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第一章 ~始まりの章~
19【海の家の開業準備中に、事件です】
〈海の家〉のための仕入れを終えて戻ってきた俺らは、一年ぶりに開業するそこのお手入れを始めた。
「ったく、前のやつは片付けずに帰ったのじゃないか?」
ウリサ兄さんがぼやきながら床のゴミを拾うというよりデッキブラシで寄せる。
俺は店のキッチンの洗い物だ。もちろんキッチンの洗い物を水洗いとか塩洗いとかはごめんだ。除菌マークの洗剤とスポンジたわしを堂々と出して使う。お店が始まっても使う。異世界で食中毒なんて、死ぬかもしれないしね。
この国は水道(川の水だけど)が一応完備されているから、ほかは大丈夫。
「空き家状態のうちに、誰かに入られているのではないですか?」
「なるほど、休業中の管理は時々お屋敷からちらっと見てるだけらしいからな。
まあ、あのでかいお屋敷を、執事の爺さん一人で管理していたんだしな、こっちまで目が行き届かないんだろう」
「キャー ゴダー」
海のほうからアリサの声がする。
見るとゴダが海に流されて行ってる。ゴダに何かが絡まっている。
「やばい。ウリサ兄さん、デッキブラシ借ります」
ウリサ兄さんからデッキブラシを奪うと同時に海岸へ走る。
「おい!シュンスケ!」
「先行ってきまーす!」
もうゴダは五十メートルぐらい沖にいる。
「ちょ、シュンスケ!」
「アリサねえちゃんは待ってて!」
ポーチからボードを出して海へ投げる。
アドレナリンのようなものが俺の体を包んでいることを感じる。
サンダルを脱ぎ捨て、ボードに飛び乗ってデッキブラシをパドル代わりにめちゃめちゃ漕ぐ。
「うぉー。ゴダー」
モーターボートみたいにスピードが出てきた。
はやく、はやく!
ゴダに絡まっているものが見えてきた。海藻と鱗模様のなにか?異世界の海と言えばこういうやつか。まずい、サメの鰭も見える、鰭だけでもデカいのでは。サメかどうかは分からないけど。
ウエストポーチから師匠にもらった長距離用の弓と大きな銛〈鑑定ではマグロもオーケー大型魚用 破損〉を出す。さっき海岸でゴミと一緒に拾った銛をこっそり収納していたのだ。ただ、この銛にはひもなどが付いていない、槍のようなものだった。
デッキブラシを手放して、弓に銛をつがえて引き絞る。足が滑りそうだが踏ん張る。ボードは惰性で進んでくれている。
はやる気持ちを抑えて気合を入れる。
バシュ!
鰭に向かって海水へ銛が走っていく。
しまった!ずれたか。
ドスッ
ヒットした。うぉ。波がさらにひどくなる。サメが暴れてる?
次は海藻と腕の絡まったゴダだ。
「ゴダ―」
弓を放り投げて海へダイブする。
海面下はどうなっているんだ。水の中を見る。
ワカメと思ったのは人の髪の毛だ。濃い緑色の髪の毛の下には鱗多めの人魚族の女性。上半身は白いぼろぼろのTシャツを着ていて、下半身はキラキラ光る桜色の鱗。
その腕がゴダの首に絡まっている。桜色の鱗がぼろぼろと剥げていて、ところどころ白い。血も出ている。
あのサメから逃げていたのだろうか。
「おねえさん、大きな魚やっつけたから!その人放して!」
「いやあ、助けて」
「助けるから。ゴダを放して!」
「ううっ」
中々にパニクってらっしゃる。
「ゴダ!」
ゴダはぐったりしている。
「おねえさん。死んじゃうから。ダメ。こっちに!」
ゴダに絡まっている腕を放して、おねえさんを引き寄せる。
そして、水につかったままで抱き締める。
確かに俺も最近スキンシップ多いな。ちびっ子だから許してね。
心臓がドキドキしてらっしゃるのが分かる。怖くて痛い目に遭ったんだろう。
「おねえさん、大丈夫。落ち着いて。もう大丈夫だから」
「あ、わたし」
「大丈夫?痛そうだね。陸に来れる?薬塗ってもらおう」
ウリサ兄さんが来た。
「ウリサ兄さん、サメはどうなりました」
「お前に一撃で仕留められている。よくやったな。あそこで浮いている。向こうの方から漁船もこっちに向かってるから、引き上げてくれるだろう。
っとおい、ゴダ。
シュンスケ。俺は先にこいつを連れていく。その人は・・・大丈夫そうか?頼んでいいか」
「はい。お願いします」
人魚のひれ足のままでは底の浅い海岸に連れていけない。
俺は膨らませておいたゴムボートを出す。
「おねえさんこれに乗って」
「わかったわ」
ゴムボートに乗ったおねえさんにバスタオルをふわっとかける。
「おい、シュンスケはやく。ファングスシャークは共食いもするんだ、群れで来ていたなら血の匂いでまた次のやつが来るぞ。」
「はい!」
まだ、足が付かない。ウリサ兄さんはもう歩いているっていうのに!
「シュンスケ―」
バシャバシャ水の中をアリサがきた。
「これ引っ張って」
「あんたも乗りなさい」
「でも」
「一緒に運ぶわ」
人魚さんの横によじ登る。
そうして、ゴムボートのひもを引かれて
砂浜に到着。
「アリサねえちゃん。うわっ」
ボートを下りようとしたのに、ありさは止まらない。
そのまま砂の上をそりのように海の家のデッキまで連れていかれる。
「おい、ゴダ!」ウリサ兄さんが叫ぶ。
おれも、人魚さんをアリサに任せて、デッキであおむけに寝たままのゴダに触れる。
顔色が悪い。首と手首を触ってから胸に手を当てる。
あぁ、心肺停止・・・
「おい、しゅんすけ?」
ウリサ兄さんの言葉も今は無視だ!
早くしなくちゃ。でも俺の五歳の肺活量でできるのか。しかし迷ってる場合じゃない。
何度も、学校や地域の避難訓練で、心肺蘇生の実演を見ていたんだ。
顎を動かしてゴダの口を開ける、何も入ってない。よし。
すぅ・・・自分の息をいっぱい吸って、
ゴダの鼻をつまんで俺の口から息を吹き込む。
ふぅーっ
「うわ。やだ、シュンスケ」
アリサの声がするけど、気にしない。集中!
うーん、空気入った?もう一回!
あ、今度は空気が入って行ったっぽい。ゴダの胸が少し膨らんだのが分かる。
でもまだ心臓は止まってる。
俺は身を乗り出してゴダの鳩尾辺りを、両手を使って押す。体重をかけるのが大事だ。
一二三四五
もう一回人工呼吸
そして、心臓マッサージ
一二三四
「ごはっ、がぼっ」
ゴダが咳込んだ。
「ゴダ!」
「ううっ」
やった、心臓が動いている。息もしている。
しばらく見ていたけれど、もう大丈夫そう?
「あれ?おいら、女の人を・・・」
「よかったー!ゴダ!」
思わず抱き着いた。うんうん。ちゃんと心臓動いてる。
「え?シュンスケ?な、なにー」
スキンヘッドを撫でる。あ、ちょっとチクチクしてる。そりゃねまだ高一ぐらい?なんだもん、ハゲじゃないんですこの子。
「ごめんゴダ、初めてを奪っちゃたかも」
俺はね、中学の時に彼女いたんだ。チュー止まりの。
「何言ってんのよシュンスケ!」
そういって、アリサが俺の口の周りをおしぼりで擦る。
「ちょ、アリサねえちゃん痛いって」
「うるさい!・・・でも、ありがと、ゴダを助けてくれて」
「人魚さんは?」
「あそこ」
見ると、屋敷の侍女さんが来て手当てをしてくれている。
今はビーチベッドにいらっしゃる。
そこから体を起こして
「あの、ごめんなさい。私は漁協に所属しているヴィーチャ。
海底の魚介類を取ってたら、潮に流されてしまったのか、漁船が待機していたポイントとずれてしまって。気が付いたら、ファングスシャークが近くに来ていて。浜辺にいたその方に助けを求めたんです」
その後をゴダが言う。
「そのおねえさんがおぼれているのかと思って慌てて海に行ったんだけど、おいら、泳げないのを忘れてて。」情けない顔で頭をかくゴダ。
「それで二人してパニックになって絡まってたのか」
「「本当にごめんなさい」」
おれは、そのままゴダの様子を静かに見守る。さっきまで心肺停止だったんだから。
「それで、ヴィーチャは漁船と紐で繋がってなかったのか?」
「つなげてから潜ったんですけど」と確かにウエストに絡まっているロープがある。 船とロープでつながっていると、漁の後船に戻りやすくなるそうだ。ダイビングでも使うときあるよな。それがヴィーチャさんのウエストから約五十センチで切れてぶら下がっている。
「すんませーん」海岸から一人のお兄ちゃんが走ってきた。小さい船が一艘海の浅いところに停まっている。
「どうも、こちらです」
「あぁ、ヴィーチャよかった。怪我は?」
「ぺスカ。すみません心配かけて。こちらの方々に手当てしてもらいました」
鱗の上から包帯が巻かれている。人魚さんの手当てってこんなのでいいのか。想像が付かない。
「応急処置ですので、きちんと治療を受けた方がいいですよ」
屋敷の侍女が言う。そりゃそうだ。
「この後ギルドに行くので、そこで見てもらいます」
「その方がいいですね」
みんな、ちょっとほっとしている。
「ねえ、ゴダも一応見てもらった方がいいよ。せめてポーションもらうとか」
素人の蘇生処置が不安。
「え?大丈夫だよ」
「いや、そうだな、診てもらえ。
どのみちファングスシャークも引き取ってもらわなくてはいけないから」
「そうですよ。船に引き上げていますので、このまま、一緒に船で行きましょう。その方がギルドには近道ですし」
漁協を兼ねている王都のギルドは、岬にある灯台の建物でもある。
ヴィーチャさんという人魚族の人はぺスカさんとマールさんの漁師さんと三人で、海をメインに活動している冒険者だそうだ。
「え?五十メートルもあるロープが切られたのですか。たぶん、こいつが噛み切ったんです」
とマールさんが引き上げてくれていたファングスシャークをペチペチ叩く。
俺が拾った銛が脳天に刺さったままだ。
「そのロープは、普通のサメぐらいなら絶対切られることはないのです」
ファングスシャークはもっと南の遠洋の魔物らしく、帝国の海域に来ることはめったにない。
「自分のテリトリーで餌が不足しているときは、まれに外れて泳ぐらしいけどな」
ウリサ兄さんは海の魔物にも詳しいってすごいな。
そうこうしているうちに、ギルドに付いた。
灯台の下が、大きな洞窟になっていてそこを抜けると船着き場になる。
漁港の雰囲気がある!
大物を積んできた船専用の護岸に舟が着岸する。
銛で仕留めた時は、背びれの大きさしかわかってなかったけど、三メートルぐらいもあった。この舟にはギリギリの大きさだ。
サメはそのままマールさんにお任せして、俺達はここでもギルドの横に隣接している施療院に行く。
帝都のギルドにはヴィーチャさんのような人魚族も所属していて、ギルドの中にも水路のようなものがあるそうだ。
ぺスカさんがヴィーチャさんをお姫様抱っこ?みたいに抱えて施療院の一角に入る。
足元にいっぱい水槽があって、水族館の設備みたいになっている。ほかにはお風呂屋さんの寝湯みたいな浅い場所もある。
その寝湯水槽にぺスカさんがそうっとヴィーチャさんを寝かせる。
「ぺスカ。ありがとう」
「ちょっと待ってな、医者を呼んでくるから」
「あの、シュンスケさん」
ヴィーチャさんが俺を呼ぶ。
「はい」うん?って感じでヴィーチャさんを見る。
俺のとは違う、濃くて深い緑色の美しい髪。桜色の少し虹がかかったような光沢のある鱗、はがれた鱗が元に戻るのには二カ月かかるそうだ。血の出てる傷はそれが塞がってから鱗が再生するので、もう少しかかるそうだ。
その間、お仕事はお休みなってしまう。不安だろうけど。
「あの」
「お大事にしてください。早く治られますように」
ギルドに持って行ってもらった、ファングスシャークは金貨二枚にもなった!学費の足しにできる♪
後日、学校が始まる前におれはまた施療院に来た。この施設にもポリゴンより立派(帝都の人口が多いからな)な教会がある。もちろんチェンバロがあるんだ。おれも教会の曲のレパートリーは増えている。
ヴィーチャさんのお見舞いも兼ねて慰問の演奏をする。ポリゴンから持ってきた助祭の真っ白な服を着て。ちょっとお願いして弾かせて貰うので、ストリートチェンバロ?なんちゃって。
治療薬入りの海水を張った猫足の浴槽が持ち込まれていて、それに美しい人魚が座っている
海の神様 ウォーデン神を称える歌の前奏を過ぎたところで、ヴィーチャさんが歌いだした。
~大いなる宙そらと~海の父よ~
~豊かな恵みを~も~たらす波よ~
~今日も~明日も~輝きながら~~~
おおーなんて美しい声なんだ。
礼拝堂に俺のチェンバロとヴィーチャさんの歌がいい感じに響く。
めっちゃ楽しい!帝都の新しい出会いが嬉しい。
また、ヴィーチャさんの歌を聞きにここのギルドを訪ねよう。
おれはにこにこして、演奏を終える。
拍手ありがとう!ここはポリゴンより人が多いです。
チェンバロ前のシートを下りて、ヴィーチャさんの手を取り、聴衆に挨拶する。
聴衆の中に呆けた顔のぺスカさんとマールさんがいる。
「二人の前で歌ったことないの?」
「ええ、歌なんてそんな余裕が生活になくて」
「そう。でも歌うの好きでしょ?」
「実はとっても」
帰りに、ここの司祭に聞いてみたら、ヴィーチャさんの歌は十分教会の行事に使えるとのこと。治療の間や、元気になっても冒険者活動の傍ら歌ってはどうだろう。そう提案しておれは仮住まいのお屋敷に戻るのだった。
「ったく、前のやつは片付けずに帰ったのじゃないか?」
ウリサ兄さんがぼやきながら床のゴミを拾うというよりデッキブラシで寄せる。
俺は店のキッチンの洗い物だ。もちろんキッチンの洗い物を水洗いとか塩洗いとかはごめんだ。除菌マークの洗剤とスポンジたわしを堂々と出して使う。お店が始まっても使う。異世界で食中毒なんて、死ぬかもしれないしね。
この国は水道(川の水だけど)が一応完備されているから、ほかは大丈夫。
「空き家状態のうちに、誰かに入られているのではないですか?」
「なるほど、休業中の管理は時々お屋敷からちらっと見てるだけらしいからな。
まあ、あのでかいお屋敷を、執事の爺さん一人で管理していたんだしな、こっちまで目が行き届かないんだろう」
「キャー ゴダー」
海のほうからアリサの声がする。
見るとゴダが海に流されて行ってる。ゴダに何かが絡まっている。
「やばい。ウリサ兄さん、デッキブラシ借ります」
ウリサ兄さんからデッキブラシを奪うと同時に海岸へ走る。
「おい!シュンスケ!」
「先行ってきまーす!」
もうゴダは五十メートルぐらい沖にいる。
「ちょ、シュンスケ!」
「アリサねえちゃんは待ってて!」
ポーチからボードを出して海へ投げる。
アドレナリンのようなものが俺の体を包んでいることを感じる。
サンダルを脱ぎ捨て、ボードに飛び乗ってデッキブラシをパドル代わりにめちゃめちゃ漕ぐ。
「うぉー。ゴダー」
モーターボートみたいにスピードが出てきた。
はやく、はやく!
ゴダに絡まっているものが見えてきた。海藻と鱗模様のなにか?異世界の海と言えばこういうやつか。まずい、サメの鰭も見える、鰭だけでもデカいのでは。サメかどうかは分からないけど。
ウエストポーチから師匠にもらった長距離用の弓と大きな銛〈鑑定ではマグロもオーケー大型魚用 破損〉を出す。さっき海岸でゴミと一緒に拾った銛をこっそり収納していたのだ。ただ、この銛にはひもなどが付いていない、槍のようなものだった。
デッキブラシを手放して、弓に銛をつがえて引き絞る。足が滑りそうだが踏ん張る。ボードは惰性で進んでくれている。
はやる気持ちを抑えて気合を入れる。
バシュ!
鰭に向かって海水へ銛が走っていく。
しまった!ずれたか。
ドスッ
ヒットした。うぉ。波がさらにひどくなる。サメが暴れてる?
次は海藻と腕の絡まったゴダだ。
「ゴダ―」
弓を放り投げて海へダイブする。
海面下はどうなっているんだ。水の中を見る。
ワカメと思ったのは人の髪の毛だ。濃い緑色の髪の毛の下には鱗多めの人魚族の女性。上半身は白いぼろぼろのTシャツを着ていて、下半身はキラキラ光る桜色の鱗。
その腕がゴダの首に絡まっている。桜色の鱗がぼろぼろと剥げていて、ところどころ白い。血も出ている。
あのサメから逃げていたのだろうか。
「おねえさん、大きな魚やっつけたから!その人放して!」
「いやあ、助けて」
「助けるから。ゴダを放して!」
「ううっ」
中々にパニクってらっしゃる。
「ゴダ!」
ゴダはぐったりしている。
「おねえさん。死んじゃうから。ダメ。こっちに!」
ゴダに絡まっている腕を放して、おねえさんを引き寄せる。
そして、水につかったままで抱き締める。
確かに俺も最近スキンシップ多いな。ちびっ子だから許してね。
心臓がドキドキしてらっしゃるのが分かる。怖くて痛い目に遭ったんだろう。
「おねえさん、大丈夫。落ち着いて。もう大丈夫だから」
「あ、わたし」
「大丈夫?痛そうだね。陸に来れる?薬塗ってもらおう」
ウリサ兄さんが来た。
「ウリサ兄さん、サメはどうなりました」
「お前に一撃で仕留められている。よくやったな。あそこで浮いている。向こうの方から漁船もこっちに向かってるから、引き上げてくれるだろう。
っとおい、ゴダ。
シュンスケ。俺は先にこいつを連れていく。その人は・・・大丈夫そうか?頼んでいいか」
「はい。お願いします」
人魚のひれ足のままでは底の浅い海岸に連れていけない。
俺は膨らませておいたゴムボートを出す。
「おねえさんこれに乗って」
「わかったわ」
ゴムボートに乗ったおねえさんにバスタオルをふわっとかける。
「おい、シュンスケはやく。ファングスシャークは共食いもするんだ、群れで来ていたなら血の匂いでまた次のやつが来るぞ。」
「はい!」
まだ、足が付かない。ウリサ兄さんはもう歩いているっていうのに!
「シュンスケ―」
バシャバシャ水の中をアリサがきた。
「これ引っ張って」
「あんたも乗りなさい」
「でも」
「一緒に運ぶわ」
人魚さんの横によじ登る。
そうして、ゴムボートのひもを引かれて
砂浜に到着。
「アリサねえちゃん。うわっ」
ボートを下りようとしたのに、ありさは止まらない。
そのまま砂の上をそりのように海の家のデッキまで連れていかれる。
「おい、ゴダ!」ウリサ兄さんが叫ぶ。
おれも、人魚さんをアリサに任せて、デッキであおむけに寝たままのゴダに触れる。
顔色が悪い。首と手首を触ってから胸に手を当てる。
あぁ、心肺停止・・・
「おい、しゅんすけ?」
ウリサ兄さんの言葉も今は無視だ!
早くしなくちゃ。でも俺の五歳の肺活量でできるのか。しかし迷ってる場合じゃない。
何度も、学校や地域の避難訓練で、心肺蘇生の実演を見ていたんだ。
顎を動かしてゴダの口を開ける、何も入ってない。よし。
すぅ・・・自分の息をいっぱい吸って、
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ふぅーっ
「うわ。やだ、シュンスケ」
アリサの声がするけど、気にしない。集中!
うーん、空気入った?もう一回!
あ、今度は空気が入って行ったっぽい。ゴダの胸が少し膨らんだのが分かる。
でもまだ心臓は止まってる。
俺は身を乗り出してゴダの鳩尾辺りを、両手を使って押す。体重をかけるのが大事だ。
一二三四五
もう一回人工呼吸
そして、心臓マッサージ
一二三四
「ごはっ、がぼっ」
ゴダが咳込んだ。
「ゴダ!」
「ううっ」
やった、心臓が動いている。息もしている。
しばらく見ていたけれど、もう大丈夫そう?
「あれ?おいら、女の人を・・・」
「よかったー!ゴダ!」
思わず抱き着いた。うんうん。ちゃんと心臓動いてる。
「え?シュンスケ?な、なにー」
スキンヘッドを撫でる。あ、ちょっとチクチクしてる。そりゃねまだ高一ぐらい?なんだもん、ハゲじゃないんですこの子。
「ごめんゴダ、初めてを奪っちゃたかも」
俺はね、中学の時に彼女いたんだ。チュー止まりの。
「何言ってんのよシュンスケ!」
そういって、アリサが俺の口の周りをおしぼりで擦る。
「ちょ、アリサねえちゃん痛いって」
「うるさい!・・・でも、ありがと、ゴダを助けてくれて」
「人魚さんは?」
「あそこ」
見ると、屋敷の侍女さんが来て手当てをしてくれている。
今はビーチベッドにいらっしゃる。
そこから体を起こして
「あの、ごめんなさい。私は漁協に所属しているヴィーチャ。
海底の魚介類を取ってたら、潮に流されてしまったのか、漁船が待機していたポイントとずれてしまって。気が付いたら、ファングスシャークが近くに来ていて。浜辺にいたその方に助けを求めたんです」
その後をゴダが言う。
「そのおねえさんがおぼれているのかと思って慌てて海に行ったんだけど、おいら、泳げないのを忘れてて。」情けない顔で頭をかくゴダ。
「それで二人してパニックになって絡まってたのか」
「「本当にごめんなさい」」
おれは、そのままゴダの様子を静かに見守る。さっきまで心肺停止だったんだから。
「それで、ヴィーチャは漁船と紐で繋がってなかったのか?」
「つなげてから潜ったんですけど」と確かにウエストに絡まっているロープがある。 船とロープでつながっていると、漁の後船に戻りやすくなるそうだ。ダイビングでも使うときあるよな。それがヴィーチャさんのウエストから約五十センチで切れてぶら下がっている。
「すんませーん」海岸から一人のお兄ちゃんが走ってきた。小さい船が一艘海の浅いところに停まっている。
「どうも、こちらです」
「あぁ、ヴィーチャよかった。怪我は?」
「ぺスカ。すみません心配かけて。こちらの方々に手当てしてもらいました」
鱗の上から包帯が巻かれている。人魚さんの手当てってこんなのでいいのか。想像が付かない。
「応急処置ですので、きちんと治療を受けた方がいいですよ」
屋敷の侍女が言う。そりゃそうだ。
「この後ギルドに行くので、そこで見てもらいます」
「その方がいいですね」
みんな、ちょっとほっとしている。
「ねえ、ゴダも一応見てもらった方がいいよ。せめてポーションもらうとか」
素人の蘇生処置が不安。
「え?大丈夫だよ」
「いや、そうだな、診てもらえ。
どのみちファングスシャークも引き取ってもらわなくてはいけないから」
「そうですよ。船に引き上げていますので、このまま、一緒に船で行きましょう。その方がギルドには近道ですし」
漁協を兼ねている王都のギルドは、岬にある灯台の建物でもある。
ヴィーチャさんという人魚族の人はぺスカさんとマールさんの漁師さんと三人で、海をメインに活動している冒険者だそうだ。
「え?五十メートルもあるロープが切られたのですか。たぶん、こいつが噛み切ったんです」
とマールさんが引き上げてくれていたファングスシャークをペチペチ叩く。
俺が拾った銛が脳天に刺さったままだ。
「そのロープは、普通のサメぐらいなら絶対切られることはないのです」
ファングスシャークはもっと南の遠洋の魔物らしく、帝国の海域に来ることはめったにない。
「自分のテリトリーで餌が不足しているときは、まれに外れて泳ぐらしいけどな」
ウリサ兄さんは海の魔物にも詳しいってすごいな。
そうこうしているうちに、ギルドに付いた。
灯台の下が、大きな洞窟になっていてそこを抜けると船着き場になる。
漁港の雰囲気がある!
大物を積んできた船専用の護岸に舟が着岸する。
銛で仕留めた時は、背びれの大きさしかわかってなかったけど、三メートルぐらいもあった。この舟にはギリギリの大きさだ。
サメはそのままマールさんにお任せして、俺達はここでもギルドの横に隣接している施療院に行く。
帝都のギルドにはヴィーチャさんのような人魚族も所属していて、ギルドの中にも水路のようなものがあるそうだ。
ぺスカさんがヴィーチャさんをお姫様抱っこ?みたいに抱えて施療院の一角に入る。
足元にいっぱい水槽があって、水族館の設備みたいになっている。ほかにはお風呂屋さんの寝湯みたいな浅い場所もある。
その寝湯水槽にぺスカさんがそうっとヴィーチャさんを寝かせる。
「ぺスカ。ありがとう」
「ちょっと待ってな、医者を呼んでくるから」
「あの、シュンスケさん」
ヴィーチャさんが俺を呼ぶ。
「はい」うん?って感じでヴィーチャさんを見る。
俺のとは違う、濃くて深い緑色の美しい髪。桜色の少し虹がかかったような光沢のある鱗、はがれた鱗が元に戻るのには二カ月かかるそうだ。血の出てる傷はそれが塞がってから鱗が再生するので、もう少しかかるそうだ。
その間、お仕事はお休みなってしまう。不安だろうけど。
「あの」
「お大事にしてください。早く治られますように」
ギルドに持って行ってもらった、ファングスシャークは金貨二枚にもなった!学費の足しにできる♪
後日、学校が始まる前におれはまた施療院に来た。この施設にもポリゴンより立派(帝都の人口が多いからな)な教会がある。もちろんチェンバロがあるんだ。おれも教会の曲のレパートリーは増えている。
ヴィーチャさんのお見舞いも兼ねて慰問の演奏をする。ポリゴンから持ってきた助祭の真っ白な服を着て。ちょっとお願いして弾かせて貰うので、ストリートチェンバロ?なんちゃって。
治療薬入りの海水を張った猫足の浴槽が持ち込まれていて、それに美しい人魚が座っている
海の神様 ウォーデン神を称える歌の前奏を過ぎたところで、ヴィーチャさんが歌いだした。
~大いなる宙そらと~海の父よ~
~豊かな恵みを~も~たらす波よ~
~今日も~明日も~輝きながら~~~
おおーなんて美しい声なんだ。
礼拝堂に俺のチェンバロとヴィーチャさんの歌がいい感じに響く。
めっちゃ楽しい!帝都の新しい出会いが嬉しい。
また、ヴィーチャさんの歌を聞きにここのギルドを訪ねよう。
おれはにこにこして、演奏を終える。
拍手ありがとう!ここはポリゴンより人が多いです。
チェンバロ前のシートを下りて、ヴィーチャさんの手を取り、聴衆に挨拶する。
聴衆の中に呆けた顔のぺスカさんとマールさんがいる。
「二人の前で歌ったことないの?」
「ええ、歌なんてそんな余裕が生活になくて」
「そう。でも歌うの好きでしょ?」
「実はとっても」
帰りに、ここの司祭に聞いてみたら、ヴィーチャさんの歌は十分教会の行事に使えるとのこと。治療の間や、元気になっても冒険者活動の傍ら歌ってはどうだろう。そう提案しておれは仮住まいのお屋敷に戻るのだった。
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【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
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戦えない魔法で追放された俺、家電の知識で異世界の生存率を塗り替える
遊鷹太
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安全を無視したコスト削減に反対した結果、
家電メーカーの開発エンジニア・三浦恒一は「価値がない」と切り捨てられた。
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ユーヤのお気楽異世界転移
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。