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10.君は全て僕のもの ◆
外では小鳥がさえずり、朝の清々しい光が満ちている。
だが、鈴花の部屋にだけは淫靡な空気が満ちていた。
肌同士がぶつかる音に、ぐちゅ、ずちゅ、と粘着質な水音が混じる。
「一日で……僕の形を覚えて、くれたのかな? すごく、柔らかく呑み込んで……ん……っ、はぁ……蕩けそう、だ……」
「んあ……ああ……」
四つん這いになり、腰を高く突き出した姿勢の鈴花は、既に腕で身体を支えられず敷き布団の上に頭を預けている。
焦点を結んでいない目は快楽に潤み、口からは絶えず嬌声が漏れる。
「はっ……く……いい……君の声も匂いも、身体も……僕を夢中にさせる……っ……この僕が……こんなふうに……誰かの虜になるなんてっ……君に会うまでは思ってもいなかったのに……っ!」
既に何度か精を放っているが、夏々地の勢いは衰えていない。
抽送のたびに、ずちゅぐちゅと淫靡な音を立てながら、夏々地の精と鈴花の蜜が混じったものが掻き出されて、鈴花の太腿を汚している。
「僕を変えた君が……憎い……でも、それ以上に……愛しくて……苦し……ッ」
「んあ……深い……ぃ……ああああっ」
最奥を突かれ、鈴花は一段と高い嬌声を発して絶頂に達した。
隘路を埋める夏々地をキュウキュウと締め付け、ビクビクと何度も全身を震わせる。
夏々地は恍惚とした笑みを浮かべつつも、冷静さの残る目で鈴花を見下ろし、彼女の痴態を堪能している。
「またイったね? 本当にもう……感じやすくて可愛い」
クスリと笑うと夏々地上半身を前に傾けた。
鈴花の顔にかかる髪を指先で退けると、あわらになった耳許で囁く。
「あーあ、すごいイヤらしい顔こっちもトロトロだし。そんなに気持ちよかった?」
言いながら、『こっち』がどこなのかを鈴花に教えるように、小さく腰を振る。
「あ……あああっ……あ……」
快楽の淵から戻って来られないのか、鈴花は呆けたように小さな喘ぎを繰り返す。
「――ちゃんと聞こえてる? このくらいで音を上げててどうするんだい? まだまだこれからなのに」
夏々地がピチャピチャと耳を舐めると、鈴花は戦慄に似た快感を覚えて我に返った。
鈴花が思わず肩を竦めれば、夏々地は悪戯が成功したように笑う。
「耳も弱いよね……こうやって舐めるとギュウギュウ締め付けてくる……どこもかしこも敏感で……、攻め甲斐があるよ」
「り……りょう、さ……、もう、無理……、んっ、あ……」
「……ねぇ、知ってる? 僕たち蛇は一度交尾を始めると数日は離れないんだ。さすがに君にそれはきついだろうから、ちゃんと休憩を入れてあげる。……でもたくさんしようね」
鈴花の声が聞こえていないのか、それともあえて無視しているのか。夏々地は陶然と囁く。
半ば意識を飛ばしつつも、鈴花は言われたことを理解し顔を青ざめさせた。
だが、心と裏腹に身体の奥がずくずくと疼く。
「僕が本性を現しても、受け入れて貰えるように、たくさんたくさん開発しないといけないし、ね? 人間の姿をしてる時とちょっと形が違うから、最初は驚くだろうけど、きっと君にも気に入って貰えると思うな」
「や……あ……」
「君の香りが、僕を狂わせたんだ。責任を取って、大人しく僕に囚われていて。――愛してるよ、未来永劫、君だけを。たとえ君が嫌がろうと、裏切ろうと、もうどこにもやらない。君は……、君の全部は僕のもの、だよ」
狂気にも似た執着を孕んだ瞳で笑うと、再び抽送を始めた。
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「ごめん。君が魅力的すぎて自分を抑えられなかった」
ぐったりと弛緩した身体を横たえる鈴花の隣で、夏々地はしれっとそんなことを口にする。
「お世辞ばっかり……」
彼があまりに愛おしそうな視線を投げかけてくるのが居たたまれなくて、鈴花は憎まれ口を聞いて、ふいっと視線を逸らした。
「お世辞? そんなわけないだろう。君は世界で一番愛おしいよ、僕の花嫁さん」
乱れた髪の一房を指に取ると、夏々地は鈴花の目をのぞき込んだまま、妖艶な顔で口づけた。
「君は……自分があやかしを惹きつける体質だと自覚してしまった。だからきっと、これからは更に強い芳香を放つようになるよ」
「――そうなんですか?」
唐突に始まった話に、鈴花は何度かまばたきをした。
疲労で鈍くなった思考をなんとか働かせ、夏々地の話についていけるように。
「だから出かけたいなんて言わないで。下手をしたら君は他のあやかしの餌食になってしまう。力の強いあやかしなら、君を花嫁にしたくて攫うだろうね。けど、弱いあやかしに捕まったら……君はきっと文字通り喰われてしまうよ。弱い奴らにとって君は、極上の餌であると同時に、更なる力を得られる妙薬でもあるのだから」
淡々と囁かれる内容に、鈴花は顔を引きつらせた。
生きながら貪り食われるのを想像して、全身に鳥肌が立った。
彼の言葉には嘘はないようだ。
「分かりました。出かけたいなんて言いません。――私、もう一生この屋敷から出てはいけないんでしょうか?」
命は惜しい。だから、仕方ないとは思っているけれど、それでも外を歩けないのは寂しい。
「もうちょっとだけ待って」
「何か解決策があるんですか?」
「君はこの里の食べ物を食べたろう? それで此の世の者になった。だから、ただの人間よりはあやかしの気配や殺気に敏くなったはずだよ――ああ、言い忘れたけれど、此の世のものを食べたら人の世に戻るのは難しいので、うっかり出たりしないでね」
付け加えられた言葉に、鈴花は『ん?』と思った。
「涼さん、私、初日の晩ご飯からいただいちゃいましたけど……」
今の話で言えば、あの時点でもう人の世界には帰れなくなっていたはずだ。
「ごめん。はじめから帰す気はなかったから、食べさせちゃった。既成事実ってやつ?」
「涼さん!! そんな大事なこと、しれっと言わないでください!!」
さすがに腹が立った。人の世に戻る気はとうになくなっていたものの、それとこれとは違う話だ。
だが、怒るよりも先ほどの話を聞きたい。
「――まあ、いいです。それより解決策ってなんですか?」
「此の世の者になったってことは、君もあやかしに準じるものになった。あやかしはみなどこかの里――領地みたいなものかな?――に所属している。勝手に他の里の者を襲ってはいけないという不文律があるからある程度は君の安全が保たれる。それと……」
「それと?」
「君に僕の匂いがたくさんつけば、おいそれと手出しするあやかしはいなくなるよ。蛇の里の主を敵に回そうなんて愚か者はそういない。……というわけで」
鈴花は『どうやって匂いをつけるの?』と考えていたが、夏々地が覆い被さってきたことで全てを察知した。
「や! やです、涼さん! わ、私、怒ってるんですからね!?」
「本当にごめんね、鈴花。どうしても君が欲しかったんだ。蛇はね、執着心が強いんだ。一度愛したらとことん愛し抜くよ。この先、ずっと、未来永劫、想うのは君ただ一人。だから許して?」
「そんな簡単に、絆されないんだから……」
強がってみたものの、切ないほど真摯な眼差しで見つめられて、既に心はぐらついている。
「絆されてよ、鈴花」
「そんな目で見られたら、怒っていられないじゃないですか。涼さん、狡い」
「狡くていいよ、君が許してくれるなら」
即答に鈴花が笑う。
「今度からはちゃんと言ってくださいね?」
「努力する。でも、君を守るためならいくらでも秘密を作るよ」
否定も肯定もしないのは、彼なりの誠意だろう。
「仕方ないですね。それで妥協します」
鈴花がそう言うと、夏々地は晴れ晴れと笑った。
「じゃあ、そういうことで。たくさん僕の匂いをつけてあげるから、いい声で啼いてね?」
「え!?」
なぜそう言う展開になるのかと目を白黒させる鈴花の唇を、夏々地は赤い唇で覆った。
薄く開けられた隙間から、長い舌がスルリと口腔に忍び込んだ。
「ん……!」
鈴花は、夏々地の肩をパタパタと叩いて抵抗の意を示したものの、やがて縋りつくように彼の首に腕を回した。
「愛してるよ、鈴花」
赤く染まった目を爛々と光らせて、夏々地が囁く。彼の手は楽器を奏でるかのような繊細な動きで鈴花の身体をまさぐっている。
「は……んっ……わ、たしも……」
快楽に堕とされながら、鈴花は途切れ途切れに応えた。
太陽は既に西に傾き始めていたが、淫靡に身体を絡める二人に時間は関係なかった。
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