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 その頃、仕事に慌てて向かった美花は現場に慌てて入る。

「すいません遅れました!」
 
 何時もなら一時間には現場に入り台本等を読み本番に備える。そんな美花が珍しく遅れて来る事に皆、体調でも悪いのかと心配の声を掛ける。

「あっ、大丈夫ですよ。昨晩少し飲みすぎてしまいまして……」

 申し訳なさそうに頭を下げる美花。

「美花が飲みすぎるのって珍しいわね。何時もは嗜む程度なのに…… 彼氏でも出来たのかしら?」
 細く笑うのは菊池(きくち) 麻美(あさみ)である。
 彼女は美花の先輩にあたる女優で薔薇の様に美しい容姿だが、安易に触れると怪我をしてしまいそうな雰囲気の麻美は悪女役として色々なドラマに出演している。

 他人を見下す姿や蹴落とす姿があまりにも完璧であり世間でこれ以上の悪役を役作り出来るものはいないと言われている。

 世間では麻美は怖いイメージがついているけど、実際は後輩の面倒見が良く美花の事を気に掛けて仕事の相談やプライベートでも遊んでいるのは業界では知られている。

「かっ、彼氏なんて居ませんよ!?」
「ふ~ん、そっか~ それは残念ね」

 麻美はまた後でと言いながらその場を後にする。
 撮影所に用意されている衣裳部屋に入ると、いそいそと衣装に着替える為に上着を脱ぐと美花の手が止まる。

 鏡に映された姿の胸元に記憶の無い赤くなった痣の様なモノ。
 虫刺されかと思いシャツを脱ぐと不規則にある複数の痣。

「はっ!? 夕ちゃん!」

 慌てて携帯を取り出し夕に電話しようと携帯のディスプレイが光ると、その見慣れない画像に硬直して携帯を床に落とす。

「あぁぁ~~!!」

 人気女優にあるまじき声を出しながら頭を押さえてしゃがみ込む。
 携帯に映し出されていた画像は夕の姿だが、その光景が危険なものだった。
 ベッドで上半身を起こして写された姿は生まれたままの姿の夕と、その腰にしがみ付き寝ている裸の自分の姿。
 夕にも同じ痣が体にあり、記憶にないが間違いなく何かをしてしまった証拠の写真が携帯に保存されている。

「何も覚えていない……。性行為した? 同性ならセーフか? 未成年だしアウトなの?」
 
 昨日の事は途中から記憶が無い。
 朝起きれば夕の部屋で寝ていた事だ。途中で寝た美花を運んで部屋で寝かせてくれたという事までは朝起きた時に聞いたが、その時すでに時間が迫り慌てて脱げていた服を着て慌てて夕の部屋を飛び出した。
「ぐぬぬ、今から電話して聞くのも時間が無いし、後から聞いて……」
「何を後から聞くって?」
「ふぁ!?」
 
 部屋の入り口に立っていた麻美に驚き美花は思った以上に驚く。
 
「あらあら、貴方って子は」
 
 驚きざまに振り向いた美花の姿を見た麻美はある程度の事を把握した。

「なっ、なんの事ですか!?」
「そんな体見せられてなにも無かったですとは言わないわよね?」
 
 麻美は美花のシャツをおもむろに捲る。
 突然の事に反応できなかった美花はあられもない姿が麻美の目にとまると、不敵な笑みで笑う。

「あら、貴方も立派な大人の女性だったのね。相手は誰? 貴方と仲が良かった人は歌手のあの男性かしら?」
 
 麻美の問いに思い当たる人物は一人思いつくが、別の人である事に首を左右に振る。

「あら、他に誰か発展しそうな人は居たかしらね?」
「いえ、一般の方です……」
「飲みに出かけて一般人に手を出すとか美花も中々やるわね。相手はどなた? 写真ある?」

 興味を引いた麻美は美花の落ちている携帯を拾うとモニターに画面が映し出される。その光景にさすがの演技を仕事にしている麻美もあまりの光景に固まる。
「あっ貴方、まさか相手が女性だったとは思わなかったわ。若そうに見えるけど、美花と同い年ぐらいかな?」
「16歳です……」
「はぁ!? 貴方、未成年の部屋で寝泊まりしたあげくにお酒まで飲んで寝坊って…… 色々と楽しんでいるわね。昔の自分を思い出すわね」

 麻美も色々とやらかした事があるのだろう。

「まぁ、良いじゃない? 何事も経験よ。役者の仕事にいつか活かせるかもしれないわよ? ただ見つかれば仕事が無くなる可能性もあるかもしれないけどね。それにしてもこの子は美人ね。私も味見をしてみたいわ」

 意味深い言葉を残し不敵に笑う。
「あっ、夕ちゃんは美人さんですが、晶ちゃんは天使ですよ。女神が下界に降りて来たようですよ」
「そんな事は聞いていないけど、今度私にも会わせなさいな」
 
 仕事が始まるギリギリまで二人の会話は盛り上がる。
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