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第一章 ~始まりの章~
〈42〉仮免冒険者、行きまーす!Vol2
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完全に離れていた腕が繋がり、外傷はきれいに治ったけど貧血状態のクラスメイトの女子、カーリンを抱えて、屋敷のロビーに転移した俺。
出迎えてくれたセバスチャンとミアに指示を出す。
でも、あらかじめ黄色ちゃんの風魔法で、客一人と帰る事を伝えていたので、二人の動きも速い!
カーリンは北西の国境にある辺境伯の三女と言ってたっけ。確かにご実家は遠いな。
遠い帝都の学園の寄宿舎に入るのに十歳では幼すぎるからと、十四歳になってから入学した子だ。
遅く入学したからって何の問題もない。頭がよくて責任感のある人だ。
どこかの人魚姫みたいに、自立しようとしているのかな。
「坊ちゃま、三階へお願いできますか?」
ミアに、用意された部屋を聞いて動く。
「わかった」
「シュンスケ、私、歩けるわ」
「だあめ。まだ、出血が多くてふらふらしているはずだから。少しいい子で寝ててね。」
カーリンを抱えて階段は少し物理的に難しいのは確かなので、三階の客間までは飛んで行く。
「坊ちゃま、カーリン様のお着替えをしますね」
「ハイお願いします」
おれは、食堂に行き、キッチンでカーリン用のサンドイッチを作る。
前にゴダにもらっていた新鮮なマグロの切り身を魔道具のフライヤーでカツにしてたっぷりのタルタルソースと、レタス、トマト、チーズと一緒に挟む。
食パンではないからツナカツバーガーだ。ツナは造血に良いだろうしね。
自分の昼ごはんもアイテムボックスに入ってるけど、作ってたらツナバーガーが食べたくなっちゃった。
そして、クラムチャウダースープと黒豆茶を出して、トレーに並べ三階に行く。
うん、造血ランチセットだな。
ノック三回
「カーリン着替えられた?」
「大丈夫よシュンスケ」
ガチャリ、ミアさんがドアを開けてくれた。
「坊ちゃま、お手洗いの場所は伝えております。では失礼します」
といって、カーリンの血の付いた服などを持って部屋を出ていく。
「はい、ありがとう」
カーリンはベッドに座っている。
「シュンスケ!本当にありがとう」
「お礼はまだ。俺が魔石をちゃんと取ってきてからだよ」
「うん」
「それより、お昼にしよう。寝るのも大事だけど、食べることが何よりの薬になるからね。俺が作ったので申し訳ないけど。はい。
それと狭い部屋でごめんね。俺たちもお借りしているお屋敷なんだ」
そういって、ベッドの傍らに小さなテーブルを引き寄せてトレーから食事を移動する。
「大丈夫よ、寄宿舎のあたしの部屋はもっと狭いわ。
おいしい!このお魚のカツも柔らかくてサクサクでアツアツで。シュンスケが作ったの?すごいじゃない。リフモル先生に自慢できちゃう」
すこし笑顔が出てきたカーリンにほっとする。
「そう、よかった。でもあの魔女先生に、俺のことを言うのはやめてね」
学校のクラスメイトの女の子と自分が住んでる家で二人でお昼ご飯なんて、最高のシチュエーションじゃなかろうか。・・・俺が六歳児じゃなければ。クスン。
“ウリサたちはまだ大丈夫そう?”
“だいじょうぶ、いま、みんなおひるごはんおわって、おちゃたいむだね”
“ごだに、おやつもらった!”
“わかった” ゴダ、やるじゃん。
あいつは純粋なやつだから、そのうちみんなが見えたりして。
こっちも、お茶を飲んで人心地が付いたね。
「じゃあ、俺は戻るね」
「うん、気を付けて」
「さあ、カーリンは横になって」
そう言ってほぼ無理やり横にする。
上掛けを整えて、カーリンの目に手を乗せて、ほんのちょっとの闇魔法を発動する。
これは、毒で毒を制するって感じ?
ショックなことがあると、寝付けないかもしれないから、熟睡できる魔法だ。
≪sheep's dream≫
そして、カーテンで窓の光を遮る。
まだ昼間だからなぁ。カーテンだけじゃどうだろ。
“白色君、部屋の明るさを落とせる?”
“おっけー、ふゆだから、らくー”
さっきランチを広げたテーブルに、黒豆茶の入った水差しと、コップ、ドライフルーツとナッツがいっぱい入ったパウンドケーキを数切れガラスの容器に入れておく。
見えてないと何かわかんないもんね。
カーリンは安らかな寝息を立ててもう眠っていた。
あのしっかり者の彼女も寝顔は美人というより可愛い。
そうっと部屋を出て、一度自室に戻ると、セバスチャンがいた。
帰ってきてから一度脱いでいた冒険用のショートコートは、カーリンの血が付いていたので、予備を出してくれていた。
それをありがたく着る。
「坊ちゃま、また行かれるのですか?」
「うん、魔石を予定の倍取らなきゃいけなくなったしね」
部屋の花瓶に飾られている花達から黄色い薔薇を丁度良い長さに風魔法でカットし、セバスチャンの胸ポケットに差す。もちろんミアにも。
「ここに、風の精霊がいるから、カーリンにもしも何かあったらこの花に話しかけてくれ、俺に声が届くから」
“まかせてー”
「なんと。坊ちゃまからのメッセージは届いておりましたが、それはやはり・・・」
「じゃあ、頼んだよ。夕方には一旦みんなで帰るから」
他言は無用とウインクしながらお願いする。出来る執事の口は堅いのだ。
「わかりました」
「行ってきまーす」
「お気をつけて」
そうして、俺はまず、皇太子のいる詰所の前に瞬間移動んで戻った。
「殿下、ダンテ卿、いらっしゃいますか?」
「「シュンスケ」殿」
「ご苦労だったな」
「え?もう戻ってきたのか?屋敷は海岸だろう」
「はい、ちゃんともうお昼も取ってきましたよ。カーリンさんも食事をして、今は休んでもらってます」
「ありがとう」
「あれ以来、今のところ強い魔物が出たという報告は来てないが、気をつけろよ」
「はい!行ってきます」
そうして、森に入り殿下達からの死角に入るや否や、ウリアゴ達のもとに戻った。
「ただいま兄さん」
「お、相変わらず早いな」
「まあね」
冒険者パーティ〈フィストアタッカー〉のリーダーでカーリンの侍従が、俺に話しかける。
「シュンスケ様、カーリン様は」
「大丈夫、俺達がお借りしているマルガン辺境伯の屋敷に連れて行って、今は眠ってます。ダンテ卿にも報告しましたので」
「ありがとうございます」
「よし、気合を入れていくぞ」
二パーティーは元の担当エリアを交換して進むことになった。
こっちの方が人数が多くなったので、少し広かったフィストアタッカーの方のエリアをウリアゴが担当することになった。
その方がダンジョンの入り口に寄っていて、出てくる魔物が、強いか大きいか多いのだ。
タタタタタ、
相変わらず森の木の中ほどから梢に近い高い場所を、飛んだり、跳んだりしながら、皆の少し先をいく。
“おうじ、まえから、ぐれーうるふ、ぐれーっていうより ちょっとしろっぽいかも”
“さっきの、おーくのばいいじょうはたくさん いるぜ”
精霊ちゃん達からの声をそのままウリアゴみんなへチャンネルを開いて伝える。
「グレイウルフの群れ、保護色になってて注意です。打ち漏らしたやつを頼みます」
おお、来た!多いなー。でも結構縦列になってくれている。
オオーン、ガウガウガウ
横に広がってなくて良かったぜ。
そして俺はミノタウロスの時のように、火と風を混ぜたビームを両手の指先からライフルのように一発を短くして連射する。
ピシュ プシュッ
ウォッ オッ
ピシュ プシュッ プシュッ
ウォッ オッ ウッ
うーん、指から出る魔法はすごく静か。詠唱してないしね。一発ずつ詠唱してたら連射は無理だもん。
グレイウルフも出来るだけ苦しまないように、瞬殺しております。
“おうじ!でっかい さるが!おうじの まえにいるよ”
うぉ、下ばっかり見てたからやばかった!
“はりがねひひ だ!”
「ありがとう!助かる」
グレイウルフの最後尾を打ち終わった俺は、正面に照準を変更して、すぐに打ち込む。
打ち込んでから、前を見ると 全身ハリネズミのようにとげとげした毛でおおわれている。効いて無いよね。
ギルドの魔物図鑑の説明文を思い出す!あの針は飛んでくるんだ。
俺は土と水の魔法を使い、柔らかい泥団子を猿と自分の間の空中に量産した。〈泥団子シールド〉なんちゃって。
あいつは、頭も良いそうだから、これであきらめないか?と思ったら、そのまま毛をこっちに飛ばしてきた!
ほとんどの針金状の毛が空中の泥団子に飲まれていく。
「うぉーっ」
俺は魔法で作った青い炎を纏い、泥団子の隙間から飛んできた猿の毛・もとい針金を焼き切りながら ハリガネヒヒに突っ込んでいく。
今回初めて、ショートソードを抜いた。
猿って、顔には産毛ぐらいしか毛が無いんだよね。
悪いんだけど、成仏して!
俺は直接眉間を刺す。うん、結局刺す。
「ハリガネヒヒは、こいつだけ?」
“もういっぴき、あっち!”
少し左下にふった先の木の枝にいた。
やばい、あれじゃあウリアゴが奴の視界に入ってしまう。
俺は、ショートソードを握りなおして、ヒヒの頭上から落ちていく。
今度は泥団子が間に合わなくて、青い炎を纏うのみだ。
「こっちだよ!」
俺の声に反応して上を向く
ガオーッ
吠える猿に一撃!
やっぱさ、魔物って雰囲気?ていうの、滅茶苦茶怖いから、もう夢中だよ。
猿のくせにトラみたいな牙があったしね。
それからしばらく、グレイウルフとハリガネヒヒのループを繰り返していた。
ハアハア
「どう?まだきそう?」
“もう このえりあには いないよ”
「兄ちゃんたちは?」
“だいじょうぶ。げんき”
「フィストアタッカーの方は」
“おわってる。ひとりころんでた”
雪積もってるもんね。滑ったりするよ。
気が付けば、空がとっぷり暮れていた。
スマホで見ると十七時半ぐらい。
夏ならまだ明るいけど、森はもう暗いな。
念のために赤外線ゴーグルをつけて、来た道を戻る。
「しゅんすけー」
「おーい」
ばふっ
「もう、一人でズンズンいっちゃって!上から猿は落ちてくるし」
「ははは、猿の落下には おいらもびっくりしたよ」
「すみません」
「仮免のくせに、俺らの何倍頑張るんだよ」
ウリサ兄さんも俺の頭をくしゃくしゃする。革手袋でされたら少し痛いです!
「ははは、張り切りすぎちゃいましたね。もう、ちょっと眠いです」
「獲物は俺たちが、狩り用のマジックバックに入れながら来たんだが、ここらの群れはもう入りきらないんだ」
歩きながら本部の方に移動する。
「じゃあ、俺が。あ、寄せてくれてるんですね」
「ああ、そのぐらいするよ」
オオカミと猿で出来た小山を丸ごと収納する。
「うー眠い」
「ほら、お茶」
「ありがと、アリサねえさん」
「水も飲まずに頑張ってたなんて。今日の肉はうまいぜきっと」
腹減ったとつぶやきながらゴダがお腹をさすっている。
「そうですね!」
正直魔物の血を見すぎて、あっさりの方がいいですけど。
本部に戻ってきた。
「お、シュンスケお帰り」
「シュンスケ殿、無事でよかった」
「殿下、ダンテ卿、お疲れ様です」
報告は兄さんがしてくれるのを、待つ。
「なんだって?グレイウルフが百十五匹!」
「それとハリガネヒヒが六匹」
「それを四人で討伐したのか」
「ええ、まあ、八割がたは、この仮免のシュンスケですけどね」
隣のテーブルでウリサの報告を待ちつつお茶タイム。
「ははは、頑張りすぎた」
「もー、必要な魔石は五個って言ってなかった?」
「カーリンと分けても、卒業まで持ちそうだったりして」
「ミノタウロスの魔石一個だけでも相当でかいぞ」
「ははは」
「おーい、帰るぞー」
「「「はーい」」」
「あ、シュンスケ殿、一緒に連れて行ってもらえるかな」
ダンテさんが声をかけてくる。
「カーリンさんが心配ですよね。わかりました」
「顔を見たら戻って来ます」
皇太子殿下の方を見る。
「行ってこい。そのまま今日は直帰しても構わぬ。私ももう、将軍と交代だからな」
夜は将軍が本部長ですね。
「わかりました。では、このまま私は失礼します」
「ダンテ卿は、何で来られてます?」
「自分は学園の前に馬を置いてます」
「わかりましたまずみんなでそちらに行きましょう」
みんなでてくてくと夜の学園の敷地を歩く。
夜の学校の表情って雰囲気あるよね。
あ、魔女じゃなかったリフモル先生の建物の明かりがついてる。
二階に住んでるっていってたな。
学園の門のそばにある厩舎についた。
みんなで厩舎に入ってもらう。
「どうした?シュンスケ殿?馬を見たいのか?」
「ええ、立派な馬ですねー。俺もいつかは乗れるようになりたいです」
「何言ってんの、馬より早い子が、必要じゃないでしょ?」
「うーんペットかな?」
「あはは」
「じゃあこの扉にしようかな」
「そうだな」
「行きますよ」
学校の厩舎から、屋敷の厩舎に木の扉をつなぐ。
「あれ?いま、厩舎から出たと思ったんだが」
「ええ、ここはマルガン邸の厩舎です」
空間魔法を維持するために扉を持ったままの俺の代わりに、ウリサが案内してくれる。
ここの馬もしつけられてて、ダンテさんの見知らぬ馬が入ってきても騒がない。
みんないい子だ。
「よしよし、すこし、まっててね」
お客の馬用のところに馬を繋ぐ、
海岸から海の香りと波の音が聞こえてきている。
「シュンスケ殿、あなたの空間魔法レベルは」
「内緒でお願いしますね」
「まだ、お小さいのに、本当に規格外な方ですね。
わかりました、俺からは誰にも話しません。まあ、そのうちばれていきそうな気はしますけど」
「そうですね。身内以外には、非常時とか、どうしてもというときにしか使うつもりはないんですけどね。出し惜しみしすぎて後で後悔するほうが嫌なのは確かです」
出迎えてくれたセバスチャンとミアに指示を出す。
でも、あらかじめ黄色ちゃんの風魔法で、客一人と帰る事を伝えていたので、二人の動きも速い!
カーリンは北西の国境にある辺境伯の三女と言ってたっけ。確かにご実家は遠いな。
遠い帝都の学園の寄宿舎に入るのに十歳では幼すぎるからと、十四歳になってから入学した子だ。
遅く入学したからって何の問題もない。頭がよくて責任感のある人だ。
どこかの人魚姫みたいに、自立しようとしているのかな。
「坊ちゃま、三階へお願いできますか?」
ミアに、用意された部屋を聞いて動く。
「わかった」
「シュンスケ、私、歩けるわ」
「だあめ。まだ、出血が多くてふらふらしているはずだから。少しいい子で寝ててね。」
カーリンを抱えて階段は少し物理的に難しいのは確かなので、三階の客間までは飛んで行く。
「坊ちゃま、カーリン様のお着替えをしますね」
「ハイお願いします」
おれは、食堂に行き、キッチンでカーリン用のサンドイッチを作る。
前にゴダにもらっていた新鮮なマグロの切り身を魔道具のフライヤーでカツにしてたっぷりのタルタルソースと、レタス、トマト、チーズと一緒に挟む。
食パンではないからツナカツバーガーだ。ツナは造血に良いだろうしね。
自分の昼ごはんもアイテムボックスに入ってるけど、作ってたらツナバーガーが食べたくなっちゃった。
そして、クラムチャウダースープと黒豆茶を出して、トレーに並べ三階に行く。
うん、造血ランチセットだな。
ノック三回
「カーリン着替えられた?」
「大丈夫よシュンスケ」
ガチャリ、ミアさんがドアを開けてくれた。
「坊ちゃま、お手洗いの場所は伝えております。では失礼します」
といって、カーリンの血の付いた服などを持って部屋を出ていく。
「はい、ありがとう」
カーリンはベッドに座っている。
「シュンスケ!本当にありがとう」
「お礼はまだ。俺が魔石をちゃんと取ってきてからだよ」
「うん」
「それより、お昼にしよう。寝るのも大事だけど、食べることが何よりの薬になるからね。俺が作ったので申し訳ないけど。はい。
それと狭い部屋でごめんね。俺たちもお借りしているお屋敷なんだ」
そういって、ベッドの傍らに小さなテーブルを引き寄せてトレーから食事を移動する。
「大丈夫よ、寄宿舎のあたしの部屋はもっと狭いわ。
おいしい!このお魚のカツも柔らかくてサクサクでアツアツで。シュンスケが作ったの?すごいじゃない。リフモル先生に自慢できちゃう」
すこし笑顔が出てきたカーリンにほっとする。
「そう、よかった。でもあの魔女先生に、俺のことを言うのはやめてね」
学校のクラスメイトの女の子と自分が住んでる家で二人でお昼ご飯なんて、最高のシチュエーションじゃなかろうか。・・・俺が六歳児じゃなければ。クスン。
“ウリサたちはまだ大丈夫そう?”
“だいじょうぶ、いま、みんなおひるごはんおわって、おちゃたいむだね”
“ごだに、おやつもらった!”
“わかった” ゴダ、やるじゃん。
あいつは純粋なやつだから、そのうちみんなが見えたりして。
こっちも、お茶を飲んで人心地が付いたね。
「じゃあ、俺は戻るね」
「うん、気を付けて」
「さあ、カーリンは横になって」
そう言ってほぼ無理やり横にする。
上掛けを整えて、カーリンの目に手を乗せて、ほんのちょっとの闇魔法を発動する。
これは、毒で毒を制するって感じ?
ショックなことがあると、寝付けないかもしれないから、熟睡できる魔法だ。
≪sheep's dream≫
そして、カーテンで窓の光を遮る。
まだ昼間だからなぁ。カーテンだけじゃどうだろ。
“白色君、部屋の明るさを落とせる?”
“おっけー、ふゆだから、らくー”
さっきランチを広げたテーブルに、黒豆茶の入った水差しと、コップ、ドライフルーツとナッツがいっぱい入ったパウンドケーキを数切れガラスの容器に入れておく。
見えてないと何かわかんないもんね。
カーリンは安らかな寝息を立ててもう眠っていた。
あのしっかり者の彼女も寝顔は美人というより可愛い。
そうっと部屋を出て、一度自室に戻ると、セバスチャンがいた。
帰ってきてから一度脱いでいた冒険用のショートコートは、カーリンの血が付いていたので、予備を出してくれていた。
それをありがたく着る。
「坊ちゃま、また行かれるのですか?」
「うん、魔石を予定の倍取らなきゃいけなくなったしね」
部屋の花瓶に飾られている花達から黄色い薔薇を丁度良い長さに風魔法でカットし、セバスチャンの胸ポケットに差す。もちろんミアにも。
「ここに、風の精霊がいるから、カーリンにもしも何かあったらこの花に話しかけてくれ、俺に声が届くから」
“まかせてー”
「なんと。坊ちゃまからのメッセージは届いておりましたが、それはやはり・・・」
「じゃあ、頼んだよ。夕方には一旦みんなで帰るから」
他言は無用とウインクしながらお願いする。出来る執事の口は堅いのだ。
「わかりました」
「行ってきまーす」
「お気をつけて」
そうして、俺はまず、皇太子のいる詰所の前に瞬間移動んで戻った。
「殿下、ダンテ卿、いらっしゃいますか?」
「「シュンスケ」殿」
「ご苦労だったな」
「え?もう戻ってきたのか?屋敷は海岸だろう」
「はい、ちゃんともうお昼も取ってきましたよ。カーリンさんも食事をして、今は休んでもらってます」
「ありがとう」
「あれ以来、今のところ強い魔物が出たという報告は来てないが、気をつけろよ」
「はい!行ってきます」
そうして、森に入り殿下達からの死角に入るや否や、ウリアゴ達のもとに戻った。
「ただいま兄さん」
「お、相変わらず早いな」
「まあね」
冒険者パーティ〈フィストアタッカー〉のリーダーでカーリンの侍従が、俺に話しかける。
「シュンスケ様、カーリン様は」
「大丈夫、俺達がお借りしているマルガン辺境伯の屋敷に連れて行って、今は眠ってます。ダンテ卿にも報告しましたので」
「ありがとうございます」
「よし、気合を入れていくぞ」
二パーティーは元の担当エリアを交換して進むことになった。
こっちの方が人数が多くなったので、少し広かったフィストアタッカーの方のエリアをウリアゴが担当することになった。
その方がダンジョンの入り口に寄っていて、出てくる魔物が、強いか大きいか多いのだ。
タタタタタ、
相変わらず森の木の中ほどから梢に近い高い場所を、飛んだり、跳んだりしながら、皆の少し先をいく。
“おうじ、まえから、ぐれーうるふ、ぐれーっていうより ちょっとしろっぽいかも”
“さっきの、おーくのばいいじょうはたくさん いるぜ”
精霊ちゃん達からの声をそのままウリアゴみんなへチャンネルを開いて伝える。
「グレイウルフの群れ、保護色になってて注意です。打ち漏らしたやつを頼みます」
おお、来た!多いなー。でも結構縦列になってくれている。
オオーン、ガウガウガウ
横に広がってなくて良かったぜ。
そして俺はミノタウロスの時のように、火と風を混ぜたビームを両手の指先からライフルのように一発を短くして連射する。
ピシュ プシュッ
ウォッ オッ
ピシュ プシュッ プシュッ
ウォッ オッ ウッ
うーん、指から出る魔法はすごく静か。詠唱してないしね。一発ずつ詠唱してたら連射は無理だもん。
グレイウルフも出来るだけ苦しまないように、瞬殺しております。
“おうじ!でっかい さるが!おうじの まえにいるよ”
うぉ、下ばっかり見てたからやばかった!
“はりがねひひ だ!”
「ありがとう!助かる」
グレイウルフの最後尾を打ち終わった俺は、正面に照準を変更して、すぐに打ち込む。
打ち込んでから、前を見ると 全身ハリネズミのようにとげとげした毛でおおわれている。効いて無いよね。
ギルドの魔物図鑑の説明文を思い出す!あの針は飛んでくるんだ。
俺は土と水の魔法を使い、柔らかい泥団子を猿と自分の間の空中に量産した。〈泥団子シールド〉なんちゃって。
あいつは、頭も良いそうだから、これであきらめないか?と思ったら、そのまま毛をこっちに飛ばしてきた!
ほとんどの針金状の毛が空中の泥団子に飲まれていく。
「うぉーっ」
俺は魔法で作った青い炎を纏い、泥団子の隙間から飛んできた猿の毛・もとい針金を焼き切りながら ハリガネヒヒに突っ込んでいく。
今回初めて、ショートソードを抜いた。
猿って、顔には産毛ぐらいしか毛が無いんだよね。
悪いんだけど、成仏して!
俺は直接眉間を刺す。うん、結局刺す。
「ハリガネヒヒは、こいつだけ?」
“もういっぴき、あっち!”
少し左下にふった先の木の枝にいた。
やばい、あれじゃあウリアゴが奴の視界に入ってしまう。
俺は、ショートソードを握りなおして、ヒヒの頭上から落ちていく。
今度は泥団子が間に合わなくて、青い炎を纏うのみだ。
「こっちだよ!」
俺の声に反応して上を向く
ガオーッ
吠える猿に一撃!
やっぱさ、魔物って雰囲気?ていうの、滅茶苦茶怖いから、もう夢中だよ。
猿のくせにトラみたいな牙があったしね。
それからしばらく、グレイウルフとハリガネヒヒのループを繰り返していた。
ハアハア
「どう?まだきそう?」
“もう このえりあには いないよ”
「兄ちゃんたちは?」
“だいじょうぶ。げんき”
「フィストアタッカーの方は」
“おわってる。ひとりころんでた”
雪積もってるもんね。滑ったりするよ。
気が付けば、空がとっぷり暮れていた。
スマホで見ると十七時半ぐらい。
夏ならまだ明るいけど、森はもう暗いな。
念のために赤外線ゴーグルをつけて、来た道を戻る。
「しゅんすけー」
「おーい」
ばふっ
「もう、一人でズンズンいっちゃって!上から猿は落ちてくるし」
「ははは、猿の落下には おいらもびっくりしたよ」
「すみません」
「仮免のくせに、俺らの何倍頑張るんだよ」
ウリサ兄さんも俺の頭をくしゃくしゃする。革手袋でされたら少し痛いです!
「ははは、張り切りすぎちゃいましたね。もう、ちょっと眠いです」
「獲物は俺たちが、狩り用のマジックバックに入れながら来たんだが、ここらの群れはもう入りきらないんだ」
歩きながら本部の方に移動する。
「じゃあ、俺が。あ、寄せてくれてるんですね」
「ああ、そのぐらいするよ」
オオカミと猿で出来た小山を丸ごと収納する。
「うー眠い」
「ほら、お茶」
「ありがと、アリサねえさん」
「水も飲まずに頑張ってたなんて。今日の肉はうまいぜきっと」
腹減ったとつぶやきながらゴダがお腹をさすっている。
「そうですね!」
正直魔物の血を見すぎて、あっさりの方がいいですけど。
本部に戻ってきた。
「お、シュンスケお帰り」
「シュンスケ殿、無事でよかった」
「殿下、ダンテ卿、お疲れ様です」
報告は兄さんがしてくれるのを、待つ。
「なんだって?グレイウルフが百十五匹!」
「それとハリガネヒヒが六匹」
「それを四人で討伐したのか」
「ええ、まあ、八割がたは、この仮免のシュンスケですけどね」
隣のテーブルでウリサの報告を待ちつつお茶タイム。
「ははは、頑張りすぎた」
「もー、必要な魔石は五個って言ってなかった?」
「カーリンと分けても、卒業まで持ちそうだったりして」
「ミノタウロスの魔石一個だけでも相当でかいぞ」
「ははは」
「おーい、帰るぞー」
「「「はーい」」」
「あ、シュンスケ殿、一緒に連れて行ってもらえるかな」
ダンテさんが声をかけてくる。
「カーリンさんが心配ですよね。わかりました」
「顔を見たら戻って来ます」
皇太子殿下の方を見る。
「行ってこい。そのまま今日は直帰しても構わぬ。私ももう、将軍と交代だからな」
夜は将軍が本部長ですね。
「わかりました。では、このまま私は失礼します」
「ダンテ卿は、何で来られてます?」
「自分は学園の前に馬を置いてます」
「わかりましたまずみんなでそちらに行きましょう」
みんなでてくてくと夜の学園の敷地を歩く。
夜の学校の表情って雰囲気あるよね。
あ、魔女じゃなかったリフモル先生の建物の明かりがついてる。
二階に住んでるっていってたな。
学園の門のそばにある厩舎についた。
みんなで厩舎に入ってもらう。
「どうした?シュンスケ殿?馬を見たいのか?」
「ええ、立派な馬ですねー。俺もいつかは乗れるようになりたいです」
「何言ってんの、馬より早い子が、必要じゃないでしょ?」
「うーんペットかな?」
「あはは」
「じゃあこの扉にしようかな」
「そうだな」
「行きますよ」
学校の厩舎から、屋敷の厩舎に木の扉をつなぐ。
「あれ?いま、厩舎から出たと思ったんだが」
「ええ、ここはマルガン邸の厩舎です」
空間魔法を維持するために扉を持ったままの俺の代わりに、ウリサが案内してくれる。
ここの馬もしつけられてて、ダンテさんの見知らぬ馬が入ってきても騒がない。
みんないい子だ。
「よしよし、すこし、まっててね」
お客の馬用のところに馬を繋ぐ、
海岸から海の香りと波の音が聞こえてきている。
「シュンスケ殿、あなたの空間魔法レベルは」
「内緒でお願いしますね」
「まだ、お小さいのに、本当に規格外な方ですね。
わかりました、俺からは誰にも話しません。まあ、そのうちばれていきそうな気はしますけど」
「そうですね。身内以外には、非常時とか、どうしてもというときにしか使うつもりはないんですけどね。出し惜しみしすぎて後で後悔するほうが嫌なのは確かです」
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