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袂を別つにしても
あえて嫌みな言い方で、相手の平常心を奪う。オレは、こんなにも努力家で強いアクセル様が家族から認められていないのが、どうしても許せなかった。
「お兄さんがどれほど強いのか知らないけど、剣の修練も怠らず、魔法も極めてるアクセル様が負けるはずないよ。一回本気で戦ってみればいい。こういう手合いには現実を見せるしかないと思う」
「兄が強いのは本当だ。子供の時から一度も勝てたことがないし、剣の腕は次期騎士団の団長候補だと言われているほどだから」
「そりゃお兄さんは信じられないくらい強いだろうさ、騎士としてはね。でも、それでもオレはアクセル様の方が強いと思う。だってBランク魔物なんて、ほとんど身体強化と剣だけでやっつけてたじゃん。実際の戦闘で活きるのは魔法も含めた総合力でしょ」
「貴様……!!! 愚弄する気か!」
「いいでしょう、やってみなさい」
それまで黙ってみていた美人母ちゃんが、凜とした声で言った。
「母上!?」
「バロウズ、旦那様を修練場へお連れして」
「……かしこまりました」
美人母ちゃんに指示を受けた執事っぽい人が、音もなく食堂を出て行く。
「母上……!」
「私たちも移動しましょう」
「……っ」
兄ちゃんが非難するような声を出したけど、美人母ちゃんの有無を言わさぬ雰囲気に何も言えなくなったらしい。しぶしぶついてきたのだった。
オレたちもその後についていく。オレは、そっとアクセル様を見上げた。
「ごめんね、アクセル様。でもこのままケンカ別れみたいになるの、良くないと思う。袂を別つにしても、アクセル様がどれだけ努力して実力を上げたのかくらいは、分かって欲しいと思ったんだ」
「……ありがとう」
そう言いながらもアクセル様は緊張した様子で真っ直ぐに前を向いて歩いている。オレはアクセル様の集中を邪魔したくなくて、少し後ろを黙っててくてくと歩いた。
ふ、とアクセル様の足が止まる。
「イール」
振り返ったアクセル様が、オレを真剣な顔で見つめてきた。
「イール、俺……本気で戦ってみようと思う」
「……うん! 頑張って!!!」
Bランクの魔物と戦ってた時よりもよっぽど悲壮な顔をしてるアクセル様が、それでも覚悟を決めたんだ。オレは、アクセル様のその決意がとても尊いと思った。
邸の隣に建てられた、だだっ広い修練場。
オレたちが中に入るのとそう変わらないくらいのタイミングで、アクセル様の父ちゃんもやってきた。なんかさっきよりもさらに顔色が悪い。
「……ロイヤンとアクセルの手合わせを許したそうだな」
父ちゃんが苦い顔で美人母ちゃんを睨む。もちろん美人母ちゃんは澄ました顔だ。
「ええ。アクセルには魔法を使用して、本気で挑むように言ってあるわ」
そこに、クソ兄貴が口を挟む。
「母上はアクセラードが連れてきた無礼な客人に唆されているのです! この神聖な修練場で魔法を使うなど!」
「この場所を使うのが嫌なら、どこかだだっ広い草原にでも移動してもいいわ。アクセル、貴方ならできるでしょう?」
「は……?」
「できますね」
「な、何を」
アクセル様の実力を理解しているらしい美人母ちゃんと、全然わかってないっぽいクソ兄貴。でもその様子を見ていた父ちゃんは、深いため息をついて言った。
「いや、ここでいい」
「父上!?」
「ロイヤン、よく聞いてちょうだい」
「母上?」
「確かに腕のない魔法使いは魔法を展開するにも時間がかかるし、貴方たちが役に立たないと思う気持ちも分かる。けれど使い方次第、術者次第で剣術と合わせて使えば思いもよらないような力を発揮することもあるの」
「……っ」
クソ兄貴があからさまに嫌な顔をする。そんなクソ兄貴にも、美人母ちゃんは言い聞かせるように丁寧に話すんだから、本当に優しい母ちゃんだ。
「魔法も剣術も、等しく素晴らしいものだわ。それを掛け合わせればとんでもないことをなし得るのかもしれない。今日はあなたにとっても重要な日になる筈よ」
クソ兄貴は助けを求めるように父ちゃんを見て、期待した答えが得られないと分かると悔しそうに俯いて小さな声で「……はい」と答える。
納得してないことなんて丸わかりだった。
美人母ちゃんはそんなの最初から分かってたんだろう。仕方のない子ね、というような顔で微笑んで、今度はアクセル様に目を向けた。
「アクセル」
「はい」
「貴方がこれまでラットファム家の一員として誰よりも努力してきたこと、母はちゃんと分かっていますよ。けれど、あなたの才はラットファムの名で潰していいようなものじゃない」
「母上……」
「けれど、あなたの魔力は強力な魔法を何発も放てるほど膨大じゃないことも知っているわ。あなたがどうやって五体もの魔物を倒したのか、その工夫と努力を……実戦で鍛えたあなたの力を、この分からず屋たちに教えてあげてちょうだい」
美しい笑みで、言ってる内容はなかなかだ。多分だけど、美人母ちゃんもクソ兄貴や父ちゃんに相当ムカついてたんだろう。
ちょっとびっくりしたみたいに目を見開いたアクセル様だったけど、すぐに気を取り直したみたいに爽やかに笑う。そこには、さっきまでの悲壮感はなくなっていた。
「分かりました。俺なりに全力を尽くします」
「お兄さんがどれほど強いのか知らないけど、剣の修練も怠らず、魔法も極めてるアクセル様が負けるはずないよ。一回本気で戦ってみればいい。こういう手合いには現実を見せるしかないと思う」
「兄が強いのは本当だ。子供の時から一度も勝てたことがないし、剣の腕は次期騎士団の団長候補だと言われているほどだから」
「そりゃお兄さんは信じられないくらい強いだろうさ、騎士としてはね。でも、それでもオレはアクセル様の方が強いと思う。だってBランク魔物なんて、ほとんど身体強化と剣だけでやっつけてたじゃん。実際の戦闘で活きるのは魔法も含めた総合力でしょ」
「貴様……!!! 愚弄する気か!」
「いいでしょう、やってみなさい」
それまで黙ってみていた美人母ちゃんが、凜とした声で言った。
「母上!?」
「バロウズ、旦那様を修練場へお連れして」
「……かしこまりました」
美人母ちゃんに指示を受けた執事っぽい人が、音もなく食堂を出て行く。
「母上……!」
「私たちも移動しましょう」
「……っ」
兄ちゃんが非難するような声を出したけど、美人母ちゃんの有無を言わさぬ雰囲気に何も言えなくなったらしい。しぶしぶついてきたのだった。
オレたちもその後についていく。オレは、そっとアクセル様を見上げた。
「ごめんね、アクセル様。でもこのままケンカ別れみたいになるの、良くないと思う。袂を別つにしても、アクセル様がどれだけ努力して実力を上げたのかくらいは、分かって欲しいと思ったんだ」
「……ありがとう」
そう言いながらもアクセル様は緊張した様子で真っ直ぐに前を向いて歩いている。オレはアクセル様の集中を邪魔したくなくて、少し後ろを黙っててくてくと歩いた。
ふ、とアクセル様の足が止まる。
「イール」
振り返ったアクセル様が、オレを真剣な顔で見つめてきた。
「イール、俺……本気で戦ってみようと思う」
「……うん! 頑張って!!!」
Bランクの魔物と戦ってた時よりもよっぽど悲壮な顔をしてるアクセル様が、それでも覚悟を決めたんだ。オレは、アクセル様のその決意がとても尊いと思った。
邸の隣に建てられた、だだっ広い修練場。
オレたちが中に入るのとそう変わらないくらいのタイミングで、アクセル様の父ちゃんもやってきた。なんかさっきよりもさらに顔色が悪い。
「……ロイヤンとアクセルの手合わせを許したそうだな」
父ちゃんが苦い顔で美人母ちゃんを睨む。もちろん美人母ちゃんは澄ました顔だ。
「ええ。アクセルには魔法を使用して、本気で挑むように言ってあるわ」
そこに、クソ兄貴が口を挟む。
「母上はアクセラードが連れてきた無礼な客人に唆されているのです! この神聖な修練場で魔法を使うなど!」
「この場所を使うのが嫌なら、どこかだだっ広い草原にでも移動してもいいわ。アクセル、貴方ならできるでしょう?」
「は……?」
「できますね」
「な、何を」
アクセル様の実力を理解しているらしい美人母ちゃんと、全然わかってないっぽいクソ兄貴。でもその様子を見ていた父ちゃんは、深いため息をついて言った。
「いや、ここでいい」
「父上!?」
「ロイヤン、よく聞いてちょうだい」
「母上?」
「確かに腕のない魔法使いは魔法を展開するにも時間がかかるし、貴方たちが役に立たないと思う気持ちも分かる。けれど使い方次第、術者次第で剣術と合わせて使えば思いもよらないような力を発揮することもあるの」
「……っ」
クソ兄貴があからさまに嫌な顔をする。そんなクソ兄貴にも、美人母ちゃんは言い聞かせるように丁寧に話すんだから、本当に優しい母ちゃんだ。
「魔法も剣術も、等しく素晴らしいものだわ。それを掛け合わせればとんでもないことをなし得るのかもしれない。今日はあなたにとっても重要な日になる筈よ」
クソ兄貴は助けを求めるように父ちゃんを見て、期待した答えが得られないと分かると悔しそうに俯いて小さな声で「……はい」と答える。
納得してないことなんて丸わかりだった。
美人母ちゃんはそんなの最初から分かってたんだろう。仕方のない子ね、というような顔で微笑んで、今度はアクセル様に目を向けた。
「アクセル」
「はい」
「貴方がこれまでラットファム家の一員として誰よりも努力してきたこと、母はちゃんと分かっていますよ。けれど、あなたの才はラットファムの名で潰していいようなものじゃない」
「母上……」
「けれど、あなたの魔力は強力な魔法を何発も放てるほど膨大じゃないことも知っているわ。あなたがどうやって五体もの魔物を倒したのか、その工夫と努力を……実戦で鍛えたあなたの力を、この分からず屋たちに教えてあげてちょうだい」
美しい笑みで、言ってる内容はなかなかだ。多分だけど、美人母ちゃんもクソ兄貴や父ちゃんに相当ムカついてたんだろう。
ちょっとびっくりしたみたいに目を見開いたアクセル様だったけど、すぐに気を取り直したみたいに爽やかに笑う。そこには、さっきまでの悲壮感はなくなっていた。
「分かりました。俺なりに全力を尽くします」
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