おしごとおおごとゴロのこと そのよん

皐月 翠珠

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未知の乗り物、驚きっす

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「じゃあ、明日はこっちの事務所で打ち合わせをしたら東の中心でバラエティーを二本収録。その後はまたこっちで雑誌の取材がありますので」
「わかりました。よろしゅう頼んます」
「九時に迎えに来ますね。お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
「す、お疲れ様でしたっす」
 ペコリと頭を下げて、マネージャーに挨拶をする。玄関のドアが閉まるのを待ってから、ゴロは隣にいたぽってぃーに尋ねた。
「ぽってぃー先輩、前から気になっていたんすが」
「ん?何や?」
「ぽってぃー先輩は今、西の中心が主な活動場所っす。だけど東の中心でもたくさんのお仕事があって、一日の間に両方の場所を行き来する事も多いっす」
「せやな。リモートで対応できる仕事はなるべくこっちで済ませられるようにしとるけど、収録なんかがあるとどうしてもあっちに行かなアカン時はあるわ」
 それがどうかしたんか?という問いに、ゴロは眉を寄せて難しい顔をして続けた。
「おいも芸能界のお仕事をさせてもらうようになってわかったんすが、さっき聞いた明日のスケジュールだと移動の時間の計算が合わないっす。新幹線で西の中心と東の中心を往復しても、全部のお仕事をこなすのは無理だと思うっす」
「あー、なるほどな」
 ゴロの言いたい事がわかったぽってぃーは、うーんと悩む素振りを見せてからまあええかと首をすくめてそっとゴロの耳元に顔を寄せた。
「実はな、この業界には選ばれしぬいぐるみだけが使う事を許された秘密の交通手段があるんや」
「す?秘密の交通手段、っすか?」
「せや。スケジュールの関係でどうしても移動時間が弊害へいがいになる時だけ使える乗り物でな。どんなに調整してもどうにもならんほど忙しいぬいぐるみはこっそりそれに乗っとるんや。タレントの中では、これに乗れるようになる事が一種のステータスになっとるんやで」
「初めて新幹線に乗った時もその速さに驚いたっすが、もっと速いんすか?」
「大体三倍の速さやな。ここから東の中心までやったら、一時間もかからんわ」
「す⁉それはすごいっす」
 想像以上の速さにゴロは目を見開くが、同時に納得もした。タレントとしての仕事以外にプロデュース業の方でも忙しくしているぽってぃー。だが、そんな乗り物があるのなら必要以上に移動に時間を取られる事はないだろう。
 そういえば、とゴロはキャシーの事を思い出す。分刻みのスケジュールの中、急遽くくのNuiTubeぬいちゅーぶチャンネルに出演が叶ったのも恐らくその秘密の乗り物を使ったのだろう。
 そこまで考えて、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「おいの質問に答えるためとはいえ、そんな秘密を教えてもらって良かったんすか?」
「ああ、まあ何だかんだ業界のぬいぐるみやったら知っとる話やからな。さっきも言うた通り、仰山ぎょうさんのぬいぐるみがそれに乗る事を目標にしとるぐらいやし、存在を知るぐらいはええやろ」
「秘密の交通手段…一体どんな乗り物なのか、とても気になるっす」
「せやな。交通費が新幹線の比にならんから使うかどうかは事務所が判断するんやけど、ゴロもいつか使えるようになるとええな」
「す、頑張るっす」
 仕事を貰う以外に、こういったところでも目指せるものがあるのだと知ったゴロ。いつか乗れるといいなと思いながら、ぽってぃーのために遅めの夕飯の準備をするのだった。



「───はい、撮影は以上です!お疲れ様でした!」
 スタッフの一言で、スタジオはザワザワと騒がしくなった。ひな壇に座っていたタレント達は、次々と足早にその場を去っていく。
「ゴロ君、急いで!衣装そのままでいいから!」
「す、す!」
 ゴロも例外ではなく、マネージャーに急かされてわたわたとスタジオを後にしようとする。
「あ、ゴロちゃん」
 と、そこに番組の司会をしていたぬいぐるみが声をかけてきた。
「今日の喋り、なかなか良かったよ~。また今度ゲストで来てくれるかい?」
「す、す、光栄っす。ぜひ呼んでくださいっす」
 芸能界でも大御所の部類に入るそのぬいぐるみに失礼がないように挨拶をし、マネージャーの元まで走る。
 なぜここまで急いでいるのかというと、あの司会者が原因である。抜群のトーク力とMCの腕を持っているのだが、とにかく喋るのが好きで収録が押す事で有名なのだ。今日の収録も大変な盛り上がりを見せ、予定より二時間も長引いてしまった。
(まずいっす。間に合うんすかね)
 実はこの後すぐに西の中心へ戻り、雑誌の取材の仕事が入っていた。それも長年料理番組をしているベテランのぬいぐるみと対談形式の取材だ。事務所があれこれと頑張って相手のわずかなスケジュールを確保してくれた事を考えると、恐らく日を改めてという事はできないだろう。
 乗車予定だった新幹線はとっくの昔に発車してしまっている。今から駅に行ってすぐ乗れたとして、果たして間に合うのか微妙なところだ。
「ゴロ君、残念なお知らせだけど」
 テレビ局を出てタクシーに乗るなり、マネージャーが真剣な顔で口を開く。"残念な"という枕詞でその先に続く言葉の予想がつき、しょんぼりする。対談相手は普段の食事作りに参考にするほど好きな人物だったのだが、こればかりは仕方ない。
「これから新幹線に乗っても次の現場には間に合わないんだ。だけど、せっかく調整して叶ったチャンスだから無駄にはしたくない。だから、今回は特別にプラッシュエクスプレスを使うよ」
「す、残念っすがそれしかない…っす?」
 何か想定していた言葉とは違う事を言われた気がする、とゴロは項垂うなだれていた頭を上げる。
「ぷら…何すか?」
「プラッシュエクスプレス。チケット代がとても高いから滅多に使わないんだけど、先方に失礼があってはいけないからね。ゴロ君のキャリアで乗れる事はまずない特例中の特例だから、周りには内緒でね」
「す、す!」
 これは、とゴロは鳥肌が立つのを感じた。まさか、つい先日ぽってぃーから聞いた秘密の乗り物に自分が乗れるだなんて。
 タクシーはいつもとは違う方向へ走り、やがてある建物の前で止まった。古い駅舎のようにも見えるし、博物館だと言われればそうも見える不思議な建物だ。
 マネージャーに先導されて中に入るとエレベーターホールがあり、それで地下へと下りていく。着いた先では地下鉄のレールのようなものが通っており、ちょうど観覧車のゴンドラほどの大きさの箱が上に乗っていた。側に駅員のような格好をしたぬいぐるみが待機していて、マネージャーがスマホの画面を見せると一つ頷いてその箱の扉を開けた。
「どうぞ」
「さ、ゴロ君」
「す、失礼しますっす」
 会釈をしながら中に入ると、座席が二つあった。座ってみると、新幹線のものよりふかふかしている。駅員が何か安全装置のようなものを座席の上からガシャンと下ろし、完全に動けなくなった。乗った事はないが、テレビで見たジェットコースターに似ている。
「では、お気をつけて」
 隣に座ったマネージャーも同じような状態になったところで、駅員が扉を閉め傍らにあったスイッチのようなものを押す。途端、ガコンと箱が動いたかと思うとみるみる内に速度を上げていった。
「す、すー!」
「喋らないで!舌噛むよ!」
 思わず悲鳴を上げるが、マネージャーの言葉で必死に唇を噛み締める。体にとてつもない重力を感じながら、ゴロは西の中心へと帰っていった。



「───なるほどな。それでなったっちゅーわけか」
 その晩、ゴロから話を聞いたぽってぃーはスマホの写真を見ながら苦笑いをした。
「す…秘密の乗り物、凄まじかったっす…」
 弱々しい声で感想を述べるゴロ。写真には、頭の毛が重力に負けて横向きのモヒカンのようになっている姿が映っている。
「ゴロおもろ!ケラケラケラケラ!」
「くくく、この写真もろてええ?ゴロ先輩、く♡」
 どってぃーとくくに笑われながら、ゴロは改めて芸能界の恐ろしさ(?)を痛感するのだった。
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