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1章 忍び寄る糸が意図するものは……
14話 平穏を追い求めて
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一方その頃――
ミレイとアイシャ、それとミーシャは、このどさくさに紛れ車で外に逃げ延びていた。
駐車場内にも奴らの仲間らしき連中を数人見かけはしたが、奴らは上階での戦闘に気を取られている様子であった。無線でしきりに仲間と連絡を取り合い、慌ただしく動き回っていた。そのお陰で、目を盗む事は左程難しくもなかったのだ。
そして、ミレイが運転する車は市街地を走り抜けていた。徐々に彼女達がいたマンションは小さくなっていく。
すると、その光景を後部座席から不安気な表情で眺め見ていたアイシャが
「あいつも、無事に逃げられたんかな?」と漏らした。
それに対し、ミレイは落ち着いた声音で彼女へと言い聞かせる。
「心配する事はありません。ジーク様なら上手くやってのけますので」
それを聞くと、アイシャは頷きつつ
「そうやね……。あいつなら、絶対大丈夫やんね」と納得した。
だがその時、ビルの上階から炎と黒煙が勢いよく上がったのが見えた。すると、少し遅れて彼女達の下へも大きな爆発音と振動が伝わってくる。
それは、あまりの衝撃で前方の車が急ブレーキを踏んでしまう程のものであった。そして、ミレイもそれに釣られ、慌てて路肩に車を止める。
そこでしばらくは、3人とも口をポカンと開けたまま、燃え盛るマンションを見ている事しかできなかった。アイシャが、取り乱した様に口を開けるまでは。
「ッ……あれって、うちらがいた部屋からやんね!? あいつは……あいつは逃げられたの!?」
その問いかけでミレイは我へと返る。そして、車を再び発進させながら、彼女に言い聞かせた。
「……きっと、大丈夫です。ジーク様ならきっと……。今は信じるしかありません」
しかし、それはアイシャに言い聞かせていたというよりかは、自身に言い聞かせていた様に聞こえる。彼女もジークが無事であるかなんて分かりはしない。本当はジークの安否を確認しに行きたくてしょうがないのだろうと思う。けれど、ミレイはアイシャ達を無事に逃がすという使命を優先させようとしていた。
だからこそ、今はミレイの言う通り『信じる』しかない。あいつの行為を無駄にしない為にも。そう思いアイシャは、疑念を振り払う。
それから、ミレイは車を一時間程ひたすら走らせ続けていた。すでに、市街地は完全に抜けており、車は峠道の様な場所を走っている。周囲には建造物はおろか、街灯すら見当たらない。鬱蒼とした森と険しい崖がひたすら続く様な道であった。また、ここらは不浄地帯と共同自治区の境目にあたる地点でもある。そのため、車通りも全くない。
そんな中、アイシャはミレイに問いかける。
「どこまで行くん……?」
それに対し、彼女は言葉を濁しながら答えてきた。
「……あの者達に気づかれにくそうな場所まで。としか言えませんね」
つまり、まだしばらくは宛もないドライブが続きそうであった。
だがその時、目の前に大きな看板と分かれ道が現れた。すると、その前でミレイがおもむろに車を止め出す。それは案内板の様であったが、アイシャ達が普段使う文字で書かれてはいない。そのため、アイシャとミーシャには何が書かれているのか全く分からなかった。しかし、ミレイはそれを凝視している。
すると、その様子にミーシャが疑問を漏らした。
「何かありました?」
彼女はそれに対し、頷きつつ答えてくる。
「ええ。左に5キロ進めばキャンプ場があるみたいですね」
しかし、それを聞くとアイシャは少し驚きながら
「この文字って日本語やんね? たしか、ここに住んでいた人間が戦前まで使っていた言語。あんた、それが読めんの……?」と問いかけた。
すると、ミレイは何の気なしに
「はい、多少ですけれども」と言い放ってくる。
そこで、アイシャは彼女を怪訝な表情で見つめた。
「あんた、何者……?」と疑問を漏らしながら。
だが彼女は、首を傾げつつ
「わたくしは、ジーク様の使用人ですよ?」と意図せぬ答えを返してくる。
そんな彼女の返答に、アイシャはモヤモヤとした気持ちにさせられたが、
「……まぁ、いいわ」と答え、これ以上の詮索は一先ず止めた。
そして彼女はミレイに提案する。
「そこなら、奴らに気づかれにくそうだし、車も隠せそうじゃない?」
それには、ミレイもそのつもりだったらしく、賛同してきた。
「ええ、わたくしもそう思っておりました。そうと決まれば、早速向かいましょう」
そして、そう告げると同時に、車は再び峠道を走り出す。
やがて、彼女達は細く入り組んだ道を進み、キャンプ場らしき場所へと辿り着いた。
だが、その場所は酷く寂れ、人影はおろか営業している様子も窺えない。それに、入り口付近には管理棟やら、コテージやらが建てられていたが、そのどれもが長年手を加えられていない様子であった。窓ガラスは割られ、建物自体も朽ち果て、ツタが生え渡っている。
その光景にミレイは
「どうやら、廃キャンプ場だったみたいですね」と漏らした。
それに対し、アイシャは頷きつつ答える。
「そうやね。でも、逆に好都合やない? 足もつかなそうやし、うちらお金も持ってへんし」
するとそこで、ミーシャがポツリと呟き出す。
「でも、何か出そうで不気味だよ……」
そんな彼女は窓の外の景色を見渡しながら、怯えた表情でいた。
その様子にアイシャがため息を漏らす。
「もう、あんたは……。うちら悪魔がお化けを怖がってどうすんのよ」
それに対し、ミーシャは頬を膨らませなながら、アイシャに
「悪魔でも、怖いもんは怖いよ!」と反論した。
だがその時、突如として車内におどろおどろしいメロディが鳴り響く。
すると、アイシャとミーシャはビクッと肩を震わせ驚き出す。
「きゃあッ!?」
「なに!? なに事!?」
そして、彼女達はしきりに車内を見渡し、音の発生源を探し回る。
しかしそこで、ミレイが平然とした表情で
「あ、わたくしの携帯ですね」と告げてきた。
次いで、彼女は助手席に置いてあったカバンへと手を伸ばす。
その様子に、アイシャとミーシャは呆気にとられる。
ただ、アイシャは段々、取り乱した事へ妙な気恥ずかしさを抱き
「なんて着信音にしてるんよ!? それとも、狙ったん!?」と彼女に突っ込みを入れた。
すると、ミレイは笑みを浮かべつつ、否定してくる。
「まさか、そんなつもりはありませんよ~。ただ、着信に気づきやすいので、これに設定しているだけですよ」
それに対し、アイシャはため息と共に
「はぁ……。あんたって、変よね。あんたの主人に似て」と漏らす。
しかし、それをなぜかミレイは誉め言葉と受け取ってきた。
「ジーク様と似ているなんて、嬉しいお言葉ですね~。照れちゃいますわ」
そんな彼女を見て、アイシャは『ジークよりもヤバいかも』とミレイに対する評価を一新するのだった。ただ、それはさておき、今は着信相手の方が気になる。
「で、誰からの着信?」
アイシャがそう問いかけると、彼女は
「少々、お待ちを」と言ってカバンから今も尚悍ましいメロディを鳴り響かせているスマホを抜き取った。
そして、彼女が画面を確認すると驚いた表情と共に、安堵の表情をも浮かべ出す。
そんな彼女の様子を見て、アイシャはスマホの画面を覗き込んだ。
するとそこには、『ジーク様❤』と映し出されていた。
そこで、アイシャも胸を撫でおろす。
(よかった。生きてた)と。
その最中にミレイが通話ボタンをタップする。
すると、スマホのスピーカー越しに彼の声が聞こえてきた。
「ッ……やっと、繋がったか」
彼は押し殺した様な声でそう告げてくる。
それに対し、ミレイは安堵と不安の入り混じった声で
「ジーク様! ジーク様ですよね!? ジーク様、ご無事なのですか!?」と立て続けに問いかけ出した。
それを彼は宥めてくる。
「落ち着け……。すでに危機は去った」
だがそこで、アイシャは疑問を漏らす。
「待って。危機は去ったって、さっきマンションで爆発があったでしょ? ……何があったの?」
するとジークはため息を漏らしつつ、答えてくる。
「……そうか、お前らからも見えていたか。少々危うかったが、あれは奴らを仕留めるために俺が引き起こしたものだ。流石に、あれをまともに受けて無事では済まんだろう」
「どういうこと? あんた、本当に無事なの?」
「……まともに動ける状態にはない。ただ、あの場から何とか逃げ延びる事はできた。だから、心配する必要はない」
しかし、それを聞いても尚、アイシャの不安は拭えない。
「……あんた、今どこにいんの?」
「わからん。どこかの工場の敷地内だと思うが……。茂みの中にいるから確認のしようがない」
そこで、アイシャは怪訝な表情を浮かべながら問いかける。
「どうしてそんなとこに?」
「マンションから離れるためには、仕方がなかった。ダンプに引きずられる他、脱出手段がなかったからな」
すると、今度はミレイがジークに語り掛けた。
「迎えに参ります。覚えている範囲でいいので、目印になる物はありませんか?」
しかし、それをジークは拒絶する。
「止めておけ。今、迂闊に動くのは危険だ」
そして彼は続けて、問いかけてきた。
「というよりも、お前たちの方こそ大丈夫なのか?」
「……わたくしたちは、大丈夫です。追手はいませんでした。それに、現在は身を隠せる様な場所におります」
「ンンッ……そうか。なら、良かった。しばらくは、そこにいろ」
彼は一瞬苦し気な声を上げつつそう告げる。そして、彼は通話を切ろうとしてきた。
だがそれを、アイシャが制止する。
「待って。あんたは、これからどうするつもり?」
すると彼は意外にも
「体力が回復するまでは、大人しく身を潜めるさ。合流はそれからだ」と告げてきた。
それに対し、アイシャは
「意外ね。あんたから大人しくするという言葉が出てくるなんて」と素直な感想を漏らす。
正直、今すぐにでも『エレクを仕留めに行く』とでも言いだすのかと思っていた。
すると、彼は何度目かのため息を漏らしながら、告げてくる。
「勿論、不本意だがな。しかし、流石にこれ以上体へ負荷を掛けられん」
そして、彼は続けて
「それと、お前らもしばらくは身を潜めておけよ。くれぐれも、学園に行こうとはするな」
とも釘を刺してきた。
しかし、それには特に異論はなかった。
「うん、それもそうやね」
アイシャがそう呟くと彼は、
「合流時刻と地点は、体調が回復したらメールで送っておく。それから、くどい様だが今は体を休めておけ。くれぐれも勝手に動くなよ」と念を押してきた。
そして彼からの通話は、返事を待たずに一方的に切られてしまう。
そこで、そんな彼の態度にアイシャが愚痴をこぼす。
「あ、ちょっと……! もう、相変わらず勝手なんやから……」
しかし、今は彼の言う通りに、体を休めた方がいいのも事実であった。
ミレイやミーシャの顔色からは、疲れの色がはっきりと見える。それは、アイシャも同じであろう。彼女も、重くのしかかってくる様な疲れを感じ取っていた。
「一先ずは、車をもっと奥の方に停めますね」
ミレイはそう告げると、深い木々の間に車を移動させる。
そして、彼女達は少し狭い車内で座りながら、眠りに就くことにした。
ミレイは座席を少し倒すと、すぐに穏やかな寝息を立て始める。また、ミーシャもアイシャに背を向けながら縮こまり、直に眠りに就いた様であった。
車内は静寂に満ちている。木々が風でなびく音が時折聞こえるだけで。
ただそんな中、アイシャは中々眠りに就けずにいた。この静寂と今まで張っていた緊張の糸が一時的に緩んでしまった事により。頭の中には、考えてもしょうがない事が巡っていたのだ。
――いつまで、うちらは苦しめられなきゃいけないの? いや、そもそも、この苦しみに終わりはあるの……? 仮にラジエルの魔の手から逃れられたとしても……。
そんな不安と疑念がふつふつと脳内に湧き上がる。それを彼女は、座る姿勢をしきりに変えながら振り払おうとしていた。
するとその時、アイシャの手に暖かな感触が伝わってくる。
そこで、アイシャはこの感触の先を目で追った。そしてすぐに、この感触がミーシャの手の感触だったことに気づく。彼女は手を握りながら、アイシャを見つめていたのだ。
「お姉ちゃん、私の所為でこんな事になってごめんね……。それと、私はもう覚悟できてるから。もし、お姉ちゃんやジークさんやミレイさんの命に関わる様な事態になったら、迷わず私をラジエルさんに差し出して」
彼女はアイシャの瞳をまっすぐ見据えながら、そんな事を告げてきた。そんな彼女の瞳には、恐怖も迷いの色も見えない。だが、彼女はどこか自棄になっているだけの様にも見えた。
だからこそ、そんな彼女の言葉など到底受け入れられるわけがなかった。
――ダメだ。こんな事を考えてちゃ。うちが弱気になったらいけない。一番辛い思いをしているのはミーシャなんやから
そこで、アイシャは彼女の手を握り返し
「大丈夫やから。あんたは余計な事を考えなくていい」と答える。
そして、その後は二人ともが口を閉ざし、ただ手を握り合う。互いに眠りに就くまで力強く……。
ミレイとアイシャ、それとミーシャは、このどさくさに紛れ車で外に逃げ延びていた。
駐車場内にも奴らの仲間らしき連中を数人見かけはしたが、奴らは上階での戦闘に気を取られている様子であった。無線でしきりに仲間と連絡を取り合い、慌ただしく動き回っていた。そのお陰で、目を盗む事は左程難しくもなかったのだ。
そして、ミレイが運転する車は市街地を走り抜けていた。徐々に彼女達がいたマンションは小さくなっていく。
すると、その光景を後部座席から不安気な表情で眺め見ていたアイシャが
「あいつも、無事に逃げられたんかな?」と漏らした。
それに対し、ミレイは落ち着いた声音で彼女へと言い聞かせる。
「心配する事はありません。ジーク様なら上手くやってのけますので」
それを聞くと、アイシャは頷きつつ
「そうやね……。あいつなら、絶対大丈夫やんね」と納得した。
だがその時、ビルの上階から炎と黒煙が勢いよく上がったのが見えた。すると、少し遅れて彼女達の下へも大きな爆発音と振動が伝わってくる。
それは、あまりの衝撃で前方の車が急ブレーキを踏んでしまう程のものであった。そして、ミレイもそれに釣られ、慌てて路肩に車を止める。
そこでしばらくは、3人とも口をポカンと開けたまま、燃え盛るマンションを見ている事しかできなかった。アイシャが、取り乱した様に口を開けるまでは。
「ッ……あれって、うちらがいた部屋からやんね!? あいつは……あいつは逃げられたの!?」
その問いかけでミレイは我へと返る。そして、車を再び発進させながら、彼女に言い聞かせた。
「……きっと、大丈夫です。ジーク様ならきっと……。今は信じるしかありません」
しかし、それはアイシャに言い聞かせていたというよりかは、自身に言い聞かせていた様に聞こえる。彼女もジークが無事であるかなんて分かりはしない。本当はジークの安否を確認しに行きたくてしょうがないのだろうと思う。けれど、ミレイはアイシャ達を無事に逃がすという使命を優先させようとしていた。
だからこそ、今はミレイの言う通り『信じる』しかない。あいつの行為を無駄にしない為にも。そう思いアイシャは、疑念を振り払う。
それから、ミレイは車を一時間程ひたすら走らせ続けていた。すでに、市街地は完全に抜けており、車は峠道の様な場所を走っている。周囲には建造物はおろか、街灯すら見当たらない。鬱蒼とした森と険しい崖がひたすら続く様な道であった。また、ここらは不浄地帯と共同自治区の境目にあたる地点でもある。そのため、車通りも全くない。
そんな中、アイシャはミレイに問いかける。
「どこまで行くん……?」
それに対し、彼女は言葉を濁しながら答えてきた。
「……あの者達に気づかれにくそうな場所まで。としか言えませんね」
つまり、まだしばらくは宛もないドライブが続きそうであった。
だがその時、目の前に大きな看板と分かれ道が現れた。すると、その前でミレイがおもむろに車を止め出す。それは案内板の様であったが、アイシャ達が普段使う文字で書かれてはいない。そのため、アイシャとミーシャには何が書かれているのか全く分からなかった。しかし、ミレイはそれを凝視している。
すると、その様子にミーシャが疑問を漏らした。
「何かありました?」
彼女はそれに対し、頷きつつ答えてくる。
「ええ。左に5キロ進めばキャンプ場があるみたいですね」
しかし、それを聞くとアイシャは少し驚きながら
「この文字って日本語やんね? たしか、ここに住んでいた人間が戦前まで使っていた言語。あんた、それが読めんの……?」と問いかけた。
すると、ミレイは何の気なしに
「はい、多少ですけれども」と言い放ってくる。
そこで、アイシャは彼女を怪訝な表情で見つめた。
「あんた、何者……?」と疑問を漏らしながら。
だが彼女は、首を傾げつつ
「わたくしは、ジーク様の使用人ですよ?」と意図せぬ答えを返してくる。
そんな彼女の返答に、アイシャはモヤモヤとした気持ちにさせられたが、
「……まぁ、いいわ」と答え、これ以上の詮索は一先ず止めた。
そして彼女はミレイに提案する。
「そこなら、奴らに気づかれにくそうだし、車も隠せそうじゃない?」
それには、ミレイもそのつもりだったらしく、賛同してきた。
「ええ、わたくしもそう思っておりました。そうと決まれば、早速向かいましょう」
そして、そう告げると同時に、車は再び峠道を走り出す。
やがて、彼女達は細く入り組んだ道を進み、キャンプ場らしき場所へと辿り着いた。
だが、その場所は酷く寂れ、人影はおろか営業している様子も窺えない。それに、入り口付近には管理棟やら、コテージやらが建てられていたが、そのどれもが長年手を加えられていない様子であった。窓ガラスは割られ、建物自体も朽ち果て、ツタが生え渡っている。
その光景にミレイは
「どうやら、廃キャンプ場だったみたいですね」と漏らした。
それに対し、アイシャは頷きつつ答える。
「そうやね。でも、逆に好都合やない? 足もつかなそうやし、うちらお金も持ってへんし」
するとそこで、ミーシャがポツリと呟き出す。
「でも、何か出そうで不気味だよ……」
そんな彼女は窓の外の景色を見渡しながら、怯えた表情でいた。
その様子にアイシャがため息を漏らす。
「もう、あんたは……。うちら悪魔がお化けを怖がってどうすんのよ」
それに対し、ミーシャは頬を膨らませなながら、アイシャに
「悪魔でも、怖いもんは怖いよ!」と反論した。
だがその時、突如として車内におどろおどろしいメロディが鳴り響く。
すると、アイシャとミーシャはビクッと肩を震わせ驚き出す。
「きゃあッ!?」
「なに!? なに事!?」
そして、彼女達はしきりに車内を見渡し、音の発生源を探し回る。
しかしそこで、ミレイが平然とした表情で
「あ、わたくしの携帯ですね」と告げてきた。
次いで、彼女は助手席に置いてあったカバンへと手を伸ばす。
その様子に、アイシャとミーシャは呆気にとられる。
ただ、アイシャは段々、取り乱した事へ妙な気恥ずかしさを抱き
「なんて着信音にしてるんよ!? それとも、狙ったん!?」と彼女に突っ込みを入れた。
すると、ミレイは笑みを浮かべつつ、否定してくる。
「まさか、そんなつもりはありませんよ~。ただ、着信に気づきやすいので、これに設定しているだけですよ」
それに対し、アイシャはため息と共に
「はぁ……。あんたって、変よね。あんたの主人に似て」と漏らす。
しかし、それをなぜかミレイは誉め言葉と受け取ってきた。
「ジーク様と似ているなんて、嬉しいお言葉ですね~。照れちゃいますわ」
そんな彼女を見て、アイシャは『ジークよりもヤバいかも』とミレイに対する評価を一新するのだった。ただ、それはさておき、今は着信相手の方が気になる。
「で、誰からの着信?」
アイシャがそう問いかけると、彼女は
「少々、お待ちを」と言ってカバンから今も尚悍ましいメロディを鳴り響かせているスマホを抜き取った。
そして、彼女が画面を確認すると驚いた表情と共に、安堵の表情をも浮かべ出す。
そんな彼女の様子を見て、アイシャはスマホの画面を覗き込んだ。
するとそこには、『ジーク様❤』と映し出されていた。
そこで、アイシャも胸を撫でおろす。
(よかった。生きてた)と。
その最中にミレイが通話ボタンをタップする。
すると、スマホのスピーカー越しに彼の声が聞こえてきた。
「ッ……やっと、繋がったか」
彼は押し殺した様な声でそう告げてくる。
それに対し、ミレイは安堵と不安の入り混じった声で
「ジーク様! ジーク様ですよね!? ジーク様、ご無事なのですか!?」と立て続けに問いかけ出した。
それを彼は宥めてくる。
「落ち着け……。すでに危機は去った」
だがそこで、アイシャは疑問を漏らす。
「待って。危機は去ったって、さっきマンションで爆発があったでしょ? ……何があったの?」
するとジークはため息を漏らしつつ、答えてくる。
「……そうか、お前らからも見えていたか。少々危うかったが、あれは奴らを仕留めるために俺が引き起こしたものだ。流石に、あれをまともに受けて無事では済まんだろう」
「どういうこと? あんた、本当に無事なの?」
「……まともに動ける状態にはない。ただ、あの場から何とか逃げ延びる事はできた。だから、心配する必要はない」
しかし、それを聞いても尚、アイシャの不安は拭えない。
「……あんた、今どこにいんの?」
「わからん。どこかの工場の敷地内だと思うが……。茂みの中にいるから確認のしようがない」
そこで、アイシャは怪訝な表情を浮かべながら問いかける。
「どうしてそんなとこに?」
「マンションから離れるためには、仕方がなかった。ダンプに引きずられる他、脱出手段がなかったからな」
すると、今度はミレイがジークに語り掛けた。
「迎えに参ります。覚えている範囲でいいので、目印になる物はありませんか?」
しかし、それをジークは拒絶する。
「止めておけ。今、迂闊に動くのは危険だ」
そして彼は続けて、問いかけてきた。
「というよりも、お前たちの方こそ大丈夫なのか?」
「……わたくしたちは、大丈夫です。追手はいませんでした。それに、現在は身を隠せる様な場所におります」
「ンンッ……そうか。なら、良かった。しばらくは、そこにいろ」
彼は一瞬苦し気な声を上げつつそう告げる。そして、彼は通話を切ろうとしてきた。
だがそれを、アイシャが制止する。
「待って。あんたは、これからどうするつもり?」
すると彼は意外にも
「体力が回復するまでは、大人しく身を潜めるさ。合流はそれからだ」と告げてきた。
それに対し、アイシャは
「意外ね。あんたから大人しくするという言葉が出てくるなんて」と素直な感想を漏らす。
正直、今すぐにでも『エレクを仕留めに行く』とでも言いだすのかと思っていた。
すると、彼は何度目かのため息を漏らしながら、告げてくる。
「勿論、不本意だがな。しかし、流石にこれ以上体へ負荷を掛けられん」
そして、彼は続けて
「それと、お前らもしばらくは身を潜めておけよ。くれぐれも、学園に行こうとはするな」
とも釘を刺してきた。
しかし、それには特に異論はなかった。
「うん、それもそうやね」
アイシャがそう呟くと彼は、
「合流時刻と地点は、体調が回復したらメールで送っておく。それから、くどい様だが今は体を休めておけ。くれぐれも勝手に動くなよ」と念を押してきた。
そして彼からの通話は、返事を待たずに一方的に切られてしまう。
そこで、そんな彼の態度にアイシャが愚痴をこぼす。
「あ、ちょっと……! もう、相変わらず勝手なんやから……」
しかし、今は彼の言う通りに、体を休めた方がいいのも事実であった。
ミレイやミーシャの顔色からは、疲れの色がはっきりと見える。それは、アイシャも同じであろう。彼女も、重くのしかかってくる様な疲れを感じ取っていた。
「一先ずは、車をもっと奥の方に停めますね」
ミレイはそう告げると、深い木々の間に車を移動させる。
そして、彼女達は少し狭い車内で座りながら、眠りに就くことにした。
ミレイは座席を少し倒すと、すぐに穏やかな寝息を立て始める。また、ミーシャもアイシャに背を向けながら縮こまり、直に眠りに就いた様であった。
車内は静寂に満ちている。木々が風でなびく音が時折聞こえるだけで。
ただそんな中、アイシャは中々眠りに就けずにいた。この静寂と今まで張っていた緊張の糸が一時的に緩んでしまった事により。頭の中には、考えてもしょうがない事が巡っていたのだ。
――いつまで、うちらは苦しめられなきゃいけないの? いや、そもそも、この苦しみに終わりはあるの……? 仮にラジエルの魔の手から逃れられたとしても……。
そんな不安と疑念がふつふつと脳内に湧き上がる。それを彼女は、座る姿勢をしきりに変えながら振り払おうとしていた。
するとその時、アイシャの手に暖かな感触が伝わってくる。
そこで、アイシャはこの感触の先を目で追った。そしてすぐに、この感触がミーシャの手の感触だったことに気づく。彼女は手を握りながら、アイシャを見つめていたのだ。
「お姉ちゃん、私の所為でこんな事になってごめんね……。それと、私はもう覚悟できてるから。もし、お姉ちゃんやジークさんやミレイさんの命に関わる様な事態になったら、迷わず私をラジエルさんに差し出して」
彼女はアイシャの瞳をまっすぐ見据えながら、そんな事を告げてきた。そんな彼女の瞳には、恐怖も迷いの色も見えない。だが、彼女はどこか自棄になっているだけの様にも見えた。
だからこそ、そんな彼女の言葉など到底受け入れられるわけがなかった。
――ダメだ。こんな事を考えてちゃ。うちが弱気になったらいけない。一番辛い思いをしているのはミーシャなんやから
そこで、アイシャは彼女の手を握り返し
「大丈夫やから。あんたは余計な事を考えなくていい」と答える。
そして、その後は二人ともが口を閉ざし、ただ手を握り合う。互いに眠りに就くまで力強く……。
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詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
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「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
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全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
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一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
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《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
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なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
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2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
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