だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
90 / 91
終幕 やっぱり僕らはNPCだから

前編 その後の僕らは

しおりを挟む
「この先には恐ろしいやみの魔女がいるから気をつけろ!」

 僕のお得意のセリフを聞いたプレイヤー達が意気揚々と洞窟どうくつの奥へと進んでいく。
 その先に待つのはこのやみ洞窟どうくつの支配者であるやみの魔女ミランダだった。
 今日も僕は魔女を見張る下級兵士としての日常を過ごしている。
 砂漠都市ジェルスレイムでの一件から数日が経過していた。

 え?
 あの後どうやってこの世界に戻ることが出来たのかって?
 それはね……。

「アル様。お茶をれましたので、そろそろご休憩になさって下さい」

 おっと。
 もうそんな時間か。
 僕が後ろを振り返ると、そこには銀色のトレイを持ったエプロン姿のジェネットが立っていた。
 給仕服姿のジェネットも実にかわいくて思わずジロジロ見そうになるのを僕はじっとこらえ、近くに置かれたテーブルの席についた。

「ありがとう。ジェネット」

 彼女がれてくれたお茶を飲みながら僕は、数日前の出来事に思いを馳せる。
 砂漠都市ジェルスレイムでアリアナが復元したすぐ後、隔絶されていた砂の都は元の世界との繋がりを取り戻したんだ。
 光の雨によって復元した神様のアバター犬がすぐにジェルスレイムの安全性を確認し、運営本部と話をつけてくれたからだ。
 神様を含めた運営本部の仕打ちに対して僕らは(とくにミランダが)少し怒っていたけれど、神様の迅速じんそくな対処によって元の世界に戻れることになり、少しは溜飲を下げたんだ。

「今頃、あの双子たちは謹慎きんしん中ですね」
 
 僕の向かい側に座ってお茶を飲みながらジェネットがそう言った。
 今回さんざん僕らを苦しめた双子の姉妹、魔獣使い・キーラと暗黒巫女みこ・アディソン。
 彼女たちは今、運営本部の牢獄にとらわれている。
 双子の融合体である破滅の女神・セクメトが消えた後、あらかじめ双子のリスタート位置を突き止めていた神様の手引きで、双子は即座に捕らえられた。
 今後は取り調べ後に徹底的なクリーニングが行われ、双子の体からウイルスを完全に除去する予定らしい。

 運営本部はペナルティーとして双子のキャラクター・データを消去しようとしていたんだけど、悪役としてのそのキャラクター性が存外にプレイヤー達からウケが良かったことと、ウイルスによって暴走していたという事情を考慮し、双子は消去を免れた。
 いずれ釈放される見込みだという。
 だけど双子を作った黒幕はウイルス騒動の責任を問われ、依願退職という形で会社を去ることになった。
 
 黒幕のことはどうしたって好きにはなれないけれど、僕をこのゲーム世界に生み出してくれたことには感謝してるんだ。
 だから僕は複雑だった。
 それにこっちに戻ってきてから神様に聞かされたことなんだけど、セクメトには破滅の女神としての顔の他にもうひとつ別の顔があったんだ。
 それは破滅とは対極にあるいやしの女神としての顔だった。
 黒幕はどうやら双子の第四のスキルに2つのパターンを用意していたようなんだ。
 破滅の女神に変化するパターンと、いやしの女神に変化するパターン。

 まだ開発が完全には終わっていないセクメトだったけれど、最後に光の粒子となってジェルスレイムの街を復元してくれたのは、いやしの女神としての顔が出ていたからだったんだろう。
 今にして思う。
 紆余曲折うよきょくせつあってゆがんでしまったのかもしれないけれど、黒幕も元はただのゲームが好きな人だったんだろう。
 セクメトの設定の凝り具合を見れば、それがよく分かる。
 そして双子が消されずに残れることは僕にとってもどこかホッとする顛末てんまつだった。
 憎らしい2人だけど、消されるなんて少し悲しいから。
 あの2人は僕と同じように黒幕が作ったキャラクターとして、今後もこのゲームで彼女たちらしく振る舞ってくれればいいな。

「何にしても、またこうして日常が過ごせることが僕には何より嬉しいよ」
「そうですね。同感です」

 そう言って僕とジェネットは笑みを交わした。
 僕とミランダとジェネットは無事にまたこのやみ洞窟どうくつに戻って来られたんだ。
 僕らを手助けしてくれたアビーは、ジェネットからの報酬を受け取ると次の仕事のために帰っていった。
 アビーには僕もミランダも大きな借りが出来たね。
 いつかアビーが困っているときは、必ず僕が助けになろうと思う。
 ただ、僕なんかで役に立つかどうかは分からないけれど。

 と言うのも、僕は今、全ての力を失って元の単なる下級兵士に戻っていた。
 今回、運営本部がウイルスと並んで問題視していたのが僕の体に組み込まれた成長因子グロス・ファクターだった。
 黒幕が僕を作り上げる時に組み込んだその成長因子グロス・ファクターによって、今回僕は異常な成長を遂げた。
 運営本部は僕の能力の肥大化を危険視し、僕からタリオを取り上げて封印したんだ。
 そしてタリオは無期限で使用が禁じられた。
 タリオの元の所有者であるミランダはそのことに文句を言っていたけれど、まあ仕方ないね。
 あの呪いの蛇剣には不確定な要素が多すぎる。

 とにかくタリオを装備しなくなった僕は一般NPCに戻り、最大値が1になっていたライフゲージも消えた。
 そして当然のようにタリオに付随する全ての戦闘能力は失われたんだ。
 そして僕の左手首と一体化していたIRリングは戦いの終わりと共にいつの間にか、僕の体の中に溶け込んで消えてしまった。

 その代わりに僕の左手首には不思議なアザが浮かび上がっていた。
 それは小さな円形のアザで横並びに整列するように5つもあったんだ。
 そのうち一番左側のアザが黒い色を、その隣のアザが白い色をしていて、残りのアザはただのくすんだ肌色だった。
 それが何なのかは分からないけれど、IRリングの後遺症なのかもしれない。
 とにかく今はIRリングに付随する各種の能力も消え、僕は少し以前の僕と同様に何の変哲もない下級兵士へと戻ったんだ。

 戦闘能力が失われてしまったのは少し残念だけど、こうして再び平穏な日々を過ごし出すうちに、そのほうがいいんだと思えるようになった。
 勇ましく戦うより、このほうが僕らしい。
 気弱なヘタレで、ミランダやジェネットに振り回されながら過ごす方がやっぱり僕の性に合っている。

「アリアナはどうしてるでしょうか」

 ふとそうたずねてくるジェネットに僕はアリアナの顔を思い浮かべた。 
 アリアナは砂漠都市ジェルスレイムで僕らと別れ、運営本部に身柄を預けられることになった。
 彼女は黒幕の陰謀に巻き込まれた被害者で、十分なメンテナンスと事情聴取が必要だったからだ。
 それが終わったらまた遊びに来てくれるって言ってたけど、その後、彼女からの連絡はない。
 
 おっと。
 そうこう言っているうちに奥にあるやみ祭壇さいだんからプレイヤーの野太い悲鳴が聞こえてきた。
 どうやらミランダがプレイヤーを返り討ちにしたらしい。
 このやみ洞窟どうくつでプレイヤー達を迎え撃つという日常業務に戻ったミランダは、すこぶる快調にプレイヤー達を葬り去っていた。
 やっぱり自分のホームグラウンドはリラックス出来るんだろうね。
 僕も同じだから分かるよ。

「アル様。お茶のおかわりを……あら?」

 ジェネットは何かに気が付いたように手にした急須をテーブルの上に起き、振り返って洞窟どうくつの入口方面から続く回廊を見つめた。
 すると途端に来訪者を告げる警告音がけたたましく鳴り響いた。
 次のプレイヤーが来たのか。
 僕はジェネットと同じ方向に目を凝らす……ん? 

「アル君!」

 洞窟どうくつの中に元気な少女の声が鳴り響き、向こう側から大きく手を振りながら走ってきたのは僕の新しい友達、魔道拳士アリアナだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...