要らねえチート物語

汐乃タツヤ

文字の大きさ
上 下
43 / 48
第三章

第41話 2回戦を終えて

しおりを挟む
 昼休みをはさんで、ドッジボールの2回戦が始まる。
 前の試合と比べると明らかにギャラリーが増えていて、三浦だけではなく見知ったクラスメイトも何人か混じっていて、おまけにゆかり先生もいた。
 
 俺達も少しは期待されているんだろうか。今までスポーツで注目されることなんてなかったから、ちょっと緊張してくるな。
 緊張をほぐすように手足を軽くブラブラさせていると、試合開始のホイッスルが鳴る。

 試合が始まると、消耗戦が繰り広げられた。
 沢村が着実に敵を落とすものの、相手チームは俺や沢村を無視して、一樹かずき達のようにヒットを奪いやすい相手ばかりを狙ってくる。
 こんな調子でヒットの奪い合いが続き、こちらで残ったのは俺と沢村の2人、相手チームも残り2人と拮抗きっこうする状態になった。

 ボールはこっちが持っているものの、もし俺が落ちたら完全に後が無くなる。押し寄せるプレッシャーに思わず唾を飲み込んだ。

「吉村、俺達2人しか残ってない状況ってすげえ緊張するよな……」

 沢村が不安そうな表情をしたままボールをなかなか投げようとしない。そのまま数秒ほど固まっていたが、意を決して沢村が勢いよくボールを投げた。

「あいてっ!!」

 しかし緊張で手元が狂ったのか、沢村のシュートは敵を外れて外野の坂本に直撃。跳ね返ったボールが相手チームのコートに入ってしまう。

 げ、これはマズい。

 攻撃のチャンスを手にした相手がこれで決めると言うかのように、思いっきり助走をつけて、勢いのあるボールを俺に投げてきた!!

「っと!!」

 1回戦の相手よりもかなり強いシュートだったが、しっかりと受け止めた。
 良かった、俺の守備はまだ通用する。

「沢村、パス。チャンスはまだ充分あるから」
「……ありがとうな、吉村。今度は俺が頑張る番だ」
 
 相手の強力な攻撃を防いだおかげで、俺は気が楽になってきた。沢村も吹っ切れたのか、顔から不安の色が消えて真剣な表情へと変わる。目に闘志が宿った気さえした。

「どうりゃああああ!!!!」

 気合の入った叫びと共に、沢村が今日一番の剛速球を投げてヒットを奪う!!
 
 よし、後1人!!
 
 相手から必死の反撃が来るが、それは俺がしっかりと防く。そこから沢村の攻撃で最後の1人をヒットさせた!!

 試合終了のホイッスルが鳴り響くとクラスメイト達からワアッと声援が上がる。

「よっしゃあ!! 決勝進出だあぁぁ!!」

 沢村が喜びながら大きくガッツポーズをしていると、クラスの男子数人が俺達の所に駆け寄って来た。

「お前ら2人共、やるじゃねーか!!」
「決勝も頑張れよ!!」

 男子達が俺と沢村にハイタッチを求めてくる。

 まさかこんな風に激励げきれいされるなんて思わなかった。
 予想していない展開に少し驚きながらハイタッチに応じている内に、ようやく決勝まで勝ち進んだ実感がいてくる。

 俺、自分自身の力でこの成果を出したんだよな……。
 今まで運動系のイベントで良いところ無しの自分が、ここまで活躍できるなんて想像もしてなかった。もちろん、攻撃役の沢村がいるからこそだけど。

「決勝進出、おめでとう!!」

 男子達と入れ違いになる形で、三浦が勝利を祝いにやってきた。

「三浦も1回戦から試合を見に来てくれてありがとうな。まさか俺達が決勝までいけるなんて驚きだよ」
「こうなったらさあ、優勝しようぜ!! 吉村!!」
「え!? 優勝って……マジで言ってる!?」

 俺だって何か結果を残したいとは思っていたけど、流石に優勝までは考えてなかったぞ。
 思いもよらない沢村の提案に驚く俺とは対照的に、三浦が表情を輝かせる。

「いいね、優勝! 私も応援するから!!」
「お、おう……。じゃあ、精一杯やってみる……」

 正直言って自信はないが、嬉しそうにする三浦を前に無理とは言えなかった。
 まさか俺がスポーツで優勝を目指す日が来るとはな……。

× × ×

 俺と沢村、そして流れでついてきた一樹かずきの3人でバレーボールの2回戦を見に行く。
 試合を待っている間に、ドッジボールで優勝を目指すことになったと一樹かずきに伝えたら「マジで?」と返された。

 そりゃ、チーム全体の実力を考えたらそんな反応にもなるよなあ……。戦力になるのは俺の守備と沢村の攻撃だけだし。
 そんな風に俺が弱気になっていると、試合が始まった。

「相手チーム強いな……」

 運動神経の良い女子が相手チームに何人も参加しているらしく、攻撃と守備のどちらも三浦のチームより明らかに優れている。
 そのため点差がどんどん開いていき、相手チームが13点に対して三浦のチームはたった5点と一方的な展開になっていた。

「これ、もう勝つのは無理じゃね?」

 一樹かずきがそう言うのも無理はない。
 ただでさえ相手との実力差が大きい上に、8点差という状況を前にして三浦のチームにも諦めムードが漂い始めていた。
 
 三浦達が逆転するのはもう無理だろう。俺もそう思い始めていると、三浦がタイムを申し出た。そして再びペンダントを握りしめて祈りだす。
 
 こんな状況でも三浦はまだ諦めていないのか。でも、この差をひっくり返すのは厳しいんじゃ……。

 そんな俺の考えを払拭ふっしょくするかのように、相手チームのアタックを飛び出した三浦が防いだ。それだけではなく、三浦の方からアタックを決めて1点を返す。

「三浦、ナイスプレー!!」

 1回戦を超える三浦の動きに俺は試合を諦めていたのを忘れて、声援を送っていた。
 
 その後も三浦は攻撃と守備の両方で活躍を見せる。その姿に触発しょくはつされた他のメンバーも健闘して、圧倒的だった点差を少しずつ縮めていく。
 
 この調子で行けば追いつけるかもしれない。
 逆転の目が見えてきて、クラスメイトの応援も熱が入りだす。応援を受けた三浦達がさらにジリジリと追い上げ、試合後半には18対20まで差が縮まった。

「吉村、この調子でいけば逆転できるよな」
「そうだな、もう少し……」
 
 沢村の言葉に喜々として答えようとしたところで、三浦のただならぬ様子が目に入る。
 他のメンバーと比べて、三浦は息が相当上がっていて大分苦しそうだ。1回戦を終えた直後でもあそこまでの状態じゃなかったのに。

 それでも三浦の動きは衰えなかった。アタックを決め、とうとう1点差まで追いつく。
 しかし、コートのラインギリギリを狙った敵のアタックを駆け寄った三浦が防いだ時、突然三浦が体勢を崩してそのまま床に倒れ込んだ。

「えっ、一体どうしたんだ!?」

 三浦のアクシデントに沢村が驚いた声を上げる。

 三浦は倒れたまま起き上がらず、その間に1点を返された。異変に気付いたメンバーが慌ててタイムをかけて三浦に駆け寄る。
 ゆっくりと三浦が起き上がったものの、苦しそうに息を切らせたまま床に座り込み、立ち上がることができない。
 
「……スタミナ切れだ」

 三浦がどうしてあんなに苦しそうにしてたのか、ようやく原因に思い至る。
 三浦は自己暗示をかけて実力以上の速さで動いていたけど、そうすれば当然普段よりも体力の消耗が激しくなる。それを試合の早い段階から続けていたせいで、体力が尽きていたんだ。

 試合再開のホイッスルが鳴る直前に、どうにか三浦が立ち上がったが、まともに動けるだけの体力は戻らなかった。
 試合を支えていた三浦が動けなくなったために、チームの戦力はガタ落ちして、あっという間に点差を広げられ、なすすべなく敗北してしまった。

× × ×

「三浦、大丈夫か?」 

 俺達3人が様子を見に行った時、三浦は床に座り込んでいた。試合が終わっても三浦はまだ息が上がっていて、大分辛そうだ。

「試合、負けちゃった……。私なりに頑張ったんだけどね……」
「最初の8点差からあそこまで追いついただけでも十分凄いよ。それに、限界が来るまで全力で動くのだってそうそうできるもんじゃないし」
「ありがと……。あーあ、これでウチのクラスの女子はみんな負けちゃったかあ……」
「え? そうだったのか」
「だから私達だけでも勝ちたかったんだけどね……」

 三浦が残念そうにため息を吐く。
 
 明らかな格上相手でも諦めずに全力を尽くして、あと少しってところで負けたから、三浦も悔しいだろうな……。

「あー……女子がダメだったのは残念だけど、まだ俺達が残ってるからさ。決勝戦で頑張るから見ててくれよな」

 さっきまで優勝を目指すのに尻込みしてた俺が、なに似合わないことを口走ってるんだ!?
 
「そうそう、俺達がいる! 俺達がいる!!」

 俺が自分のセリフに驚く一方、沢村は不安を抱いていない様子で合いの手を入れる。
 一樹かずきは口にこそ出さないが明らかに引いてるけど。

「うん、決勝戦期待しているから……」

 まだ息が整いきっていないにも関わらず、三浦がニッコリと笑顔を見せた。

 ……三浦みたいに全てを出し切ることはできないかもしれないけど、あと一試合頑張ってみるか。
しおりを挟む

処理中です...