偽りだらけの花は、王様の執着に気付かない。

葛葉

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第三章

第27話

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 改めて茶会の席が設けられ、エリザヴェータ、サファルティア、ソラリス、ジョシュアがテーブルにつく。
 エリザヴェータは相変わらずサファルティアにべったりとくっつき、にこにことしている。
「はい、ティア様。あーん」
 クッキーを口元に差し出され、サファルティアは若干身体を引く。
 するとエリザヴェータがさらに近づく。
「うふふ、恥ずかしがっているのかしら? 結婚したら毎日して差し上げますわよ。だから今のうちに慣れておきませんと」
「……い、いえ、僕は」
 食べないように顔を必死でそむける。食べたら本当にシャルスリアに帰れなくなりそうだ。
「あら、クッキーはお嫌いでしたか? でしたら、こちらのお菓子も……」
「いえ、クッキーもお菓子も、結構です。その、それほどお腹が空いているわけではないので……」
 サファルティアがなんとかそれだけを伝える。
「まぁ、そうでしたの。でしたら、食べたくなりましたら、いつでもお声掛けくださいませ」
「お気遣いありがとうございます」
 エリザヴェータは少し残念そうに体を離す。
 昨日“洗脳されている”などと言われていたから、もっと強行してくるかと思ったが、素直に引き下がったことに少し驚いた。
「お腹は空いていないとのことでしたが、紅茶は是非飲んでいってくださいな。このローザ宮で育てた薔薇をブレンドしたオリジナルの紅茶。お口に合いましたら嬉しいですわ……」
 エリザヴェータがメイドに指示を出す。
 カップに注がれた紅茶は、赤い薔薇やルビーを連想させるような美しい紅色だった。
 念のため毒見をしてから、サファルティアたちも紅茶を口に含む。
「これは、確かに美味しいですね」
 ジョシュアが感想を口にする。
「ええ。このローザ宮は薔薇の庭園と呼ばれるほど美しい景色は見応えがありますの。ですが、花の美しさはその時々によって違います」
 エリザヴェータは視線を庭へと向ける。
 その瞳からは、薔薇を心から愛していることが伝わってくるようだった。
「エリザヴェータ姫から頂く折々の手紙には、よく薔薇の栞が同封されていましたね」
 サファルティアが言うと、エリザヴェータは頬を染める。
「はい。わたくしは、お恥ずかしながらこの庭の外を見たことがありません。ですが、この庭園の美しさは帝国でも一番だと考えております。そのお裾分けをティア様にもしたかったのですわ」
 初めてエリザヴェータに会った時、帰り際に薔薇の花束を渡された記憶がある。
 生花はさすがに枯れてしまったが、押し花にした薔薇の栞は今でも手元に残っている。
 あの頃と変わっていないのだと、サファルティアも少しだけ気持ちが落ち着く。
「花の美しさはその時々で変わる。ですが、わたくしは、その時だけで終わるのは嫌だと思っております」
 エリザヴェータはサファルティアたちに視線を向けると、妖艶に微笑んで見せる。
「美しさは、誰かの心に残り続ける限り、永遠になる——そう思いませんか?」
 しばらくの沈黙の後、ジョシュアが口を開く。
「確かに、美しさを永遠にとどめることは難しいですね。それで、紅茶や栞、ですか」
「はい。日常的に口にするもの、あるいは見るものであれば、その風景を思い出すことが出来ますでしょう? わたくしは皇女ですから、いつかどなたかに嫁ぐことになります。その際には、この皇宮を出なくてはなりません」
 王侯貴族の姫君たちは、多くが外の世界を知らずに育ち、嫁いでいく。その過程で外の世界を見ることはあまり多くない。
 エリザヴェータのように、一生鳥籠の中で過ごすしかない。だからこそ、少しでも生家の思い出を残しておきたかったのかもしれない。
 それは、寂しさを紛らわせるためかもしれない。
「もちろん、わたくしはティア様のお側であれば、喜んでシャルスリアに嫁ぎますわ」
 エリザヴェータの言葉に、サファルティアは少し困った表情をした。
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