異世界転移したら尖った耳が生えたので、ちびっこライフを頑張ります。

前野羊子

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第五章 ~王子のクラフツ留学~

〈259〉クラス合宿はトンネルの中へ1

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 ヴァルカーンの北側にある活火山はその名も〈ボルシチ山〉だ。美味そうな名前ではあるが、俺のイメージにもあっている。ボルシチといえば、ロシアのシチューのビーツと言われる中まで赤い蕪を煮込んで作られたあれだよな。
 そして、目の前に迫ってきたボルシチ山もちょうどそんな色をしていた。姿は赤富士って感じ。山頂の高さはユグドラシルより高い。こっちは山だからね。
 山全体の赤い色は本当は酸化鉄つまり赤錆ってことだね。この火山の更に北の方へ行くとクロムが混じった鉄鉱石が採掘されるらしい。だから、ステンレスが普及しているんだ。素晴らしい。

 鉄の採掘場から少し離れた広間に、十数台の馬車が止まる。
 初夏だというのにかなり寒い。まあ、連れ(同じ班)の服には全部空調魔法を付与いたしました。外の気温はこんな感じだけど、坑道の中は年中安定して摂氏十五度だそうだ。ということは火口のマグマからは離れているんだね。

 同じ班の五人には厚揚げを貰いに行った時に城の近所で買い込んだスライムクッションを貸した。低反発って感じの座布団だ。軟弱な俺の尻のためとはいえ自分だけがこれを使いにくかったからな。
 ここに来るまでに馬車で丸一日かかっていた。
 「良いなこれ」
 「でしょ!」
 ウリサもお気に入りだ。
 「シュンスケ、これ買い取らせて!」
 ラヴィも手放したくないそうだ。

 「おーい。あつまれぇ」
 ドワーフのナバーブ先生が皆を集める。先日のドカ弁当箱作成のときの先生だ。

 「今から班ごとにこの坑道の地図を配る。そこに班の記号が書いてあるからな。今夜寝泊まりするところはそこだ。そして、その宿舎を先ず目指して、そこには一人ずつ担当鉱夫が居てくれているから、そいつらの支持を聞いて動くように。それと、プリント以外では金属鑑定用の魔道具を渡す。唯の石ころを持って帰るなよ」

 「はーい!」
 今回俺たち〈S-1班〉の班長はベゼットだ。
 なになに。俺たちのエリアは……
 「最悪だな」
 「やあね、最奥よ」

 地図はまるで斜めに進んだアリの巣のような形だ。
 「こんな平面的なものじゃないよね」
 「ああそれは、ここを見れば方角が書いてあるわ」
 「方角なんて、鉄鉱石の坑道なんて磁石が使えないってのに!どうするの!」
 「落ち着けラヴィ。こういう時こそ精霊ちゃんを使うんだよ!」

 「土の精霊ちゃん!私たちを導いてね」
 “おまかせよ!”
 「それに、俺たちは深いから宿泊施設までトロッコを使って良いらしいし」

 他の科のクリスやウリサがいるけど六人全員Sクラスの俺たちは、一番奥の担当だ。

 「トロッコってこんなにでっかかったっけ」
 トロッコは四人乗りだけど、それはラージドワーフ四人分ってことらしい。俺には十人乗り以上に見える。これはどちらかというと観光用のトロッコ列車のサイズでは?シートがなくってただの箱だけどさ。そこは想像通り。
 だから全員乗れる。俺とクリス、パステルとラビィでそれぞれラージドワーフより小さいもんな。
 ただ、凄く遅い。早歩きぐらい。歩く替わりに乗るんだからいいけどね。

 「はいはい!俺に運転させて!」
 ガキ丸出しで立候補。
 「大丈夫か?」
 「こんなのカンタンカンタン!」
 だって自動運転じゃん。
 「オートだから余計な所触るなよー」
 「はーい」

 トロッコのレールは下りながらいくつかの分岐に分かれている。
 分岐の手前五十メートルのところで線路に印が見えるから、その時に右か左を指定して遠隔でポイントを切り替えるのだ。だけど今回は行き先が指定なので、それが魔法で組み込まれているから、つまり運転しなくてもたどり着く。
 そして単線なので帰り道は1本って感じだ。だけど分岐の十メートル前で強制的に止まることがあるそうだ。それは別の所から帰って来る車輛とぶつからないように調整するためなんだって。そこらへんも魔法による制御でもある。それに帰りは無人でも戻っていく。掘り出した鉱物を運ぶためだ。

 真っ暗な坑道には最低限の明かりがつけられている。屋内の電灯なら豆球程度。目が慣れてきたらそれで移動だけなら充分。
 そして光源の魔道具は電線じゃないのに線でつなげられている。
 「あれは、魔素を届けるための線だ。一個ずつ魔石の交換は大変だから出口から魔道具で自然の魔素を集めて光魔法に変換して各魔灯に届けているのさ」
 つまり電線ならぬ魔線だ。

 トロッコに同乗して説明してくれるのは、ハーフドワーフのボーデンさん。ドワーフというよりボディビルダーのような筋骨隆々の兄ちゃんだ。ニッカポッカのようなボトムとブーツなのに、上半身はランニングシャツだけ。ドワーフ交じりなのに手足が長め。
 本職は国営製鉄所の職員で、地質学者でもあるそうだ。トルネキ王国の地質学者教授とは全然違うぜ。とにかく、頭が良くて身体も良い。
 今回俺たちの班を指導してくれるのはこの人だ。他の班も元はここで鉱夫をやってて、今は違う仕事になってる人だ。なにしろドワーフは寿命が長いから、数十年その仕事に就いた後に転職してもまだまだ若いのだ。

 “にきろさきにビッグバットが、みっつぶらさがってる”
 紫色ちゃんからのお知らせにウリアゴが構える。
 「お、なんだなんだ急にどうした?」
 「もうすぐビッグバットにぶつかります」
 「おい皆しゃがめぇ、クリスなんでわかった?」
 「僕たちは闇の精霊も使えますからね」
 「さすがだな」
 「討伐するべき?」
 「ギルドで売れるぜ。闇の魔石と肉は案外高額だ、ランクも低くない」
 「了解。俺が行ってきます!」
 「あ、こらシュンスケ!」
 「大丈夫ウリサ!」

 翅だけ出して先に行く。

 見えてきた、天井からぶら下がってるのに、頭は地面すれすれ。
 あんな大きな蝙蝠がここを飛ぶのは無理じゃない?そもそも翅を広げられないのでは?

 「白色君」
 “まかせろー”
 ビカー

 最小限の明かりの所に太陽の光。

 ドサドサドサ

 もともとぶら下がってただけなのにさ、びっくりして三つとも落ちてきた。それのとどめをサクッと刺してサブボックスに収納。
 きっと眠っているうちに眩しい本当の天国に行けたんじゃないかな。ごめんね。

 「終わったって言っといて」
 “はーい”
 
 しばらくするとゴーという音がして弱々しいトロッコの明かりが近づいてきた。
 「もう終わったのか?」
 「本当にぶら下がってたのか?跡形もなくて分からん」
 「はい、あとで見せますね」
 「いらん」

 そのまま、車輛に乗る。
 「シュンスケが光ってる」
 「翅だけでしょ」
 「うん、綺麗。わ、真っ暗になった」
 翅を引っ込めたからね。
 「すぐにまたなれるよ」
 「残念、もう少し見たかったのに」
 「ふふふ、またね」

 「さすがAランクは違うな」
 「ボーデンさん、ビッグバットの討伐依頼は何ランクですか?」
 「パーティーでC、単独でBだな」
 「そんなに上ですか?僕じゃ単独じゃ無理だった?」
 「そんなことはないぜクリス。
 あいつらは跳んでくるわけじゃなくて、麻痺毒のガスを出すのさ。だからそんなものをまき散らされたらしばらくその穴は換気しながら人が入れなくしなくちゃいけねえから、採掘が止まる。見たらガスを出さないうちに討伐してほしいのさ。
 そんな感じで坑道の魔物は工夫が必要なんだ」
 「じゃあそれ用の資料を読んでおけばよかったのですね」
 「そうだ」
 「他には何が出ますか?」
 「ふつうに、暗がりが好きな動物や虫、それらに近い魔物だな」
 俺が嫌いなやつばっかりだろう。見たら瞬殺だ。

 穴の中だと時間の感覚が分からない。けどようやく少し明るい所に出た。
 トロッコは開けたホールで止まる。今回はここが終点だ。

 ホールの中には三つの丸太小屋ロッジと言われる建物が建っていた。
 「こっちが男子の使う建物、反対側の小さい方は悪いけど女子用。そっちはトイレとシャワーもある、そんで真中は俺が寝泊まりする部屋と食堂、こっちのシャワーを男子用にする」
 「「はい」」
 「わあ」
 「なるほど」

 「まずはそれぞれ荷物を置いて昼飯のために真ん中に集合だ。飯を食ったら採掘に出る。装備を確認して、飯の後はトイレにも行っとけよ」
 「「「はーい」」」

 簡易的な木造の建物は、坑道が掘り進んだら移動できるように、地面に固定されていないらしい。

 男子が使うロッジは十人部屋二つの二階建てだ。とは言え一部屋は、城の俺の自室よりは狭い。

 着替えを入れているリュックサックを置いたら、真ん中の食堂に行く。

 


 食堂にはあの人にそっくりのおばちゃんがいた。
 「まさか、ガオケレナさ・・・?」
 「違うよウリサ。ドワーフだよ。でも似てるねぇ」
 ドワーフの割にはかなり色白だ。お若い時は美しかったのかもしれない。今でも可愛いおばちゃんだけどさ。…色白のドワーフ女性ってぽっちゃりエルフっぽい。まあグレイヘアで黒目だけどね。

 「おやおや、あんたらはペルジャー地域から来たのか?」
 「いえ、最近滞在していただけです」
 「あたしゃ二千年以上ここで抗夫達の世話をやっとるよ。他のロッジは抗夫をリタイヤしたドワーフの男ばっかりじゃがな」
 二千年も他人の世話!尊敬します!
 今まであったドワーフで最長老ではないだろうか。
 
 ドワーフたちの肝っ玉母さん、お名前をエレナさん。名前もなんだか似てない?色白なのは太陽に当たってないからか?ぽちゃぽちゃしたえくぼの可愛いおばちゃんはやっぱりあの方を連想する。

 「それと、あたしゃ抗夫達の寮母以外のジョブがあるからね。王子、夜に話したいことがあって」コソッ

 「わかりました」王子と言われたよ。どういう事?鑑定でも普通のドワーフしか出てこない。まあジョブは見れたけど。そして神様の加護もお持ちだ。
 
 とはいえ、校外学習の初日のランチはそれぞれが持ってきた弁当だと決まってる。

 「シュンスケと、ベゼットの弁当箱は実習で作ったものかい?」
 エレナさんは暖かいお茶をみんなに配りながら話しかけてくれる。
 「はい!」
 ベゼットが羨ましくなって、俺も普通サイズの丸い弁当箱を作ったんだよね。
 「ワイは最近毎日これで昼飯を食ってます」
 「自分で作ったものを自分で使うのは良いことだよ。物を大切につかうでしょ」
 「はい!最近作ったものですが、もう愛着がわいています」
 「そうかそうか」

 そんな感じでエレナさんは俺たちの頭を撫でながらニコニコしている。

 抗夫の人たちもこの人が癒しなんだろうな。

 
 
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