僕が主人公じゃない方です

脇役筆頭

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第3章 塩漬系主人公

静かに過ごすのは主人公じゃない

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墓参りに行くときワンに声をかけた。レイはどっちでもいいんじゃない?といっていたのでついてくるかワン本人に決めさせた。暇だから、とついてきた。

ワンは俺たちと違い腹が減るようで、ルベルがおいていった飯を食い終わるまで待ってから出発した。そういえば食料はどこから調達していたのだろう。

待っている間暇なのでルベルの部屋を物色し、頑丈そうで汚れが目立たない服を拝借する。といっても切れそうな服はなく、目についたのは机の上に畳んである服。黒いフードのついたコート。かっこつけたような見た目なので少し気が引けるが、よく死ぬ俺にとって頑丈そうで黒い以上のオーダーはない。

加えて添えるように腰につけるポーチも置いてあった。持って行けということか。ベルトのような頑丈な皮紐?というのだろうか。腰と分離しなければ、まずなくすことはないだろう。とりあえず大事な睡眠薬を入れておく。

俺が黒っぽいズボンをはき終わるとワンが食べ終わったとレイとともに部屋に入ってきた。そのまま向かってもいいと思ったが、教本が目に入りこれも持っていくことにした。

水を汲んでいつもの道を歩き出す。

しかしいつもよりも軽いバケツ。半分になるだけでこれほど楽になるとは。

俺はついてきたワンを見て笑みがこぼれる。もうお前の墓には水をやらないぞ。また子供が生えてきたらたまったものではないしな。

ワンは何かを大事そうに握っているが、それが何なのか見当もつかない。虫を捕まえていないだろうな…。家じゃ絶対飼わないからな。

レイは気分転換に鳥を追いかけまわしていた。鳥には当然見えないのだが、それをいいことに魔法を使って驚かせて遊んでいる。

額の汗を拭いながら、ピピピ!っと飛んでいく鳥を眺める。いつになくいい天気だ。心が安らぐ。日差しは強く暑さすら感じるが、歩いている木陰は冷たいと感じるほど涼しかった。

下を見ながら歩くワンにルベルと何か話したのかと聞いてみる。

「神がどうとか、また自分をからかってきた。」

ルベルの思いは一方通行だったようだ。

「体の調子は?」

一応生えてきてから間もない植物だ。干からびて針のようになってしまってはかわいそうだと、一応気にかけてやる。

「悪くなった覚えはないが。」

思った以上に捻くれた答えが返ってくる。下を向いたままなので感情が読み取れない。ともかく何ともないようだ。干からびないよう水を上げたら、地面に埋まっていた時の要領で大きくなるのではないか、記憶が戻るのではないかと心配していたので安心する。

「魔法は使えるの?」

俺とワンの会話にレイが割り込んできた。返答に困っていたので、もしかしたら助けてくれたのかもしれない…いや、そんなわけないか。

「不明。」

興味なさそうな発言とは裏腹に、顔を上げてレイを見るワン。確かにどうでもいい内容だったが、俺とレイに見てわかる対応の差を出さないでくれ…。

「魔力放出は覚えてない?りきむ感じ。」

何やらレクチャーしているが、俺には関係ないな。そのまま先を歩くと後方から、違う、こう!とレイの声が聞こえ、俺の頭に空気の塊をぶつけてくる。

少し暑かったので気持ちいい。ポンポンと飛んでくる風が後頭部をとらえ、目まで垂らした俺の前髪を揺らす。おそらく痛くない程度に抑えてくれているのだろう。

そう思ったとき、突然何かが俺の左足を抉り取っていく。耐えることもできず体がのけぞるが、衝撃でバケツの水をこぼすまいと瞬時に手を離した自分を称えたい。

そのまま地面に転がり、虚無を感じながら土埃にせき込む。

何が起きたのかと、そう考えつつもレイの悪ふざけだと思い、倒れたまま青空を眺めていると、思ったより慌てたレイが俺に寄ってきた。

「大丈夫!?」

流石に加害者でその反応は…。いや、レイにしてはやりすぎか?というかレイが魔法で俺に危害を加えたことはまだなかった。様子がおかしいので起き上がって左足を見てみると…。

バケツは倒れずに立っていた。しかし、その横を見てゾッとする。俺が歩いていた場所の地面が少し抉れてなくなっていた。えぐれ方的にワンとレイがいた場所から放射状になっている。

「…。」

直撃していたらどうなていたんだ…。殺意しか感じない痕跡を前にぼーっとしていると、ワンが申し訳なさそうに俺の左足を持ってきた。

「申し訳ない。出力がおかしかったようだ。」

話を詳しく聞いてみると、これはワンの魔法のようだった。ワンの右手にはわずかに風の魔法陣。レイが魔法陣を描いてワンが放ったら想像以上の威力になってしまったらしい。

口喧嘩を始める二人をよそにやはり痛む再生に悶えつつ、俺はあることに気が付く。左足が持ってかれたとき、全く痛みを感じなかった気がする。気のせいか?

俺が気にしなくていいと言うと、二人とも静かになったが、先ほどまでの穏やかな空気がなくなってしまった。しかし俺はそれどころではなく、例の如く体に何も支障はないのだが、ワンの魔法の威力に精神的に支障がでていた。

まさか、ワンまでもとんでもない魔力を…。俺のできる風の魔法の限度は、体が押されるぐらいの強風だ。うまく当てれば倒せるが…。

俺が短くなったズボンの丈をみると、ワンが悲しそうにバケツを持つと言い出した。俺は返事の代わりに視線を前方に向けて、残り僅かな道のりを歩き出す。

レイは特に何かするでもなく前を飛んでいる。しかし、いつもよりつまらなそうに静かにしているな。ネチネチいうタイプではないが、原因が自分にあると気にしているのかばつが悪そうな感じだ。

空気がやばいな。

どうしたものかと考えてると、墓についたタイミングでレイが振り返った。こちらを見ずに手を後ろに回したままもじもじしたと思ったら、そのまま消えてしまった。

俺の、気にしなくていい、という言葉は少し無関心すぎたかもしれないな。気をつけろ、とでも言ってあげた方がよかったのかもしれない。

いつも通り墓回りを掃除し、水をかけていく。水をかけ終わると、ワンが横から俺の墓の前に平たい石を置き、その上に艶やかなどんぐりを置いた。

なるほど、お供えか。

そういえば何か持ってこようと考えていたのだった。今持っているもので丁度いいもの…。そういえばと、捨てる予定で持ってきた教本を水溜まりになっている場所に落とす。べしゃっと音を立てて茶色く染まっていく教本。

俺は自分の墓に向き直り、改めてポーチから干からびた植物をひとかけら取り出す。確かひとかけらで十分だったよなと上空を見回し、レイが消えたことを思い出す。

次話題に困ったら、見えない状態でもこちらの様子をうかがえるか聞いてみるか。腰を落として石の上を軽く払い、どんぐりの横に棘を添える。

「なんだそのゴミ。」

眉間にしわを寄せ干からびた植物のかけらに目を凝らすワン。まあゴミに見えるわな。俺がワンの方を見ていると、少し強い風が吹きゴミを上空へと巻き上げ、墓地の方へと持って行ってしまった。

俺は立ち上がりゴミが飛んで行ったリルレットの墓のある墓地を眺める。日が昇っている間に来るのは初めてで、墓地の奥にビークの街並みがよく見える。いい景色だな。

「いや、死者もよく眠れるようにって思って。」
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