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村を作ろう

11日目. 体を動かせば、悩みが消えるかも

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 翌朝目覚めた葉月は、少しだけ元気を取り戻していた。
 ソラとコハクが同じ布団の中で眠っているのを見つけて、改めて従魔のありがたさを感じる。
 布団を跳ね除け、ぎゅうっと体を伸ばす。
 ぐぐぐぐ~、っと葉月のお腹が盛大に鳴った。

「お腹すいた~!」

 昨夜はなにも食べずに寝てしまったので、お腹が鳴るのも無理はなかった。

「くっくまー!」
「コハク、おはよう。ソラも、おはよう」

 起きだした葉月の気配にコハクとソラも目を覚ました。
 コハクはベッドから出て、すぐに家の外に飛び出して行く。おそらくチャッピーの様子が気になっていたのだろう。
 葉月はソラと一緒に身づくろいを済ませ、朝食の前に朝の農作業に取り掛かる。
 今日は一日のんびりと農業とクラフトをしながら、今後の方針について考えるつもりだ。
 いつものように野菜を収穫し、新しい植物がなんなのかチェックする。
 昨日はブドウの木が生えていたが、今日はなんだろうかとワクワクしながら畑をチェックする。
 今日は果樹の日だったらしく、オレンジの実が生っていた。

「果物が充実してきたね」

 葉月はさっそく万能ツールを取り出し、畑を拡張する。
 果物の木が並んでいる畑は果樹園の様相をていしてきた。

「いっそ果樹園にしてしまおうかな?」

 葉月は思いきって畑と果樹園を分けることにした。
 コハクとチャッピーという住人が増えたこともあり、少しは労働力が期待できる。
 次の場所に植えるために果樹から実をもいで、残った木は一旦切り倒した。
 木のなくなった畑は、もう一度耕して野菜を植える予定だ。
 いまの畑の東側に新たに果樹園を耕す。
 りんご、アボカド、オレンジについてはこれまでと同じ広さで。
 メープルの木は多めに一列、ブドウの木も多めに一列作成し、つるを絡めるためのぶどう棚も作った。
 次はコハクとチャッピーの様子を確認しに、昨日ニセアカシアの木を植えた場所に移動する。
 葉月の想像通り、立派なニセアカシアの木が育っていた。
 木の間をぬって進むと、昨日作ったばかりの大きな巣箱をコハクがチェックしているところだった。

「コハク、どう?」
「くっくま!」

 チャッピーが巣箱から出てきて、機嫌良さそうにぶんぶんと飛び回っている。

「蜂蜜、取れそう?」
「くまっ!」

 コハクが任せろと胸を叩く。

「チャッピーは蜜集め、頑張って。コハクはこっちの作業が終わったら、家畜小屋の方も手伝ってね」
「くま!」

 チャッピーとコハクに見送られて、葉月とソラは鶏小屋へ移動した。

「ニワトリが、増えてる~!」

 葉月は嬉しい悲鳴を上げた。
 三羽だったはずの鶏小屋にヒヨコが増えている。
 黄色くて小さなヒヨコの姿を見ているだけで、心が和む。

「ピヨピヨ」
「あ、掃除とエサやりしないと!」

 葉月はしばしの間、可愛らしいヒヨコの姿を眺め、癒された。
 せっかくなので鶏小屋もすこし拡張して、ニワトリが自由に駆け回れる場所を作り、さらに柵で囲う。
 そのあいだにソラが水やりとエサ箱を綺麗に掃除してくれていた。
 しかも、なんとソラがいつの間にか体から水を出せるようになっていた。

「すごいじゃない、ソラ!」

 ソラはぴゅぴゅぴゅと、スプリンクラーのように水を周囲に振りまいている。
 水をまいてもソラの体が縮んでいる様子はないので、不思議に思っていると、どうやら水魔法を使っているらしい。
 マナについてはよくわかっておらず、まだ魔法が使えない葉月には、ソラがどうやって水を出しているのかわからない。
 だが、便利なので気にしないことにする。
 葉月はインベントリから取り出したキャベツとトウモロコシをエサ箱に入れてから、牛小屋の方に移動した。

「ブモー」
「フエェェェエ」

 牛小屋の牛とアルパカたちは今日も元気だった。

「ソラ先生、お願いします!」

 ソラが葉月の肩から降りてはなこの搾乳に取り掛かる。
 よく見ると、はなこと太郎の子供の胸が膨らんでいる。ふたりの子は雌だった。
 性別がわかったところで、葉月は乳牛に名前を付ける。

「よーし、おまえは『すみれ』に決定!」
「ブモモモゥ」

 すみれに異論はないようなので、名前は決定した。
 牛小屋を掃除していると、自分の作業を終えたコハクが手伝いに来てくれた。
 水とエサを交換し終えるころには、ソラの搾乳も終わっていた。
 牛乳の入った桶は葉月のインベントリに仕舞っておく。
 朝の作業がひと段落したところで、朝ごはんの準備に取り掛かる。
 今日のメニューはホットケーキだ。
 砂糖がなくてずっと使えなかった小麦が、ようやく日の目を見るときが来たのだ。

「コハク、メープルの樹液を取ってきてくれる?」
「くまっ!」

 葉月はコハクに桶を手渡し、メープルの樹液採取を依頼した。
 コハクの爪があれば、上手に採取できるはずだ。
 まずは木材を削り出して、ボウルをクラフトする。
 次にボウルに小麦粉、牛乳、卵を入れ、万能ツールを泡立て気に変化させてかき混ぜる。
 昨日、採掘が終わったあとインベントリを確認していたら、いつの間にか重曹が入っていたので、これをベーキングパウダー代わりにボウルに追加する。
 入れすぎると苦味を感じるので、控えめに。
 かまどの上にフライパンを置き、アボカドオイルを万遍なく薄く広げる。
 ボウルからホットケーキの生地を垂らし、万能ツールをフライ返しに変化させる。
 葉月は表面にぷつぷつと穴が空いてくるまで、ゆっくりと生地が焼けるのを待った。
 生地の表面にぷつりと穴が空いては閉じる。
 この時点ではまだ早いので、もう少しだけ我慢して待つ。
 すると、空いた穴がそのままの形でふさがらなくなってくる。
 葉月はフライ返しで生地をひっくり返した。
 少しだけ中央付近が焦げてしまったが、かなりいい感じではないだろうか。

「くっくま~」
「コハク、ありがとう」

 コハクがメープル樹液の入った桶を手に戻ってきた。
 葉月は隣のかまどに鍋をセットし、桶の中身を鍋に移す。

「じゃあ、これでしばらく煮詰めてくれる?」
「くまっ!」

 葉月が大きな木のスプーンを手渡すと、コハクは元気よくなずいた。
 葉月がフライパンで何枚も生地を焼いている間、コハクは隣の鍋でメープル樹液を煮詰めてシロップを作っている。
 ソラはその間、葉月の肩で居眠りをしていた。
 チャッピーは……たぶん蜜集めに精を出しているのだろう。と思っていたら、コハクが作っていたメープルシロップの匂いにつられたらしく、勢いよく飛んできた。
 十枚ほどホットケーキを焼いたところで、朝ごはんにする。
 葉月はソラとコハクの前の皿にホットケーキを二枚ずつ置いた。自分の前にも二枚取り分ける。
 チャッピーの前にはできたばかりのメープルシロップをコップに入れて置いた。

「では、頂きます!」
「くまくまっ!」

 ほのかに立ち上る湯気と甘い匂いに、ひくひくと鼻がうごめいた。
 まずはシロップをかけずにホットケーキの味を確認する。
 ふんわりとして、柔らかい。続いて濃い卵の味と香ばしさが口の中に広がった。
 なかなかいい感じで焼けている。

「バターがあったらよかったなぁ……。って、作れる気がする。ねえ、ソラちょっと手伝ってくれない?」

 ソラがぷよりとうなずいた。
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