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第一章 大いなる海竜種
34 竜玉の代替わりと雲の中
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はい、皆さんこんにちは。アカリです。俺は今現在
「うわあああっ‼」
落下中です。
いやぁ、竜の懐に飛び込んだんだからそりゃ足場、あるはずもなかったよな、うん。我ながら馬鹿過ぎるわー。あははー。
せめて受け身だけでもとろうとしたが一気に多量の霊力を使った反動か身体に力が入らない。少し休めば入るだろうが休んでる間なんてない。詰んだ。
もう駄目だわこれ。父さん、母さん。先立つ不孝をお許しください。メイ、魔術、頑張れよ……。
信仰してる神様とかはいないけど目を閉じてそんなことを祈っていると、不意に下から強い風が吹き上げて俺の身体を浮かし、落下速度が一瞬遅くなったような気がした。
「っ‼」
驚いて目を開けると同時にドサリと何かを下敷きにして着地する。衝撃はあれど痛みはほぼ無い。どうやらそれのおかげで俺は助かったらしい。
「……生きてる」
「いつつ……。大丈夫か?」
「っ、ベネディクト‼」
背後から聞こえた声に助けてくれたのはベネディクトであったと分かった。彼は俺をしっかりと抱えて俺の下にいる。彼が頭を打っていないか心配になったがその頭の下にある結界が彼の頭を守ったらしい。ワーナーさんだなこれは。流石仕事が出来る男。
「ありがとう、すぐどくな」
「ああ」
力が入らないせいで立ち上がることが出来ない為、ゴロゴロと転がるようにして彼の上から降りる。彼は俺がどいた後すぐに立ち上がって、転がっている俺に手を差し伸べてくれた。ありがたくそれを取るとぐいと引っ張られて足が立つ。まだ少しふらつくがやってきたワーナーさんが支えてくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
竜を見ると未だ藻掻いてはいるが疲れたのか少しその動きが弱くなっているように見えた。それ今のうちだとばかりに調査班が竜玉担当と天井付近の雲担当に分かれて調査を始めている。他の隊員や冒険者たちはそれを妨害しようとする竜の長のブレスやら水球やらを撃ち落としたりしていた。
「ヴェーチェルが風を吹かせてくれて助かった。でないと間に合いそうになかったからさ」
彼の言葉にやっぱりと言うと頷きが返される。
「二回も助けてもらったのか……」
後でちゃんとお礼しないと、と頭のメモに書き込んでいるとアカリ‼ という声と共に後ろから何かに抱きつかれた。なんか当たってる。
「うっ、わ」
「アカリ‼ 今の凄かったな‼ よくやった‼」
「スズメさんっ」
スズメさんが俺を抱きしめてワシャワシャと髪をぐしゃぐしゃにしている。そしてやっぱりなんか当たってる。柔らかい。いやもう何なのか大体分かってはいるけどそれを言おうにも彼女の腕力が強くてそれどころじゃない。でもやっぱり柔らかい。
「スズメさんくるし……っ」
ペシペシとその腕を叩くとああ悪い‼ とやっと解放してもらえた。当たっていたものが離れていく。
足元はもうふらついていない。
「お前が竜の長を串刺しにしてくれたおかげで調査も進みそうだってよ。お手柄だな‼」
「スズメさんが突っ込んでくれたから俺もやろうって思えたんだ」
「っ、お前嬉しいコト言ってくれるじゃねぇかコノヤロウ‼」
「のわっ」
再びワシャワシャと頭を掻き撫ぜる彼女をやり過ごしていると、調査班の人たちがざわついているのに気がつく。
「何か分かったのかもしれない」
そう言って走って行ったベネディクトを追った。
「どうした、問題でもあったのか?」
「ベネット」
調査班のところまで行くと、そこではざわざわと騒がしい彼らのそばでハルイチさんが調査結果が書かれているらしい紙を睨んでいた。彼が大アリだ、と答える。その眉間には峡谷のように深く皺が刻まれている。
「竜玉もあの雲にも問題しかない」
「……具体的に聞こう」
その言葉に頷くと彼は俺たちにその紙を見せた。そこには多くの項目とそれに対応しているらしい数値がズラリと並んでいる。俺にはよく分からないが赤いインクで印が付けられているところの数値がおそらく問題の部分らしいことはわかった。
「この数値は竜玉の劣化部分、つまり竜玉が魔力を精製した際に駄目になる部分だ。これが竜玉全体を占めると竜玉は死ぬ。そしてこっちが竜玉の魔力維持年数……竜玉の年齢だ。スズメ、これを見てなにか気づくことは?」
「えっ、アタシ?」
まるで学校の先生のように説明をするハルイチさんに突然当てられたスズメさんはえっと……と戸惑いながら答える。
「……劣化部分の数値と一緒にパーセンテージが書かれてる。九十九点九強。竜玉の年齢が、二百十八……? これって年寄りなのか、若いのか? てかこのパーセンテージってそれだけ劣化部分が大きいってことなのか? まずくないかコレ?」
「劣化部分の解釈は合ってるな。……待て、そんな顔をするな話を聞け。まだ続くぞ」
俺たちの顔が曇ったのを見た彼がペシペシと魔力維持年数の数値を指先で叩いた。そうは言われても劣化部分がそこまで占めていたら竜玉は死にかけということだ。こんな顔になってしまうのも無理はない。
「二百十八。これは竜玉が二百十八歳であるということを示す。竜玉の平均的な寿命は百二十年から百五十年程。この竜玉はかなりの長寿だ。つまりこいつはいつ死んでもおかしくはない。元々死にかけだったから瘴気にも侵されてしまったのだろう」
「そんな……っ」
じゃあどうすればいいんだ。そんな気持ちが伝わったのかハルイチさんが簡単なことだ、と言う。
「竜玉の代替わりをすればいい」
「竜玉の代替わり?」
なんだそれ、スズメさんが眉を顰めた。俺も分からない。ベネディクトがなるほど代替わりか、と呟いたので聞いてみる。
「竜玉の代替わりって何だ?」
「ああ、竜玉の代替わりってのは古い竜玉から新しい竜玉に代替わりする事だ。竜玉はな、元は竜玉で、命を全うした力の強い竜がなる。この巣の場合は入口で会ったあのデカい竜だな。多分、代替わりをしようとしたところで竜玉があんなことになって、出来なかったんだろう」
「じゃあ、代替わりさえ出来れば……」
「少なくとも、瘴気は浄化出来る」
頷いた彼にやったじゃん、と言うが彼の顔は晴れない。
「……どうした?」
「……それがそうそうできねぇ理由が、あの雲なんだろ?」
言われたハルイチさんがそうだ、と言ってまた別の紙を取り出した。
取り出された紙には何やらグラフのようなものと表が書かれていた。
「これはこの周囲の瘴気と魔力のグラフだ」
ハルイチさんが指差したそれを見ると瘴気を示す線は終始高い数値を表し、逆に魔力を示す線は終始低い数値を表している。……どういうことだこれ?
「この魔力は瘴気が精製された瞬間に発せられる種類のものだ。あの雲が瘴気を精製しているとすればこの魔力の濃度は高いはず。しかし、そうではないとすれば」
「この瘴気は別の場所で精製されたっていうことだな」
ハルイチさんの言葉を継いだベネディクトがそう言って、腕を組んだ。その端正な顔を歪めて面倒なことになったな、と呟く。
「となるとこの瘴気がこっちに流れ込む入口があるのがあの雲の中って考えるのが自然だ。ならあの中では」
空間が歪んでる。
「空間が……」
「歪んでる……?」
「……つまり空間が歪んでいるということはあの雲の中でこの場所と別の場所が繋がっているということですよォ」
一瞬理解しきれなくてスズメさんと一緒にベネディクトの言葉を復唱するとワーナーさんが噛み砕いて教えてくれた。それでなんとか分かって事の重大さに気がつく。
「ちょ、それってどうにかなるもんなのか!?」
空間が歪んで別の場所と繋がるなんて訳が分からない。
……待てよ、別の場所と繋がって……というのはつい昨日体験したばかりじゃないか。けどあれはいつの間にか元に戻っていたし……。
思案しているとハルイチさんが俺の考えを読んだかのように片眉を上げた。
「自然に元に戻る……という手もあるだろう。しかし今この状態でその時を待つのは得策とは言えん。
他はその繋がっている穴を魔術なり何なりで閉じるといものだが、この場にそこまでの空間魔術を扱える者はおらん。異空間を作れるレベルのベネディクトでも不可能に近いだろう。もし出来たとしても魔力を全部持ってかれて暫くは動けなくなるに違いない。
また、竜玉の代替わりが成功すれば竜玉の力で歪みを力業で消すことは出来るだろうがそれがまず出来ない理由が穴からの瘴気だからな。目的と手段が逆転してしまっている」
さらに面倒なことがある、と彼がため息をつく。その様子からして、これまでの話よりももっと大変なことなのだろうと気を引き締める。いや問題ありまくりだな……。大丈夫なのかこの状況……。
「その繋がっている先も先程判明したのだが……。死の森の、毒の泉だったのだ」
「毒の泉ってたしか……」
「泉周辺の瘴気は水属性の魔力を穢しやすい」
かつて読んだ本の知識を手繰り寄せようとするとスズメさんが言ってくれた。さすがは冒険者、こういう知識に強い。ハルイチさんがああ、と頷いて口を開いた。
「これらをふまえ、事の次第はこうだと言える。
元々竜玉は弱っており、近いうちに代替わりが行われる予定だった。
しかし、その前に空間が歪んで毒の泉に繫がり、瘴気が流れ込んできてしまった。おそらくあの雲はなけなしの竜玉の抵抗で出来た瘴気による蓋のようなものだろう。
だがそれでは防ぎきれず、水の魔力の塊である竜玉は瘴気に侵され、その加護が及んでいた地域も同じようになり、巣の竜も瘴気で気を狂わされた。
……矛盾は無いな?」
彼の言葉に是と答える。ベネディクトが眉を顰めて歯噛みした。
「代替わりを敢行したいけどこうもひっきりなしに瘴気が降ってくる中に次の竜玉のあの老竜を連れて来るのもなぁ……」
たしかにそれで竜玉になった時に問題があっても困る。話が詰まったその時、ベネディクトの頭に紙の束がぽふん、と置かれた。
「手はある。殆ど運任せだがな」
見るとサマウィング大佐がベネディクトの頭に載せた分の他にも紙を抱えて立っていた。
「うわあああっ‼」
落下中です。
いやぁ、竜の懐に飛び込んだんだからそりゃ足場、あるはずもなかったよな、うん。我ながら馬鹿過ぎるわー。あははー。
せめて受け身だけでもとろうとしたが一気に多量の霊力を使った反動か身体に力が入らない。少し休めば入るだろうが休んでる間なんてない。詰んだ。
もう駄目だわこれ。父さん、母さん。先立つ不孝をお許しください。メイ、魔術、頑張れよ……。
信仰してる神様とかはいないけど目を閉じてそんなことを祈っていると、不意に下から強い風が吹き上げて俺の身体を浮かし、落下速度が一瞬遅くなったような気がした。
「っ‼」
驚いて目を開けると同時にドサリと何かを下敷きにして着地する。衝撃はあれど痛みはほぼ無い。どうやらそれのおかげで俺は助かったらしい。
「……生きてる」
「いつつ……。大丈夫か?」
「っ、ベネディクト‼」
背後から聞こえた声に助けてくれたのはベネディクトであったと分かった。彼は俺をしっかりと抱えて俺の下にいる。彼が頭を打っていないか心配になったがその頭の下にある結界が彼の頭を守ったらしい。ワーナーさんだなこれは。流石仕事が出来る男。
「ありがとう、すぐどくな」
「ああ」
力が入らないせいで立ち上がることが出来ない為、ゴロゴロと転がるようにして彼の上から降りる。彼は俺がどいた後すぐに立ち上がって、転がっている俺に手を差し伸べてくれた。ありがたくそれを取るとぐいと引っ張られて足が立つ。まだ少しふらつくがやってきたワーナーさんが支えてくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
竜を見ると未だ藻掻いてはいるが疲れたのか少しその動きが弱くなっているように見えた。それ今のうちだとばかりに調査班が竜玉担当と天井付近の雲担当に分かれて調査を始めている。他の隊員や冒険者たちはそれを妨害しようとする竜の長のブレスやら水球やらを撃ち落としたりしていた。
「ヴェーチェルが風を吹かせてくれて助かった。でないと間に合いそうになかったからさ」
彼の言葉にやっぱりと言うと頷きが返される。
「二回も助けてもらったのか……」
後でちゃんとお礼しないと、と頭のメモに書き込んでいるとアカリ‼ という声と共に後ろから何かに抱きつかれた。なんか当たってる。
「うっ、わ」
「アカリ‼ 今の凄かったな‼ よくやった‼」
「スズメさんっ」
スズメさんが俺を抱きしめてワシャワシャと髪をぐしゃぐしゃにしている。そしてやっぱりなんか当たってる。柔らかい。いやもう何なのか大体分かってはいるけどそれを言おうにも彼女の腕力が強くてそれどころじゃない。でもやっぱり柔らかい。
「スズメさんくるし……っ」
ペシペシとその腕を叩くとああ悪い‼ とやっと解放してもらえた。当たっていたものが離れていく。
足元はもうふらついていない。
「お前が竜の長を串刺しにしてくれたおかげで調査も進みそうだってよ。お手柄だな‼」
「スズメさんが突っ込んでくれたから俺もやろうって思えたんだ」
「っ、お前嬉しいコト言ってくれるじゃねぇかコノヤロウ‼」
「のわっ」
再びワシャワシャと頭を掻き撫ぜる彼女をやり過ごしていると、調査班の人たちがざわついているのに気がつく。
「何か分かったのかもしれない」
そう言って走って行ったベネディクトを追った。
「どうした、問題でもあったのか?」
「ベネット」
調査班のところまで行くと、そこではざわざわと騒がしい彼らのそばでハルイチさんが調査結果が書かれているらしい紙を睨んでいた。彼が大アリだ、と答える。その眉間には峡谷のように深く皺が刻まれている。
「竜玉もあの雲にも問題しかない」
「……具体的に聞こう」
その言葉に頷くと彼は俺たちにその紙を見せた。そこには多くの項目とそれに対応しているらしい数値がズラリと並んでいる。俺にはよく分からないが赤いインクで印が付けられているところの数値がおそらく問題の部分らしいことはわかった。
「この数値は竜玉の劣化部分、つまり竜玉が魔力を精製した際に駄目になる部分だ。これが竜玉全体を占めると竜玉は死ぬ。そしてこっちが竜玉の魔力維持年数……竜玉の年齢だ。スズメ、これを見てなにか気づくことは?」
「えっ、アタシ?」
まるで学校の先生のように説明をするハルイチさんに突然当てられたスズメさんはえっと……と戸惑いながら答える。
「……劣化部分の数値と一緒にパーセンテージが書かれてる。九十九点九強。竜玉の年齢が、二百十八……? これって年寄りなのか、若いのか? てかこのパーセンテージってそれだけ劣化部分が大きいってことなのか? まずくないかコレ?」
「劣化部分の解釈は合ってるな。……待て、そんな顔をするな話を聞け。まだ続くぞ」
俺たちの顔が曇ったのを見た彼がペシペシと魔力維持年数の数値を指先で叩いた。そうは言われても劣化部分がそこまで占めていたら竜玉は死にかけということだ。こんな顔になってしまうのも無理はない。
「二百十八。これは竜玉が二百十八歳であるということを示す。竜玉の平均的な寿命は百二十年から百五十年程。この竜玉はかなりの長寿だ。つまりこいつはいつ死んでもおかしくはない。元々死にかけだったから瘴気にも侵されてしまったのだろう」
「そんな……っ」
じゃあどうすればいいんだ。そんな気持ちが伝わったのかハルイチさんが簡単なことだ、と言う。
「竜玉の代替わりをすればいい」
「竜玉の代替わり?」
なんだそれ、スズメさんが眉を顰めた。俺も分からない。ベネディクトがなるほど代替わりか、と呟いたので聞いてみる。
「竜玉の代替わりって何だ?」
「ああ、竜玉の代替わりってのは古い竜玉から新しい竜玉に代替わりする事だ。竜玉はな、元は竜玉で、命を全うした力の強い竜がなる。この巣の場合は入口で会ったあのデカい竜だな。多分、代替わりをしようとしたところで竜玉があんなことになって、出来なかったんだろう」
「じゃあ、代替わりさえ出来れば……」
「少なくとも、瘴気は浄化出来る」
頷いた彼にやったじゃん、と言うが彼の顔は晴れない。
「……どうした?」
「……それがそうそうできねぇ理由が、あの雲なんだろ?」
言われたハルイチさんがそうだ、と言ってまた別の紙を取り出した。
取り出された紙には何やらグラフのようなものと表が書かれていた。
「これはこの周囲の瘴気と魔力のグラフだ」
ハルイチさんが指差したそれを見ると瘴気を示す線は終始高い数値を表し、逆に魔力を示す線は終始低い数値を表している。……どういうことだこれ?
「この魔力は瘴気が精製された瞬間に発せられる種類のものだ。あの雲が瘴気を精製しているとすればこの魔力の濃度は高いはず。しかし、そうではないとすれば」
「この瘴気は別の場所で精製されたっていうことだな」
ハルイチさんの言葉を継いだベネディクトがそう言って、腕を組んだ。その端正な顔を歪めて面倒なことになったな、と呟く。
「となるとこの瘴気がこっちに流れ込む入口があるのがあの雲の中って考えるのが自然だ。ならあの中では」
空間が歪んでる。
「空間が……」
「歪んでる……?」
「……つまり空間が歪んでいるということはあの雲の中でこの場所と別の場所が繋がっているということですよォ」
一瞬理解しきれなくてスズメさんと一緒にベネディクトの言葉を復唱するとワーナーさんが噛み砕いて教えてくれた。それでなんとか分かって事の重大さに気がつく。
「ちょ、それってどうにかなるもんなのか!?」
空間が歪んで別の場所と繋がるなんて訳が分からない。
……待てよ、別の場所と繋がって……というのはつい昨日体験したばかりじゃないか。けどあれはいつの間にか元に戻っていたし……。
思案しているとハルイチさんが俺の考えを読んだかのように片眉を上げた。
「自然に元に戻る……という手もあるだろう。しかし今この状態でその時を待つのは得策とは言えん。
他はその繋がっている穴を魔術なり何なりで閉じるといものだが、この場にそこまでの空間魔術を扱える者はおらん。異空間を作れるレベルのベネディクトでも不可能に近いだろう。もし出来たとしても魔力を全部持ってかれて暫くは動けなくなるに違いない。
また、竜玉の代替わりが成功すれば竜玉の力で歪みを力業で消すことは出来るだろうがそれがまず出来ない理由が穴からの瘴気だからな。目的と手段が逆転してしまっている」
さらに面倒なことがある、と彼がため息をつく。その様子からして、これまでの話よりももっと大変なことなのだろうと気を引き締める。いや問題ありまくりだな……。大丈夫なのかこの状況……。
「その繋がっている先も先程判明したのだが……。死の森の、毒の泉だったのだ」
「毒の泉ってたしか……」
「泉周辺の瘴気は水属性の魔力を穢しやすい」
かつて読んだ本の知識を手繰り寄せようとするとスズメさんが言ってくれた。さすがは冒険者、こういう知識に強い。ハルイチさんがああ、と頷いて口を開いた。
「これらをふまえ、事の次第はこうだと言える。
元々竜玉は弱っており、近いうちに代替わりが行われる予定だった。
しかし、その前に空間が歪んで毒の泉に繫がり、瘴気が流れ込んできてしまった。おそらくあの雲はなけなしの竜玉の抵抗で出来た瘴気による蓋のようなものだろう。
だがそれでは防ぎきれず、水の魔力の塊である竜玉は瘴気に侵され、その加護が及んでいた地域も同じようになり、巣の竜も瘴気で気を狂わされた。
……矛盾は無いな?」
彼の言葉に是と答える。ベネディクトが眉を顰めて歯噛みした。
「代替わりを敢行したいけどこうもひっきりなしに瘴気が降ってくる中に次の竜玉のあの老竜を連れて来るのもなぁ……」
たしかにそれで竜玉になった時に問題があっても困る。話が詰まったその時、ベネディクトの頭に紙の束がぽふん、と置かれた。
「手はある。殆ど運任せだがな」
見るとサマウィング大佐がベネディクトの頭に載せた分の他にも紙を抱えて立っていた。
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