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第2章
恐怖①
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夜の空気は少し湿っていて、星の見えない空が静かに広がっていた。
「お疲れさまでしたー!」
ネイルサロンのスタッフに小さく笑って自動ドアをくぐる。もうすぐ閉店時間で、繁華街の喧騒も少しずつ静まりつつあった。
(……今日も無事終わった)
駅までの道を歩きながら、私は小さく息をつく。けれど、背筋が自然とぴんと伸びたのは、ほんの数秒後のことだった。
「――ねぇ、そこのお姉さん」
背後から聞こえた、少し砕けた男の声。私が振り返ると、そこには二人の男が立っていた。笑ってはいるけれど、その目が笑っていない。
「さっきから思ってたんだけどさ、めっちゃ可愛いよね。モデルとかやってんの?」
「いえ……すみません、急いでるので」
私は一歩だけ後ずさる。後ろにいる男は、私を付け回していた顔だった。
「別に何もしないって。送ってくよ、夜道危ないしさ」
「……本当に、結構です」
足音が増えた。脇道から、もう一人。三人目の男が無言で現れ、星羅の背をふさぐ。
(――囲まれた)
全身に寒気が走る。瞬間、逃げなきゃ、と本能が叫んだけれど――腕をつかまれた。
「ちょ、やめ――っ!」
口を開いた瞬間、手のひらと布が星羅の口をふさいだ。
視界がぐらりと揺れる。
…甘い匂い。
押し当てられた布に、呼吸がうまくできない。声が出ない。目がかすむ。
「――ったく、暴れるなって。すぐ終わるからさ」
「おい、早く運べ」
「車こっち。急げ」
目を見開いたまま、私の意識は――落ちた。
□
がたん、と大きく何かが動いた音で目が覚めた。
(……どこ?)
冷たい床。倉庫のような場所。薄暗い照明。すぐに状況を理解しようとしたけれど、手足がうまく動かない。
(身体が、重い……)
何か薬を使われたのかもしれない。動けるけど、鈍くて力が入らない。
男たちの声が聞こえた。
「寝てるかと思ったけど、起きた?」
「やっぱめっちゃ可愛いな……こんなの、なかなかいないって」
「こういう顔で泣かせたら、やばいよな」
ぴたり、と足音が止まり、誰かがしゃがみこむ気配がした。
「なあ、そろそろやっちまうか?」
覆いかぶさるようにされて、目の前に、男の顔が迫ってくる。
首を横に振った。声は出ない。でも、いやだという意思は込めた。
なのに――。
「……ああ、やめてって顔、もっと見せてよ。ほら、力抜け。楽にしてやるから」
ぞっとした。視線が粘りつくように自分をなぞる。
(……誰か、誰か……)
(……隼人、さん……)
彼の名を思い出した瞬間、小石を踏む、足音が聞こえてきた。
「ん? 何の音?」
「気にするなよ」
私はただ、胸の奥のどこかが、静かに叫んでいた。
(来て、お願い――)
その願いが、届くはずがないと分かっていても。
この夜は、ただ静かに、底知れぬ恐怖の中へと沈んでいった。
「お疲れさまでしたー!」
ネイルサロンのスタッフに小さく笑って自動ドアをくぐる。もうすぐ閉店時間で、繁華街の喧騒も少しずつ静まりつつあった。
(……今日も無事終わった)
駅までの道を歩きながら、私は小さく息をつく。けれど、背筋が自然とぴんと伸びたのは、ほんの数秒後のことだった。
「――ねぇ、そこのお姉さん」
背後から聞こえた、少し砕けた男の声。私が振り返ると、そこには二人の男が立っていた。笑ってはいるけれど、その目が笑っていない。
「さっきから思ってたんだけどさ、めっちゃ可愛いよね。モデルとかやってんの?」
「いえ……すみません、急いでるので」
私は一歩だけ後ずさる。後ろにいる男は、私を付け回していた顔だった。
「別に何もしないって。送ってくよ、夜道危ないしさ」
「……本当に、結構です」
足音が増えた。脇道から、もう一人。三人目の男が無言で現れ、星羅の背をふさぐ。
(――囲まれた)
全身に寒気が走る。瞬間、逃げなきゃ、と本能が叫んだけれど――腕をつかまれた。
「ちょ、やめ――っ!」
口を開いた瞬間、手のひらと布が星羅の口をふさいだ。
視界がぐらりと揺れる。
…甘い匂い。
押し当てられた布に、呼吸がうまくできない。声が出ない。目がかすむ。
「――ったく、暴れるなって。すぐ終わるからさ」
「おい、早く運べ」
「車こっち。急げ」
目を見開いたまま、私の意識は――落ちた。
□
がたん、と大きく何かが動いた音で目が覚めた。
(……どこ?)
冷たい床。倉庫のような場所。薄暗い照明。すぐに状況を理解しようとしたけれど、手足がうまく動かない。
(身体が、重い……)
何か薬を使われたのかもしれない。動けるけど、鈍くて力が入らない。
男たちの声が聞こえた。
「寝てるかと思ったけど、起きた?」
「やっぱめっちゃ可愛いな……こんなの、なかなかいないって」
「こういう顔で泣かせたら、やばいよな」
ぴたり、と足音が止まり、誰かがしゃがみこむ気配がした。
「なあ、そろそろやっちまうか?」
覆いかぶさるようにされて、目の前に、男の顔が迫ってくる。
首を横に振った。声は出ない。でも、いやだという意思は込めた。
なのに――。
「……ああ、やめてって顔、もっと見せてよ。ほら、力抜け。楽にしてやるから」
ぞっとした。視線が粘りつくように自分をなぞる。
(……誰か、誰か……)
(……隼人、さん……)
彼の名を思い出した瞬間、小石を踏む、足音が聞こえてきた。
「ん? 何の音?」
「気にするなよ」
私はただ、胸の奥のどこかが、静かに叫んでいた。
(来て、お願い――)
その願いが、届くはずがないと分かっていても。
この夜は、ただ静かに、底知れぬ恐怖の中へと沈んでいった。
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