ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

文字の大きさ
25 / 112
一章

8b


 その後、なんとか工場の営業時間ギリギリに滑り込んで、展示用サンプルを受け取ることができた。予想通り、工場トラブルが起きた事実はなく、携帯には長文のメールが届いていた。あの新人くんからの謝罪メールだ。要約するなら“嫌われたくありませんでした。嘘吐いて申し訳ございません。”って感じだ。ミスくらい誰でもするし、むしろ嘘吐くほうが嫌われると思う。そんな事を考えながら、落ち込ませない程度に返信した。


「真山さん、そろそろ交代しましょうか?」
「んー、だいじょぶ~」


 犬飼の声に、そう返す。俺はハンドルを握って、山道を抜けていた。

 通常なら高速道路を使いたいところなんだが、帰り道の高速道路で、酷い渋滞に巻き込まれてしまった。数台先を走っていたトラックが追突事故起こしたらしい。そういうわけで、下道に抜けて、現在に至る。

 時計の針はもうすぐ22時を回ろうとしている。俺も犬飼も、都内に住んでるから、帰宅するにはあと数時間はかかるだろう。


「これどうぞ」
「んえ?」
 

 小さく溜息を吐くと、ずいっとペットボトルを渡された。コーヒーだ。眠くならないように、気を遣ってるのか。先日は謎に空き缶を渡されたので少し警戒したが、受け取れば重みを感じる。どうやら空のペットボトルではなさそうだ。「さんきゅ」と受け取れば、犬飼は「そういえば」と言葉を続けた。


「恋人型アンドロイドのナオ?でしたっけ…?」
「うん?」


 キャップに手をかけて違和感を感じた。新品特有のカチッという音がしないのだ。チラリと目線を落とせば、容器の大きさに比べて量が明らかに少ないことに気づいた。

 の、飲みかけ……?

 戸惑った。俺は潔癖症ってわけじゃないが、飲み回しはあまり好きじゃない。でもここで『やっぱりいいわ』なんて言ったら、せっかくの厚意を無下にしてるようで、感じが悪い。極力、口がつかないように飲むと、「そいつと」と犬飼は続けた。


「セックスしたんですか?」
「グォホッ……っ、」


 俺は大きく咳き込んだ。その勢いで、コーヒーが気道へ吸い込まれそうになる。ゲホッゲホッと、胸を叩き、息を吸った。

 …と、ととと突然なんてことを聞いてくるんだ…!?


「…………したんだ」
「してねぇよ!!!!」


 思わず大声で食い気味に返す。同時に、フロントガラスにポツリポツリと雨が降り注ぐ。

 そういえば今日は夕方から雨だった。雨の中、山道を走るのは少し怖い。慎重にハンドルを操作しながら、コホンッと咳払いをすれば、少し掠れた声が響く。


「真山さん」
「うん?」
「ラブホ行きます?」
「うん!?」


 カーブに差し当たった所で、キキィッとタイヤの擦れる音が響いた。白線を越えそうになったが、間一髪でハンドルを切る。

 …あ、あっぶねぇ………

 次から次へと、突飛な質問を投げてくる犬飼。俺をからかってるのか。嫌がらせなのか。危ないからマジで止めて欲しい。横目でチラリと見る。当の本人は相変わらず澄ました顔だ。ふわぁっと欠伸をして、頬杖をつきながら、外を眺めていた。


「えっ…な、何っ…ラブホ?」
「中途半端な田舎ってラブホ多いですよねぇ。ほら、あそこにもある」


 犬飼の指先を辿って、目を向ける。そこにはギラッギラにライトアップされた西洋風の城がある。

 お世辞にも上品とはいえない外観だ。


「真山さん、シャワー浴びた方が良いですよ」
「んぇ……?」
「香水つけてます?汗と混ざって、さっきから結構臭うんですよね」
「え ゙っ……」
「というのは冗談ですけど」


 赤信号になったときだ。ギシッと座席の軋む音がした。犬飼は助手席から身を乗り出して、俺のほうに手を伸ばす。


「あそこで少し休憩しませんか?」


 頬に手が添えられ、至近距離で目が合う。

 その視線は、熱い。


「…えっ?」
「真山さんは知らないと思いますが、ラブホってビジネス目的でも使われるんですよ。安価で泊まれるので人気なんです。ほら、看板にも“ビジネス利用可”って書いてある」
「え、ぁ…ほ、本当だ……」


 目線を外すと、顎を掬われた。


「お互い寝不足のまま運転するのは危ないです。あそこならベッドがあるので仮眠ができます。シャワーも浴びれますし……―今夜はあそこで過ごしませんか?」


 ね?、と細まる目。綺麗な唇は艶やかに弧を描く。その表情に、ゾクッと背筋が震えた。犬飼ファンクラブの総務陣が見たら鼻血を出して倒れそうだ。それくらい、色っぽい微笑みだった。

 俺は「えぇ…と」と呟き、黒目をキョロキョロ彷徨わせた。
  
 …まあ確かに……犬飼の言う通りかもしれない。無理に帰ろうとするよりも、一泊したほうが、時間的に余裕が生まれる。事故のリスクも減るし、シャワーも浴びれるし、仮眠もできる。デメリットがない。

俺はごくりと唾を飲む。


「なら………ちょっと休憩すっか」


 そう言ってウインカーを出した。すると雨音の激しさが増し、パッと一筋の光が瞬き、空を引き裂くような轟音が鳴り響く。近くで雷が落ちたんだ。その瞬間、小音で流していたラジオのノイズが強くなり、やがてブチッと切れる。

 電波が悪いのか。しかし強制的に遮断されたような乱暴な音だった。

 冷たい空気が肌を撫で、ふと、腕時計に目を落とした。

 …そういや長い間ナオを見ていない。普段は事あるごとに『ヒロっヒロっ』と熱い眼差しとともに話しかけてくるというのに、やけに静かだ。

  
「ナオ………?」
  

  今更気づいた。
  液晶画面には、無数の未読通知が、表示されていた。

感想 7

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス