私は絶対間違った

Asagi

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1.話の発端はいじめ

 春になると思い出すのは、この顔に載っている黒いやつを、鬱陶しいと思いながらも、外せない私へ変化させた、愚かな決断の記憶だ。

 私の住む地方は、中学生になると大半は地元の公立学校に進学する。小学校3つ分ぐらいが1つの中学に進むので入学した直後は知らない人も多い。私の出身校は中でもマイノリティで、学区が中学校同士の真ん中に位置する為、進む先は分割されてしまう。ただでさえ人数も少ないので私達の出身校の序列は下に見られ、肩身が狭い思いをする。私は、1年のクラスで小学校からの仲の良かった佳奈と同じになれたことで、孤独に苛まれる事は無かった。肩身が狭い同士、特に私は、気持ち的に依存していたかもしれない。
 佳奈とは、小学校の時からお互いの家を行来していた。親が共働きと言うこともあり、学童保育も低学年のうちは一緒だった。
 佳奈は、小さい頃から水泳を習っていた。早熟で小6の終わりの頃には、身長165cmで小麦色の肌にショートカット、目鼻立ちははっきりしていて、活発で陽キャな彼女は眩しく見えた。私は、どちらかというとインドアで、ピアノを少し習ったが、飽き性で続かない。だから、佳奈は憧れの友人であった。そんな佳奈は、6年の夏休み明けに、黒板の文字が見えないと、席を前にしてもらうという事があった。その後、しかめっ面で黒板をみていた様子が印象に残っている。眼科に行ったり色々目に良いという事をやっていたそうだが、ついに眼鏡を作る事になった。健康優良児の佳奈が授業中にだけ眼鏡をかける姿は、レア感があり、クラス中の注目の的であった。黒いボストン型のメタルフレームの眼鏡は、長身と相まって大人っぽく見えた。
 そんな彼女と同じクラスになり、心強く思った。
 中学の入学式、佳奈は少し伸ばした髪を後ろで縛り、黒いセルフレームの眼鏡をかけた、制服姿でやってきた。この半年弱で、視力が低下し、常時眼鏡が必要になったそうだ。また、歯の矯正を始め、小学校の頃の印象とは違い、かっちりした印象に映った。入学式の後のオリエンテーションを終え、教室へ向かう途中、私と佳奈は2人で廊下を歩いていた。おそらく他の小学校出身の男子が、
「お前先生かと思った。婆みたいな眼鏡だな。」

と心ない言葉を吐き捨て去って行った。
 その場で佳奈は泣き崩れ、その日はずっと俯いたまま、暗い顔をしていた。
 私は、何もフォロー出来ない自分が情けなくて、悔しい気持ちを覚えている。
 翌日以降佳奈は節目がちで、下を向きクラスの角で大人しく座っている様になり、最初の日曜日明けの、月曜体調不良で休むと言う事になった。
 私は、その日のプリントを届ける事になり、放課後佳奈の家に向かった。
 佳奈は、独りで家に居た。水色のスウェット姿で、眼鏡を外した姿で迎えてくれた。
 私を見ると笑顔を見せて礼を言うと、部屋で少し休んで行けと、招き入れてくれた。
 体調不良と言うのは、嘘で、学校に行く気持ちが乗らなかったそうだ。
「明日は、来られるかな?」
「それは、嫌」と言うと、少し涙を溜めている。
「佳奈は大丈夫だよ。かわいいし眼鏡だっておしゃれだし…」と言い終わる前に、
「そういう問題じゃない。外したくても外せないんだよ。嫌でもかけてるのにそう言うのイジられるのが許せない。」
と感情的に言う。
「そうだよね。辛いね」
とフォローしたつもりだったが、
「あんたに気持ちは分からない。」
火に油だった。
「えっ、どういう事?」
「あんたは眼鏡の辛さは分からないでしょ。と言ってんの」
 確かに私は、目が良い。家族みんな視力1.5だ。でも、佳奈を助けられないのは嫌だ!と咄嗟に言った言葉が、
「じゃあ私も眼鏡かけるよ。」
と言うセリフ。今でも何でそうなったのか分からない。
「えっ、だってあんた、伊達でも買うの、学校は伊達駄目だし。」
「佳奈の前の眼鏡貸してよ」
「えっ、マジで?」
とか言いつつも佳奈は颯爽と自分の学習机の上にあったセルフレームの眼鏡をかけると、袖机の中から眼鏡ケースを取り出した。あ~これは見覚えがあった。佳奈が最初に作った眼鏡だ。私は、それを受け取り恐る恐るかける。拍子抜けしたのは、視界はほとんど変わらない事。裸眼でもよく見えるし、眼鏡のレンズを通して見ても視界は変わらない。
「私が視力0.5位の時のだから、ちょっとあんたには目がきついかもしれないね。」
なんて、嬉しそうにマウントをとる佳奈。私は、外して返そうとすると、
「じゃあ、もう使ってないからそれ貸しておくね」
と、乗り気になっている。私は、仕方なく自分の鞄にそれをしまう。佳奈は
「明日は一緒に学校に行こうね。一緒だったら行ける」
と言う。とりあえず佳奈は学校に来られるならと思い、その日は家に帰った。

 家に帰ると私は眼鏡を取り出しかけて母の鏡台で良く顔を見た。意外に似合うかもと思いながら、苦笑して眼鏡を外した。何してんだろう私と、我に返り。明日佳奈に返そうとまた鞄にしまう。

 翌朝、佳奈との待ち合わせ場所に着くと彼女は、居た。「おはよう、あのね佳奈…」切り出そうとしたら、
「昨日はありがとう。今日から宜しくお願いします。」
と言われてしまう。
「持ってきた?」
「えっ、うん。」
と言うと、鞄から出さざるを得ない。取り出してかける私。始めて気づいた。外でかけると、ちょっと視界が歪んでる。
 私は猛烈に恥ずかしさが襲い、下を向いた。誰かにこの姿を見られようものなら死んでしまいたい。佳奈は、嬉しそうに私を見ている。
 私は、チラチラ先を見ながら隠れるように学校に向かう。教室に着くと、私達は席に着くなり、隣の子に話かけられた。
「あれ、今日は眼鏡?私も最近欲しいな~って思ってるんだ。」
私は愛想笑いで誤魔化している。
「視力どのくらい?」
なんて聞かれて
「いや~、あの」
と困っていると、佳奈が助け舟なのか、私の退路を断ちに来たか、
「0.5位だよね~」
なんて話しに入って来た。
私は困惑するだけで早くこの話題を終わらせたかった。そうこうする内に先生が来た。
先生は、女性で、くりっとした大きな瞳が印象的で年齢はヒミツと言う小柄な伊藤先生。
朝礼で、私の姿を見た先生は、
「あら?眼鏡デビューかしら?」
と言う。クラス中の目が私に向かい俯いてしまった。
「先生も実はコンタクトです。眼鏡デビューは恥ずかしかったけど、今は全然恥ずかしさもないよ。」
とフォローしてくれた。でもそのフォロー私は要らないです。だって目が良いから。ただ、こうして私はクラスで眼鏡デビューが認知されてしまうのでした。変な事になったが、佳奈が学校に来られて良かった。







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