【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末

竜也りく

文字の大きさ
25 / 49

【アルロード視点】難しい感情

こんなにドキドキしていて、顔を合わせた時に普通にしていられるのだろうか。

ルキノはどうしていたんだろう。

そういえば、ルキノはいつも「遠くから幸せを祈っている」と言っていた。つまり、日常的に接するわけではないということだろう。

確かにこんなに心臓が高鳴っていては、側に寄るのも難しい。

でも、笑顔を近くで見たいし話したい。

なんて難しい感情だろう。誰かを特別に大切に思う気持ちに慣れていない僕には、持て余しそうな大きな感情。

それでも食堂に行ってルキノの楽しそうな顔を見れば、妙な事をしでかさないかという不安よりも、会えた嬉しさが上回る。

おすすめメニューを手に近づけば、今日もルキノの元気のいい声が聞こえてきた。

「分かってないなぁ。オレはあのお方が愛する人と幸せになるところを陰ながら応援したいんだ。あれだけ優しくて思いやりに溢れた方だから、きっとあのお方を笑顔にしてくれる、素敵な人と出会える筈だと思うんだ」

「はいはい」

そして相変わらずおざなりなドルフの返事。

それが不思議と楽しそうで、なぜかちょっとだけ焦りを感じた。

「やあ、ルキノは今日も元気だね」

平静を装って声をかけたら、ルキノが満面の笑顔で振り返ってくれる。

顔色もいいし、声にも張りがある。瞳はいつもに増してキラキラしていて、ああ、昨日はちゃんと眠れたんだなと安心した。

ホッとするぼくの顔を、ルキノはまじまじと穴があきそうな程に見つめてくる。

やがて心配そうな表情になったルキノはポツリとこう言った。

「アルロード様、もしかしてゆうべ、眠れませんでした……?」

「えっ、いや、そんな」

なぜバレた!?

他の誰からもそんな指摘は受けていないのに。

慌てて否定すると、ルキノはますます心配そうな顔になってしまった。

「目の下にクマがあるし、いつもより疲れてる感じがします。もしかして、オレが心配かけちゃったから……?」

「いや、違うんだ。ちょっと考えたいことがあって……ルキノのせいではないよ」

こっちが勝手に心配して眠れなかっただけだ。断じてルキノのせいではない。

どうやら素直に納得してくれたらしいルキノは、バッグの中をゴソゴソ探ったかと思うと、可愛らしい小瓶を取り出した。

「そうだ。これ、もし良かったら使ってください」

「これは……?」

「なんか、リラックス効果があるらしいです。眠る前に使うとよく眠れるって聞いたから、オレも時々使ってて」

ルキノ……!!!

本当に、君はなんて優しいんだ。

感激で胸が熱くなった。

「ありがとう、今夜早速使ってみるよ」

どんな香りなんだろうか。

ルキノがくれたというだけで、きっと幸せな気持ちで眠りにつく事ができるだろう。

……いや。嬉しくて、またルキノを思い出しては眠れない夜を過ごすかも知れないのか。

そんな事を考えていて、ふと思い当たる。

「ルキノも眠れない夜が沢山あるんだね」

心配になってそう問えば、ルキノは明らかに「しまった」という顔であわあわと言い訳のように話し始める。

「あ、でもこれからは大丈夫です。ゆうべ今後の事について家族とも話せましたし! アルロード様のおかげです。ありがとうございました!」

やっぱり眠れない夜を沢山越えてきたんだろうルキノは、それでも健気に笑ってみせる。

今後の事を家族と話せたと言うなら、そしてその結果、明るい顔で笑えているならそれでいい。

どういう話し合いになったかはとても気になるけれど、そこまで無遠慮に立ち入る事はさすがにやっちゃいけないだろう。

「そうか、良かった……」

僕が微笑んで見せたら、ルキノも嬉しそうに笑ってくれる。

なんとなく胡乱げな目でドルフに見られているのが気になるけれど、安心したらしいルキノが次々に大切な『あのお方』の話をしてくれるものだから、次第にそっちに気を取られていった。

「それで今日、合同演習の時にあのお方が、剣を飛ばされて倒れ込んだ相手に手を伸ばして助け起こしててさ。その所作がもう、本当にさりげなくて! 相手は悔しそうだったのにその一瞬で心酔した顔になっちゃってさぁ」

今日も今日とて、ルキノの大切な『あのお方』は、ルキノの心を鷲掴みにしているらしい。

勝負がついたら倒れた対戦相手に手を差し伸べる。それはごく普通の事だと思うが、その所作がまた素晴らしいんだ、とルキノの心を動かすようだ。

羨ましい。

いったい全体、その所作とやらはどういったものなのだろうか。

ルキノが語る『あのお方』は、何も特別な事をしているわけではない。

けれどその笑顔が、ちょっとした動作が、言葉が、ルキノを捉えて離さないんだろう。僕にとって、ルキノの笑顔や話す時の目の煌めきが特別に見えるように。

「あっ」

ハッとした表情でルキノが僕をまっすぐに見つめる。

『あのお方』の事を話す時は、いつも目が合っているようで合っていない……きっと『あのお方』を思いだしているんだろうという表情のルキノだが、僕自身に用がある場合は、こうしてしっかり目を合わせてくれる。

良かった、今日も目を合わせて話してくれる時間がそれなりにありそうだ。

彼の『あのお方』への想いを聞かせて欲しい、と願ったわりに、目が合わないのが寂しいだなんて、彼に失礼で絶対に悟られたくない。

「そういえばオレ、言わなきゃいけない事があったんでした!」

「なんだい?」

「オレ、明日からしばらく休むんですよ。今日お会いできて良かったです」

「えっ!!?」

「多分二週間くらい」

「あ……」

発情期か、と思い当たる。

オメガという性の不自由さをこんなところでも感じて言葉が出なかった。

ルキノとしては特に特別な事を言ったつもりもないらしい。そのあとはまた『あのお方』の話になってしまって、僕は複雑な気持ちのままルキノの話を聞くしか無かった。

いつもならルキノの『あのお方』の話を聞くのは楽しい。

ルキノの表情がころころ変わるし、ルキノの目から見た騎士科の演習や夜会での人々の話自体もとても興味深い。

僕の目から見ると、演習では次々に対戦を請われ、夜会では話しかけられダンスを申し込まれ、それに対応しているうちにあっという間に時間が経ってしまうわけだが、ルキノから見ると悲喜こもごも、色んなシチュエーションを見る事ができるようだった。

常なら興味を持って聞くルキノの話も、今日は集中できない。

もやもやしているうちに昼食の時間はあっという間に過ぎてしまって、ルキノは友人に休みの事を伝えたいからと走って行ってしまった。

走り去る後ろ姿を見つめて後悔する。

もっとちゃんと話せば良かった。明日からはしばらく会えないというのに。

「大丈夫すか」

僕がため息をついていたからだろう。ドルフが気遣うように声をかけてくれる。僕は申し訳なくて微笑んで見せた。

「僕は大丈夫だよ。ルキノがこれから苦しい思いをするのかと思うと心配で」

「あー……まぁアイツ、ヒートは軽い方だって言ってたし、大丈夫じゃないすか? いざとなったら助けに行くし」

その言葉に、不穏なものを感じて、僕は思わず聞き返す。

「助けに行くって……ヒートなのに?」

「ヒートだからでしょ。アイツがツラいから突っ込んでくれってんなら、チンコ貸すくらいなら俺でもできるし」

「!!!」

あまりの言いように、言葉を無くす。

するとドルフは皮肉げに片方だけ唇の端を上げて、薄く笑った。

「そういう事、言ったんでしょう? アイツに」

「そんな、僕は……!」

「アルロード様は公爵家なんだから、そう簡単に子種をばら撒くわけにもいかないでしょう。俺ならベータだからそう簡単にオメガを孕ませられないし、家の問題とかないですし」
感想 3

あなたにおすすめの小説

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

異世界転移された傾国顔が、アラ還宰相の幼妻になって溺愛されるまでの話

ふき
BL
異世界に転移したカナトは、成り行きでアラ還の宰相ヴァルターと結婚することになる。 戸惑いながら迎えた初夜。衝動のキス、触れあう体温――そして翌朝から距離が遠ざかった。 「じゃあ、なんでキスなんてしたんだよ」 これは、若さを理由に逃げようとするアラ還宰相を、青年が逃がさない話。 ヴァルター×カナト ※サブCPで一部、近親関係を想起させる描写があります。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。 蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。 だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。 しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。 「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」 ――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈ __________ 追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ 一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる (主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです) ※R成分薄めです __________ 小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です o,+:。☆.*・+。 お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/ ありがとうございます!! BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m