11 / 68
第1章
再会①
しおりを挟む
人通りの少ない道を歩いていた。
(少し遠回りだったかしら……)
スマートフォンに気を取られた一瞬の隙。
すっと影が現れた。
「ねえねえ、星羅ちゃんでしょ? 一緒に帰らない?」
「1人じゃ危ないよ? ちょっとだけ、付き合ってよ」
(……同じ大学の)
軽くあしらって通り過ぎようとしたが、彼らは並ぶように歩幅を合わせてきた。
「何、警戒しすぎじゃない?」
「そんなに固くならなくていいのに」
ぐい、と腕を掴まれた瞬間、覚えていた護身術の構えを取ろうとしたが、重心がずれた。
(っ――失敗した!)
距離をとる間もなく、もう1人が回り込む――
そのときだった。
「彼女には、指一本触れさせません」
静かで、でも妙に耳に残る声。
ふと目をやると、路地の奥に――誰かがいた。
切れ長の瞳、薄い唇。姿勢ひとつで周囲を支配するような気配。
でもその瞳は、光を孕んでいなかった。
(え……アル……?)
いや、違う。この世界に彼がいるはずない。
でもその男は、あまりに似ていた。
輪郭、髪の色、立ち方、そして何より――
私を守るときの“目”。
「は? なにお前」
男の1人がにじり寄るが、彼はそのまま無言で近づいた。
「いや、お前に関係ねーだろ。邪魔すんなよ」
その手がこちらに伸びた瞬間、“それ”は起きた。
男の手首を掴み、ひねる。
もう1人の足元に素早く入り込み、膝を蹴り崩す。
全て一瞬。音すら、ほとんどなかった。
「っ、痛っ、……!」
倒れ込んだ2人を見下ろし、男――彼はゆっくりと笑った。
「正当防衛ですから、通報されても大丈夫ですよ?」
その声には、かすかな冷たさと――異常なほどの優しさがあった。
そして彼は、私の方へ向き直った。
夜風が揺らしたコートの裾。月明かりがその輪郭を照らす。
「やっと見つけました……お嬢様。ご無事で、なによりです。」
(……アル、なの?)
さっきまで確信が持てなかったのに、その言葉だけで全てが繋がった。
「アル……?」
彼は一歩、近づく。
目が合った瞬間、逃げ場はもうどこにもなかった。
「ええ。遅くなって、申し訳ありません」
そして、ふわりと微笑んだ。
(少し遠回りだったかしら……)
スマートフォンに気を取られた一瞬の隙。
すっと影が現れた。
「ねえねえ、星羅ちゃんでしょ? 一緒に帰らない?」
「1人じゃ危ないよ? ちょっとだけ、付き合ってよ」
(……同じ大学の)
軽くあしらって通り過ぎようとしたが、彼らは並ぶように歩幅を合わせてきた。
「何、警戒しすぎじゃない?」
「そんなに固くならなくていいのに」
ぐい、と腕を掴まれた瞬間、覚えていた護身術の構えを取ろうとしたが、重心がずれた。
(っ――失敗した!)
距離をとる間もなく、もう1人が回り込む――
そのときだった。
「彼女には、指一本触れさせません」
静かで、でも妙に耳に残る声。
ふと目をやると、路地の奥に――誰かがいた。
切れ長の瞳、薄い唇。姿勢ひとつで周囲を支配するような気配。
でもその瞳は、光を孕んでいなかった。
(え……アル……?)
いや、違う。この世界に彼がいるはずない。
でもその男は、あまりに似ていた。
輪郭、髪の色、立ち方、そして何より――
私を守るときの“目”。
「は? なにお前」
男の1人がにじり寄るが、彼はそのまま無言で近づいた。
「いや、お前に関係ねーだろ。邪魔すんなよ」
その手がこちらに伸びた瞬間、“それ”は起きた。
男の手首を掴み、ひねる。
もう1人の足元に素早く入り込み、膝を蹴り崩す。
全て一瞬。音すら、ほとんどなかった。
「っ、痛っ、……!」
倒れ込んだ2人を見下ろし、男――彼はゆっくりと笑った。
「正当防衛ですから、通報されても大丈夫ですよ?」
その声には、かすかな冷たさと――異常なほどの優しさがあった。
そして彼は、私の方へ向き直った。
夜風が揺らしたコートの裾。月明かりがその輪郭を照らす。
「やっと見つけました……お嬢様。ご無事で、なによりです。」
(……アル、なの?)
さっきまで確信が持てなかったのに、その言葉だけで全てが繋がった。
「アル……?」
彼は一歩、近づく。
目が合った瞬間、逃げ場はもうどこにもなかった。
「ええ。遅くなって、申し訳ありません」
そして、ふわりと微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる