紀元7000年の冒険譚

胡桃幸子

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第一章 大いなる海竜種

4 海竜種、襲撃

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 悲鳴が聞こえる。
爆音は立て続けに鳴り響き、地鳴りのような音も留まるところを知らない。
何があったのかという混乱の中で俺はメイを宿の部屋に放り込んだ後、すぐに港へと走った。
港から逃げてくる人々の中を逆走し、その中に先程まで酒場にいた顔を見つける。

「すみません‼ 何があったのか教えてください‼」
「ああ‼ さっきの坊主か‼ 何だかよくわからねえが、突然海竜種が現れて、暴れだしたんだ‼」
「海竜種が⁉」


 海竜種とは、海に棲む竜の種族のことである。普段は行くことが困難な海域にある巣にいることが多いことが知られている。竜と言うだけあり、その力は計り知れないが、基本的にこちらから何もしなければ襲ってくることはない。仮に何かしたとしても、港まで来ることはまず無いはずだった。


俺の知識が間違っているのか?
不安になるが今はそれに構っている暇はない。

「なんでまた海竜種が……。ありがとう、気をつけて‼」
「え⁉ ちょ、坊主⁉ 危ないぞ⁉ ……行っちまった……」


 港に着くと、そこは酷い有様だった。


 グォアアアアア!!
 キシャアアアアア!!
 ドガァァァン!!


「おいおい……。一体だけじゃないのかよ……」

 暴れていた海竜種は、一体ではなく、恐らく群れと思われる十数体だった。その瞳はまるで理性がなく、ただ感情に突き動かされているようで。

 ますますありえない、と思わず口が悪くなってしまったとき、海竜種の一体の横っ腹に何かが当たり、爆発した。見ると、王国の兵士達が竜達に向かって攻撃をしている。
流石は三大国の兵士、士気もさることながら、攻撃力も高い。だが、そんな兵士達も十体以上の竜相手では分が悪く、押されているようだった。

いくら王国兵がいても、俺もただ見ている訳にはいかない、てかこれでのこのこ逃げたら師匠に半殺しにされる。
とにかく“雪華せっか”を抜こうとしたその時


グオオオオッ‼


「⁉」

海竜種の一体が何かを見つけたように突進していく。その先には

「船長⁉」

頭から血を流した船長がいた。腕には小さな女の子を抱いている。
突進してくる竜に気づいた彼女はその子を抱えて逃げようとするも足を怪我しているようで、動けない。女の子だけでも逃がそうとその背中を押しても、怯えきった少女は船長の服を握り締めて離さない。
女の子を逃がすのは不可能と悟った彼女はその背に庇いながら魔術式を展開させる。

「無茶だッ‼」

叫んで俺は全力で地を蹴った。空中でベルトから常備している閃光弾を取って竜の視界に入るように投げつける。


パァァァァン


その巨体が怯んで立ち止まったところに更にその背中を蹴って頭上へと飛び上がった。
刀の鯉口を切り、抜いて両手で構える。
大きく息を吸い、それに霊力を流し込みながら叫んだ。
師匠に三年間みっちり叩き込まれた霊術の力、見せてやる‼


舞刀術ぶとうじゅつ·ちく‼」


刀身が霊力を纏う。
狙うは脳天。
落下のスピードと全体重を掛けて突き立てる。
雪華せっか”から放出された霊力が竜の頭を貫き、喉元まで突き抜けた。


ウ グォァァ……


どっしりとした身体がぐらりと揺れる。俺は手早く“雪華《せっか》”を抜き、そこから飛び降りて船長たちの前に降り立った。竜が倒れ、大きな波が立ち、ばっしゃーん、と石畳の地面が濡れる。
よっしゃいいとこに入った見たか俺の霊術‼
一瞬自画自賛をして、はっと振り返った。

「船長‼ 大丈夫か⁉」
「おん、おおきに。怪我もそんな大したことあらへんよ」
「よかった……。君も、大丈夫か?」
「う、うん‼ ありがとう、お兄ちゃん‼」

ぱあ、と花のような笑顔を見せる女の子。
メイもこんな時期があったなぁ……懐かしいなぁ……。
今頃宿にいるであろう妹を思って遠い目になりかけるがそんな場合じゃない。
そして駆け寄ってきた王国兵に二人を任せる。

海竜種たちの方を見ると、理性が無いのに加えて、仲間を倒された怒りが見て取れた。

あー、狙われたな。

殺る気がすげぇ、と現実逃避に走る。
しかし何度も言うが今は遠い目になっている場合でも、現実逃避をしている場合でもない。
とにかく船長たちから竜達を遠ざけることだけを考えて兵士の静止の声を背中で聞きながら走る。そのまま一番近くにいた大きなヒレを持ったものに目をつけ、その正面に躍り出た。


キシャアアアアア‼


正面からの威嚇めっちゃこえぇぇ‼ けどやるしかない‼
咆哮を上げる竜に刀を振るう。


「舞刀術·しょう‼」


刀身から放たれた霊力を帯びた風がその全てのヒレを斬り落とす。あ、やべ港の側の出店の屋根がちょっと斬れましたすみません。
弁償は出世払いでお願いしていいですか、と恐怖を紛らわせるために顔も知らぬ店主に謝りながら痛みに暴れる頭に向かって飛び上がり、怒りに燃えた両目を斬りつけ、視界を奪う。
パニックに陥った竜は出鱈目に水のブレスを放ち、そのいくつかが仲間の海竜種に命中し、傷を負わせた。
それはありがたいが、街の方に飛ばされても敵わないのでおとなしくなってもらうことにする。

「あっぶないな‼ おとなしくしろ‼」


「舞刀術·ばい‼」


霊力を込めた“雪華《せっか》”を勢いのままに振り下ろす。竜なだけあって、その鱗は鋼鉄のように硬く、衝撃が腕に走る。
びき、と腕が鳴った気がしないでもないけど気のせい気のせい。
思わず力が抜けそうになったが気合でそのまま首を落とす。

「いっつぅ……っ‼」

これ程の衝撃は師匠の刀を受け止めた時と同じ位だ。痛い。
今ふと思ったけど竜の鱗を思いっきり斬りつけるのと反動が同じくらいってどういうことですか師匠。そんなもんいつも俺に振り下ろしてたんですか。
心の中で師匠にツッコミを入れながら竜の血溜まりに着地して、涙目で残りの竜の数を確認すると、兵士たちの尽力もあり、その数は最初の四分の一程までに減っていた。

「あと三体、かっ‼」

涙をぐし、と袖で拭いてから“雪華《せっか》”を構え直し、此方に身体を向けた三体をどうするか算段を立てながら走っていると


ザッパァァァァァン


俺の横の海が膨れ、四体目の海竜種が姿を現した。

「うっ、そだろ⁉」

その鋭い鉤爪を刀でやり過ごすと、急に目の前が陰る。

「‼」

先程の三体のうちの一体だ。その口がブレスを吐く予備動作をしているのを確認した俺はほぼ本能のままに身をかがめる。
ちり、と俺の髪を掠めて水の塊が飛んでいき、海から出てきた方の竜に当たる。当たりどころが悪かったのか、それはそのまま水底に沈んでいった。
ラッキー、と思うのも束の間、あと二体いた別の竜を思い出す。
やっば、どうしよう。
サアア、と血の気が引く音を聞いた俺に二体が口を大きく開ける。そこで水が急速に球状になっていくのが見えた。

「オワタ……」

師匠に教わったこういうときに使う言葉を小さく呟いたその時


ーーーーーっ‼」


ズダダダダダダーーーッ‼


そんな大きな掛け声と共に二体に鉄の雨が降り注ぐ。それらはその身体に突き刺さると、爆発した。
ナンデスカイマノジュウゲキ。
傾く二つを見た俺は訳がわからないがとにかく目の前の一体に意識を集中させる。丁度胴がガラ空きだ。
一撃で決める。

「うおおおおおっ‼」

本日二度目の竹が、その心臓を貫いた。
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