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第五章 ~王子のクラフツ留学~
〈256.5 挿話20〉近くてはるかに遠いやつ
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休息日のお昼前、親父やお袋と一緒に教会に来た。
課題の続きをやろうと思ってたのに、火の精霊ともう一人の可愛い声に誘われた。
この子は風の精霊でシュンスケは黄色ちゃんと言っている。
“べぜっと、ぜったいいくべき”
「教会に?」
ちっちゃい手でワイの袖をひっぱるのが可愛い。
“おれは、がぜっともさそってる。それに、つちのせいれいがおまえのかあちゃんもさそうっていってった”
「教会で何があるんや?」
“うた!”
「神様の歌?」
“ひのかみさまのうたもあるはず。きくべき”
入学してから、友達になったシュンスケが赤色君と呼ぶ火の精霊が、こんなに積極的にワイを誘うのは初めてじゃねえか?
いつもは、ワイのお願いを聞いてくれたり、たまに聞いてくれないこともあるけど、それは危険な時だ。
家族の生活を助けてくれたり、親父の鍜治場に出入りして、火を使う時だけ動いている感じだった。
だが、シュンスケと居る精霊の奴らは同じなのに違う。
いつも一緒にいて、姿は見えないけれど他の色の光も飛び交っているんや。
そしてシュンスケの方がすごく精霊を尊敬していて、それ以上に精霊たちがシュンスケを尊敬しているのが分かる。お互いの信頼感が凄いんや。
そのせいかもしらへんけど、ワイも今まで以上に火の精霊とやり取りできるようになった。たった三週間ほどの事なのにやで。
そんなある日、煙突の上の調子が悪いって言ってたおやじの話を聞いて
「んじゃ、学園に行く前に煙突を覗いてくるわ」
「行かんでもええ」
「あの梯子を登れば良いんやろ?親父や他の鍛冶師よりワイの方がいくらかは身軽だからな」
「そういう問題やない、おい!」
将来ワイもここで働くなら、工房の煙突の様子ぐらい見れるようになっとかなあかんやろう。
そう思って、学園の制服のまま、錆びた鉄のはしごを登っていって、真ん中を過ぎたあたりで、
ガコーン ドスーン
「うわあっ、って」
梯子に捕まってた手足に衝撃があったが、それ以上に地面に何か大きなものが落ちた音がする。
「は?」
下を見ると親父が相撲に負けたカエルのように倒れていた。
「おい親父!」
そして、俺が登っていた梯子の下の方が折れてぶら下がっていた。
「ってて。こりゃ……いかん!うっ」
どうやら親父は怪我をしたみたいだが、すぐに起き上がると、足を引きずりながら出て行ってしまった。
「え?どうしたらいいんや?」
ワイが降りられなくなってしまった。ここから地面までは結構ある。無理に飛び降りたら親父以上に怪我をしてしまいそうだ。まだ他の鍛冶師は起きてきていない。昨日から炉が使えないから今日は午前休みにしたからな。
“がぜっとは、ばしゃにのった”
赤色君が教えてくれた。
「馬車?ワイを置いて?」
“ぼうけんしゃぎるどにいくばしゃ”
「へ?怪我したっぽいから施療院じゃねえの?」
しばらく途方に暮れていると、二人の鍛冶師が出て来た。
赤色君のお知らせを聞いたんやろ。ここの連中はみんな火の精霊魔法が使えるんや。
普段どうでも良い伝言はしてくれないけど、こういう非常事態は動いてくれるんや。
「ベゼット、大丈夫か?今ベッドのマットレスとか持ってくるぜ」
「おう、そうだな、万が一落ちてしまってもちょっとはマシだろう」
「にいさんたち頼んます!」
そしてしばらく煙突にしがみついて風に吹かれてた。
マットレスを取りに行った二人はまだ戻ってきてない。
ベッドから取り外すのに手間取っているのやろか。
「親父の足はどうやったんやろ」
“みぎひざのすねがおれてた”
赤色君が教えてくれる。
「まじか」
“でも、もうなおってるぜ”
「は?骨折を治せるような冒険者がギルドにいたのか」
“いたんだよな、これが”
なんやそんな言い方したことあったっけ。
「よかった。その人にお礼を言わなあかんな」
“もうすぐとんでくるからまってな”
「そのひとが?」
“ああ、べぜっとのともだちだぜ”
「おれの?まさか」
チカッ
親父を案じて向いていた冒険者ギルドの方角から白い星の様な光が瞬いた。
星の光だと思ってたのは、真っ白な羽の鳥?いや馬?羽の生えた馬はペガサスだっけ。
それはまっすぐワイに向かって羽ばたいてくる。頭に角も見えてきたところで、
「おーいベゼットー」
馬の首の後ろに俺と同じ服を着た友達が見えた。
「シュンスケ?」
「おう、怪我はないか?」
「大丈夫、少し手がしびれてきているだけ」
「おっと、まだ落ちるなよ」
「落ちたくないで」
白い馬をワイの近くに寄せて、シュンスケが身を乗り出すようにして小さな手を伸ばす。
「捕まって」
「うん」
白いこれはペガコーンって言うらしい。しかもこの子も精霊だそうだ。でっかくて別格だ。
『ベゼット乗れたね』
「はい」
白いペガコーンと言えば隣のロードランダ王国の伝説。
「まさかハロルド様?」
『そう、僕ハロルド。いつもベゼットのお話聞いてるよ』
「どゆ事?」
『ふふふ』
ハロルド様がワイの名前を知ってるなんてびっくりや。
しばらくすると、親父が小走りで帰ってきた。
赤色君の話のとおりだ。あれ?親父を治してくれた冒険者が俺を助けに来るって言ってたな。まさかって思ったら、シュンスケの胸元で金色の冒険者のタグが光ってた。
「シュンスケって冒険者だっけ?」
「そうだよ。言ってなかったっけ?今はギルドに住んでいるんだ」
「あの一緒にいるウリサやクリスと住んでるって言ってたな?」
「そう」
「ウリサの冒険者の名前で住んでると思っていたけど」
「そうだよ、ウリサの名前で借りてるんだけど、三人とも冒険者だよ」
「クリスは入試の戦闘試験にいたけど、ウリサとシュンスケはおらんかったな。免除されてるってことは」
Bランク以上。
「まあね、そういうランクだ」
「すげ。確かに金色やな。ってことはシュンスケもウリサと同じAなんや。
クリスはハーフエルフらしいけど、ウリサとお前って本当に人間族か?」
ウリサだってワイらよりは歳上だが三人とも全色の精霊が使えるって言ってたな。
「ま、まあ、ウリサは人間族だよ。俺はちょっとワケアリでね」
種族をごまかすワケアリって何だろう。
その日は遅刻だけど、なんとペガコーンに乗って登園することになったんや。
「空を飛んだのなんて初めてや」
『どう?』
ハロルド様が感想を聞いてきた。
「最高です!」
『よかったね』
それから、いろいろ気になってるんやけど、一番気になるのは火の精霊とかハロルド様はシュンスケのことを王子と呼ぶ事だ。
たしかに、伝説のハロルド様に気軽に乗ってるだけでも普通じゃないよな。
国王陛下でもある学園長先生のテラスに降り立った俺達。
人間族に似た俺たち一家とは違って、巨人のようなラージドワーフの学園長がニコニコしながらハロルド様に話しかけている。
ハロルド様と会話できるなんて誰だって嬉しいよな。ワイも嬉しかった。
その上、帰りも飛んで送ってもらえるらしい。テンション上がるじゃねえか。
遅刻して来たのに、帰りを楽しみに一日中そわそわしていた。
朝、あんな事があったって言うのに。
昼休み、光の精霊も扱えるシュンスケは、そのスキルで煙突の様子を調べてくれたみたい。
何でも鳥系の魔獣か飛竜の巣があって卵が産み付けられているようだ。
俺は引き続き炉に火を入れないように赤色君に親父に連絡してもらった。
“がぜっとが、りょうかいってゆってた”
“さんきゅ”
「ベゼット」
「なに?」
「親父さん達って赤色君を晩酌に付き合わせている?」
「いや?」
「一度頼んでやって。赤色君はお酒と酒の肴が好きなんだぜ」
「そうなのか?」
“おう!あまいものもちょっとはくうけど、おれはほろにがいものがすき!”
「ね。おやつにするならしょっぱいものの時にね」
「それなら、ワイはよく芋を炉の隅でふかしてバター付けて食うんだ。バターを切らしている時は塩の時がある」
“それもうまいよな”
「なんだ、こんど一緒に食おうぜ」
“おう!”
一人っ子じゃないけど、上の兄姉と歳が離れた末っ子のワイには赤色君の存在は兄弟みたいなものや。
その日の帰り、またシュンスケと学園長室に行った。
エルフのナルキス先生がいつの間にかテラスに現れていたハロルド様に、シュンスケが出した馬具を付けている。
来たときは何もつけてなかったよな。
そう言えば、朝、ワイもハロルド様の鬣に触っちゃったけど、ふわふわだったんだよ。やっぱり馬じゃねえんだな。
学園長室の応接セットに座って、学園長の侍女とかいう人が紅茶を出してくれたのに緊張しながら飲んでふと壁を見ると、先日シュンスケが作った木版画が額に入れて飾ってあった。
左下にサインがあってあれ?
「サインがシュ…?」バイツ?
“シュンスケはシュバイツって名前だったんやな”
なるほど、この国のやつならみんな知ってる。隣の国の王子様ってわけだ。
“おうじからいうまで、しらんふりしてやって”
“道理で赤色君もハロルド様も王子って言うもんな”
“おれたちに、はおうさまがいたけどいないから”
“シュンスケのお父さんはあの王様だろ?”
入学式で挨拶してた。そっか息子が入学したからいたんやな。
“うーん、いまはおれたちのおうさまじゃないんだ。
でもさ、おうさまのこどもは、おうじなんだ”
“そうだな。シュバイツは王子様だな。
“そうだ”
シュバイツという王子様の存在、それはこの国のやつは知ってるぜ。何しろ隣の国だからな。お披露目の時は、国境沿いもちょっとした祭りだった。
街道沿いの小さな店で売ってた絵姿しか顔は知らないけどな。
そんなワイと赤色君の内緒話のあと、再びハロルド様に乗せてもらう。
シュンスケは、腕を伸ばすと、何もないところから猛禽類みたいな大きさの飛竜を出して乗せる。
「そ、それはシュンスケの獣魔なのか?」
「うん、一応ティムしていることになるのかな?ひゅう?」
「そうね、王子の魔獣になれて嬉しいわ」
見上げるシュンスケの頭を嘴でかき混ぜている。
「ふふふ、もーくすぐったいって!」
なんやこの尊い雰囲気は。
しかもこのひゅうって雌の飛竜は毎日読書をするのが習慣なんだってさ。
は?飛竜ってそんな存在だっけ。でも、シュンスケとの会話を聞いているとすごく賢いのは分かるんや。
そして今度は、タンデム用の真っ白な鞍と少し緑色っぽい白い手綱を付けたハロルド様に乗せてもらって家に帰る。
煙突の近くに来た。
確かに鳥の巣のような形の針金の塊が煙突の上を塞いでいた。下からは見えへんかったんやけど。
煙突の縁より小さめやな。もうちょっと小さかったら煙突の中に落っこちてまう。絶妙な大きさや。
「ベゼット、手綱変わって」
「う?うん」
正直、シュンスケのガキらしいほっそい腰や肩に捕まってても心細かったしな。
って手綱を受け取った途端、シュンスケが飛び出す。
「うわちょっと!あっぶねーって
あれ?シュンスケ飛んでる?」
みると、ワイと同じオーバーオールを着たシュンスケの背中に、トンボというかカゲロウのような翅が出てて、それがパタパタしている。
「シュンスケにも翅があるんやな」
『うん、綺麗だよね』
ワイのつぶやきにハロルド様が相手をしてくれる。
「ああ、光ってる。服に穴が開いてないのに?」
『ふふふ、ベゼット、僕の羽にも触れてないでしょ』
たしかに、今ハロルド様にまたがっているワイの太ももから真っ白な天使のような羽が出ていて、それに触る事が出来ないんだ。鬣や首や胴は触れるんだけどな。不思議だ。
ヴァルカーン王国にはドワーフが多いけど、クラフト好きな色々な種族のやつが来る。けど、羽が生えていてしかも飛べる奴なんて見たことも聞いたこともない。だからこそ、ドワーフは空を飛ぶ乗り物に夢があって、設計製図学教授もそうやけど、親父も同じ学園生だったからその夢を学友と語ったことがあると言っていた。
なのにワイたちの夢の空中にハロルド様やシュンスケはいるんや。
空を飛ぶって確かにすごい。高い所はかなり怖いけどな。
区画整理をと言われて実現しない曲がりくねった学園から家までを一直線に風に乗って五分もかからなかったんじゃねえか?
ふわふわと夢見心地でいるうちに、シュンスケは煙突の上の原因を持って、消えてしまった。
「なんかすごいしか言えん」
“ははは、べぜっと、それがふつうだ!あんしんしろ”
「ふう、赤色君、飯にしようぜ一緒に食おう」
“やった!”
ちっこい精霊達が俺たちと同じものを食うなんて知らなかったで。
課題の続きをやろうと思ってたのに、火の精霊ともう一人の可愛い声に誘われた。
この子は風の精霊でシュンスケは黄色ちゃんと言っている。
“べぜっと、ぜったいいくべき”
「教会に?」
ちっちゃい手でワイの袖をひっぱるのが可愛い。
“おれは、がぜっともさそってる。それに、つちのせいれいがおまえのかあちゃんもさそうっていってった”
「教会で何があるんや?」
“うた!”
「神様の歌?」
“ひのかみさまのうたもあるはず。きくべき”
入学してから、友達になったシュンスケが赤色君と呼ぶ火の精霊が、こんなに積極的にワイを誘うのは初めてじゃねえか?
いつもは、ワイのお願いを聞いてくれたり、たまに聞いてくれないこともあるけど、それは危険な時だ。
家族の生活を助けてくれたり、親父の鍜治場に出入りして、火を使う時だけ動いている感じだった。
だが、シュンスケと居る精霊の奴らは同じなのに違う。
いつも一緒にいて、姿は見えないけれど他の色の光も飛び交っているんや。
そしてシュンスケの方がすごく精霊を尊敬していて、それ以上に精霊たちがシュンスケを尊敬しているのが分かる。お互いの信頼感が凄いんや。
そのせいかもしらへんけど、ワイも今まで以上に火の精霊とやり取りできるようになった。たった三週間ほどの事なのにやで。
そんなある日、煙突の上の調子が悪いって言ってたおやじの話を聞いて
「んじゃ、学園に行く前に煙突を覗いてくるわ」
「行かんでもええ」
「あの梯子を登れば良いんやろ?親父や他の鍛冶師よりワイの方がいくらかは身軽だからな」
「そういう問題やない、おい!」
将来ワイもここで働くなら、工房の煙突の様子ぐらい見れるようになっとかなあかんやろう。
そう思って、学園の制服のまま、錆びた鉄のはしごを登っていって、真ん中を過ぎたあたりで、
ガコーン ドスーン
「うわあっ、って」
梯子に捕まってた手足に衝撃があったが、それ以上に地面に何か大きなものが落ちた音がする。
「は?」
下を見ると親父が相撲に負けたカエルのように倒れていた。
「おい親父!」
そして、俺が登っていた梯子の下の方が折れてぶら下がっていた。
「ってて。こりゃ……いかん!うっ」
どうやら親父は怪我をしたみたいだが、すぐに起き上がると、足を引きずりながら出て行ってしまった。
「え?どうしたらいいんや?」
ワイが降りられなくなってしまった。ここから地面までは結構ある。無理に飛び降りたら親父以上に怪我をしてしまいそうだ。まだ他の鍛冶師は起きてきていない。昨日から炉が使えないから今日は午前休みにしたからな。
“がぜっとは、ばしゃにのった”
赤色君が教えてくれた。
「馬車?ワイを置いて?」
“ぼうけんしゃぎるどにいくばしゃ”
「へ?怪我したっぽいから施療院じゃねえの?」
しばらく途方に暮れていると、二人の鍛冶師が出て来た。
赤色君のお知らせを聞いたんやろ。ここの連中はみんな火の精霊魔法が使えるんや。
普段どうでも良い伝言はしてくれないけど、こういう非常事態は動いてくれるんや。
「ベゼット、大丈夫か?今ベッドのマットレスとか持ってくるぜ」
「おう、そうだな、万が一落ちてしまってもちょっとはマシだろう」
「にいさんたち頼んます!」
そしてしばらく煙突にしがみついて風に吹かれてた。
マットレスを取りに行った二人はまだ戻ってきてない。
ベッドから取り外すのに手間取っているのやろか。
「親父の足はどうやったんやろ」
“みぎひざのすねがおれてた”
赤色君が教えてくれる。
「まじか」
“でも、もうなおってるぜ”
「は?骨折を治せるような冒険者がギルドにいたのか」
“いたんだよな、これが”
なんやそんな言い方したことあったっけ。
「よかった。その人にお礼を言わなあかんな」
“もうすぐとんでくるからまってな”
「そのひとが?」
“ああ、べぜっとのともだちだぜ”
「おれの?まさか」
チカッ
親父を案じて向いていた冒険者ギルドの方角から白い星の様な光が瞬いた。
星の光だと思ってたのは、真っ白な羽の鳥?いや馬?羽の生えた馬はペガサスだっけ。
それはまっすぐワイに向かって羽ばたいてくる。頭に角も見えてきたところで、
「おーいベゼットー」
馬の首の後ろに俺と同じ服を着た友達が見えた。
「シュンスケ?」
「おう、怪我はないか?」
「大丈夫、少し手がしびれてきているだけ」
「おっと、まだ落ちるなよ」
「落ちたくないで」
白い馬をワイの近くに寄せて、シュンスケが身を乗り出すようにして小さな手を伸ばす。
「捕まって」
「うん」
白いこれはペガコーンって言うらしい。しかもこの子も精霊だそうだ。でっかくて別格だ。
『ベゼット乗れたね』
「はい」
白いペガコーンと言えば隣のロードランダ王国の伝説。
「まさかハロルド様?」
『そう、僕ハロルド。いつもベゼットのお話聞いてるよ』
「どゆ事?」
『ふふふ』
ハロルド様がワイの名前を知ってるなんてびっくりや。
しばらくすると、親父が小走りで帰ってきた。
赤色君の話のとおりだ。あれ?親父を治してくれた冒険者が俺を助けに来るって言ってたな。まさかって思ったら、シュンスケの胸元で金色の冒険者のタグが光ってた。
「シュンスケって冒険者だっけ?」
「そうだよ。言ってなかったっけ?今はギルドに住んでいるんだ」
「あの一緒にいるウリサやクリスと住んでるって言ってたな?」
「そう」
「ウリサの冒険者の名前で住んでると思っていたけど」
「そうだよ、ウリサの名前で借りてるんだけど、三人とも冒険者だよ」
「クリスは入試の戦闘試験にいたけど、ウリサとシュンスケはおらんかったな。免除されてるってことは」
Bランク以上。
「まあね、そういうランクだ」
「すげ。確かに金色やな。ってことはシュンスケもウリサと同じAなんや。
クリスはハーフエルフらしいけど、ウリサとお前って本当に人間族か?」
ウリサだってワイらよりは歳上だが三人とも全色の精霊が使えるって言ってたな。
「ま、まあ、ウリサは人間族だよ。俺はちょっとワケアリでね」
種族をごまかすワケアリって何だろう。
その日は遅刻だけど、なんとペガコーンに乗って登園することになったんや。
「空を飛んだのなんて初めてや」
『どう?』
ハロルド様が感想を聞いてきた。
「最高です!」
『よかったね』
それから、いろいろ気になってるんやけど、一番気になるのは火の精霊とかハロルド様はシュンスケのことを王子と呼ぶ事だ。
たしかに、伝説のハロルド様に気軽に乗ってるだけでも普通じゃないよな。
国王陛下でもある学園長先生のテラスに降り立った俺達。
人間族に似た俺たち一家とは違って、巨人のようなラージドワーフの学園長がニコニコしながらハロルド様に話しかけている。
ハロルド様と会話できるなんて誰だって嬉しいよな。ワイも嬉しかった。
その上、帰りも飛んで送ってもらえるらしい。テンション上がるじゃねえか。
遅刻して来たのに、帰りを楽しみに一日中そわそわしていた。
朝、あんな事があったって言うのに。
昼休み、光の精霊も扱えるシュンスケは、そのスキルで煙突の様子を調べてくれたみたい。
何でも鳥系の魔獣か飛竜の巣があって卵が産み付けられているようだ。
俺は引き続き炉に火を入れないように赤色君に親父に連絡してもらった。
“がぜっとが、りょうかいってゆってた”
“さんきゅ”
「ベゼット」
「なに?」
「親父さん達って赤色君を晩酌に付き合わせている?」
「いや?」
「一度頼んでやって。赤色君はお酒と酒の肴が好きなんだぜ」
「そうなのか?」
“おう!あまいものもちょっとはくうけど、おれはほろにがいものがすき!”
「ね。おやつにするならしょっぱいものの時にね」
「それなら、ワイはよく芋を炉の隅でふかしてバター付けて食うんだ。バターを切らしている時は塩の時がある」
“それもうまいよな”
「なんだ、こんど一緒に食おうぜ」
“おう!”
一人っ子じゃないけど、上の兄姉と歳が離れた末っ子のワイには赤色君の存在は兄弟みたいなものや。
その日の帰り、またシュンスケと学園長室に行った。
エルフのナルキス先生がいつの間にかテラスに現れていたハロルド様に、シュンスケが出した馬具を付けている。
来たときは何もつけてなかったよな。
そう言えば、朝、ワイもハロルド様の鬣に触っちゃったけど、ふわふわだったんだよ。やっぱり馬じゃねえんだな。
学園長室の応接セットに座って、学園長の侍女とかいう人が紅茶を出してくれたのに緊張しながら飲んでふと壁を見ると、先日シュンスケが作った木版画が額に入れて飾ってあった。
左下にサインがあってあれ?
「サインがシュ…?」バイツ?
“シュンスケはシュバイツって名前だったんやな”
なるほど、この国のやつならみんな知ってる。隣の国の王子様ってわけだ。
“おうじからいうまで、しらんふりしてやって”
“道理で赤色君もハロルド様も王子って言うもんな”
“おれたちに、はおうさまがいたけどいないから”
“シュンスケのお父さんはあの王様だろ?”
入学式で挨拶してた。そっか息子が入学したからいたんやな。
“うーん、いまはおれたちのおうさまじゃないんだ。
でもさ、おうさまのこどもは、おうじなんだ”
“そうだな。シュバイツは王子様だな。
“そうだ”
シュバイツという王子様の存在、それはこの国のやつは知ってるぜ。何しろ隣の国だからな。お披露目の時は、国境沿いもちょっとした祭りだった。
街道沿いの小さな店で売ってた絵姿しか顔は知らないけどな。
そんなワイと赤色君の内緒話のあと、再びハロルド様に乗せてもらう。
シュンスケは、腕を伸ばすと、何もないところから猛禽類みたいな大きさの飛竜を出して乗せる。
「そ、それはシュンスケの獣魔なのか?」
「うん、一応ティムしていることになるのかな?ひゅう?」
「そうね、王子の魔獣になれて嬉しいわ」
見上げるシュンスケの頭を嘴でかき混ぜている。
「ふふふ、もーくすぐったいって!」
なんやこの尊い雰囲気は。
しかもこのひゅうって雌の飛竜は毎日読書をするのが習慣なんだってさ。
は?飛竜ってそんな存在だっけ。でも、シュンスケとの会話を聞いているとすごく賢いのは分かるんや。
そして今度は、タンデム用の真っ白な鞍と少し緑色っぽい白い手綱を付けたハロルド様に乗せてもらって家に帰る。
煙突の近くに来た。
確かに鳥の巣のような形の針金の塊が煙突の上を塞いでいた。下からは見えへんかったんやけど。
煙突の縁より小さめやな。もうちょっと小さかったら煙突の中に落っこちてまう。絶妙な大きさや。
「ベゼット、手綱変わって」
「う?うん」
正直、シュンスケのガキらしいほっそい腰や肩に捕まってても心細かったしな。
って手綱を受け取った途端、シュンスケが飛び出す。
「うわちょっと!あっぶねーって
あれ?シュンスケ飛んでる?」
みると、ワイと同じオーバーオールを着たシュンスケの背中に、トンボというかカゲロウのような翅が出てて、それがパタパタしている。
「シュンスケにも翅があるんやな」
『うん、綺麗だよね』
ワイのつぶやきにハロルド様が相手をしてくれる。
「ああ、光ってる。服に穴が開いてないのに?」
『ふふふ、ベゼット、僕の羽にも触れてないでしょ』
たしかに、今ハロルド様にまたがっているワイの太ももから真っ白な天使のような羽が出ていて、それに触る事が出来ないんだ。鬣や首や胴は触れるんだけどな。不思議だ。
ヴァルカーン王国にはドワーフが多いけど、クラフト好きな色々な種族のやつが来る。けど、羽が生えていてしかも飛べる奴なんて見たことも聞いたこともない。だからこそ、ドワーフは空を飛ぶ乗り物に夢があって、設計製図学教授もそうやけど、親父も同じ学園生だったからその夢を学友と語ったことがあると言っていた。
なのにワイたちの夢の空中にハロルド様やシュンスケはいるんや。
空を飛ぶって確かにすごい。高い所はかなり怖いけどな。
区画整理をと言われて実現しない曲がりくねった学園から家までを一直線に風に乗って五分もかからなかったんじゃねえか?
ふわふわと夢見心地でいるうちに、シュンスケは煙突の上の原因を持って、消えてしまった。
「なんかすごいしか言えん」
“ははは、べぜっと、それがふつうだ!あんしんしろ”
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“やった!”
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