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終幕 やっぱり僕らはNPCだから
前編 その後の僕らは
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「この先には恐ろしい闇の魔女がいるから気をつけろ!」
僕のお得意のセリフを聞いたプレイヤー達が意気揚々と洞窟の奥へと進んでいく。
その先に待つのはこの闇の洞窟の支配者である闇の魔女ミランダだった。
今日も僕は魔女を見張る下級兵士としての日常を過ごしている。
砂漠都市ジェルスレイムでの一件から数日が経過していた。
え?
あの後どうやってこの世界に戻ることが出来たのかって?
それはね……。
「アル様。お茶を淹れましたので、そろそろご休憩になさって下さい」
おっと。
もうそんな時間か。
僕が後ろを振り返ると、そこには銀色のトレイを持ったエプロン姿のジェネットが立っていた。
給仕服姿のジェネットも実にかわいくて思わずジロジロ見そうになるのを僕はじっと堪え、近くに置かれたテーブルの席についた。
「ありがとう。ジェネット」
彼女が淹れてくれたお茶を飲みながら僕は、数日前の出来事に思いを馳せる。
砂漠都市ジェルスレイムでアリアナが復元したすぐ後、隔絶されていた砂の都は元の世界との繋がりを取り戻したんだ。
光の雨によって復元した神様のアバター犬がすぐにジェルスレイムの安全性を確認し、運営本部と話をつけてくれたからだ。
神様を含めた運営本部の仕打ちに対して僕らは(とくにミランダが)少し怒っていたけれど、神様の迅速な対処によって元の世界に戻れることになり、少しは溜飲を下げたんだ。
「今頃、あの双子たちは謹慎中ですね」
僕の向かい側に座ってお茶を飲みながらジェネットがそう言った。
今回さんざん僕らを苦しめた双子の姉妹、魔獣使い・キーラと暗黒巫女・アディソン。
彼女たちは今、運営本部の牢獄に囚われている。
双子の融合体である破滅の女神・セクメトが消えた後、あらかじめ双子のリスタート位置を突き止めていた神様の手引きで、双子は即座に捕らえられた。
今後は取り調べ後に徹底的なクリーニングが行われ、双子の体からウイルスを完全に除去する予定らしい。
運営本部はペナルティーとして双子のキャラクター・データを消去しようとしていたんだけど、悪役としてのそのキャラクター性が存外にプレイヤー達からウケが良かったことと、ウイルスによって暴走していたという事情を考慮し、双子は消去を免れた。
いずれ釈放される見込みだという。
だけど双子を作った黒幕はウイルス騒動の責任を問われ、依願退職という形で会社を去ることになった。
黒幕のことはどうしたって好きにはなれないけれど、僕をこのゲーム世界に生み出してくれたことには感謝してるんだ。
だから僕は複雑だった。
それにこっちに戻ってきてから神様に聞かされたことなんだけど、セクメトには破滅の女神としての顔の他にもうひとつ別の顔があったんだ。
それは破滅とは対極にある癒しの女神としての顔だった。
黒幕はどうやら双子の第四のスキルに2つのパターンを用意していたようなんだ。
破滅の女神に変化するパターンと、癒しの女神に変化するパターン。
まだ開発が完全には終わっていないセクメトだったけれど、最後に光の粒子となってジェルスレイムの街を復元してくれたのは、癒しの女神としての顔が出ていたからだったんだろう。
今にして思う。
紆余曲折あって歪んでしまったのかもしれないけれど、黒幕も元はただのゲームが好きな人だったんだろう。
セクメトの設定の凝り具合を見れば、それがよく分かる。
そして双子が消されずに残れることは僕にとってもどこかホッとする顛末だった。
憎らしい2人だけど、消されるなんて少し悲しいから。
あの2人は僕と同じように黒幕が作ったキャラクターとして、今後もこのゲームで彼女たちらしく振る舞ってくれればいいな。
「何にしても、またこうして日常が過ごせることが僕には何より嬉しいよ」
「そうですね。同感です」
そう言って僕とジェネットは笑みを交わした。
僕とミランダとジェネットは無事にまたこの闇の洞窟に戻って来られたんだ。
僕らを手助けしてくれたアビーは、ジェネットからの報酬を受け取ると次の仕事のために帰っていった。
アビーには僕もミランダも大きな借りが出来たね。
いつかアビーが困っているときは、必ず僕が助けになろうと思う。
ただ、僕なんかで役に立つかどうかは分からないけれど。
と言うのも、僕は今、全ての力を失って元の単なる下級兵士に戻っていた。
今回、運営本部がウイルスと並んで問題視していたのが僕の体に組み込まれた成長因子だった。
黒幕が僕を作り上げる時に組み込んだその成長因子によって、今回僕は異常な成長を遂げた。
運営本部は僕の能力の肥大化を危険視し、僕からタリオを取り上げて封印したんだ。
そしてタリオは無期限で使用が禁じられた。
タリオの元の所有者であるミランダはそのことに文句を言っていたけれど、まあ仕方ないね。
あの呪いの蛇剣には不確定な要素が多すぎる。
とにかくタリオを装備しなくなった僕は一般NPCに戻り、最大値が1になっていたライフゲージも消えた。
そして当然のようにタリオに付随する全ての戦闘能力は失われたんだ。
そして僕の左手首と一体化していたIRリングは戦いの終わりと共にいつの間にか、僕の体の中に溶け込んで消えてしまった。
その代わりに僕の左手首には不思議なアザが浮かび上がっていた。
それは小さな円形のアザで横並びに整列するように5つもあったんだ。
そのうち一番左側のアザが黒い色を、その隣のアザが白い色をしていて、残りのアザはただのくすんだ肌色だった。
それが何なのかは分からないけれど、IRリングの後遺症なのかもしれない。
とにかく今はIRリングに付随する各種の能力も消え、僕は少し以前の僕と同様に何の変哲もない下級兵士へと戻ったんだ。
戦闘能力が失われてしまったのは少し残念だけど、こうして再び平穏な日々を過ごし出すうちに、そのほうがいいんだと思えるようになった。
勇ましく戦うより、このほうが僕らしい。
気弱なヘタレで、ミランダやジェネットに振り回されながら過ごす方がやっぱり僕の性に合っている。
「アリアナはどうしてるでしょうか」
ふとそう尋ねてくるジェネットに僕はアリアナの顔を思い浮かべた。
アリアナは砂漠都市ジェルスレイムで僕らと別れ、運営本部に身柄を預けられることになった。
彼女は黒幕の陰謀に巻き込まれた被害者で、十分なメンテナンスと事情聴取が必要だったからだ。
それが終わったらまた遊びに来てくれるって言ってたけど、その後、彼女からの連絡はない。
おっと。
そうこう言っているうちに奥にある闇の祭壇からプレイヤーの野太い悲鳴が聞こえてきた。
どうやらミランダがプレイヤーを返り討ちにしたらしい。
この闇の洞窟でプレイヤー達を迎え撃つという日常業務に戻ったミランダは、すこぶる快調にプレイヤー達を葬り去っていた。
やっぱり自分のホームグラウンドはリラックス出来るんだろうね。
僕も同じだから分かるよ。
「アル様。お茶のおかわりを……あら?」
ジェネットは何かに気が付いたように手にした急須をテーブルの上に起き、振り返って洞窟の入口方面から続く回廊を見つめた。
すると途端に来訪者を告げる警告音がけたたましく鳴り響いた。
次のプレイヤーが来たのか。
僕はジェネットと同じ方向に目を凝らす……ん?
「アル君!」
洞窟の中に元気な少女の声が鳴り響き、向こう側から大きく手を振りながら走ってきたのは僕の新しい友達、魔道拳士アリアナだった。
僕のお得意のセリフを聞いたプレイヤー達が意気揚々と洞窟の奥へと進んでいく。
その先に待つのはこの闇の洞窟の支配者である闇の魔女ミランダだった。
今日も僕は魔女を見張る下級兵士としての日常を過ごしている。
砂漠都市ジェルスレイムでの一件から数日が経過していた。
え?
あの後どうやってこの世界に戻ることが出来たのかって?
それはね……。
「アル様。お茶を淹れましたので、そろそろご休憩になさって下さい」
おっと。
もうそんな時間か。
僕が後ろを振り返ると、そこには銀色のトレイを持ったエプロン姿のジェネットが立っていた。
給仕服姿のジェネットも実にかわいくて思わずジロジロ見そうになるのを僕はじっと堪え、近くに置かれたテーブルの席についた。
「ありがとう。ジェネット」
彼女が淹れてくれたお茶を飲みながら僕は、数日前の出来事に思いを馳せる。
砂漠都市ジェルスレイムでアリアナが復元したすぐ後、隔絶されていた砂の都は元の世界との繋がりを取り戻したんだ。
光の雨によって復元した神様のアバター犬がすぐにジェルスレイムの安全性を確認し、運営本部と話をつけてくれたからだ。
神様を含めた運営本部の仕打ちに対して僕らは(とくにミランダが)少し怒っていたけれど、神様の迅速な対処によって元の世界に戻れることになり、少しは溜飲を下げたんだ。
「今頃、あの双子たちは謹慎中ですね」
僕の向かい側に座ってお茶を飲みながらジェネットがそう言った。
今回さんざん僕らを苦しめた双子の姉妹、魔獣使い・キーラと暗黒巫女・アディソン。
彼女たちは今、運営本部の牢獄に囚われている。
双子の融合体である破滅の女神・セクメトが消えた後、あらかじめ双子のリスタート位置を突き止めていた神様の手引きで、双子は即座に捕らえられた。
今後は取り調べ後に徹底的なクリーニングが行われ、双子の体からウイルスを完全に除去する予定らしい。
運営本部はペナルティーとして双子のキャラクター・データを消去しようとしていたんだけど、悪役としてのそのキャラクター性が存外にプレイヤー達からウケが良かったことと、ウイルスによって暴走していたという事情を考慮し、双子は消去を免れた。
いずれ釈放される見込みだという。
だけど双子を作った黒幕はウイルス騒動の責任を問われ、依願退職という形で会社を去ることになった。
黒幕のことはどうしたって好きにはなれないけれど、僕をこのゲーム世界に生み出してくれたことには感謝してるんだ。
だから僕は複雑だった。
それにこっちに戻ってきてから神様に聞かされたことなんだけど、セクメトには破滅の女神としての顔の他にもうひとつ別の顔があったんだ。
それは破滅とは対極にある癒しの女神としての顔だった。
黒幕はどうやら双子の第四のスキルに2つのパターンを用意していたようなんだ。
破滅の女神に変化するパターンと、癒しの女神に変化するパターン。
まだ開発が完全には終わっていないセクメトだったけれど、最後に光の粒子となってジェルスレイムの街を復元してくれたのは、癒しの女神としての顔が出ていたからだったんだろう。
今にして思う。
紆余曲折あって歪んでしまったのかもしれないけれど、黒幕も元はただのゲームが好きな人だったんだろう。
セクメトの設定の凝り具合を見れば、それがよく分かる。
そして双子が消されずに残れることは僕にとってもどこかホッとする顛末だった。
憎らしい2人だけど、消されるなんて少し悲しいから。
あの2人は僕と同じように黒幕が作ったキャラクターとして、今後もこのゲームで彼女たちらしく振る舞ってくれればいいな。
「何にしても、またこうして日常が過ごせることが僕には何より嬉しいよ」
「そうですね。同感です」
そう言って僕とジェネットは笑みを交わした。
僕とミランダとジェネットは無事にまたこの闇の洞窟に戻って来られたんだ。
僕らを手助けしてくれたアビーは、ジェネットからの報酬を受け取ると次の仕事のために帰っていった。
アビーには僕もミランダも大きな借りが出来たね。
いつかアビーが困っているときは、必ず僕が助けになろうと思う。
ただ、僕なんかで役に立つかどうかは分からないけれど。
と言うのも、僕は今、全ての力を失って元の単なる下級兵士に戻っていた。
今回、運営本部がウイルスと並んで問題視していたのが僕の体に組み込まれた成長因子だった。
黒幕が僕を作り上げる時に組み込んだその成長因子によって、今回僕は異常な成長を遂げた。
運営本部は僕の能力の肥大化を危険視し、僕からタリオを取り上げて封印したんだ。
そしてタリオは無期限で使用が禁じられた。
タリオの元の所有者であるミランダはそのことに文句を言っていたけれど、まあ仕方ないね。
あの呪いの蛇剣には不確定な要素が多すぎる。
とにかくタリオを装備しなくなった僕は一般NPCに戻り、最大値が1になっていたライフゲージも消えた。
そして当然のようにタリオに付随する全ての戦闘能力は失われたんだ。
そして僕の左手首と一体化していたIRリングは戦いの終わりと共にいつの間にか、僕の体の中に溶け込んで消えてしまった。
その代わりに僕の左手首には不思議なアザが浮かび上がっていた。
それは小さな円形のアザで横並びに整列するように5つもあったんだ。
そのうち一番左側のアザが黒い色を、その隣のアザが白い色をしていて、残りのアザはただのくすんだ肌色だった。
それが何なのかは分からないけれど、IRリングの後遺症なのかもしれない。
とにかく今はIRリングに付随する各種の能力も消え、僕は少し以前の僕と同様に何の変哲もない下級兵士へと戻ったんだ。
戦闘能力が失われてしまったのは少し残念だけど、こうして再び平穏な日々を過ごし出すうちに、そのほうがいいんだと思えるようになった。
勇ましく戦うより、このほうが僕らしい。
気弱なヘタレで、ミランダやジェネットに振り回されながら過ごす方がやっぱり僕の性に合っている。
「アリアナはどうしてるでしょうか」
ふとそう尋ねてくるジェネットに僕はアリアナの顔を思い浮かべた。
アリアナは砂漠都市ジェルスレイムで僕らと別れ、運営本部に身柄を預けられることになった。
彼女は黒幕の陰謀に巻き込まれた被害者で、十分なメンテナンスと事情聴取が必要だったからだ。
それが終わったらまた遊びに来てくれるって言ってたけど、その後、彼女からの連絡はない。
おっと。
そうこう言っているうちに奥にある闇の祭壇からプレイヤーの野太い悲鳴が聞こえてきた。
どうやらミランダがプレイヤーを返り討ちにしたらしい。
この闇の洞窟でプレイヤー達を迎え撃つという日常業務に戻ったミランダは、すこぶる快調にプレイヤー達を葬り去っていた。
やっぱり自分のホームグラウンドはリラックス出来るんだろうね。
僕も同じだから分かるよ。
「アル様。お茶のおかわりを……あら?」
ジェネットは何かに気が付いたように手にした急須をテーブルの上に起き、振り返って洞窟の入口方面から続く回廊を見つめた。
すると途端に来訪者を告げる警告音がけたたましく鳴り響いた。
次のプレイヤーが来たのか。
僕はジェネットと同じ方向に目を凝らす……ん?
「アル君!」
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