したんだ。
 そんな彼らの様子があまりにも悲愴で僕は息を飲んだ。
 やっぱり彼らは皆、辛い思いをしていたんだ。
 こんなところにつながれている今の状況が不本意でないはずがない。

「待っていて下さい。すぐに鎖を切りますから」

 僕はそう言って順番に鎖を断ち切っていく。
 意識を取り戻した人は全部で十数人はいるみたいだ。
 こうしている間にもジェネットはどこかに身を隠したまま断罪の矢パニッシュメントを放ち続けていた。
 その勢いは一向に衰えることなく、双子は暗黒蜃気楼ブラック・ミラージュの陰から一歩たりとも出て来られない。

 だけどいくらジェネットでもこの調子で光の矢を放ち続ければいずれ法力が尽きてしまう。
 おそらく数分程度しかもたないだろう。
 それでもジェネットは双子を釘付けにすることで、僕の作業時間を稼いでくれているんだ。

 僕はあせってNPCの人達を傷つけないように注意しつつ、出来る限りのスピードと正確さでタリオを振るって彼らを鎖から解き放ち続けた。
 そして端から順に鎖を断ち切っていき、およそ全体の半数の人を解放したところで僕は手を止めた。 
 なぜなら僕らがここに来る時に通ってきた小さな穴から、続々と小動物がこの大広間に入り込んでくるのを視界の端にとらえたからだ。

 フェレット部隊だ!
 ブレイディたちが到着したんだな。
 僕は希望に胸が躍るのを抑えつつ作業を続けた。
 すると突然、褐色かっしょくの毛並みをした一匹のフェレットが僕の前に立ち止まった。

「ん? 何かな?」

 そのフェレットはいきなりムクムクと大きくなり、1人の女性の姿に戻ったんだ。
 僕の目の前に立った白衣姿の彼女は懺悔主党ザンゲストのメンバーにして、この小動物化の薬品を開発した科学者ブレイディだった。 
 ブレイディは【懺悔主党ザンゲスト/会員No.109/ブレイディ】と隅に記されたメガネの位置を指で直しながら笑顔を見せた。

「ブレイディさん!」
「やあアルフレッド君。ご苦労様。そういえば言い忘れていたんだけど、例の薬液は他の液体で薄めると変身の持続時間が短くなるんだ。砂漠ビールで薄められた薬液をかけた君と、原液をそのままかけたジェネットとでは変身の持続時間に差が出るんだよ。その原理を利用して様々な持続時間の薬液を……」

 どうやら科学者スイッチが入ってしまったみたいで、ブレイディは熱心に講義を始めようとする。
 いや、あのですね。
 今はそんなことよりもですね。

「そ、そのお話は後で聞きますから。早くNPCの人達を……」
「おっと。そうだったね。急がないと」

 熱弁を中断するとようやくブレイディは薬びんを手に、僕が解放したNPCたちをフェレット化し始めた。
 僕もすぐに自分の作業を再開する。
 大広間にはすでに数十匹のフェレットがいて、そのうちの数名はブレイディと同様に人の姿に戻った男性たちだった。
 彼らはフェレット化させたNPCたちを仲間のフェレットたちにヒモで縛り付けている。
 自我を失った状態のNPCたちはフェレット化してもグッタリとしていて自分では歩けそうもないから、ああして上まで運ぶんだな。

 一方で意識を取り戻したNPCたちは突然の奇妙な乱入者たちに驚き戸惑っていたけれど、懺悔主党ザンゲストの男性たちは地上に逃げられると彼らを説得し、ブレイディがなかば強引に薬液をひっかけて彼らをフェレット化していた。
 ともあれ、これで彼らを地上に脱出させる手はずは整った。
 それから僕はひたすらにタリオを振るい、残ったNPCたちの鎖を全て断ち切ったんだ。
 するととらわれたNPC最後の一人である神官戦士の女性の背後から、真っ白な毛並みのフェレットが飛び出してきた。

「ジェネット!」

 驚いて僕が声を上げると、彼女はこちらをチラリと見てから双子に向かって猛然と駆けて行く。
 そして空中高く飛び上がるとその姿は人間である尼僧ジェネットに戻ったんだ。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 気合の声を上げるジェネットはまだ光の矢を連続放射し続けている。
 すごい。
 僕も今まで何度も見たことのある神聖魔法だけど、これほど長く放ち続けるのは見たことがないぞ。
 法力を全て使い果たすほどの気迫と勢いだ。
 さらにジェネットは断罪の矢パニッシュメントを唱え続けながら、懲悪杖アストレアを握って双子に迫る。
 光の矢で釘付けにした双子を直接叩くつもりなんだ。
 
 だけど双子に向かうジェネットの背後の地面に急に緑色の魔法陣が生じたかと思うと、その中から黒光りするむちが飛び出してきてジェネットの足にからみついた。
 予期せぬ攻撃に足をとられてジェネットは思わず転倒しそうになりながら立ち止まる。

「危ない!」

 僕は無意識のうちに弾かれたように駆け出していた。
 するとジェネットの背後にあるその魔法陣の中から魔獣使いのキーラが飛び出してきて、ジェネットに襲い掛かったんだ。
 蜃気楼しんきろうの後ろに隠れていた双子のうち、キーラがいつの間にか魔法陣でジェネットの背後に移動していた。
 ジェネットは振り返ろうとしたけれど、その瞬間に前方にいたアディソンが蜃気楼しんきろうの向こう側から吸血杖ラミアーを投げつけたんだ。

「死ねっ!ジェネット!」

 物質である吸血杖ラミアー蜃気楼しんきろうを突き抜けて高速で空気を切り裂きながらジェネットに襲い掛かる。

「はあっ!」

 ジェネットは気合いの声を発してこれを懲悪杖アストレアで弾き返すけど、そのために後方から襲い掛かるキーラへの反応が遅れてしまう。
 キーラはジェネットの足にからみついた獣属鞭オヌリスを強く引っ張り、ジェネットを転倒させようとした。
 そうはさせないぞ!
 僕は全力で走る勢いのままキーラに突っ込んだ。
 
「うわああああああっ!」
「うぐっ!」

 勢いを緩めることなく僕は無我夢中でキーラに体当たりを浴びせ、キーラは転倒したはずみで獣属鞭オヌリスを手放した。
 ジェネットはそのすきに足にからみついたむちを解いて事無きを得たんだけど、僕はそのはずみで緑色の魔法陣に足を取られ、一瞬でその中に吸い込まれてしまったんだ。

「うわっ!」

 すぐに視界が暗転し、天地がひっくり返るような奇妙な感覚に全身が包まれる。
 僕は自分がどこか別の場所へと転送されるのを感じながらほんの束の間、意識を失った。
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