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プロローグ

プロローグ6・勇者よ死んでしまうとは都合が良い @泉州

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「ありがとな、……もういいぜ?」

オレは神様の方を振り返った。

自分が死んだ事を理解するには充分だ。
まだ色々と悔やんじゃいるが、それを今更言っても仕方ねぇ。
ちょっと心配もあるが……きっと大丈夫だろう。


「それで、オレは何処に行きゃいいんだ?」

死後の世界を信じてたワケじゃねぇが、神様と会話が出来てるんだ、きっと魂だって行き場所があンだろ。
そう思ったオレに、神様は意外な言葉を伝えた。


死者の魂は通常、み~んな異世界に転生するモンらしい。
天国だの極楽浄土だの、地獄だのに魂が行くのはよっぽどのケースだけ。例えば、傷付き過ぎとか、汚れ過ぎとかで、次の生命体に悪影響を及ぼすような場合なんだとさ。
そんな場合に限り、そこで魂が綺麗な状態に戻るまで過ごさせるんだそうだ。



魂に大きな傷も汚れも無いオレは、てっきりすぐ転生するのかと思いきや。

神様はオレに言った。

地球とは異なる世界に勇者として向かい、そこで人々を救って欲しい……ってな。
転生じゃねぇのか? 違うのか? 分からん。


「どっちにしろ、オレはもう死んじまってるからな。今後の予定も無ぇし、別に構わねぇがよ? 他の奴に頼んだ方が良くねぇか? もっと積極的な奴とかいるだろ。ハッキリ言って、オレで何かの役に立つか?」

勇者をさせるんなら、そこら辺の知識があって、心構えも出来てる奴にやらせた方が安心じゃね?
悪いがオレはそこら辺の知識は弱いぜ? その系統の小説もマンガも読んでねぇ。
流石に勇者って単語ぐらいは……家庭用ゲーム機で遊べる有名なRPGがあるからな。それで知ってるから、凄くぼんやりしたイメージはある、って程度なんだぞ。大丈夫か?



オレは心配したが神様的には問題無いらしい。
むしろ都合が良いそうだ。よく分からん。

勇者を頼める者は限られてるんだと。
何やら『タイプ』ってモンがあるみたいでな。
異世界に行けば勇者としての能力を遺憾無く発揮出来るから、心配無用らしい。



「分かった、神様には良くして貰ったからな。……そういう事ならオレも、頑張ってみる……ツモリだ。」

有無を言わさず転生させる事も出来たのを、わざわざ説明してくれたんだ。
自分が死んだって事が納得出来るよう、色々見せてくれてもいる。
神様が直々にこうやって頼んで来る辺り、実は結構困ってんのかもな。

だったら、勇者として人々を救うなんてガラじゃねぇが。
礼の一つでもするツモリで、やってみるか。

異世界に行って第二の人生、ってのも楽しみだしな。




   *   *   *




次の世界に移動する前に、オレは神様からザックリと説明を受ける。


異世界では、魂に見合った勇者能力が開花する予定。
とりあえず言語で困る事は無いらしい。
貨幣制度も、異世界の金貨が日本の万札と同価値。その下に銀貨や銅貨があるって仕組みで、分かりやすそうだ。
文明レベルは、地球には無い魔法学が発達してっから、単純には比べられねぇ。
精神的な成熟具合……特に、人権に関する意識……は劣ってると思え。だそうだ。

そこら辺はよくあるファンタジー世界だって言われたんだが、オレにはそれが分からねぇんだがなぁ。



オレのツラがよっぽど不安そうに見えたんだろう。
神様はオレに、勇者能力とは別に『説明を受ける能力』ってのを付与してくれた。
使い勝手は悪くなさそうだし、何よりその気持ちが有難てぇわな。



他にも説明したい事はあるようだが、神様にはあまり時間が無い様子だ。

こうしてる間にも人間はどんどん死ぬからな。
死者の殆どが転生すンなら神様は忙しいだろ。
オレに時間使わせちまって逆に申し訳ねぇわ。


「じゃあ、そろそろ行くぜ? もう神様に会う事も無いんだろうが……感謝してる。ありがとな。」

自分の気持ちは言える時に言っとけ。
今回の件で、オレが学んだ事だ。


神様に手を振ってオレは歩き出す。

異世界に降臨する為の、光の渦に。
オレはゆっくりと潜り込んだ。



……あ、待てよ?
そういや、人々を何から救って欲しいのか。それを聞くのをコロッと忘れてたぜ。
この状態から戻る事も出来ねぇし、異世界人に説明して貰った方が早いか。
神様から貰った能力を試しに使ってみるのも良さそうだ。
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