だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
75 / 91
最終章 世界調律師アルフレッド

第1話 祭りのあと

しおりを挟む
「ミランダ。おとなしくして下さい。傷にさわりますよ」
「うるさいわね。ジェネット。あんたのほどこしは受けないって言ってんのよ。何でやみの魔女たるこの私が神の祝福なんて受けないとなんないのよ」
「神は何者にも等しくその御力をお与え下さいます。それがたとえあなたのように腹黒い邪悪な魔女であっても」
「余計なお世話だっつうの!」

 激しい戦いの終わったオアシスのほとりに建つレストランのテラス席では、ジェネットが傷ついたミランダに回復魔法・神の息吹ゴッド・ブレスをかけてあげようとしていたけれど、ミランダは顔をしかめてそれを突っぱねようとしていた。
 やれやれ。
 こんな時くらい素直にジェネットに回復してもらえばいいのに。

 結局、ジェネットに無理やり組み伏せられて回復魔法をかけられるミランダを尻目に、僕はさっきまで戦場となっていたオアシスを見やった。
 そこには多くの永久凍土パーマ・フロストが戦いの痕跡こんせきとなって残されている。
 やみの魔女ミランダは魔道拳士アリアナとの一騎打ちに勝利したんだ。
 そして敗れ去ったアリアナのコピーはゲームオーバーを迎え、先ほど光の粒子となって消え去った。
 通常、このゲームではゲームオーバー後に所定の位置に戻されて再スタートすることになるんだけど、彼女の場合は違った。

【アリアナのコピーは運営本部のほうで身柄を預かった。オリジナルのアリアナが復活した際に、同じキャラクターが2体いることになってしまうからな。是正ぜせいしなければならん】

 走るのが速そうな中型の猟犬姿をした神様が僕にそうメッセージを送ってきた。

「ぜ、是正ぜせいって?」
【……データクリアだ。抹消処分になる】

 分かってはいたけれど、それは残酷な事実だった。
 双子に生み出されて利用され、そして消されてしまうアリアナのコピー。
 コピーとはいえ彼女だって1人のキャラクターなのに……。
 僕は思わず悲しくなってしまった。
 だけどそんな僕の表情を見た神様が処置なしといったように首を横に振る。

【まったく甘い奴め。おまえがそんな顔をするだろうことは予想していた。もし……もしアリアナのコピーからウイルスを除去することが出来たなら、抹消ではなくオリジナルと統合合体させる……という手もなくはない】
「ほ、本当ですか?」
【ああ。そうすればコピーの経験値をオリジナルと合算することが出来るし、アリアナにとってプラスになるだろう】

 神様の言葉は僕の心を軽くしてくれた。
 僕は救われた気持ちになり、感謝の念を持って神様に申し出た。

「ぜひ、そうしてあげて下さい。甘い考えかもしれないけれど、コピーのアリアナだって確かにそこに存在しているんです。それをいなかったことにされるなんて辛すぎますから」
【まあ、今回の功労者であるおまえにそんな顔をさせたままでは私もジェネットに怒られてしまうからな】

 神様の提案に僕はホッと安堵あんどした。
 さっきまでミランダの敵だったアリアナのコピーだけど、コピーとはいってもアリアナそのものだからね。
 抹消なんてしたくはないよ。

 こうしてミランダの出張襲撃イベントは彼女の勝利で幕を閉じ、集まっていた観客たちはそれぞれの帰路についた。
 そんな中、レストランには懺悔主党ザンゲストのメンバーたちが集まってきていた。
 その中にはエマさんやブレイディの姿もある。
 
 オリジナルのアリアナは予定通り救護班がこの街の病院に連れて行ってくれた。
 そして双子は今、レストラン前の道に停まっている荷馬車の荷台に積まれた1人用の牢獄にそれぞれ捕らえられている。
 魔力の込められた特別な鉄格子の中では、まだ凍り付いたままの双子が目を閉じて動作停止状態にあった。
 彼女たちはこれから運営本部まで護送される。
 僕はあることが気になって神様にたずねた。

「この状況を見て黒幕は黙っていないんじゃないでしょうか」
【黒幕の奴は今、運営本部の会議で自身の勝手な行動を糾弾されている。ゲームどころではないさ】
「そ、そうなんですか? 神様は会議に参加しなくていいんですか?」
【参加しているぞ。今まさにな。ゲームをしながらだが】

 コラッ!
 会議中にゲームすんな!
 犬姿の神様は余裕綽々しゃくしゃくでしっぽをブルンブルン振っている。

【双子については先日の事件におけるリードと同様にしばらくは謹慎処分だ。拘束されて取り調べを受けることになる】

 そうか。
 とにかくこれでもう双子も悪さは出来ないだろう。
 さっき双子と戦っている時に思ったように、キーラにしてもアディソンにしても黒幕の手を離れて悪役として活躍したらきっとこのゲームの人気に一役買ってくれるんじゃないかな。
 ま、あの2人も僕みたいな脇役にそんなこと言われたくないだろうけどね。
 そんなことを考えていると、ジェネットの回復魔法によって嫌々ながらもライフを全回復させられたミランダが僕の隣に立った。

「ところでアル。私が戦っている間、あんたどこで何してたのよ。ちゃんと見てたんでしょうね。私の勇姿を。最初から最後まで」
「い、いや、あの。最初から最後までってわけには……」

 い、色々と忙しかったから全部は見ていられなかったんだよなぁ。
 僕がギクッとしてしどろもどろになっていると、僕の後ろにいたエマさんとブレイディが面白そうに身を乗り出してきた。

「オニーサンはわたしとイイコトしてたのよねぇ」
「アルフレッド君はワタシの実験体としてその身をささげてくれたんだよ」

 ちょっ……。
 ふ、2人とも何という余計なことを。
 鬼が!
 鬼が目覚めますから!
 チラリとミランダを見やると、そこには怒りの形相ぎょうそうを浮かべた鬼が立っていた。

「アァァァァァァ~ルゥゥゥゥゥゥ~」

 鬼キター!
 僕、即死確定!

「ひいっ! ち、違うんだミランダ」
「まだ死神の接吻デモンズ・キッス一回分くらいの魔力が残ってるから、あんたも一度臨死体験してみる? 特別に無料でいいわよ」
「は、激しく遠慮します」
「ここで私と離れた後、どこで何をしていたか全部話しなさい。特にそこの女たちがからんでいる部分は詳細まで包み隠さず赤裸々せきららにね。分かった? 返事は!」
「は、はひっ!」

 僕がミランダにいつものように厳しい詰問を受け、それを見たジェネットが困ったように眉間みけんに手をやる。
 それはいつもの光景だった。
 ミランダは相変わらず怖かったけれど、でも僕はようやくいつもの日常を取り戻したように思えて何だか嬉しかったんだ。
 あとはミランダとジェネットの体内に残るネオ・ウイルスを除去しないと。
 僕の右腕もいよいよ4分の3までペールオレンジに変色を遂げている。

「なるほどね。この変な色のキモイ腕はそういうことか」

 キモイとか言うな。
 でも僕の説明をひと通り聞いて納得したのか、ミランダは変色中の僕の右腕をペシッと叩いてフンッと鼻を鳴らす。
 どうやら彼女の機嫌は戻ったようだ。
 ホッ。
 よかった。

「アル様の腕が完全に変色し終えたら、ネオ・ワクチンを試しますよ。ミランダと私の体内からネオ・ウイルスを除去しなければ」

 そう言うジェネットが自分の手首に緑色の輪っかを引っ掛けているのを見て僕はアビーのことを思い返す。
 消えてしまった彼女のことを。
 その緑色の輪っかはアビーの首輪だった。
 僕は神様の前にしゃがみ込む。

「神様。消えてしまったアビーを元に戻してもらえないでしょうか。彼女は自らを犠牲にしてまで僕らを守ってくれたんです」

 僕はどうしてもアビーに戻ってきてもらいたかった。
 彼女にはちゃんとお礼すら言えていないんだ。
 僕の嘆願に神様は耳をヒクヒクとさせる。

【ふむ。キャラクターのデータは破損した時にすぐに修復できるよう、ホスト・システムの中にバックアップを残している。だからアビーのデータ修復も通常ならば難しくないんだが、妙な点がひとつあってな】
「妙な点?」

 神様の話はミランダやジェネット、そしてその場にいる他のメンバー達にも伝わっている。
 そこにいる一同が皆、神様の話に注目していた。

【ホスト・システムに保管されているアビーのバックアップ・データに何者かが侵入した形跡があるんだ。いや、何者かというのは正確じゃないな。何らかのプログラムというべきか】
「えっ?」
【そのせいで今はバックアップ・データを起動することが出来なくなっている。原因は調査中だ。だからアビーの復帰についてはもう少し待ってくれ】

 その話に僕とジェネットは互いに顔を見合わせた。

「そうだったんですか……」
【一からプログラムを組み直すことも出来るが、その方法だと過去の記憶を持たないキャラクターになってしまい、正確には元通りのアビーとは言えないからな】
「分かりました。主よ。アビーの件、私からもお願いしたします」
 
 そう言うとジェネットは自分の手首に引っ掛けているアビーの首輪を大事そうにでた。
 その時だった。
 大砲を放ったような轟音が鳴り響いたのは。
 僕らは皆、反射的に身構えて腰を落とす。

「な、何だ?」

 次の瞬間。
 レストラン前に停車していた荷馬車から大きな火の手が上がったんだ。
 機能停止中の双子を乗せた荷馬車は濛々もうもうと黒煙を立ち上らせながら激しく炎上し始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...