後宮を追放された数秘メイドですが、女子力(数理)で無双して幸せになりますねっ!

かんのななな

文字の大きさ
7 / 14

⑦秘密作戦発動ですっ!

しおりを挟む
地下十三階の会議室では酒盛りが続いている。つまみがなくなり、ズィーからゾンビ用のオキアミをもらってもしゃもしゃ食べる始末である。

そこに現れた男がいる。
王国軍情報部のジュリアン・ルノール少佐である。
豊満なダークエルフ女性をともなっていた。

「宴もたけなわのところ、失礼するよ」
「待っとったぞ、ジュリ坊」
「酒臭いですよ、ご老体」

ジュリアンがテーブルの上の酒瓶や皿を脇に避けると、ダークエルフ女性が台拭きで会議机を拭きながら自己紹介する。

「イザベル・ニュイラファルと申します。私がおふたりの旅行をアテンドいたします」
イザベルは鞄から封書を取り出す。現れたのは旅行日程表とパンフレットである。

「ガレス・ベルトラン様ならびにアリアンヌ・ベルトラン様、このたびは弊社の新婚旅行プランをお申し込みいただき、まことにありがとうございます」
クールな口調でお礼を言い、イザベルが深々と頭を下げる。

「へっ?えぇっ!?なんですって?」
アリアンヌは眼をしばたかせて尋ねる。
「ですから、おふたりにはハネムーンに行っていただきます」
「聞いてませんよ!?」
「言ってませんので」

アリーの抗議をイザベルは平然と受け流す。
老人ふたりとジュリアンは爆笑している。
ガレスは静かにフリーズしていた。
ズィーは旅行日程表とにらめっこしている。

「安心して。ふたりは囮」
「ぜんぜん安心できない要素が追加された!?」
「これは特殊作戦。説明して」
ズィーはイザベルに続きを促し、ガレスの尻をしばいて起こす。

「おふたりにラグナアリアの極秘施設の立ち上げをしていただくのが、本作戦の必成目標になります」

「ジジイの魔力が衰えたおかげでバカンスやほほーい」
「ズィーさん、容赦ないですね。私もそう思って水着新調しましたけれど」

「うっうっ、アリーちゃんまで追い先短いわしをいじめる……」
しょげるノクトを横目にイザベルが続ける。
「建設はすでに完了し、リゾートホテルとして営業を開始しています。しかし、地下施設の基幹となる計算屍はこれから運びこまなければなりません」

「そのせいで、この二週間、僕ら家に帰れてないからね」
「私、昨晩初めて寮のベッドで寝ましたわ」
「あたしも頑張った。それもこれもジジイのせい」

「すまんのぅ、この老いぼれの魔力が乏しいせいで……じゃが、今日からはわしも製造に参加させてもらうぞい」

「そんな皆様の努力の結晶を極秘裏に輸送しなければならないわけです。中立国に完全編成のアンデッド計算中隊を潜入させるって、この作戦考えたやつ、頭おかしいでしょ。誰とは言いませんが」

イザベルがねめつけてもジュリアンはどこ吹く風である。火の点いていないタバコをくわえてぷらぷら揺らしている。

「目的は分かりますが、手段がわかりません。どうしてガレスさんと私が偽装結婚する必要が?」
「アリアンヌ様、莫迦な男子がなにを好むかご存知ですか?」

「そうですね……おっぱいでしょうか?」
「それは莫迦でなくても好きですね。良い歳しておしゃぶり咥えてる莫迦もいますが」

「おいおい、言われてるぞ、ガレス」
「おまえだよ、ジュリアン!俺はタバコは喫わん」
「おっぱいは好きだろう?」
「す、好きだけど……」

「アリアンヌ様、あれが莫迦な男子です。彼らは誘引して撃滅するのが大好きなのです。カブトムシと同じくらい好きなのです」
「は、はぁ……よく分かりませんけれど……」

「つまりですね。長期的に戦略的劣勢に陥るんだったら、局所的に優勢が取れているあいだに高価値目標を先制攻撃しちゃおう。と、統合情報保安会議で決定されました」

「なんだか軽いノリですわね……私たちを囮にして、どんな大物を釣り上げようというのですの?」
「決まってるじゃないですか。帝国の数学魔人シビュラ・ブルバチェワですよ」

シビュラ・ブルバチェワ、知らぬ者がいない帝国の怪人である。帝国語の活用形からすると女性名だが、年齢も性別も経歴も秘匿されている。

数学秘密結社説、数学サイボーグ説、数学遺伝子改良人間説など、さまざまな噂が流布しているものの真実はようとして知れない。しかし、帝国の演算戦能力を支える魔人の存在は疑いようがない。

ちなみに計算メイド養成所では計算ミスをすると「シビュラが来ますわよ」と脅される。ほとんどナマハゲ・オーガみたいな扱いである。

「二週間後、帝国海軍は演習を隠れ蓑に洋上数理実験を決行します。これに皆様——『死霊迷宮』十三階をぶつけます」

王国軍中央技術研究所基盤計算技術開発本部暗号解読課、王国最大の計算資源を有する実験部隊に『魔眼乙女』が加わったのだ。演算戦の切り札であると言っても過言ではない。

「おふたりが新婚旅行でラグナアリアに向かうと、六割の確率で、少なくともシビュラの一名を誘き出せると予想しています。なお、おふたりがいちゃいちゃすると確率は八割まで上昇します」

「……統合情報保安会議というのは莫迦の巣窟なのかしら?」
「えへん」
ズィーが胸を張った。ただのセーラー服美少女ゾンビではない。エンシェントゾンビクイーンにして、統合情報保安会議の参加者である。この場の誰よりも年嵩で高位の軍人なのだ。

「ふたりを囮にする詫びとして、最上階のスイートを用意する。それでいかがですか?」
口を挟んだのはジュリアンである。
「それはどうもありがとう存じます!」
ぱあっと顔を輝かせて礼を言うアリーであった。

「おい、ジュリアン、適当言ってアリーさんを騙くらかすなよ。屋上の傍受設備を人目につかないように工事させようって魂胆だろ」
ガレスの言葉に視線がジュリアンに集中する。

「おいおい、貴様と俺の仲じゃないか。言わせるなよ、恥ずかしい」
「それ使い方間違ってるからな」
「ルームサービス取り放題でどうだ?」
「乗った!」

「あたしもなんか旨い汁吸いたい」
ズィーが言う。
「貴女はこっち側でしょうが……スイートのプールで泳いで良いですよ」
「よし、乗った」

アリーはホテルのパンフレットをめくる。
「私は……このラグジュアリーでリラクゼーションな感じのエステコースを体験したいです!」
「わかったわかった。わかりました」

こうして王国軍は特殊作戦『いとしのアリー』を発動した。作戦名を聞かされたアリーは耳まで赤くなり、ガレスはいつもどおりフリーズした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
「あなたに会いたかったの、ずっと」 秘め続けていた思いを告げ、リセの胸は高鳴っていた。が、それは人ではなく、五年程前に森でさまよっているところを助け出してくれた、リセにとって恩人(恩獣?)の精霊獣だった。 リセは助けてくれた精霊獣に並々ならぬ思い入れがあり、チャンスがあれば精霊獣を誘拐……運ぼうと鍛え抜いていた筋力で傷ついた精霊獣を寝室に担ぎ込み、念願の抱き枕を手に入れる。 嫌がる精霊獣だったが、リセは治癒能力を言い訳にして能力濫用もはばからず、思う存分もふもふを満喫したが、翌朝……。 これは精霊なら自然体でいられる(むしろ追いかけていく)のに、人前では表情が固まってしまう人見知り令嬢と、自分の体質にちょっとお疲れな魔術師の、不器用な恋の話。 *** 閲覧ありがとうございます、完結しました! ラブコメ寄り? コメディとシリアス混在の恋愛ファンタジーです。 ゆるめ設定。 お気軽にどうぞ。 全32話。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...