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  翼が警察に連行されて、周囲が落ち着くと、純一が平謝りをして来る。

「トラブルに巻き込んでごめんなさいね!」
 
純一は二人に必死に頭を下げる。予想外な事とは言え、危険にさらした事は事実であり、大人の対応と言う訳では無いが、二人に申し訳ないと心の底から思っている。
 それを感じ取れた夕は強いから大丈夫だという。
 
「それよりもファンの方には申し訳ない事をしたかな?」
 
 夕は警察に動画を提供してくれた翼のファンであった女性に謝る。

「気にしないで下さい! まさかあのような性格だと思ってもみなかったので……。今は夕さんのファンになりました! 私はお友達を守る貴方の行動に魅かれました。良かったら写真を一緒に取ってくれませんか?」
 
 夕の行動に関心をする人は少なからずいてくれたようである。
「俺は構わないけど、ただの高校生ですよ?」
  
 ファン一号ですねと夕が言うと彼女の携帯で写真を一枚撮る。
 破かれた服はスタッフが慌てて替えを用意しなおして、ファンと言う女性と写真を撮ると、他の人からも写真と言われ解放されるのは一時間程経ってからである。
 少し芸能人の感覚を味わった二人は少し楽しく感じている。
 スタッフが色々な服が入っている服を3人に渡す。
 綾子は何もしていないのにもらっても良いのかと純一に聞いているが、せっかくの休日の時間を関係の無い事に使ってしまったお詫びだと言う。
 有難く貰うと、3人は店から出る。

 店から出て行く後姿をスタッフと純一は見守る中で一人の女性スタッフが話しかける。

「純一さん…… あの時なぜ助けに入らなかったのですか?」
 
 隣に立っているカメラ撮影の補助の女性が聞いて来る。

「そうね。あの時に夕ちゃんに止められたでしょ?」
「そうですね」
「あるレベルの格闘技まで行くと、相手の闘気と言うものが少しわかるようになるのよ。この人は本気で敵意をむき出しにしている人や口先だけで殺すとか言っている人の差がね」

 女性は何かを考える。

「テレビとかで聞く達人の域まで到達した人が感じるとかいうものですか?」
「簡単に言えばそう。殺気や闘気というのがね。あの時はね動かなかったじゃないのよ。動けなかったのよ。彼女から溢れる闘気や殺気がビンビンと私を拘束して来たわ。絶対にこの人には勝てないと……」
 
 夕のジョブは闘拳王と言うジョブであり、格闘ジョブをすべてカンストさせた最上位職である。
 夕が本気を出せば現代では敵無しというレベルである。
 そんな夕に睨まれると格闘の世界で名を轟かせている者は夕の強さに気づくであろう。

「あっ…… そんな事よりも、あの子達に雑誌の表紙に乗る事を伝え忘れたわ!」
 
 純一は慌てて夕達を探すが見つかる事は無かった。

 それからしばらく何事も無く学園生活を送っていたが晶と夕であったが、デパートで写真を撮っていた雑誌が発売された日の朝は二人の周りに女子生徒に囲まれている。
 Miniと言う大手の雑誌で多くの人が買うファッション雑誌である。
 そして何より話題となっているのが、表紙を飾っている美女と美男子が話題となり、ネットではトレンド入りするなど騒がれている。
 そんな事になっていると知らずに登校した二人は朝一から女子生徒に囲まれていると言う訳である。
 なぜ女性の憧れの雑誌の表紙に写っているのか、モデルの仕事を始めたのかと色々と聞かれるが、経緯を話し納得をしてもらう。
 その後に一部の女子生徒が夕の前で携帯の画面を見せると、もめ事になっていた翼とのやり取りの動画が流れていた。
 晶を困らせたからと一言いうと黄色い声が教室内で響く。
 さすが、聖女を守る騎士様と女子達から支持を得る事になる。

 忙しい一日が終わると、晶は夕のベッドでうつ伏せになって寝ている。
 まぁ現代社会では目立つ行動をすれば動画をすぐに撮られ投稿される事がある世間である。まさか動画投稿サイトで数百万再生になっているとは思ってもみなかった。
 学校が終わって家で配信をし始めた綾子から晶にメッセージが飛んできた。
 内容は、この前の出来事の事であった。
 すでに綾子のチャンネルでは晶と夕にファンがつき始めている。
 殴られた夕の心配や、雑誌で見たと言うコメント等が寄せられていた。
 すでに晶と夕でチャンネル数が増えている事に綾子は納得している。ただ二人には暇な時は一緒に放送してほしいとお願いをしているのだ。
 その事に二人に許可をもらっている。
 それからと言うもの晶は綾子とボイスチャットを繋ぎながら放送の手伝いをしているのであった。
 
 
 綾子の家でゲームの配信をしているとリスナーから色々と質問をされて、その拾える内容をゲームの最中であるが拾いながら返していく。

『ねぇねぇ、晶ちゃんはモデルとして生活をしていくの?』
 
 この前の事で気になったリスナーが聞いて来る。

「たまたま頼まれただけなので、仕事としていくつもりはありませんよ? ただ夕の方はわからないですが……」
『夕ちゃんが?』
『あの子ほどそう言った世界に興味がなさそうな感じがするけど……』
  
 日頃リスナー達が見る夕ならモデルや芸能と言った世界に興味が無いように見える。と言うか興味は無い。
ただ、この前名刺を交換した桂木純一の大ファンであり、その人が夕を誘えば間違いなくモデルをするだろうと晶は思っている。

『だよね~ モデルと言うか宝塚の方が似合っているのに、あの容姿で、耳元を擽られるボーイッシュな声は濡れる!』
『なんだ!? やばい奴がいるぞ!?』
『二人が綾子ちゃんの配信に映り始めて、登録者が増えているからね~ その内乗っ取られるのでは?』
「乗っ取られないわよ! 人気になったのは確かに二人のおかげだけど! うちのペロンちゃんも人気だよ!」
『ペロンより委員長の方がゲーム実況を沢山していると言うのに…… 哀れなり』
  
 コメントだけだと言うのに哀れみで見られているのがわかる。

「だって無理だもん! 二人の容姿、体格絶対に勝てないもん!」
 
 確かにというコメントが大量に流れる。
 誰が見ても二人は絶世と言う言葉が付く。
 そんな二人にリスナーの女性達もメンタルが折られているであろう。

『そんな事より、晶ちゃんの命中率がヤバイ、草生えるのだが…… 回避能力もそうだが、何をすればそんな事が出来るのやら……』

 晶と綾子はフレンド限定で出来るモードでリスナー達とゲームをしているが、晶に沈められるリスナーは多く。
 晶を沈めようと奮起するが、それは中々上手くいかずに晶に質問をしていた。
 晶は詳しく説明をするがリスナー全員が無理だと思い諦める。
 簡単に言えば艦の速度、距離を計算して目安で打てば大体は敵艦の近く打つ事は可能である。
 ただ、晶は敵艦の速度、距離、角度と完璧な計算を瞬時に行うため高度な動作等が出来ると言う訳である。
 それはゲームに出てくる艦隊をすべて頭の中に叩きこんでいる事で可能となる。
 男の時にはできなかったが、ゲームのキャラクターになってからは計算、記憶力などがずば抜け、一度見た事は忘れなくなっている。
 さすが、魔法職と言うべきなのだろう。
 その後は、リスナーと長い時間までゲームをするのであったが、この時、リスナーから送られて来るネットの記事を何個か見ていたが、この前の出来事が思った以上に世間に広まっており、あらためて自分は巻き込まれと言うか、目立つ存在なのだと思った。
 
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