僕が主人公じゃない方です

脇役筆頭

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第3章 塩漬系主人公

かくれんぼは主人公じゃない

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突き出した手は大人ではなく子供の手。自然と墓石を確認するが、するまでもなく俺が建てた墓。セカンドの墓である。

「…出れないんじゃない?」

身構えている俺と手を見てレイが呆れていた。確かに手をバタバタしているがそれ以上のアクションはしてこない。しょうがないので引っ張り出してあげる。

「少し焦ってしまったんだ。出れなかったわけではない。」

不貞腐れたように出てきたのは土だらけの美少年だった。例のごとく服は来ていないので俺の来ていたシャツを渡すと、反射的にありがとう、と言われた。多分ではなく確実にセカンドである。

「名前は?」

「実は何も覚えてない。何か重要な使命があったのは確かだ。」

セカンドであるかはわからないな。レイにはセカンドのことは名前以外話していない。もしかしたら違うし、説明が面倒だからだ。

俺は話を聞きながら、美少年を掘り出した穴を掘り返し愚者の死体がないか探す。

土が硬いな。最近掘り起こしたわけではないようだ。セカンドの墓石にかける予定だった残り半分のバケツの水を穴に流し込み柔らかくする。

「何を…?まあいい、あんたたち墓参りに毎日来ていたし、自分のこと知ってるよな。自分のことを教えてくれないか?」

死体がない。レイを見て首を振ると、そう、とレイが欠伸あくびをする。まあ何かしら死体が寄り集まって子供ができたと考えるのが妥当か。血がたくさん流れていたし、いろいろ足りなかったついでに記憶もなくなったのだろう。

土に埋めて毎日水をあげてみるものだな。まさか子供が生えてくるとは。

「おそらく刑務官だった。それとセカ…は子供じゃなかった。」

穴を埋めながら、セカンドと口走りそうになりごまかす。名前がないのは面倒だな。せか?と聞き返してくるガキを無視し、せっせと穴を埋める。何かいい名前を付けてやるか。

「こいつどうするの?仮に連れていくにしてもルベルに会わせる?」

名前などどうでもよいか。レイの発言に現状の問題を思い出す。こいつをどうするか。まてよ…?レイ…セカンド…。0、1、2、揃うな。このガキはワンと名付けよう。

「ルベルとは誰か知らないが、自分の知り合いなら会いたい。まあ、自分はあんたたちの方針に合わせる。」

記憶が戻るまでは、と言いたげだ。使命があったといっていたな。その使命を思い出すために今は動くといった具合か。代わりといってはあれだが、氏名を与えてやろうじゃないか。

「とりあえずこいつの名前はワンだ。」

「構わない。」

二つ返事でガキの名前が決まる。

「そう…。」

レイが目を細めながら反応をした後、ぶりっ子して満面の笑みを浮かべる。

「じゃあワン、一緒にかくれんぼしよっか!」

子供向けの声のトーン。じゃあって何。かくれんぼ思いつく要素なくなかった?しかし、普段けだるそうなギャップから、気持ち悪さよりも不覚にも少しかわいいと感じてしまった。

「なぜ?」

ワンがレイの意図をくみ取れず首をかしげると舌打ちをするレイ。かくれんぼをやることに疑問を持たず、どこに隠れようか考えていた自分が恥ずかしくなってきた。

「かわいくない子供。鬼やるからさっさと隠れて。100待つ。」

レイはそう言うと、目を閉じて数を数え始めた。ワンも展開の速さに困惑しているようだが、俺は冷静になりあたりを見回す。

ここは墓地。墓石以外に何もない、というか自分で掃除してしまった。ここにきてそれが仇になるとは。しかもここ。ブライが墓地から少し離れた場所に俺の墓を建てたので他は何もない。

つまり周りの茂みに向かうのが正解だが、俺はなぜこの世に虫が存在しているのかと神に抗議するぐらいには、虫が好きではない。いたとしても見つけたら願いが叶うぐらいには数を減らすべきだ。

したがって、茂みの中はない。ここから少し離れた墓地にある墓石群、または死体置き場にでも身を隠そう。俺は瞬時にそう考えて、走り出す。

馬鹿馬鹿しいと数を数えるレイを見ていたワンも俺の行動に驚くが、諦めたようにため息をつきながらだるそうに茂みに入っていった。

毎日墓地がある場所を遠目に見ていたが、実際に向かうのは初めてだな。ここは少し山になっているようで少し下る。思ったより遠かったが辿り着いた。

決まった間隔で並べてある墓。中でも一つ異彩と異臭を放つ墓があった。

異臭の正体はごみであった。異彩の正体は大きな墓石であることと、その墓石が真っ二つに割れていることだ。名前は大きく書いてあるが手入れがされていないどころが破壊されているので読みにくい。けど、どこかで見た記憶が。えーと…。

「リルレット、そう書いてあった。」

なるほど、リルレットか。どおりで聞いたことがある。すぐに反応をせずに声の方に視線を向けると、黒いスーツを着たおっさんが立っていた。黒いスーツ。リルレット。

この二つに連想される事柄は総じて、『超越』について最も深くまで知った連中。不死身一家と名高いリルレット家である。いろいろ噂は聞くが、名前が独り歩きしているため詳しくは知らない。そんなことより、問題なのは一つ。

不死身一家とは昔話に出てくる空想の存在のはずなのだ。『超越』という欲に手を伸ばし過ぎて痛い目を見る話でよく知られる。忌み嫌われる象徴として描かれることが多く、そのせいで墓石もこの惨状。ここにも実在していたとは驚きである。

「ありがとうございます。失礼ですが、あなたのお名前をお聞きしても…?」

おそらく反応を楽しむために大の大人が黒のスーツを着て…。悪ふざけとしては丁度良いのか?

おっさんは俺の返答に驚いていた。リルレットとは恐怖の象徴でもあるため、驚かないことに驚いたようだ。それにしても驚きすぎではないだろうか。

驚愕のあまり、表情は凍り付き、目を見開いている。真顔は面白いが目が怖い。思わず苦笑いすると、すぐに表情が緩み大きく笑いだす。

「いや、失礼失礼。まさか反応が返ってくるとは。申し遅れましたな。我が名はベイク・リルレット。」

そういうと、ゆっくりと上がっていくベイク。まだ茶番を続けるのか、どうせ本名ではないだろう…ん?上がって…?

「いや、故ベイク・リルレットと名乗るべきでしたな。」

空中に浮かびながら俺の表情に満足げに笑うベイクは、紛れもない幽霊であった。
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