だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

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第五章 魔獣使いキーラ & 暗黒巫女アディソン

第13話 地上へ急げ!

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 闇の魔女ミランダ vs 魔道拳士アリアナ。
 オアシスでの戦いはまだ続いていた。
 僕とジェネット、そして神様は地下空洞を抜けて機能を取り戻したメイン・システム上のモニターで、彼女らの戦いを見守りながら穴の中をい進んでいた。
 僕は自分がどのくらいの間、地下空洞で双子と戦っていたのか分からなかったけれど、その間もミランダはアリアナのコピーと戦い続けていたんだ。
 おそらくはネオ・ウイルスによって不調のミランダと、オリジナルのアリアナからの干渉を受けて力を低下させているアリアナのコピー。
 
 2人の力は拮抗きっこうしていた。
 互いにライフは60%ほど。
 決闘戦なので回復アイテムは使用不可。
 どっちも引かない戦いだ。
 しかしどういうわけか砂漠都市ジェルスレイムの観衆からはブーイングや辛辣しんらつなコメントが寄せられている。

【何この凡戦ツマンネ】
【最初はエキサイトしてたのに、途中から急にダレたな】
【本当にこれがランクA同士の一騎打ちかよ。見る気なくすわ】

 そうした辛口のコメントが画面上に飛び交うのを見た僕は、神様やジェネットと顔を見合わせてつぶやきを漏らした。

「な、何で……」

 だけどその答えはすぐに分かった。
 ミランダもアリアナも本調子でないため、戦闘のレベル自体が下がっていたんだ。
 ジェルスレイムで観戦に興じる観衆は皆、先ほどまでのような高レベルの戦闘を望んでいて、ミランダとアリアナの一騎打ちに期待していた分、落胆したんだろう。
 それが今の反応となって表れているんだ。

 ミランダが抱えている不調のことなんて、見ている人たちは誰も知らない。
 事情を知っている僕は悔しくて思わずくちびるを噛んだ。
 画面を見るとミランダも観衆の反応に苛立いらだってくちびるを噛んでいる。
 一方のアリアナは無感情なまま身構えてミランダと対峙していた。
 さっきはオリジナルのアリアナが流す涙の影響を受けてコピーの方もポロポロと涙をこぼしていたんだけれど、今は元の無表情に戻っていた。
 食い入るようにモニターを見つめる僕の前から神様が声をかけてきた。

「観客の反応はイマイチだが、我々にとっては好都合だぞ。アルフレッド」
「えっ?」
「戦いが膠着こうちゃく状態にあるうちに地上へ出るぞ。アルフレッドはミランダへのネオ・ワクチンの与え方を考えておけ」

 そう言うと神様はジェネットを促して再び穴を登り出す。
 僕もその後に続いて足早に進みながら地上に出てからのことを考えて続けた。

 ミランダは決闘戦の真っ最中だから、僕がノコノコと近付くわけにはいかない。
 手助けだとみなされて、違反行為でミランダが失格になっちゃうからね。
 そうすると遠目からでもネオ・ワクチンを渡すために、IRリングによる不可視妖精ステルス・フェアリーを使うしかない。
 それが一番スムーズだろうけど、そもそも僕は本当にネオ・ワクチンを生み出せるんだろうか。
 神様の言うことを疑うわけじゃないけど、僕は自分の右腕を見て不安になった。
 変色のスピードは思いのほか遅く、まだ全体の4分の1にも至っていない。

「信じるしかないか……自分を」

 僕はささやくようにそうつぶやいた。
 そして頭の中でイメージを繰り返す。
 この右腕が完全にペールオレンジに染まりきった時、IRリングで同じ色の妖精を呼び出して、それによりミランダが復調する姿を思い浮かべる。
 その時、ふいにモニターから聞こえるブーイングが鳴り止んだ。
 そして再び大きな歓声が湧いた。

 僕らは思わず立ち止まり、モニターを注視する。
 そこではアリアナが激しい動きでミランダを殴りつけ始めたんだ。
 そ、そんな……アリアナのコピーの動きが急に良くなったぞ。
 ちょうどその時、神様のメイン・システムに連絡が入る。
 神様はその内容を確認すると僕を振り返った。

「ブレイディからだ。地下空洞での作業が完了して撤収に入るそうだ。アリアナと双子の小動物化も完了して、これから地上に向かうとのことだ。なるほどな」
「な、何がなるほどなんですか?」

 僕がそうたずねると神様は再びオアシスの戦いを映すモニターに目をやった。

「タイミングを考えると、コピーの方の能力が急に復調したのは、アリアナのオリジナルが小動物化したせいだろう」
「小動物化すると人型の時よりも能力値が落ちますから、おそらくアリアナの干渉力も弱まったのでしょうね。アル様。このままではミランダが不利です。地上へ急ぎましょう」

 さっきフェレット状態で双子相手に奮戦を見せたジェネットがそう言った。
 モニターの中ではアリアナがミランダに接近して、得意の格闘戦で攻め続けている。
 あの間合いじゃミランダに分が悪すぎるよ。
 ミランダは懸命に後退して距離を取ろうとするけれど、アリアナが距離を詰める速度のほうが遥かに速かった。
 ワン・ツーとアリアナの左右の拳がミランダのあごをとらえて左右に揺さぶり、そのままミランダの首に腕を巻きつけたアリアナは鋭い膝蹴りでミランダの腹部を幾度も突き上げる。
 
 メ、メッタ打ちだ。
 ミランダのライフが見る見るうちに50%、40%と減っていく。
 くっ!
 早く……早くミランダの元に駆けつけないと!
 ミランダが劣勢に追い込まれるのを目の当たりにして僕は思わず足を速める。
 そんな僕の様子を感じ取ったのか、先頭のジェネットが優しい声で言った。

「アル様。どうかあせらず。ミランダとてやみ洞窟どうくつべるボスとしての矜持きょうじがあるはず。たとえ体を縛る足枷あしかせがあろうとも必ず誇りを見せてくれますよ」
「そうだ。アルフレッド。これ以上、足を速めても途中でバテるだけだぞ」

 2人の言葉に僕はうなづいた。
 帰り道は上り坂続きなので、確かに足腰への負担が大きい。
 神様の言う通り、あせって足を速めても途中で体力が尽きてしまう。
 僕はミランダを信じ、地上に向かって着実に一歩ずつ進まなくちゃいけないんだ。

 僕が見つめるモニターの中では、アリアナとの接近戦に苦しめられながらもミランダが至近距離用の魔法である中位スキル・亡者の手カンダタを用いてアリアナを拘束し、距離を取りつつ闇閃光ヘル・レイザーでアリアナを狙撃しようとしていた。
 だけどアリアナはいち早く永久凍土パーマ・フロストを呼び出してこれを盾とし、闇閃光ヘル・レイザーから逃れる。
 そして氷結拳フリーズ・ナックルで自分の足元に群がる無数の黒い手を凍り付かせると、凍結した亡者の手カンダタを粉々に打ち払って再び体の自由を取り戻した。

 こうした攻防が繰り広げられるけど、アリアナから激しい攻撃を受けてミランダのライフは削り取られ、必死に魔法で応戦するために魔力は消耗する。
 ミランダは徐々に、だが確実に追い詰められていく。
 ライフが半分以下になっているため、ミランダは死神の接吻デモンズ・キッスを使用することが出来るんだけど、そのすきを与えないほどアリアナは苛烈にミランダを攻め続けていた。

 僕はあせる気持ちを抑えながら必死にペースを守って歩き続けた。
 そんな僕の気持ちをおもんばかってくれたのか、その後は神様もジェネットも口数少なくひたすらに歩き続けた。
 ミランダは苦しい戦局にも決して戦意を失うことなく、戦い続けている。
 弱気を見せない彼女に僕は敬意を抱かずにはいられなかった。

 自分が戦いの矢面やおもてに立つ立場になってみて分かる。
 不利な戦いの中で強い気持ちを失わずにいることがどれだけ大変なことなのか。
 今のミランダを支えているのは誇りと負けん気だろう。
 僕にはとても真似まねできないよ。
 
 ミランダの苦しい戦いを見つめて歯を食いしばりながら、僕は穴の中をひたすらに登り続けた。
 少しでも早く。
 少しでも上に。
 そうして歩き続けること数分。
 僕らはやっとのことで地上にある喫茶店の倉庫内に戻ってくることが出来たんだ。
 店の中は人払いされているようで、静寂に包まれている。

 だけどそこで待っていてくれた数名の懺悔主党ザンゲストの人たちに薬液をかけてもらい、僕とジェネットは人の姿に戻ることが出来た。
 神様だけは僕らとは別の薬品をかけてもらい犬の姿に変化すると、僕らを先導して走り出した。 
 神様の後について僕とジェネットも急いで店を出る。
 メイン・システムのモニターを切ると、ミランダの戦うオアシスに向かって僕らは息を切らしながら必死に走り続けた。
 ミランダ……ミランダ……今行くからね!
 
 そして街の中をどう走ったのか覚えていないほど必死に走り続け、ようやく前方に清らかな水で満たされたオアシスが見えてきたんだ。
 僕らはオアシスサイドのレストランにあるオープンテラスに駆け上がる。
 そこは以前に僕とミランダが2人で訪れた場所で、オアシスを一望できるここからならミランダとアリアナの戦いを間近に見ることが出来る。
 モニターの中で見た時、テラスは大勢の観客で賑わっていたけれど、2人の不調で戦闘のレベルが低下してしまった時に大半の観客が帰ってしまったようで今は閑散としていた。

 僕らはその最前列に駆けつけ、テラスのさくから身を乗り出すようにしてミランダの様子を見つめる。
 するとミランダは地面に片膝をついたまま黒鎖杖バーゲストを地面に突き立て、それを支えにして何とか倒れずにいられる状態だった。
 体のあちこちが凍り付き、アリアナの猛攻にさらされたことが容易にうかがえる。
 そしてそのライフはもう残り10%を切っていた。
 も、もうあと一撃でも直撃を受けたらゲームオーバーだ。
 崖っぷちまで追い込まれたミランダの傷つき疲弊した姿に、僕はたまらずに叫び声を上げた。

「ミランダァァァァァァ!」

 ようやくミランダの元に駆けつけることが出来た僕だけど、右腕はまだ半分ほどが元の色に戻っただけだった。
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