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しおりを挟む「んー、王子」
すると憂吾は平然と答える。びくっと身体が硬直した。正直、憂吾が姫だったら…と期待したから落胆してしまう。しかしそれ以上に恐怖が頭を占めた。
「…え……ぁ…」
前世、俺は主である王子を恐れていた。王子はかなり嫉妬深く、独占欲が異常なほど強い気質だった。その対象は何故か俺にだけ注がれており、『リョウが僕以外と楽しそうにしてたから』と、たったそれだけの理由で俺と交流のあった騎士たちを集め、不利な戦場に向かわせたほどだ。その後帰ってきた者はいなかった。物資も何も支援しなかったのだから当たり前だった。見殺しも同然だ。俺はどうすることもできなかった。後日、死亡報告書を読み上げる王子の嬉々とした声には狂気を感じた。
憂吾が…王子……?
いや…、前世が王子というだけであの人だと決まったわけでは―
ひゅ、ひゅ、と浅い呼吸を繰り返す。残酷にもその疑問はすぐに解消された。
「……また会えて嬉しいね」
「……っ…」
「…まあ当然だよ。僕たちは魂が繋がっているんだから」
うっとりと呟く。ちゅ、ちゅ、と額と瞼に啄むようにキスを降らせた後、暫くの間、熱の籠った瞳を向ける。
「ぉ…教えてください……殿下は…姫君を…どうして…」
そう言いかけた瞬間だ。綺麗な顔は鬱陶しそうに歪んだ。
「それにしてもおかしいな。毎回記憶は消えるようにしてたんだけど…。そんなにあの女を忘れたくなかったの?………妬ける」
前髪を梳かれ、額に手を置かれる。その瞬間、頭の中がぐわんと歪む。記憶の扉を無理矢理こじ開けられるような感覚になった。
『リョウ、私と共に逃げましょう』
『えっ』
『王家は異能の一族なの。特に…あの御方は狂ってる。思考や記憶を操る能力を持ってる。これ以上関わったら危ないわ』
『待ってくだ…――様…俺は…っ…――』
…ばらばらとパズルのピースがこぼれ落ちていくようだ。あんなに恋焦がれた声が、顔が、手が、指が、頭の中から消えていく。思い出が、灰色のもやによって塗り潰されていく。
「………」
「遼……」
「……ぇ?」
「『前のことは全部忘れよっか』」
声が二重に聞こえる。視界が揺れる。痛い。痛い。痛い。脳の内側が切り刻まれるように痛い。高音が渦巻いて頭が割れそうだ。
…怖い
「あ…あ…っ! 憂吾……!」
途端、頭の中で何かがパンッと大きく弾けた。ぎゅっと瞼を閉じる。すると「大丈夫だよ」と優しい声が落ちて、背中をぽんぽんと撫でられる。憂吾の鼓動が聞こえた。ひどくゆっくりとした鼓動だった。憂吾の着ているシャツを掴んで、はっ、はっ、と息を整える。
「落ち着いた?」
暫くして、そっと目を開ける。そこにはいつも通りの憂吾の笑顔があった。先程までの痛みはない。
……痛み…?
「…え……」
「ふふっ、必死にしがみついちゃって。可愛い」
ちゅ、と眦にキスをされる。
……なんで俺…憂吾にしがみついてるんだ?
「………憂吾…今、何の話―」
してたんだっけ?、と問い掛ける途中だった。廊下からドタドタと複数の足音が聞こえる。次いで、ドアを叩かれた。
びくっと身体を揺らす。
「遼! いつまで寝てるの!? 遅刻したら憂吾くんに迷惑を掛けてしまうでしょ! 早く降りて来なさい!」
「憂吾くん! リビングに新製品のパンフレットを置いてるからお父さんに渡しといてくれないかな…っ…!?」
聞こえたのは俺の両親の声だった。
「……ぁ」
いつもの日常が始まった。
「遼! 聞こえてるの!?」
「きっ、聞こえてるよ」
「憂吾くんに変なことしてないでしょうね!?」
「し、…してない!」
うげ、と顔を歪めた。
また朝から接待が始まった。病院長の息子だからか、俺の両親は憂吾が毎日泊まりに来ることに抵抗がない。むしろ全力で歓迎してる始末だ。
仕事熱心な両親のことは尊敬してるが、ここまで来ると狂気を感じる。まるで何者かに操られてるみたいだ。上に媚び売るのってそんなに大切なんだろうか。学生の俺にはよく分からない。口角をひくつかせていれば憂吾はドアに向かって上品に微笑んだ。
「遼は体調が良くないようなのでもう少しゆっくりします。パンフレットは後ほど確認させて頂きますね」
憂吾は爽やかに答える。昨日の夜、あんな事をしたとは誰も思わないくらい澄んだ声だった。
「あ、あらっ、私ったらせっかちだったわねぇ! ゆっくりして頂戴!」
「憂吾くんっ! ありがとう! ありがとう……!」
ドアに遮られているので2人の様子は見えないが、声だけでペコペコ頭を下げてるのだろうと想像できた。正直、両親のそういう姿は見たくない。複雑だ。まるで王の機嫌を取る使用人みたいだ。
ふと、父が言った言葉を思い出した。
『病院は城、院長は王みたいなもんなんだよ』
その言葉に当てはめるのなら、憂吾は病院長の息子だ。言うなれば憂吾は王子といったところか。学校でも常に『王子様』と呼ばれキャーキャー騒がれてるし、言い得て妙だと心の中で自画自賛した。
……王子…
………王子……?
「遼のご両親は朝から元気だね」
「……うん?…まあ…な」
廊下から気配が消えたところで憂吾はそう言った。
…って、あれ……結局さっき何の話してたんだ……?
首を傾げながら、壁に掛けてた制服のシャツを手に取った。しかしそれを止めるように手首に白い指が巻き付いた。
「うん?」
憂吾は頬を赤らめ、もじもじと視線を彷徨わせていた。
「どうした?」
「遼……今日まだ“抜き合いっこ”してない……」
「……えっ、いやでも時間が……」
「りょう………」
「……っ」
「おねがい…」
うっ、と片頬を上げた。普段大人びてるくせに、こういうときだけ子供っぽくなるなんてズルくないか。己の美しさを十分に理解してるんだろう。上目遣いで瞳に涙を浮かべる様はとんでもない破壊力だった。
「…すっ…すぐ終わらせるからな」
「うんっ」
仕方なくベッドの上で向き合って座る。そうすれば美しい顔が綻ぶ。ぱぁっと太陽が差すようなキラキラした笑顔だった。
「…んっ…」
ズボンを下ろし陰茎を露わにする。憂吾も同じように自身の陰茎を見せた。息を飲む。憂吾のものは赤黒く勃起しており、張り巡る血管が浮き出てぴくぴくと動いてる。生々しい光景に目を逸らす。毎日見てるがどうも慣れない。憂吾のは太くて長い。俺のと比べものにならない程だ。なんというか……、男としてかなり複雑な気持ちになる。
「……遼…一緒に擦ろ…」
「…ぅ…うん………」
互いの先端を擦り合わせる。次第に先端から汁が溢れ出て、ぬちゅぬちゅと淫靡な音が部屋中に響いた。手のひらで、互いの竿を掴み、ぢゅぽっぢゅぽっ、と泡立つまで上下に擦る。
「……はぁ…はぁ…遼ぉ…きもちいい…」
「…ぁあ…っ…おれも……」
唇を重ねて、腰を揺らしてしごき合う。
「すきだよ……遼…っ…すき…すきすきっ…」
「うん……」
徐々に激しさが増し、ベッドがギシギシと軋む。
朝立ちを“抜き合いっこ”しておさめる。これが俺たちの毎朝の日課だ。物心ついた頃からこれが日常になってる。
「遼…、もっとつよく…あぁぁ、いいっ」
「んっ…ぁ、あぁ」
これは友情を超えてる。そんなことは、薄々気付いてる。幼馴染とはいえ友達とこんなことしないだろう。
「…りょう…もうイキそうなの…っ?」
「イクぅ…ぁあ…っ、ああ」
頭が痛い。脳内で誰かが叫んでるような気がした。知らない…女の人の声だ。分厚い扉の向こう側にいるようなくぐもった声だ。よく聞こえない。不思議に感じながら首を振る。今は快楽を貪ることに必死だった。
「りょう…今世は長生きしようね……?」
「…んぁ?……ああっ」
甘い声が鼓膜を通じて脳に響いた。今世?長生き?いきなりなんだ?と思いつつ頷く。尿道を刺激され、裏筋をなぞられた瞬間だ。もう我慢できなかった。
「んあぁっあ…っ…」
びゅるびゅるッ、と憂吾の手の中で白濁液を放つ。太ももがびくびくと痙攣する。「ぁああっ……」と声を上げていれば、そんな俺を憂吾は優しく包む。
「あぁ…遼の精液…いっぱい出た…」
「あぅっ、あぅ…」
果てたばかりだというのに容赦なく陰茎の先端を撫でられる。快楽の波が止まらない。もっとしごきたい。気持ち良いのがもっと欲しい。腰が動く。すると憂吾は「物足りない?」と言って、優しく俺を押し倒す。そして尻の窪みに、てらてらと艶かしく光る亀頭を押し当てた。
「遼。おはようセックス、しよっか」
「…は…、…ぇ…?」
朦朧とする中、ぱちぱちと瞬きをした。涙が溜まってたようでぽろぽろと頬を伝う。泣いてると思ったのか、憂吾の瞳が不安げに揺れた。
「……だめ?」
「……」
…そんな表情をされたら断れないと分かってるくせに。
この美少年はどこか狂ってる。こんな風に毎日のように俺に欲情するんだ。こんな芋臭い俺に。正気の沙汰じゃない。欲情の中に感じるのは、友情も愛情も全部含めた重い感情だ。
一旦、深呼吸をする。そして言った。
「……だめじゃない」
ちょっと恥ずかしくなって、こほんっと咳払いをする。
俺はこの重い男と死ぬまで一緒に居ることになるだろう。…否、死んでも一緒に居る気がする。
何となくだ。直感でそう思った。
「遼………」
どんな未来が待っていようと、家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい。俺は忘れっぽいところがあるから頭が良い憂吾と居たほうが安心だ。
「遼、好き……愛してる」
「……はいはい、俺も。てか、“おはようセックス”って何だよ」
ふはっと笑えば、憂吾は驚いたように目を丸くして、泣きそうな顔で笑った。
「…朝にするセックス」
「分かってるよ。真面目か」
顔を寄せ合って、くすくす笑う。
そんな憂吾の笑顔を見ていたら、これからの人生まあ何とかなるだろうと楽観的に思えてきた。もしかすると憂吾は何か隠してるのかもしれない。時折、言動が意味深になるんだ。でもその隠し事が何なのかはきっと教えてくれない。
「挿れるね」
「…っ…おう」
憂吾を受け入れたとき、玄関の鍵がかかる音が微かに聞こえた。両親が家を出て行ったんだ。なかなかリビングに降りてこない俺たちに気を遣って先に出勤したんだろう。
「遼……」
「…ぅ、ん?」
「どんな時も僕の傍に居てね」
窓から優しい風が流れる。肌を撫でるような心地の良い風だった。
「ずっとそうしてきただろ」
そう言って笑って返せば、憂吾は「そうだね」と微笑み、唇を重ねる。優しくて甘い、縋るような口付けだ。
登校前に男同士でこんな事するなんて禁忌を犯してるみたいだ。背徳感のせいか、胸が高鳴る。
「僕たちは永遠に一緒だよ」
風に乗って、白いレースカーテンがふわりと翻る。それは俺たちを隠すように包み込んだ。
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