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第一章 大いなる海竜種
37 俺は竜を産んだ覚えはない
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生まれたばかりの竜玉は大きな一つの水晶のようで、こう見ると竜玉が竜から出来たものだとよく分かる。月日が経って細かい部分は削れていってしまうのだろうが、今目の前あるこの竜玉はあの老竜をそのまま型取りしたかのような精巧な彫刻に見える。
キラキラと光るそれを中心にして竜玉の間に清らかな魔力が拡がっていく。瘴気で穢されていた水もみるみるうちに聖水のような美しいものへと変わった。
『グルッ』
俺に頭を擦り寄せていた竜が小さく唸る。注目するとその巨体が少しずつ縮んでいくのが目に映った。
「え……っ!?」
どんどん縮んだ竜は最後には俺の腕に収まる。
「お前……っ」
『キュイ‼』
そこにいたのはあの子竜で、目をくりくりとさせて俺に抱きついてきた。小さな鉤爪を俺の服に引っ掛けて、翼を広げて俺の二の腕を包み込む。幸せそうなその顔には巨竜の面影が見えた。
俺がそれに戸惑っているうちに竜の長は竜玉によって回復したらしく、立ち上がって堂々とした様子でこちらを見据える。そして一度頭を下げるように体勢を低くした後、一声天に向かって咆哮を上げた。
『グオアアアアアアアア』
それに呼応するように巣の至る所からも竜の咆哮が聞こえてくる。
こうして、全てが終わったのだった。
「うわぁ、海キレイ‼」
竜の巣から出てきて、外の景色を見たメイが声を上げる。時間帯的にはもう夕方だが、常夏のこの王国は陽が落ちるのが遅い。未だサンサンと輝く太陽に照らされた海面は朝のあの様が嘘のように美しく陽の光を反射している。
「出航準備が整うまでまだ時間あるから、それまで遊んでたらどうだ?」
「いいんですかっ!?」
ベネディクトが笑って言うとメイはきゃー、と楽しそうに岩場の端の砂浜まで走って行った。彼は元気だなぁ、と目尻を下げる。
「ベネディクト、お前は大丈夫なのか?」
実を言うとついさっきまで彼が魔法を使った反動でほとんど動けなかったのを知っている。ここまでもワーナーさんに背負って来てもらっていたぐらいだ。俺が首を傾げると笑って返される。
「んー、ちょっとしんどいけど俺もいつまでも動けない程ヤワじゃないからな。何日か魔術は使えそうにないけど気分はいい‼
……けど次からはやり方が分かっててもあまり魔法は使わないようにしないとなぁ」
「ああ。ワーナーさんの狼狽えぶり、凄かったもんな」
竜玉による浄化を見届けた直後に彼が倒れた時の従者の姿を思い浮かべる。ベネディクトより顔真っ青だったなぁ……。
話しながら岩場の磯に溜まった水に子竜に足をつけさせて遊ばせる。水の冷たさにキュイキュイと鳴いてぱしゃぱしゃと水が跳ねた。
『ママー‼』
「うん、さっきも言ったけど俺は竜を産んだ覚えはないからなー?」
『ママー‼』
あと何故かは知らないけどこいつはさっきから俺をママと呼ぶ。いやもうほんと訳分かんねぇ。その上この声は竜の長の時とは違って皆に聞こえるみたいで、呼ばれる度に俺に注目が集まって恥ずかしい。てか子供の竜って人間との会話不可能なんじゃなかったのか。
しかも、親じゃないと言って竜の長に預けようとしたがどうやらこの子竜はこの巣の竜ではないらしい。こんな竜がうちの巣の竜でたまるかみたいなジェスチャーをしていた。じゃあこいつどこの子なんだよ。
ハルイチさんに相談してみたら後で教えてやろうと言われた。なんか彼にしては不安そうな顔をしていたけどこれは大丈夫な案件なのだろうか。
「取り敢えず後で分かるんならいっか」
考えても余計分からなくなるから、そう思い直して子竜を眺めた。
「よお。水場で子供遊ばせてやってるのか、お母さん?」
「……あまりからかわないでくれよ、スズメさん」
子竜を抱えてちゃぷちゃぷと水につけてやっているとやってきたスズメさんにからかわれる。向こうで遊んでいたはずのメイが今度は子竜に水をかけて戯れだしたので子竜は彼女に預けてスズメさんに言い返した。
「何度も言うけど俺は産んだ覚えはないし産めないっての。種族的な理由と性別的な理由で!」
「種族によっちゃぁ同姓だろうが別種族だろうが産ませられるって聞いたことあるぞ」
「ふざけんなそんな目で見んな!」
「冗談だって」
そう言って彼女は葉巻を取り出して吸口を切ろうとする。ちょっと待った。
「子供がいるから向こうで!」
「……もう母親じゃねぇか」
「そうだよ、子供のすぐそばなんだから」
「うおっ、ランお前いたのかよ」
ひょこっと出てきて注意をしたランを彼女が化け物を見るような目で見る。ランは肩にルリを乗せて眉を寄せていた。
ルリは瘴気で気分が悪かったのか竜玉の間からランの服のポケットに入ったっきりでだんまりだったが、どうやらもう大丈夫らしい。水に浸かることはできないがご機嫌だ。
「来たんだよ、ついさっき」
呆れたように彼が言うとスズメさんは苦い顔をして葉巻をしまう。そこからくどくどとランのお説教が始まった。座らされた彼女の頭がどんどん下がっていく。
見ているこっちがなんだかかわいそうに見えてきた時、後ろから声がした。
「なんだ、こんなところにいたのか」
「ハルイチさん」
ふりむくとハルイチさんがあの旗を持って立っている。ベネディクトが魔術を使えない状態だからあの異空間にしまうことが出来ないのだろう。
「やっと教えてくれるのか?」
子竜を水からあげて鞄から取り出した手ぬぐいで拭いてやりながら聞く。彼はそう急かすな、とため息をついた。
「ここは人が多い」
人気のない方に足を向ける彼を追いかける。
「その子竜だけ連れてこい」
その言葉について来ようとしたメイに待つように言ってから踏み出した。
ハルイチさんについて歩いていくと、竜の巣の入口とは別の洞窟の前まで来た。
「ただの横穴だ。竜はいまい」
そう言う彼に従って中に入り、丁度いい岩に腰を下ろす。子竜は抱えたままだ。ハルイチさんも同じように腰を下ろすと、俺の目をじっと見つめる。真っ暗な夜の闇のような瞳は吸い込まれそうで、少し恐怖さえも感じた。
彼は暫くそうすると、ぽつりと言う。
「本当はな、ここまできてお前に言おうか言わまいか、迷っている」
思いにもよらなかった言葉に声も出ずに首を傾げた。迷う? 言うか言わないかを? そんなにまずいことなのか? 子竜も俺の真似をして首をこてんと傾げる。
彼の言葉は続く。
「我のように傍から見ている分には先が楽しみな状態ではあるが……。もしかすると、当事者であるお前を傷付ける結果となるやもしれん。だが、我はそれを知り、受け止めるべきだと考えている。……ワーナーには反対されたがな。
お前が知りたくない、と言うのならば言わん。お前に選んでもらう」
静かに紡がれるそれを黙って聞く。そして俺は言った。
「あんた……ずるい人だなぁ」
俯いていたハルイチさんが顔を上げる。
「そんなこと言われたら余計知りたくなるってモンだろ?」
彼が本当にいいのか、と言うように黙り込んだ。ここまで来たらめちゃくちゃ知りたい。俺はもう一押しとばかりに続ける。
「なぁ、教えてくれよ。でないとずーっと教えろ教えろうるさいぞ? 俺は」
そうしてようやっと言う気になってくれたようでその口が開かれた。
「……アカリ。お前は、人間ではない」
キラキラと光るそれを中心にして竜玉の間に清らかな魔力が拡がっていく。瘴気で穢されていた水もみるみるうちに聖水のような美しいものへと変わった。
『グルッ』
俺に頭を擦り寄せていた竜が小さく唸る。注目するとその巨体が少しずつ縮んでいくのが目に映った。
「え……っ!?」
どんどん縮んだ竜は最後には俺の腕に収まる。
「お前……っ」
『キュイ‼』
そこにいたのはあの子竜で、目をくりくりとさせて俺に抱きついてきた。小さな鉤爪を俺の服に引っ掛けて、翼を広げて俺の二の腕を包み込む。幸せそうなその顔には巨竜の面影が見えた。
俺がそれに戸惑っているうちに竜の長は竜玉によって回復したらしく、立ち上がって堂々とした様子でこちらを見据える。そして一度頭を下げるように体勢を低くした後、一声天に向かって咆哮を上げた。
『グオアアアアアアアア』
それに呼応するように巣の至る所からも竜の咆哮が聞こえてくる。
こうして、全てが終わったのだった。
「うわぁ、海キレイ‼」
竜の巣から出てきて、外の景色を見たメイが声を上げる。時間帯的にはもう夕方だが、常夏のこの王国は陽が落ちるのが遅い。未だサンサンと輝く太陽に照らされた海面は朝のあの様が嘘のように美しく陽の光を反射している。
「出航準備が整うまでまだ時間あるから、それまで遊んでたらどうだ?」
「いいんですかっ!?」
ベネディクトが笑って言うとメイはきゃー、と楽しそうに岩場の端の砂浜まで走って行った。彼は元気だなぁ、と目尻を下げる。
「ベネディクト、お前は大丈夫なのか?」
実を言うとついさっきまで彼が魔法を使った反動でほとんど動けなかったのを知っている。ここまでもワーナーさんに背負って来てもらっていたぐらいだ。俺が首を傾げると笑って返される。
「んー、ちょっとしんどいけど俺もいつまでも動けない程ヤワじゃないからな。何日か魔術は使えそうにないけど気分はいい‼
……けど次からはやり方が分かっててもあまり魔法は使わないようにしないとなぁ」
「ああ。ワーナーさんの狼狽えぶり、凄かったもんな」
竜玉による浄化を見届けた直後に彼が倒れた時の従者の姿を思い浮かべる。ベネディクトより顔真っ青だったなぁ……。
話しながら岩場の磯に溜まった水に子竜に足をつけさせて遊ばせる。水の冷たさにキュイキュイと鳴いてぱしゃぱしゃと水が跳ねた。
『ママー‼』
「うん、さっきも言ったけど俺は竜を産んだ覚えはないからなー?」
『ママー‼』
あと何故かは知らないけどこいつはさっきから俺をママと呼ぶ。いやもうほんと訳分かんねぇ。その上この声は竜の長の時とは違って皆に聞こえるみたいで、呼ばれる度に俺に注目が集まって恥ずかしい。てか子供の竜って人間との会話不可能なんじゃなかったのか。
しかも、親じゃないと言って竜の長に預けようとしたがどうやらこの子竜はこの巣の竜ではないらしい。こんな竜がうちの巣の竜でたまるかみたいなジェスチャーをしていた。じゃあこいつどこの子なんだよ。
ハルイチさんに相談してみたら後で教えてやろうと言われた。なんか彼にしては不安そうな顔をしていたけどこれは大丈夫な案件なのだろうか。
「取り敢えず後で分かるんならいっか」
考えても余計分からなくなるから、そう思い直して子竜を眺めた。
「よお。水場で子供遊ばせてやってるのか、お母さん?」
「……あまりからかわないでくれよ、スズメさん」
子竜を抱えてちゃぷちゃぷと水につけてやっているとやってきたスズメさんにからかわれる。向こうで遊んでいたはずのメイが今度は子竜に水をかけて戯れだしたので子竜は彼女に預けてスズメさんに言い返した。
「何度も言うけど俺は産んだ覚えはないし産めないっての。種族的な理由と性別的な理由で!」
「種族によっちゃぁ同姓だろうが別種族だろうが産ませられるって聞いたことあるぞ」
「ふざけんなそんな目で見んな!」
「冗談だって」
そう言って彼女は葉巻を取り出して吸口を切ろうとする。ちょっと待った。
「子供がいるから向こうで!」
「……もう母親じゃねぇか」
「そうだよ、子供のすぐそばなんだから」
「うおっ、ランお前いたのかよ」
ひょこっと出てきて注意をしたランを彼女が化け物を見るような目で見る。ランは肩にルリを乗せて眉を寄せていた。
ルリは瘴気で気分が悪かったのか竜玉の間からランの服のポケットに入ったっきりでだんまりだったが、どうやらもう大丈夫らしい。水に浸かることはできないがご機嫌だ。
「来たんだよ、ついさっき」
呆れたように彼が言うとスズメさんは苦い顔をして葉巻をしまう。そこからくどくどとランのお説教が始まった。座らされた彼女の頭がどんどん下がっていく。
見ているこっちがなんだかかわいそうに見えてきた時、後ろから声がした。
「なんだ、こんなところにいたのか」
「ハルイチさん」
ふりむくとハルイチさんがあの旗を持って立っている。ベネディクトが魔術を使えない状態だからあの異空間にしまうことが出来ないのだろう。
「やっと教えてくれるのか?」
子竜を水からあげて鞄から取り出した手ぬぐいで拭いてやりながら聞く。彼はそう急かすな、とため息をついた。
「ここは人が多い」
人気のない方に足を向ける彼を追いかける。
「その子竜だけ連れてこい」
その言葉について来ようとしたメイに待つように言ってから踏み出した。
ハルイチさんについて歩いていくと、竜の巣の入口とは別の洞窟の前まで来た。
「ただの横穴だ。竜はいまい」
そう言う彼に従って中に入り、丁度いい岩に腰を下ろす。子竜は抱えたままだ。ハルイチさんも同じように腰を下ろすと、俺の目をじっと見つめる。真っ暗な夜の闇のような瞳は吸い込まれそうで、少し恐怖さえも感じた。
彼は暫くそうすると、ぽつりと言う。
「本当はな、ここまできてお前に言おうか言わまいか、迷っている」
思いにもよらなかった言葉に声も出ずに首を傾げた。迷う? 言うか言わないかを? そんなにまずいことなのか? 子竜も俺の真似をして首をこてんと傾げる。
彼の言葉は続く。
「我のように傍から見ている分には先が楽しみな状態ではあるが……。もしかすると、当事者であるお前を傷付ける結果となるやもしれん。だが、我はそれを知り、受け止めるべきだと考えている。……ワーナーには反対されたがな。
お前が知りたくない、と言うのならば言わん。お前に選んでもらう」
静かに紡がれるそれを黙って聞く。そして俺は言った。
「あんた……ずるい人だなぁ」
俯いていたハルイチさんが顔を上げる。
「そんなこと言われたら余計知りたくなるってモンだろ?」
彼が本当にいいのか、と言うように黙り込んだ。ここまで来たらめちゃくちゃ知りたい。俺はもう一押しとばかりに続ける。
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