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また一つ、夢を見るっす
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会場はザワザワと賑やかだった。
「あ、まいあいつら知っとる!Mr.青リンゴ!」
「さー、あっちにはQUEEN Nuiがいるさー」
「や~ん、ウルトラきらめき広報部や~!めっちゃ可愛い~、く♡」
「な、何だか場違いな気がしてしまいます」
「何を言うとるんや」
弱気なるっぴーの頭に、ぽってぃーがポンと手を置く。
「今日の主役の一角はわいらやで。堂々としとったらええねん。ほら、ゴロも珍しく冷静で…」
「ぬいぐるみぬいぐるみぬいぐるみ…」
「…」
「ぽ、ぽってぃーさん?何も見えないです」
るっぴーを安心させるつもりでゴロに目を向けたぽってぃーは、血走った目で前足に"ぬいぐるみ"と書いてはそれを飲み込み続ける姿に思わずるっぴーの両目を覆う。先日の姿を見ているだけに、今はそっとしておこうと心の中で呟いた。
「───それにしても、改めて見ると壮観さー」
黒いタキシード姿のシロが、グラスに入った水(もちろん持参のガムシロップ入りである)を飲みながら周りを見渡す。
「当たり前や~ん、シロ先輩。今日ここにおるんは、みんなぬいぬい歌唱アワードの受賞者やで?」
こちらは会場の雰囲気をスマホで撮影しながら、出席者をチェックしているくく。淡い緑色のドレス風の衣装がよく似合っている。
「これだけの方がいる中で、みい達受賞できるでしょうか」
まだ緊張が抜けない様子のるっぴーは、落ち着かない気持ちをピンクのポケットチーフを触る事で宥めている。
「なぁなぁなぁなぁなぁ、あんちゃん。何でまいらここに呼ばれてるん?肉出てけーへんの?」
ジュゴーッと音を立ててオレンジジュースを飲むどってぃーに、ぽってぃーはため息をつく。
「何回も説明したやろ。わいらは今日ここで…」
「お待たせ致しました。それではこれより、第五十回ぬいぬい歌唱アワードの授賞式を始めます」
ぽってぃーの代わりに説明するように、司会者のぬいぐるみが壇上へ上がり式の開幕を告げた。
*
「「「ぬいぬい歌唱アワード⁉」」」
「さー」
「はむはむはむはむ」
重なる驚きの声、そしてマイペースな反応と無関心。予想通りの展開にぽってぃーは苦笑し、せやと頷く。
「わいらのデビュー曲が、ぬいぬい歌唱アワードの新人賞に選ばれたんや。トルタも取った栄誉ある賞やで」
「トルタも…」
ゴロは胸がジーンと熱くなるのがわかった。
ぬいぬい歌唱アワード。年度末に行われるそれは、前年の一月から十二月までに活動しているアーティストの中から特に活躍したぬいぐるみに与えられる賞である。一般人の投票に加え業界の専門家が審査員を務めるのだが、この賞を受賞できるかどうかがその後の人気に直結すると言っても過言ではない大きな賞であり、若手のアーティストにとってはまさに登竜門と言える代物なのである。
ステージデビューを果たした日から今まで、がむしゃらに頑張ってきた。個々の活動はもちろん、グループで出演した歌番組、ソロステージ、そして年末に開催されたドルチェステージ。たくさんのファンの前で何度も歌ってきた曲が、新人賞に選ばれるまでになった。自分達の努力が目に見える形で実を結んだのだ。
「まだまだこんなもんで満足せーへんで」
目頭が熱くなる間もなく、ぽってぃーはグッと拳を握り締める。
「今回新人賞を受賞したんはわいらを入れて五組。どれも今話題のアーティストばっかりや。やからこそ、わいらは最優秀新人賞を狙う」
「最優秀新人賞っすか?」
「トルタが新人賞を取った時も最優秀賞に選ばれたんや。あいつらに追いつく…いや、追い越すためには何が何でも最優秀賞を取る事が絶対条件や」
最優秀賞の発表は授賞式で行われる。式の日が近づく度にゴロやるっぴー、くくだけでなくぽってぃーまでも毎日ソワソワとしていた。彼にとっては、自分がプロデュースしたグループが評価されたのだ。そういった意味ではゴロ達以上に授賞式が待ち遠しく、また緊張するものだっただろう。
受賞の影響力は凄まじく、行く先々全ての話題がそれ一色だった。事務所の社長自ら話しかけに来てくれた事で、改めて事の大きさを感じた。
嬉しかったのは、ガオとパトリシアからそれぞれお祝いのメッセージを貰った事だ。レッスン絡み以外で連絡してきた事のなかったパトリシアもそうだが、ガオからの"これで完全にライバルだな"という一言に、嬉しいやら恐れ多いやらでピョンピョンとリビング中を跳ね回った。
そんなこんなで、授賞式までの間ゴロの周りはいつもよりずっと賑やかに時が過ぎていくのだった。
*
「───と、ここに立つまでたくさんの苦労がありましたが、今日それが報われた気持ちです。これまで支えてくれていた全ての方々に感謝を伝えたいです。本当にありがとうございました」
一番最後に受賞の喜びを語っていたぬいぐるみが一礼すると、会場中から拍手が送られる。それが鳴り止むのを待ってから、司会者がそれではと声を張り上げる。
「今壇上にいらっしゃる五組のアーティストの中から、最優秀新人賞を受賞された方を発表させて頂きます!」
ドラムロールが鳴り響く。会場が暗くなり、スポットライトがゴロ達を始め新人賞を取ったぬいぐるみ達を照らして回る。
「第五十回ぬいぬい歌唱アワード、最優秀新人賞は…」
カッと目の前が白く染まり、ゴロは思わず目を瞑った。
「フルータの皆さんです!」
ワッと会場が湧き、大きな拍手が聞こえてくる。
「す、す?」
「やたー!まいらが一番!」
「さー、当然さー」
「し、信じられません」
「くぅの可愛さが決め手やったんちゃう?く♡」
側にいる筈のどってぃー達の声が、どこか遠く感じる。
「最優秀新人賞…おい達が…」
「フルータの皆さんには、トロフィーが贈られます」
司会者がぽってぃーに大きなトロフィーを手渡す。
「では改めて、ぽってぃーさん。今の想いを聞かせて頂けますか?」
「はい」
マイクを手にするが、何も言わないぽってぃーにゴロは戸惑う。
「…私は」
ようやくポツリと呟いた声は、今まで聞いた事がないほど静かだった。
「けしてできたぬいぐるみではありません。どちらかと言えば不器用な方だと思っています。そんな私がグループをプロデュースするという大役を任された時、期待されているという喜びと自分でいいのだろうかという不安がごちゃ混ぜになっていました」
初めて聞くぽってぃーの弱音に驚きながらも、ゴロは耳を傾ける。
「そんな私がこれだけ個性溢れるメンバーと出会えた事は、本当に幸運だったと思います。同時に、自分のぬいぐるみを見る目が間違っていなかった事も確信しました。私にとってフルータは、共に大きな夢を見るかけがえのない存在です。そして今日の私達があるのは、まだまだ至らぬ私達を応援してくれるファンの皆様、支えてくださるスタッフの皆様のお陰です。改めてお約束させてください。私達フルータは、これから先も見てくださる皆様を魅了し続けるグループであり続けます。本日は誠にありがとうございました」
深くお辞儀をするぽってぃー。その目には、キラリと光るものがあった。それを見たゴロも、つられて涙を零しながら頭を下げる。
頑張ろう。そう思った。大変な事も多いけれど、自分達を見て元気になってくれるぬいぐるみ達がいるのだ。幕はまだ上がったばかりだ。応援を力に変えて、精一杯"おしごと"をしよう。まだまだたくさんの夢を見よう。きっとできる。だって、自分にはこんなに素晴らしい仲間がいるのだから。
盛大な拍手の中で誓ったこの日を、ゴロは一生忘れまいと心に刻んだ。
~to be continued~
「あ、まいあいつら知っとる!Mr.青リンゴ!」
「さー、あっちにはQUEEN Nuiがいるさー」
「や~ん、ウルトラきらめき広報部や~!めっちゃ可愛い~、く♡」
「な、何だか場違いな気がしてしまいます」
「何を言うとるんや」
弱気なるっぴーの頭に、ぽってぃーがポンと手を置く。
「今日の主役の一角はわいらやで。堂々としとったらええねん。ほら、ゴロも珍しく冷静で…」
「ぬいぐるみぬいぐるみぬいぐるみ…」
「…」
「ぽ、ぽってぃーさん?何も見えないです」
るっぴーを安心させるつもりでゴロに目を向けたぽってぃーは、血走った目で前足に"ぬいぐるみ"と書いてはそれを飲み込み続ける姿に思わずるっぴーの両目を覆う。先日の姿を見ているだけに、今はそっとしておこうと心の中で呟いた。
「───それにしても、改めて見ると壮観さー」
黒いタキシード姿のシロが、グラスに入った水(もちろん持参のガムシロップ入りである)を飲みながら周りを見渡す。
「当たり前や~ん、シロ先輩。今日ここにおるんは、みんなぬいぬい歌唱アワードの受賞者やで?」
こちらは会場の雰囲気をスマホで撮影しながら、出席者をチェックしているくく。淡い緑色のドレス風の衣装がよく似合っている。
「これだけの方がいる中で、みい達受賞できるでしょうか」
まだ緊張が抜けない様子のるっぴーは、落ち着かない気持ちをピンクのポケットチーフを触る事で宥めている。
「なぁなぁなぁなぁなぁ、あんちゃん。何でまいらここに呼ばれてるん?肉出てけーへんの?」
ジュゴーッと音を立ててオレンジジュースを飲むどってぃーに、ぽってぃーはため息をつく。
「何回も説明したやろ。わいらは今日ここで…」
「お待たせ致しました。それではこれより、第五十回ぬいぬい歌唱アワードの授賞式を始めます」
ぽってぃーの代わりに説明するように、司会者のぬいぐるみが壇上へ上がり式の開幕を告げた。
*
「「「ぬいぬい歌唱アワード⁉」」」
「さー」
「はむはむはむはむ」
重なる驚きの声、そしてマイペースな反応と無関心。予想通りの展開にぽってぃーは苦笑し、せやと頷く。
「わいらのデビュー曲が、ぬいぬい歌唱アワードの新人賞に選ばれたんや。トルタも取った栄誉ある賞やで」
「トルタも…」
ゴロは胸がジーンと熱くなるのがわかった。
ぬいぬい歌唱アワード。年度末に行われるそれは、前年の一月から十二月までに活動しているアーティストの中から特に活躍したぬいぐるみに与えられる賞である。一般人の投票に加え業界の専門家が審査員を務めるのだが、この賞を受賞できるかどうかがその後の人気に直結すると言っても過言ではない大きな賞であり、若手のアーティストにとってはまさに登竜門と言える代物なのである。
ステージデビューを果たした日から今まで、がむしゃらに頑張ってきた。個々の活動はもちろん、グループで出演した歌番組、ソロステージ、そして年末に開催されたドルチェステージ。たくさんのファンの前で何度も歌ってきた曲が、新人賞に選ばれるまでになった。自分達の努力が目に見える形で実を結んだのだ。
「まだまだこんなもんで満足せーへんで」
目頭が熱くなる間もなく、ぽってぃーはグッと拳を握り締める。
「今回新人賞を受賞したんはわいらを入れて五組。どれも今話題のアーティストばっかりや。やからこそ、わいらは最優秀新人賞を狙う」
「最優秀新人賞っすか?」
「トルタが新人賞を取った時も最優秀賞に選ばれたんや。あいつらに追いつく…いや、追い越すためには何が何でも最優秀賞を取る事が絶対条件や」
最優秀賞の発表は授賞式で行われる。式の日が近づく度にゴロやるっぴー、くくだけでなくぽってぃーまでも毎日ソワソワとしていた。彼にとっては、自分がプロデュースしたグループが評価されたのだ。そういった意味ではゴロ達以上に授賞式が待ち遠しく、また緊張するものだっただろう。
受賞の影響力は凄まじく、行く先々全ての話題がそれ一色だった。事務所の社長自ら話しかけに来てくれた事で、改めて事の大きさを感じた。
嬉しかったのは、ガオとパトリシアからそれぞれお祝いのメッセージを貰った事だ。レッスン絡み以外で連絡してきた事のなかったパトリシアもそうだが、ガオからの"これで完全にライバルだな"という一言に、嬉しいやら恐れ多いやらでピョンピョンとリビング中を跳ね回った。
そんなこんなで、授賞式までの間ゴロの周りはいつもよりずっと賑やかに時が過ぎていくのだった。
*
「───と、ここに立つまでたくさんの苦労がありましたが、今日それが報われた気持ちです。これまで支えてくれていた全ての方々に感謝を伝えたいです。本当にありがとうございました」
一番最後に受賞の喜びを語っていたぬいぐるみが一礼すると、会場中から拍手が送られる。それが鳴り止むのを待ってから、司会者がそれではと声を張り上げる。
「今壇上にいらっしゃる五組のアーティストの中から、最優秀新人賞を受賞された方を発表させて頂きます!」
ドラムロールが鳴り響く。会場が暗くなり、スポットライトがゴロ達を始め新人賞を取ったぬいぐるみ達を照らして回る。
「第五十回ぬいぬい歌唱アワード、最優秀新人賞は…」
カッと目の前が白く染まり、ゴロは思わず目を瞑った。
「フルータの皆さんです!」
ワッと会場が湧き、大きな拍手が聞こえてくる。
「す、す?」
「やたー!まいらが一番!」
「さー、当然さー」
「し、信じられません」
「くぅの可愛さが決め手やったんちゃう?く♡」
側にいる筈のどってぃー達の声が、どこか遠く感じる。
「最優秀新人賞…おい達が…」
「フルータの皆さんには、トロフィーが贈られます」
司会者がぽってぃーに大きなトロフィーを手渡す。
「では改めて、ぽってぃーさん。今の想いを聞かせて頂けますか?」
「はい」
マイクを手にするが、何も言わないぽってぃーにゴロは戸惑う。
「…私は」
ようやくポツリと呟いた声は、今まで聞いた事がないほど静かだった。
「けしてできたぬいぐるみではありません。どちらかと言えば不器用な方だと思っています。そんな私がグループをプロデュースするという大役を任された時、期待されているという喜びと自分でいいのだろうかという不安がごちゃ混ぜになっていました」
初めて聞くぽってぃーの弱音に驚きながらも、ゴロは耳を傾ける。
「そんな私がこれだけ個性溢れるメンバーと出会えた事は、本当に幸運だったと思います。同時に、自分のぬいぐるみを見る目が間違っていなかった事も確信しました。私にとってフルータは、共に大きな夢を見るかけがえのない存在です。そして今日の私達があるのは、まだまだ至らぬ私達を応援してくれるファンの皆様、支えてくださるスタッフの皆様のお陰です。改めてお約束させてください。私達フルータは、これから先も見てくださる皆様を魅了し続けるグループであり続けます。本日は誠にありがとうございました」
深くお辞儀をするぽってぃー。その目には、キラリと光るものがあった。それを見たゴロも、つられて涙を零しながら頭を下げる。
頑張ろう。そう思った。大変な事も多いけれど、自分達を見て元気になってくれるぬいぐるみ達がいるのだ。幕はまだ上がったばかりだ。応援を力に変えて、精一杯"おしごと"をしよう。まだまだたくさんの夢を見よう。きっとできる。だって、自分にはこんなに素晴らしい仲間がいるのだから。
盛大な拍手の中で誓ったこの日を、ゴロは一生忘れまいと心に刻んだ。
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