勇者召喚されたのは「キグルミの中の人」でした!~人見知り腐女子なので魔法少女になんて成れませんし魔王討伐もできません~

まきノ助

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1 勇者召喚は、人ですかネズミですか?

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「ま……魔力切れだわ! あと少しでとどめをさせたのに……」

 可愛い魔法少女の衣装を着た少女が呟いた。
 体も衣装もボロボロで、マジカルステッキも折れてしまっている。

 そこは巨大で禍々しい魔王城の中、魔王の玉座の間だった。
 おどろおどろしい彫刻を施された太い柱が並んでいる。

「ふっ……ここまで俺を追い詰めた事を誉めてやろう。これでは地上を征服する力は残っておらぬ。闇の力をダンジョン最深部の魔核から十分に吸収し切る迄、又眠りにつくとしよう。さらばだルミナ!」

「まっ、待てえええええっ!」

 2メートル越えの身の丈に、ダークな鎧とローブに深紅のマントを着けた魔王が魔法陣の中に消えていく。

 ズズズズズゥウウウウウンッ!

「くっ、逃げられてしまったわ。しかし再び魔王は眠りにつきました。50年後に復活した時に、次代のルミナがきっと魔王を葬り去ってくれるでしょう」

 ドドドドドドォオオオオオオオオオオンッ!
 ズガガガガァアアアアアアアアアアンッ!

 ルミナが逃げ出す前に、魔王城が爆発して完全に崩壊した。

 崩壊した魔王城に押し潰されて、魔法少女勇者『ブリリアント☆ルミナ』Brilliant☆luminaの12歳の体は失われてしまった。


 △ ▼ △


 望月千代は普通の女子高生だった。
 高校在学中から芸能事務所が運営する芸能学校に入り、歌と踊りと芝居のレッスンをしていた。
 アイドルデビューを待ちながら、映画やドラマのオーディションも受けていたが、まだ一度も採用された事は無かった。


 高校卒業前に、『ハムスワールド』というテーマパークのオーディションを受けた。
 偶然にもメインキャラであるミルキーハムスと身長が一致していて、声真似も一発でオッケーを貰ってしまい、思いがけずに合格してしまった。
 因みに、ダンスは芸能学校で学んでいたレベルで、普通に問題無く合格点だったらしい。


 新人芸能人達を纏めて管理してる芸能事務所のマネージャーが言う事には、

「何事も経験と勉強が大事だ。それに卒業して社会人に成るんだから、安定収入も魅力だぞ」

「はぁ……それなら勉強してきます」

 とりあえず、やってみようかなと思った。



 ミルキーハムスの「中の人」である事は、誰にも言わないと契約書にサインさせられた。

「親兄弟にも秘密にしなさい!」

 と言う事だったが、親にそのテーマパーク『ハムスワールド』で働く事は報告した。

「何をするの?」

「言えない仕事なの……」

 と言えば、親兄弟からすぐに「中の人」と理解されると思った。

「「「……」」」


 弟が呟く、
「枕営業……」
「チガワイッ!!」


「夢の国だから、絶対にキグルミの中に人が入って無い設定なのっ!」

「「「あぁ、そう言う事……」」」


 千代は腐女子だ。
 高校時代から正真正銘のBL好きだ。
 それと、アイドル目指していた事は別腹だった。

「腐女子がアイドル目指しちゃいけませんかっ!」

 そう友達に言った。
 たった1人の同志である、エリちゃんに……。


「頑張ってね、チヨちゃん」

 いつもの様に『痛い子』と見られたみたいだった。


 千代は10年間、腐女子生活の為に『ハムスワールド』のメインキャラであるミルキーハムスの「中の人」として働き続けて、訪れたゲストと『夢と魔法』を分かち合い続けた。
 コミケ会場に職場が近い事も、その仕事が長く続いた一因だった。
 テーマパークの寮に住み、世俗と隔離された腐女子生活を送り、『ハムスワールド』と国際展示場の間を行き来する10年間だった。

 千代は「中の人」である時はミルキーハムスに成り切っていた。
 キグルミを装着した時、自分自身をミルキーハムスだと疑う事無く信じれるようになった。


 いくら魔素の薄い地球でも、毎日数万人のゲストと共に『夢と魔法』(テーマパークのコンセプトに過ぎなかったのだが、キグルミの中の人の時は本気だった)を魔素と一緒に巡らした事で、地球にいる間に既に大魔力を手に入れていた。
 彼女は全くそんな事には気付かなかったが。

「だって腐女子だから、プライベートではBLオンリーなのでした」(後日談)


 恐るべし『ハムスワールド』のメインキャラ、ミルキーハムス!
 10年演じ切った千代は、キグルミを装着した時、完全にミルキーハムスその者であった。

 そして、30歳で身も心も処女と言う、お約束カウンターが遂に刻まれてしまったのだ。



 千代は、いつもの様にミルキーハムスのキグルミの中で、山車だしの上に乗ってパレードの出番を待っていた。
 すると急に足元に魔法陣が浮かびあがる。

 ブゥウウウウウンッ!


 千代ことミルキーハムスは、咄嗟に願い事をした。

「召喚先の世界に六つ子がいます様にっ!」

 シュィイイイイインッ!


 パレードの運営部長が叫んだ。

「ハムスウウウウウッ! ゲストが待ってるのに何処行ったんだあああああっ!」



 △ ▼ △



 中世ヨーロッパ風の帝都、石造りの外壁の中にレンガ積みの街並みが続いてる。
 その中心には、異世界一と謳われて空高く聳え立つ帝国城があり、前面に煌びやかな宮殿が佇んでいた。
 宮殿の広大な庭に色とりどりのバラが咲き誇り、噴水が飛沫しぶきを上げている。

 城では50年周期で復活する魔王対策の為に、50年に1度だけ勇者を召喚する。
 その為に城の中に勇者召喚の間が用意されていた。
 部屋の床には複雑な魔法陣が、幾重にも相関図の様に繋がり書き込まれている。


 50年に1度の勇者召喚の時が来た、7人の宮廷魔導士達が魔法陣に手をかざして魔力を注ぎ込む。

 ブゥウウウウウウウウウウンッ!

 紫色に光る魔法陣から虹色の光が円筒状に伸び上がり人影が徐々に現れる。

 しかし魔法陣に現れた人に見えたものは、人間大のハムスター『ミルキーハムス』だった。


「ウッワアアアッ! ネズミの魔獣だあああっ!」
「近衛騎士よ、出会え出会えっ! 退治するのだあああああっ!」

「やあああああっ!」
「とりゃあああああっ!」

 千代はひらりひらりと、騎士達の繰り出す剣を躱していく。
 それはあたかも、アトラクションの舞台の演武のようであった。

 しかし、追い詰められた壁際で剣をかわした時に、もう1人の騎士の必死の体当たりを側面から受けてしまう。

 ドカッ!

「あっ、あれぇえええええぇぇぇぇぇ……」

 ヒュゥゥゥゥゥ……ドップゥゥゥゥゥンッ!


 千代はキグルミ姿のままで城の外へ落ちてしまった。
 召喚の間は3階であったが、窓の外は正門と反対側の崖だったので、50メートル程落下して深い川に落ちて流されてしまった。

 ドンブラコッコ、ドンブラコッコ……、




「宮廷魔導士よ、いったいどういう事だ! ネズミの魔物を召喚するとは?」

 帝国宰相の怒気を孕んだ声が、召喚の間に響いた。


「申し訳ありません。50年ぶりの事で何か手違いがあったのかもしれません」

 別の魔導士も言い訳をする。

「書物に書いてある通りに、勇者召喚の魔法陣を起動したはずなのですが……申し訳ありません」


「魔王復活が近いのだ。しっかりと調べ直して、必ず再び勇者召喚せよ!」

「「「ははっ」」」
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