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ドラゴンスレイヤーが帰ってこない!!!

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 ドラゴンスレイヤーの朝は早い。いついかなる時に通報があってもいいよう睡眠は交代で行い、装備も常に万全を期している。

 今日もドラゴンスレイヤー事務所では海野が新装備の開発に勤しんでいた。一人で。

__あれ?

海野「あ、よっ!ミズミっち。」

 事務所で一人きりだった海野が手を振ってくる。

__他の皆さんは?

海野「え?……あぁ、ん。」

 海野は口元を何やらテレビの方へ尖らせながらリモコンで電源を点けた。



__ポチッ

水着アイドル「せーの。」

水着アイドルの皆さん「もげたて!!π乙だらけの水・泳・大・会!!わーーーい!!」

司会「さぁ!本日もやって参りました笑あり涙ありポロリもあるかもしれない新感覚バラエティ!まずはこの競技から!!」

__ウキウキ!魅惑の浮島八艘渡り!!

ナレーション『プールに設置された浮島を渡って端から端まで渡りきろう!制限時間は3分!水に落ちたらもちろん即失格だ!』

司会「さらに今回はライフセーバーとしてスペシャルゲストをお迎えしています! 
今、話題沸騰中!ドラゴンスレイヤーズの“十文小吉”さんです!!」

__ブクブクブク…バシャン!!

水中から現れる十文「グヘヘ…!今日はちょっとHなライフセーバーさんがみんなをレスキューしちゃうぞ!!」

水着アイドルの皆さん「きゃーっ!!」

十文「ふーじこちゃーーーん!!」

__ザパーン!

司会「さて、水着美女達は百発百中のドラゴンスレイヤーから逃れることができるのか!?はたまたドラゴンよろしく捕獲されてしまうのか!?大波乱の第一競技はCMのあと__。」



__ポチッ

ナレーション『未開のジャングルに生息すると言われている謎の猿人・チンパット。その歴史は紀元前、古代人との因縁から始まり今も文明を転覆せんと牙を研いでいるなどの噂が学会の間で囁かれている。
我々は真相を探るべくある人物に白羽の矢を立てた。』

根鎌源治、「お前たち、油断するなよ。ジャングルでは常に死と隣り合わせだからな。」

隊員の皆さん「はい!隊長!」

ナレーション『彼の名前は“根鎌源治、”。かのドラゴンスレイヤーズを率いる歴戦の勇士である。』

根鎌源治、「ぐわあっ!!?」

ナレーション『と、その時!薮から飛び出してきた異世界ブラックマンバが根鎌源治、隊長に恐るべきスピードで巻き付いてきた!!』

隊員の皆さん「た、隊長!!」

根鎌源治、「ぐっ…近寄るな!巻き込まれるぞ!!こういう時はこれだ……《暴力》だ!!ハァッ!!!」

ブラックマンバ「しゃー!!?」

ナレーション『なんと!隊長は自らの腕力でブラックマンバを振り解いたのだ!』

根鎌源治、「やはり野生の動物は暴力を嫌う…!みんな、暴力だ!暴力を使え!」

隊員の皆さん「うおおお!!」

ナレーション『根鎌源治、探検隊は《暴力》を武器にジャングルを突き進む!
CMの後、ついにチンパットの正体が明らかに!そして現れるメカチンパットシティとは一体!?__。』



__ポチッ

佐渡「今日の料理は、異世界エビ(通称・イセエビ)を使った俺流エビチリだ。」

ゲストの女性「ええ~!あのイセエビをエビチリに使っちゃうんですか!?」

佐渡「フッ…このイセエビは一見そのまま蒸すなどして食した方が良さげに見えるが、実は程よく脂の乗った味、食感共にこれ以上ない程にエビチリに適しているのだ。
一度このエビチリを知ってしまえばもう市販のものでは満足できなくなるだろう。」

司会「ええ!そんなん困りますよぉ~!」

観客の皆さん「どっ。」

佐渡「まずは殻を剥いたエビの身を炒める。ここで重要になるのが“これ”だ。」

ゲストの女性「お酒…ですか?」

佐渡「まぁ、見ているがいい。」

__ジュッ…ボワッ!!

ゲストの女性「きゃっ!!ふ、フライパンが燃えてる!!?」

佐渡「案ずるな。これは“フランベ”という度数の高い酒を火にかけ臭みを取る手法だ。
やはりこうすることで香りも良くなるからな。」

ゲストの芸人「こんな火炎魔法みたいな料理見たことないっすよ!!」

佐渡「さらにもう一発!」

司会「おおお!?まさかこれは…“追いフランベ”だァーッ!!!」



__プツン

海野「…てなわけで今日は俺一人。ここ最近はずっとそんな感じ。」

 なんということだろう。ドラゴンスレイヤーズ四人のうち三人が他局での収録のため不在であるらしい。

__ということは、その間海野さんはずっと一人で?

海野「え?ああ、うん。ま、俺はいつ電話かかってきても起きれるし。
装備も充実してきたから一人でも戦えるし。
…一人でも寂しくなんかないですし?」

__こちらからも他局の番組に出るのは控えるようお願いしてみましょうか?

海野「いーよいーよ。好きにやらせとこう。」

__しかし…。

海野「大丈夫、いざという時は俺が尺を持たせるから。“おもしろモノマネ百連発”で乗り切るから。」

__その時が来ないことを祈ります。

海野「俺もそう思う。……へへへ。」

 そう笑いかける海野の表情はやはりどこか寂しげだった。



 結局、その後待てども依頼は入らず、スタッフはディレクターに呼ばれて一旦テレビ局に戻ることになった。
 いつも空いている会議室には何やら重苦しい雰囲気のディレクターが待ち構えていた。

ディレクター「……ミズミチくぅん。非常に言いにくいんだけれど、とうとうドラゴンスレイヤーの打ち切りが決まってしまったよ。」

__そんな!

 局の内情を包み隠さず述べるならば確かにこの番組は視聴率が低迷の一途を辿っている。しかし、かろうじて打ち切りのボーダーには至っていないはずだった。

ディレクター「それはそうなんだけど、前々から偉い人に目付けられちゃってるからね。真っ先に槍玉に上げられてしまったよ。」

__それでは、一連のドラゴン騒動の真相を追うことは……?

ディレクター「難しくなるだろうね。上は後番組に最近話題の若き実業家の番組を始めたがってる。これが終わったら僕らはそのアシスタントとして回されるだろう…。
なぁに、心配しなくてもドラゴンのことは彼らが解決してくれるさ。…そりゃ、最後まで僕たちで撮れないのは悔しいけれども。」

__そう…ですか。

 やり場のない気持ちを言葉を飲んで納得させる。一度決まってしまった打ち切りを覆すことはできないのだ。
 せめて最後に一花咲かせたいが…。

 その時、スタッフの携帯が鳴った。海野からだ。

海野『もしもし!ミズミっち?依頼だ!仕事が来た!場所教えるから現地で落ち合おう!!』



__都内某空きテナント

海野「見てください!市販のロボット掃除機にちょっと一手間加えるだけでこの制圧力!一人でももうドラゴンなんて怖くない!怖くないぞぉ!」

 複数の自律型掃除機と高水圧洗浄機を装備した海野がドラゴンたちを駆逐していく。
 最初の依頼とさほど変わらない規模のドラゴンの群れも今や短時間かつ単独で処理できるほどにドラゴン駆除は効率化されていた。

海野「……こんな順調に進んじゃったら見せ場無いな。やっぱやるか?おもしろモノマネ百連発。」

__ササササッ…

海野「ってあれ?」

 何やらドラゴンたちの様子がおかしい。蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、光差す窓の下で一点に集結し始めた。

海野「…そんなに嫌?モノマネ百連発。」

__じゃなくて。

 小型のドラゴンたちは混ざり合い形を作りだした。以前にも見た人型ドラゴンである。

海野「げっ!また人型かよ…。」

人型ドラゴン「ぴぴ…ご…もご…もごご…。」

 そのドラゴンの様子はどこかおかしかった。口に当たる部分を震わせながら時折野太い肉声をこぼし出す。もちろん、今までに見られなかった挙動である。
 やがてその肉声ははっきりとした単語を口走り始めた。

人型ドラゴン「な、なまむぎ、なまごめ、なまたまご。とうきょう、とっきょ、きょきゃっきょく。となりの、かきは、よくきゃくくう……よし!」

 その奇妙な言葉の羅列をひとしきり発した後、ドラゴンはこちらに向き直る。

海野「何だ…?」

人型ドラゴン「どらごんすれいやーにつぐ!ていこくすかいたわー、ちょっかにてまつ!そこでけっちゃくをつけてやろうぞ!じk………!」

__パシャン!

海野「うおっ!?」

 何かを言いかけた直後にドラゴンは弾け飛ぶ。

海野「今の音声、カメラで拾えた?…まさか過度の疲労から幻聴聞こえてたわけじゃないよね?」

__はい。人語を発していました。

海野「やっぱり…あいつらを操ってる人間が後ろにいるんだ。帝国タワーの地下って言ってたな。多分下水道のことだろう。」

__そんなこと出来る人間がいるんですか?

海野「まぁ十中八九“転生者”の仕業かな。こんなしょうもないことするの転生者以外いないだろうしね。本当にあいつらロクでもないぜ。」

 なんということだろう。一連のドラゴン騒動の裏で糸を引いていたのは転生者であるらしい。

__でも、一体なぜ自分から居場所を晒すようなことを?

海野「現状、ドラゴンの対処ができるのは俺たち…いや、俺だけだ。黒幕さんの方も邪魔者はとっとと排除したろって算段でしょ。
ま、見えすいた罠なわけだけど。」

__罠ならばわざわざ乗るわけには…。

海野「いいや、せっかくだからお誘いに乗ろう。ここいらで一発デカい花咲かせてみようぜ。番組ももうすぐ終わっちゃうみたいだし。」

__知ってたんですか?打ち切り。

海野「あれ、当たっちゃった?ミズミっち今日ずっと暗い顔してたからもしかしたらって思ってたんだけど。」

 しみじみと頬に手を当ててみる。どうやら本当に顔に出ていたみたいだ。

海野「へへ、まぁ…何?どうせ終わるなら最後バカでかい伝説残して終わりましょうよ。」



__某日

ディレクター「下水道の件、許可が取れたよ。…と言っても、やっぱり警察は力を貸してくれない。駆除も後ろにいる人間とやらも全部ドラゴンスレイヤーに丸投げだってさ。」

__そうですか…。

ディレクター「そうさ、罠と分かってても警察は何もしてくれないし、視聴率だってそんなに望めない。おまけにドラゴンスレイヤーたちの集まりも悪いときた。
…なあミズミチくん、これは本当に今、我々でやるべきことかい?」

__と、言うと?

ディレクター「番組が終わっても彼らは活動を続けるだろうし、今はおとなしいけれど被害が大きくなれば警察の協力だって得られるかもしれない。
いずれにせよもっといいタイミングがあるだろう。それを番組の都合でわざわざ危険な場所へ出演者を送り出すのはいかがなものかと思ってね。
最悪、最終回は総集編って手もあるよ。」

 返す言葉に詰まる。確かにディレクターの言う通りかもしれない。
 以前の人語を介すドラゴンとの遭遇以来、ドラゴン被害はパタリと止んでいる。人々の記憶から害獣ドラゴンの存在が薄れかかっている今、ドラゴンとの決着など求められていないのかもしれない。しかし、それでも__

__あの人は戦おうとしています。その意志がある以上、私も最後まで撮りたいと思います。

ディレクター「…うん、そうか。フフフ…そうかい。
じゃあもう一つ聞かせてもらうよ。
ミズミチくん、テレビマンにとって一番大事なことは何だと思う?」

__迅速で正確な報道…とかですかね?

ディレクター「それはまあ、そうなんだけど。いかんせん三流の僕らには縁の遠い言葉だ。
僕はねミズミチくん、何があっても最後まで追い続けることだと思うよ。それがたとえ世間の関心を得られなくても一度掘り出したからにはその結末をしっかり映す義務がある…と、僕は思ってる。僕らにできることなんてそれくらいだからね。」

__ディレクター…。

ディレクター「だからね、せめて僕らはこの事件の顛末をバッチし収めるまでとことん付き合って見せようじゃあないか。」



__決戦当日

__ドラゴンスレイヤー事務所

海野「おはよ、ミズミっち。」

 その日も、事務所にいたのは海野一人だった。

__他の皆さんは今日も?

海野「ああ、とうとう連絡すらつかん。けっ、知るかよーあんな連中。
せいぜい、つまらんことで炎上するがいいわ。」

__やっぱり、今からでも皆さんに直接会って話をしてみませんか?

海野「…無駄だよ。あいつら元々利害が一致してるからつるんでるだけの関係だ。チヤホヤしてもらえる場所を見つけたんなら戻ってこないでしょ。」

__そういえば、海野さんのところには他局からのオファー来なかったんですか?

海野「一応来てたけど…ほら、俺オファー受けるとしたら、イイトモかゴキゲンヨウって決めてるんだよね。」

 知らない番組と知らない番組である。

海野「…ま、俺だってチヤホヤされたいけど、何せ言い出しっぺだからね。始めたからには最後まで責任持たないとカッコつかないでしょ?
だから、俺一人でも行くよ。」

__意外と、真面目なんですね。

海野「えへへ。」

__ガシャッ

 丁度その時、事務所にディレクターが訪れた。ドラゴンスレイヤーの作業服を纏って。

ディレクター「やあ、話は聞かせてもらったよ。」

海野「フジD…!?どうしたの?その格好…まさかこの期に及んでグッツ化!?んな無謀な…!」

ディレクター「違うよ、んなわけないでしょ。実は、他局の引き抜きのせいで集まりが悪いって聞いた時にこっそり作っておいたんだ。いざって時の欠員補充のためにね。もちろんミズミチくんのもあるよ。」

__自分もですか?

ディレクター「当然だよ君ィ。カメラ撮ってるからって片手が空いてるじゃないか。
まぁ要するにだ。至らぬところもあるだろうが我々もドラゴンスレイヤーとして同行させてもらうよ、海野くん。」

海野「…うぅ…フジD……ミズミっち……!」

 海野が鼻を啜り出す。

__本当は寂しかったんですね。

海野「なっ!?ち、違えーますぅ!??
……全くっ!言っとくけどあんたらの身の安全まで保障できないからな!分かってんですか!?」

ディレクター「へへッ…上等だよ。どの道僕らはこれが終われば塩漬けだ。折角なら命の一つや二つ賭けてやろうじゃぁないか。」

__伝説、作るんでしょう?

海野「……だあ、もう!しょーがねえな!そんなに来たけりゃついて来い!その代わり何があってもカメラ持って帰るぞ!!打ち上げはザギンでシースーな!」

ディレクター「ようし!そん時は上から接待経費をたんまりくすねてきてやるよ!」

__…ザギンって何ですか?

 兎にも角にも、こうして我々“新生ドラゴンスレイヤーズ”と害獣ドラゴンとの最後の戦いが今、始まる。



 現場のマンホールまでは対ドラゴン用のバキュームカー(命名・ドラゴマルホイ(命名者・海野))で向かう。これは海野が何処からか拝借してきた代物で、過去に現れたワイバーン型ドラゴンをディレクターごと丸呑みにした実績のある、まさにドラゴンスレイヤーズの虎の子と呼ぶべき存在である。
 もっとも、今回は目的地が地下であるため使い所が出てくるかは不明だが。

__都心下水道・帝国スカイタワー地下

 都心地下には巨大な地下空間が広がっていた。

ディレクター「ひっ…ふっ…ちょっと…!?ここいらで休憩しないかい……!?」

海野「何言ってるんだいフジD。さっき休憩したばっかでしょうが。」

ディレクター「マスクで息がきついんだよぉ~。」

 ディレクターが泣き言を溢す。長年の酒とタバコによってアラフォーの肉体は既にボロボロだった。

ディレクター「ひ…ひどいこと言うね、君ぃ。」

海野「ほら、フジD。酸素スプレー。いつ敵の方から襲ってくるかわからないんだからこれで我慢してくださいよ。」

ディレクター「スゥー…ハァー…!だいたい下水道の最奥ってなんだい…?そんなとこ本当にあるのかい?」

 ここ帝国都の下水道は旧くより古代人の遺した地下空間(現代でいうところのダンジョン)を流用したものであり、都の方でも最低限の安全保障を除いてその全貌は把握できていないという。
 おそらく黒幕はその中の隠し部屋に潜んでいると思われる。

海野「へえ…ここってそんな雑に作られてたのかよ。よく知ってるねミズミっち。」

__調べましたから。

ディレクター「ていうか、隠し部屋なんて我々で見つけられるのかい?
そんなわかりやすい所があったら行政が黙っちゃいないだろうし…。」

__そうですね…都の方も月に2回は高い税金を払って点検しているようですからね。

海野「…へえ。じゃあ、あれ何なんだろうね。」

 海野の視線の先には行き止まりの部分に聳え立つ金枠のやたら目立つ扉があった。

__地図的にはここがタワー直下の最奥になりますが。

海野「くっ…このク行政!」



 人の生気を吸い永らく都民を混乱と恐怖に陥れてきた害獣・ドラゴン。扉一つを分け隔てその元凶が待ち構えている。

海野「心の準備はいいか?」

ディレクター「ああ、一息つけたよ。」

__カメラもバッチリです。

 対ドラゴン用に改造された高水圧洗浄機の装備を三人同時に構える。

海野「よし、入ったらとりあえず一斉掃射だ…!行くぞ…!」

 ついにドラゴンの正体が明らかになるのだろうか。全ての答えはこの扉の先にある。

海野「三、二、一……ゴー!!」

 最後の扉は今、開かれた。

海野「よし!撃て__」

???「クク…想定より早かったな。まあ、よかろう。」

海野「なにっ…!?」

 突入した我々を迎えたのは、見知らぬ男の声だった。
 暗闇の中でモニターのようなものから発せられた青白い光がマントを被った男のシルエットを映し出している。

__あなたがドラゴンを操っていた黒幕ですか?

???「ククク…その通り。待っていたぞ、この時を……だが、まだだ。この“プラスポジション”は予兆に過ぎないのだ。」

海野「…なんて?」

???「あっ__ああっ!来た!!ほら来た!!ビッグウェーブだ!!うひょーーー!やったあ!今夜はスキヤキじゃあああ!!!
………あ。」

 どうやら、モニターに向かって独り言を喋っていた男は反り返るほどのガッツポーズを作った拍子にこちらに気づいたようだ。
 病的な青白い肌に似つかわしくないほど煌びやかな金髪と精悍な顔立ちの男がこちらを見るなりこれまた似つかわしくない驚嘆の表情を浮かべる。

???「うおわっ!!?だっ!!?誰ぇ!!??」

ディレクター「誰て…。」

海野「…ドラゴンスレイヤーズでございますぅ。」

???「あっ!!貴様らがドラゴンスレイヤー!?お、おい!!指定した日時はまだ先であるぞ!!」

海野「…指定?とは?」

???「メッセンジャーを送ったであろう!ちゃんと話聞いてなかったのか!?」

__そういえば、あの人型…最後に何か言おうとしていたような。

 ここでVTRを再確認しよう。

VTR『どらごんすれいやーにつぐ!ていこくすかいたわー、ちょっかにてまつ!そこでけっちゃくをつけてやろうぞ!じk………!』

???「まさか…途中で切れておったというのか!?くそぅ!万全の状態で迎え討つという余の計画がぁ…!!」

海野「仮に時刻指定されてたとしても時間通りにノコノコ来るわけないだろ。頭ハッピーハッピーかよ、犯罪者がよ。」

???「誰が!犯罪者じゃ!!言っておくがな!余の資産は余がこの世界で一から投資、投機について学びコツコツ築き上げてきたものである!この空間も正式に都から買い取ったものであるぞ!」

海野「…お前まさか、そうやって一日中パソコンに張り付いてFXするために…そんなことのためにマナを盗んできたんじゃないだろうな?」

???「なにっ…なんと察しのいいやつ…!」

海野「くそっ、こんなの当たってほしくなかった…!」

???「だが、地上の愚民ども…いいや、“愚都民”どもから養分を巻き上げて何が悪い。奴らは日光の下を歩けるくせに悪戯に活動時間を浪費するだけだ…!ならば、その無駄な時間を余が有効利用して何が悪いか!!」

海野「悪いことだらけだろうが!」

???「馬鹿め…余は高額納税者であるぞ。しっかりと社会にも貢献している。貴様らがこうして無駄話に時間を費やしている間も余は貴様らが一生働いても稼げないほどの莫大なカネを動かし経済を回して……。」

 マントの男がモニターを見つめるなり黙り込む。なにやらそこには遊園地の新型ジェットコースターも真っ青の急降下が示されていた。

???「ぎっ!!ぎゃーーーっ!!!?」

海野「何?今度は。」

ディレクター「ああ、さっさと利確しとかないから…。」

__何が起こったんですか?

ディレクター「簡単に言うと買った分の為替が勝手に安い値段で売られちまったんだ。強制ロスカットってやつ。」

__なんで詳しいんですか?

ディレクター「えへへ。」

???「損失は…!?ぐっ…くそぉ…!許さんぞ!やはり貴様らは早急に始末してくれる…!」

海野「これに関してはほぼ自爆でしょうが。」

???「…いでよ!眷属たちよ!!」

害獣ドラゴン「キピキピキピ…。」

 なんということだろう、マントの男の呼びかけに応じるようにあの害獣ドラゴンたちが四方八方から湧き出てきた。
 どうやらドラゴンを操っていたということは本当だったようだ。

???「__そう、“ドラゴン”。貴様らはそう呼んでいるらしいな。いい名だ。誉めてやろう。
余は“ヴラド33世”。またの名を“ネオ・ドラキュラ公”。」

海野「だせぇ!」

__テロップはなんてつけましょう?

ディレクター「“33世”とかでいいんじゃない?」

33世「__ドラゴンスレイヤー…地上に蔓延る雑種どもよ。余の営みを阻むその愚かさ、万死に値する。
貴様らのマナ…一滴残らず絞り尽くし下水の藻屑としてくれようぞ!」

海野「ここからそのテンションで行くの無茶じゃない!?」

__一応、なぜこんなことをしたのか理由を先に教えてくれませんか?

33世「…“一応”て。まあいいだろう。余はこの通り生まれながらの吸血鬼である__」



 当然、余の家系も吸血鬼の一族。余は幼い頃より吸血行為によるマナの補充と暗闇からも地上を支配できるよう経済の英才教育を叩き込まれたのである。

海野「あれ?なんか始まった?」

__編集的にはとても助かるのでこのままの方向で。

 …コホン。そんな余もやがて成長し親元を離れ夜間大学に通うことになった。一人暮らしを始めた余は必然的に外食や出前をとることが多くなり次第に食に対して関心やこだわりを持つようになったのだ。

ディレクター「まぁ一人暮らししてるとありがちだよね。そういうこと。」

 その頃から吸血も怠るようになってしまった。……それが全ての元凶だった。
 実家に帰ってからパック詰めされた血液を吸おうとしたらその味に愕然とした。

 これがすこぶる不ッッッッ味いのだ…!!

 あろうことか、食のフロンティアスピリッツに目覚めた余の舌は幼少期から親しんできたはずの血の味を受け入れなかったのだ!

海野「どうでもいいけど食のフロンティアスピリッツって言い方なんか腹立つな。」

 そして、吸血行為を拒んだ余は一族から裏切り者として追われやがて息絶えた。目が覚めた時にはこの世界に転生していたというわけだ。

海野「…ここまで何の話聞かされてんだ?」

 ええい!黙って聞け!ここからが本筋だ!

 …転生した余はこの奇妙な軟体生物を生成する力を手に入れた。
 何という僥倖か、この生物は余の牙の代わりとなり他者からマナを吸収することができたのだ。
 吸収したマナも口を通す必要がなく手で馴染ませればこの通り。マナとは言わば生命の活動時間。これを得るによって余は一日に48時間分ものパフォーマンスを発揮できるのだ。

海野「なんてことだ…!そんな…じゃあ俺たちが今まで口にしてきたのは…!?」



33世「そう、それは余のマナである……てか何で食おうと思った!?こっちの方が驚いたわ!
ならんだろ!仮に動かなくなったとしても食ってみようって…!」

海野「いや…酒のつまみとかにちょうどいいかなって……。」

33世「…ともかく膨大なマナと内職で得た資金を元手にマネーゲームで勝ち続け、余はこの地中より都内の経済を支配するに至ったのだ。」

 なんということだろう。

 “都内の経済、地下に棲むドラキュラに支配されていた!!?”

ディレクター「でもそれ本当かい?我々地上にいてそんな風になってるようには感じないけどなぁ。」

33世「ククッ…現におかしいと思わぬか?貴様らの仲間3人が帰って来ないことを。」

__たしかに。

海野「……ってならねえよ?別に。だってあいつらずっとそういう奴らだもん。」

33世「もう少し心配するとかないのか?仮にも仲間であろう?
…まあいい、教えてやろう。余はその莫大な財力を利用して複数のテレビ局に圧力をかけ、承認欲求に飢えたお前たちドラゴンスレイヤーを他局に縛り付けていたのである!まんまと貴様らは余の術中に嵌り戦力を削ぎ落とされていたのだ!!」

海野「あー。」

33世「あー、て貴様。」

海野「いや、よくよく考えればあいつらがテレビ映えするわけないし、あんま意外性ないオチだなって。」

33世「オチに対してダメ出しするな!余に!」

__あ、すみません。カメラの容量があと少しになってしまったのでメモリを交換してもいいですか?

ディレクター「うーん、このくだりカットすればもう少し撮れないかな?」

33世「使え!!…いや、生きて帰すつもりはないが建前としてもそこは使うと言え!
…というか、さっきから何だ貴様ら!ちょっと余のこと舐めてるだろ!」

海野「そんなことないっすよ。ちょっとじゃなくて結構舐めてるよ。」

33世「グググ…!貴様らという奴はどこまでも余を馬鹿にし腐りおって…!
決めたぞ…!即刻廃人にしてやる!!
やれ!眷属たち!!」

「ピキー!!」
「ピキー!!」
「ピキー!!」
「ピキー!!」

ディレクター「うわっ!?何だありゃ!?」

 33世の元にどこに隠れていたのか無数のドラゴンたちが次々纏わりつく。

海野「ようやく始まったか…なんか知らんが撃っとけ!!うおおおお!!」

 ドラゴンスレイヤー三人は巨大な塊と化したドラゴンの群れに集中射撃を行う__が、我々の射線は波のように押し寄せるドラゴンたちに阻まれていた。

33世「ぶぁかめ!そんな攻撃が通用するか!
この身に纏ったのは今まで貯蔵してきたマナを持つ眷属たち!そのマナを取り込み無限に眷属を生成しているのだ!!
こうなればもはや消耗戦!残弾に限りのある貴様らに勝ち目はない!!」 

ディレクター「ぐぅっ…!ヤバいよこれ!押し戻されてるよぉ!?」

__後ろからも来ます…!出口を塞がれました…!

海野「大丈夫だ、落ち着け!あっちのリソースだって有限のはずだ!ここを乗り切れば何とかなる!!」

33世「ククク!!無駄無駄!余の眷属はマナ満タンの一体分を取り込むことで100体は作り出せるほどの効率である!!貴様ら如きの物量など屁でもないわ!!」

__ピキィーーーーッ!!!

 その時、ドラゴンたちの中からけたたましい雄叫びが発せらると同時に警告色のように赤く変色したドラゴンたちが吸血鬼を完全に包み込んだ。

33世「うごっ…!!?ちょっ…!口の中に…ゴボボッ…!ゴボァッ!!?」

海野「なんだ!?」

 吸血鬼は何やら溺れるように苦しみ出した。

33世「ゴポポポ…!コポォ……!!」

海野「おい!どうした!?」

 吸血鬼からの返事は無い。既に白眼を剥いて失神していた。
 その塊はしばらく蠢いた後、やがて通常より一回りも大きな人型ドラゴンの形を成した。

人型ドラゴン「ピピピ…ピキッ…!」

海野「まずいぞ…!能力が暴走してる…!」

__どういうことですか?

海野「おそらく濃縮されたマナが一箇所に集中したせいでドラゴンが勝手に動き出した…ってとこか…!」

人型ドラゴン「ピーキー!」

ディレクター「うわわわ!?来るよっ!!」

 地中の部屋に一陣の風が走る。人型ドラゴンが我々のすぐ隣を物凄いスピードで飛んで行ったのだ。
 部屋には赤色の体液だけが乱雑に残されていた。

__あの人型は何処に…?

海野「…もっとまずいことになった。たぶん地上だ。地上に出て人間たちのマナを吸うつもりだ。」

ディレクター「ええ!?ヤバいじゃないか!じゃあ、早く追わないと…!」

海野「それがそう簡単にもいかなそうだ。」

小型ドラゴン「ピキー!」

__ドラゴン…!?

 人型がその軌道上に残していった体液から泡のようにドラゴンが発生していた。

海野「俺たちの相手なんぞこの程度で充分ってか。気をつけろ、帰り道にも同じようなものをばら撒いてるはずだ。
さっさとずらかるぞっ!」

 海野が高圧洗浄機でひと薙ぎする。
 部屋のドラゴンたちが吹き飛ぶその隙に我々は出口に向かって駆け出した。

__ベチャ!

ディレクター「ひぃ!!脚にまとわりついてくるよっ!?」

海野「構うな!このまま一気に駆け抜けるぞっ!」

 湧きかけのドラゴンを踏み潰しながら地上を目指しひた走る。
 それにしても、先程から後方に妙な圧を感じるのが気掛かりだ。

海野「…あんま振り返んない方がいいと思うよ。」

__…!!

 理由は明快だった。我々が通り越していったドラゴンたちは群れを成し、雪崩のように押し寄せているのだ。

海野「くっそぅ…!どんどん速くなってやがる…!こうなったら武器を捨ててでも__」

ディレクター「うおおおおおおお!!」

海野「フジD!?」

 何を思ったのだろうか。フジオディレクターは突然振り返り、ドラゴンの群れに対して高圧洗浄機による掃射を始めた。

ディレクター「ハハハハ!!やっぱすげえなこれ!!一度はやってみたかったんだ!こういうの!」

海野「何やってんだよ!?早く逃げないと…!」

ディレクター「すまないねぇ!悔しいけど僕の足じゃもうここが限界みたいだ!
…海野くん、ミズミチくん!後のことは任せた!何としてもこの番組を最後まで撮り切ってくれ!!」

海野「フジD…!」

__…急ぎましょう、海野さん!

海野「…ちくしょおお!!」

 ディレクターを残して走り出す。彼の覚悟を無駄にしないためにも我々はあの人型ドラゴンを止めなければならないのだ。

 しばらく走り続け、我々は都心の地下を脱した。



 地上の光が激しく目に差し込む。目を眩ませている暇はない。一刻も早くドラゴンを見つけなければ__

海野「おい!大丈夫か!?」

横たわる通行人「うう…働きたくない…仕事辛い…。」

__これは…?

海野「…遅かったか!あそこだミズミっち。」

 そう言って海野は帝国タワーの頂上を指差した。

巨大ドラゴン『ピキーーー!!!』

 何ということだろう。この短時間であの人型は巨大化し、タワーの頂上から我々を見下ろしていたのだ。その姿は以前ディレクターを襲った翼竜型に似ているがサイズが桁違いだった。

__ということは…!

海野「…ああ!周りを見ろ、こんなに人が倒れてる。地上の人たちのマナを吸ってあんなに大きくなったんだ!」

巨大ドラゴン『ピギーーー!!!』

__危ないっ!

海野「いや…好都合だ!」

 我々の元に急降下してきたドラゴンの中心をなんと海野の洗浄機が貫いた。
 バランスを崩したドラゴンが目と鼻の先に墜落してくる。

海野「やったか!?……ああっ、これ言っちゃダメなやつ__」

巨大ドラゴン『ピギャーーーーーー!!!』

海野「ほらぁ、もう…。」

__おや?胸の辺りから何かが…?

33世「うう…たすけて……たすけて…。」

海野「な…!?お前、意識あるのか!?」

 怒り狂ったようにその場を転げ回るドラゴンの胸部から取り込まれた吸血鬼が顔を覗かせ絶え絶えの声で語りかけてきた。

33世「ここから余を引っこ抜けば止まる…止まるはずだぁ…だからたすけて…たすけてください…おねがいします……うぅ…このとおりです……。」

海野「どのとおりだよ。」

巨大ドラゴン『ピキーーー!!』

33世「ひあああああああ……(遠ざかる悲鳴)。」

海野「あ!!おい!!!」

 ドラゴンは飛び立ってしまった。

__海野さん!

海野「ああ、わかってる!車で追うぞ!!」



海野「うおおおお!!皆さんどいてください!!ドラゴンスレイヤーが通りますよおおお!!!」

 海野が目一杯クラクションを鳴らしながら対ドラゴン最終兵器であるドラゴマルホイを爆走させる。
 幸いなことに、都心では既に交通規制が敷かれているらしく路肩に乗り捨てられている物を除いて車はほとんど無かった。とは言え、宙を自在に飛び回るドラゴンと総重量1tに及ぶバキュームカーの差は歴然であり、徐々に距離を離されていく。

巨大ドラゴン『ピギャーーーー!!』

海野「クソッ…!思ったより速い…!見失う!」

__大通りに出て先回りしましょう。あそこからの方がいくらか視認しやすいはず…。

海野「おし!わかった!」

 海野が大きくハンドルを回す。我々は長い一直線の大通りに抜け出した。

海野「うわっ!?なんだこれ!?」

 なんと、大通りでは先ほどとは打って変わって渋滞が発生しておりとてもバキュームカー一台が通れる間隔は無かった。

__すみません、こんなことになってたとは…。

海野「大丈夫、バックすればまだ間に合う!
……にしてもなんか妙だな?この車の中の人たちみんなぐったりしてない?」

 たしかに、他の車に乗っている人々は皆シートや窓にもたれかかり、何台かはエンジンすら切っている状態だった。

__既にマナを吸われている、ということですか?

海野「…まさか、こんな短時間でそんなことできるわけ__ん…?おい、あれ!」

__あれは…!

 我々が目にしたのは巨大な赤ん坊のバルーンが宙を浮き、こちらに飛んでくる姿だった。

__これはベビー用品店のマスコットキャラですね。近くに本社があります。おそらく何かの拍子に紐が切れてこちらに飛ばされてきたのでしょう。

海野「へぇ。顔面怖いな、子供泣くでしょこんなの。…じゃなくて!」

__でも、どうしてこんなところに…?

 何故だか強い違和感を感じる。このバルーン自体は何度か見かけたことはあるが、あんなに大きかっただろうか?それになによりバルーンの軌道にしては異様に真っ直ぐ飛んでいるような__

???『きゃははは…きゃはは…。』

海野「…なんかヤバい気がする!」

 海野が急に車を後退させた。

__どうし…たんですか…?

海野「分からん!でもなんか嫌な予感する!直感で!」

???『あうぅぅ…!』

__さっきから何か声が…聞こえ…ま…。

 おかしい。口が上手く回らない。突然、眠っているのか夢を見ているのか分からない感覚に襲われる。

海野「おい、ミズミっち!?大丈夫か!?」

 思考は比較的はっきりしているはずだ。だが声に発することができない。

__これ…ってまさか…マナが…。

海野「マナ…!?はっ…!まさかあいつ、“遠距離からもマナを奪える”ようになったんじゃ…!?」

__でも…本体は…何処に…?

???『きゃははは…!きゃははは…!』

海野「…お前かっ!!」

 海野が車をUターンさせ急発進させる。すると、何ということだろう。バルーンが道路に着地し一人でに歩き始めたのだ。

__あれ…は…?

海野「バルーンの中に潜んでやがったんだ!…でも、あの形態ならこの“マルホイ”で吸い込めるかもしれない!」

33世の声「それは…無理な話だ…。」

海野「あっ…!?」

__ビリビリビリビリ…!!

 吸血鬼の声が聞こえると共に赤ん坊のバルーンが割ける。中から現れたのは__

__あれは…大きな…赤ん坊…?

海野「ひぃっ!?何だあのB級赤ちゃん!?」

 その体躯はまさに巨人。半身が炎上しながら、くりっとした瞳でこちらを見つめているその姿は壊れた赤ん坊のおもちゃのようだ。

 そう、まるでB級ホラーの舞台装置だった。

33世「これが…マナの力だ…。」

海野「バカ吸血鬼!」

 赤ん坊の胸の中心から吸血鬼が顔だけを現していた。

33世「バカ吸血鬼て…いや、そんなことより。」

__なぜ…あのドラゴンがそんな姿に…?

33世「マナとは生命の活動時間であり…創造エネルギーでもある。遠隔から際限なくマナを奪い取ることを可能にしたこの眷属はこの不気味なマスコットに日頃向けられていた恐怖の感情などを読み取りマナを使うことで想像上の姿で顕現したのだ……もう、おしまいだ…。」

巨大B級ドラゴン赤ちゃん『きゃっ!きゃっ!』

 赤ん坊はこちらに向けて歩み始めた。緩やかな動きとは裏腹に一歩一歩が轟音を立ててアスファルトを踏み抜いていく。

海野「おい!そのでけえ赤ちゃんからお前をぶっこ抜けばそいつは止まるのか!?」

33世「分からぬ…だがマナの供給源は途絶えるはずだ…。
ぐぐぐっ…なぜこんなことに…余はただ金の力で日光とニンニクアレルギーを克服し地上を自由に食い歩きたかっただけなのだ……。」

海野「泣き言吐かすなっ!今引っ張り出してやるからお前も気張れ!」

 そう言って急停車した海野が車を降りた。

__海野さん…吸引機を使うつもりですか…?無茶です…あれは一人じゃ……。

海野「大丈夫だって!それよりミズミっち、まだカメラは回せるか?」

 そうだ、今の私にできることはカメラを回すことだけなのだ。一人残ったディレクターのためにも映像を残さなくてはならない。

__回しきって…見せます…!

海野「へっ…上等だ。かっこよく撮ってくれよ!」

巨大B級ドラゴン赤ちゃん『ほぎゃああああ!!!』

 赤ん坊が足を早める。目標は既に眼前まで迫っていた。

海野「うおおお!“ドラゴマルホイ“のパワーを舐めるなよ!!」

__キュイイイイイイン!!!!

巨大B級ドラゴン赤ちゃん『ンンンン!!!』
33世「うぼぼぼぼぼ!!」

 吸引機が起動し周囲の風を巻き上げる。巨大な赤ん坊は若干引き寄せられたものの地面に踏ん張り、それ以上動かない。肝心の吸血鬼の方は吸引機に顔面を吸われ面白い顔になるだけだった。

海野「うぐっ…うおおおお!!」

 吸引口を両腕で脇に抱える海野の腕が震え始める。当然だ。あのドラゴマルホイは四人の力が釣り合って初めて最大のパワーが出せるように改造されている。今、海野がたった一人で抑えていられていることの方がおかしいのだ。
 
 …あの三人は今どこでどうしているのだろう。

 海野は利害が一致するだけの関係と称していたが本当にそれだけだったのだろうか?

 たとえ無茶をしようと女に目が無かろうと隊長を名乗ろうと急に料理番組を始めようと最後には四人揃って締めるのがこれまでカメラに収めてきたドラゴンスレイヤーズだったはずだ。

 もし、この異変に気づいているならきっと__



他局のディレクター「十文ちゃ~ん、今日も良かったじゃな~い!ファンの子からのお便りいっぱいきてたわ~!」

十文「あざっす!いや~俺、やっぱ天職こっちだったかもしんないっすねぇ!ドラゴン退治なんてやってらんないっすよね!がははは!」

他局のディレクター「今日も打ち上げで飲みあるから終わったら店に直行ね!」

十文「ええ!いいんすか!?やったあ!じゃあ、俺先に店で待ってますね!あははは!!」

浮かれてスキップで向かう十文「あははは!あははは!」

十文「あ、いけね。店の場所聞き忘れてた。」

出戻る十文「あはっ…すいませぇん。今日はどこで__」

水着アイドルA「ちょっとディレクターさん!あの人いつまで使うつもりなんですか!」

水着アイドルB「そうそう!あの人いつもやらしい目で見てくるし、触ってこそこないけど言動がいちいちキモいんですよ!他の娘からも苦情来てるし…このままだと事務所が黙ってないですからねっ!」

十文「__えっ。」

他局のディレクター「そう言わんでくれよキミたち…たしかにあの人が出てから視聴率は右肩下がりだけれどスポンサーから多額の資金を頂いているんだ。この番組であの人を使うことを条件にねぇ…。」

水着アイドルA「プライドとかないんですか!あの人みたいに!」

他局のディレクター「なっ!?言っていいことと悪いことがあるぞキミ!いくら私でもあんなダメ人間と一緒にすることはないだろ!金さえ渡せば何日でも飲み歩いてくるダメ人間だぞ!?」

十文「__えっ。__えっ。」

十文(心の声)『__そういうことね。へっ…おかしいと思ったよ。ファンの子からのお便りなんて一個も来ないし、番組出るたびネットじゃ炎上するし。この俺がバラエティに出て水着の女の子にチヤホヤされるなんてウマい話、あるわけねえよな。
でもよ、例え見えすいた嘘でも…1%でも都合のいい真実が混じっているなら全力で信じる、それが俺のスタンスなんだぜ。』

局を走り去る十文「うわああああああああ!!!!!」



チンパット族「キー!ウキッ!ウキャッ!」

根鎌「え?この菓子食っていいの?オメエいい奴だなぁ!」

チンパット族「ウキャッ!ウキャッ!」

根鎌「へへへ、まさかジャングルの奥に住むチンパット族がこんな友好的でサービス精神旺盛な方々だとは思わなかったぜ。」

隊員A「隊長!お話があります!」

根鎌「おう、何だね何だね?ちなみにこの後の段取りを言っておくと悪役に扮するチンパットの皆さんが我々探検隊と大立ち回りの上改心するという台本だぞぅ。」

隊員A「あの…すみません!もう俺…抜けさせてください!」

根鎌「な、なにぃ!?」

隊員A「もう嫌なんです!こんなヤラセ…こりごりなんです!」

根鎌「ウォォン!?何甘ったるいこと抜かしてんだァ!?そんなんで生き残れると思ってんのか、ゴルァ!ヤラセの何が悪いんでい!チンパット族の皆さんもなんかすごいノリノリで了承してくださったんだぞ、オルァ!」

隊員B「いい加減にしてください!あなたが来るまでこんな番組じゃなかったんだ!自然と動物を愛するドキュメンタリーだったのに…!」

根鎌「な!?番組を好きにしていいっつったのはそちらさんサイドだぞ!?俺が好きなんだから別にいいだろ、探検エンターテイメントでも…!」

隊員C「あと、前から言おうと思ってたけどカメラ回ってる時のあの誰のだか分からないモノマネ、たぶん絶対似てないと思います!しかも段々雑になってくし、なんかイラッとするんで俺も辞めます!」

隊員D「俺も!」
隊員E「私も!」
ブラックマンバ「自分も。」

根鎌「な、なんだお前ら…!俺は隊長だぞ…!!」

隊員F「いいや、むしろ俺が次の隊長に立候補する!」
隊員G「いいや、俺だ俺だ!」
チンパット族「ウキキッ!ウキャ!(挙手)」

隊員の皆さん「俺も抜けます!」「抜けさせてください!」「じゃあ俺は立候補します!」

根鎌「もういい!!そんなに言うなら……俺が真っ先に抜けてやるううう!!!」

走り去る根鎌「うおおおおおお!!!!」

謎の怪鳥「グエーっ!」

怪鳥に攫われる根鎌「ぎゃああああ!!!!」



佐渡「__さらにここにフランベ…!」

司会「おおお!本日5回目のフランベだあああ!!」

佐渡「完成…“キングサーモンのオーロラ風ステーキ、オニオンソースを添えて”。」

ゲストの女性「わーおいしそう。」

佐渡「さぁ、冷めないうちに召し上が__」

美食家っぽい男性「ふっ…あんなのが“フランベ”だって?笑わせるぜ。」

佐渡「なにっ!?何だ貴様は!?」

美食家っぽい男性「見ろ、このサーモン。フランベのしすぎで焦げすぎのベチャベチャだ。
これじゃスーパーで買った塩鮭弁当のがまだマシだよ。」

佐渡「ななな…なんだと…!?貴様っ!俺の料理を愚弄したな!?」

美食家っぽい男性「料理?これが料理だって?俺には火遊びした後の燃カスにしか見えないね。
いいか?フランベってのは香りをつけるためにやるもんだ。そう何回もボーボーされたんじゃ、肝心の素材の味もダメになっちまう。
スタッフさん、食材は余っているでしょ?俺が本物の料理ってやつを見せてやりますよ。」

佐渡「なっ…!?」

司会「おーっと!これは面白い展開になってきたぁっ!!独身料理研究家・佐渡一シェフはこの挑戦を受けるのかーっ!!?」

佐渡「貴様…俺が料理を出してから後出ししようとするなんて…こんなの__」

美食家っぽい男性「はい?」

佐渡「こんなの…“負けイベ”だろうがああああ!!!」

美食家っぽい男性「ぐほぁっ!!」

司会「おーっと!!これはもっと面白い展開だぁ!!佐渡シェフのアツアツの右ストレートが挑戦者にお見舞いされたァ!!!
佐渡シェフはそのままエプロンを脱ぎ捨て逃亡!!この番組は一体どうなってしまうのか!!?」

佐渡「くそぁあああああ!!!」



海野「ぎ…ぎ…ぎ…!!こなくそ…!!」

巨大B級ドラゴン赤ちゃん『ぶるるるるる…!!』

 海野が吸引機を起動してからしばらくが経過した。その間、赤ん坊の動きはほぼ停止しているものの海野の方はもう限界に__いや、とうに限界など通り過ぎていた。指には血が滲み、もはや縋り付くようにして吸引口を抱えている。

 ここまでなのだろうか。ドラゴンスレイヤーの抵抗虚しく帝国都はこのままドラゴンの手に落ちてしまうのだろうか。
 …スタッフのマナももう尽きるようだ。カメラを持つ手に力が入らな__

???「おいおい、派手なことになってんじゃねえか。」

__その声は…!?

海野「だぁっ!?お前ら!?」

 …なんということだろう。そこに現れたのは間違いなくあの三人だった。三人ともドラゴンスレイヤーズのユニフォームを身に纏っている。

 戻ってきたのだ。我々のドラゴンスレイヤーズが。

 彼らはすぐさま海野の背後につき吸引機を支え始める。

海野「ちょ、やめろ!今更何のつもりだ!」

十文「まったく、一人で突っ走るなんてお前らしいぜ。」

海野「いや、電話に出なかったのお前ら__」

根鎌源治、「馬鹿野郎!我々はチームプレイでここまでやってきたんだろ!リーダーであるこの俺をもっと頼っていいんだぞ…!」

海野「いや、頼らせてくれなかったのお前ら__」

佐渡「フッ…やはり、ドラゴンスレイヤーズには俺たちがいないとダメみたいだな。」

海野「いや、ダメなのお前ら!!なんだよ!美味しいところになった途端しゃしゃり出やがって!どうせしょうもない理由でバックれてきたんだろ!」

十文「ぎくっ。」
根鎌「ぎくっ。」
佐渡「ぎくっ。」

海野「図星じゃねえか!かーえーれーよ!俺がコツコツと積み立てたクライマックスだぞ!!」

十文「んなカタいこと言うなって。ほら、こいつの出力もお前一人じゃ“中”が限界だけど四人揃えばフルパワーでも制御できるだろ?ポチッと。」

海野「おい馬鹿やめ__」

__ギュボボボボボボ!!!

 吸引機が大気を震わせ巨大な渦を発生させる。渦は台風のように様々な物を巻き込み始めた。

巨大B級ドラゴン赤ちゃん『あばあああああ!』

__ボワッ

海野「熱っ!?熱っ!!何!?ちょっと待って!炙られてる!直火に!!」

 燃え盛る赤ん坊の火気が最前に立つ海野を襲う。

根鎌源治、「そう!俺たちは熱い絆で結ばれているんだ!お前が次のリーダーだ!」

海野「じゃなくて直火が……てか誰が!お前らボンクラのリーダーだ!面倒な役回り押し付けんな!!」

佐渡「俺たちはいつだってこうして四人で戦ってきただろ。思い出せ、海野!」

海野「思い出せって何!?俺、記憶喪失ってことにされてんの!?捏造すんな!過去を!」

十文「いつまでもしゃらくさいこと言うんじゃねえ!俺たちは__」

海野の顔面を盾にする十文「おっ、危ね。」

飛んできた瓦礫に直撃する海野「ぎゃっ!」

十文「俺たち…“仲間”だろ…!!」

海野「…仲間だと思ってんならせめて先頭代わってくんない!?」

三人「……。」

海野「なんで黙んだよ!!」

 …何やら元気に揉めてる海野たちを尻目にある疑問が浮かび上がる。

 そういえば、なぜこの人たちはマナを吸われても平気でいられるのだろう?

 いや、そもそもマナが減っていないのではないだろうか?

 思考が連鎖するように脳裏に以前の専門家のインタビューが思い起こされた。



専門家「ああ、そうそう。マナと言えば、転生者が異能力を発現させるのにも使われていますね。“能動発動型”と“常時発動型”で多少その辺の事情は変わりますが。
それとややこしいのが“負のマナ”を持つ存在ですね。」

__“負のマナ”?

専門家「先ほど、マナが創造行為に充てられる時間とお話ししましたが、それが著しく低い…いいや、それどころかロクでもない事象を作りだしてくる__言わばマナがマイナスの人間たちのことです。まぁ私の知るところでは“四人”しかいないのですが。」

__たとえば、ですが…その負のマナがドラゴンに吸われた場合、どうなってしまうんですか?

専門家「それは…そうなってみるまでわかりません。ただ“マイナス”を“引かれる”わけだからきっとただならぬことが起こるんでしょうね。」

__ところで、あなたは一体何の専門家なのですか?

専門家「え?えーっと、“行動経済学”とか…そんな感じの…えへへ。」



 結局、あの専門家の女性は何者だったのか。
 再びコンタクトを取ろうにも連絡が着かなかったが今思えばあの話の中に出てくる“四人”とは彼らのことではないだろうか。

 あのドラゴンを弱らせる培養液は元は四人から採取されたものである。ドラゴンが萎びて動かなくなるのは専門家の言うところのマイナスを得てしまったためと考えられ、何より自動的にマナが枯渇するこの状況下においてあの四人が立っていられる説明もつく。

33世「うぼぼゔぉっ!!」

 そんな思索に耽っているうちに既に吸血鬼の上半身は赤ん坊の胸部から吸い出されていた。さながら仔牛の出産のようである。

海野「__ああ!もうなんでもいいからさっさと抜けやがれ!!」

__キュポン!

__ズボッ!

33世「…ンンンーンンンーンーン!!」

 とうとう、ドラゴマルホイの吸引機により吸血鬼が完全に抜け出した。ホースにすっぽりと嵌り何やらもごもご喋っている。一方、力のバランスを崩した赤ん坊は仰向けに倒れていた。

十文「お!なんか知らんがやった!」
根鎌「で、誰このおっさん?」
佐渡「おい。さっきから俺たち引き寄せられてるぞ。あの謎のモンスターに。」

一同「「「え?」」」

巨大B級ドラゴン赤ちゃん『貅舌■繧?s縺ョ繝代Φ繝??譟??荳榊虚譏守視』

一同「「「「あっ。」」」」

 なんということだろう、四人は吸血鬼の孔を埋めるように起き上がった赤ん坊に取り込まれてしまった。

__海野さん…!皆さん…!!

 しかし、返事は無い。まさか、あと一歩のところでドラゴンスレイヤーたちは敗北を喫したというのだろうか。

巨大B級ドラゴン赤ちゃん『蛹励?驟貞?エ騾壹j縺ォ縺ッ髟キ縺?ォェ縺ョ螂ウ縺御シシ蜷医≧』

 いいや、どこか様子がおかしい。異様なことに赤ん坊とそれに上半身から突き刺さるように取り込まれた四人はゆっくり回転しながら宙を浮き始めたのだ。

__これは一体…?

???「始まったようですね。」

__あなたは…専門家の先生…!

専門家「どうも、お久しぶりです。」

 忽然と現れたのはいつぞやの専門家だった。常闇のような黒い髪と携えた和太鼓が特徴的な女性だ。……和太鼓?

__どうして…こんなところに…?

和太鼓をセッティングする専門家「最近お仕事無くて暇だったもので。」

 微妙に答えになってない…が、そんなことより。

__何が起こっているんですか…?

専門家「知りたいのですか?いいでしょう。」

 専門家はそう言ってバチを両手に持ち何やら厳粛な面持ちで強く太鼓を叩き始めた。

専門家「赤ちゃんのカタチに留めていたマナが本来の姿を取り戻していく。マナを奪うものと減らすもの…二つの異なるマイナスが掛け合わさって事象の空白が無限に濫造されていく。
その結果、“世界の意思”から物理法則を無視した事象が補完されているんだわ。
ああなってしまったものを宇宙空間に放逐する。それだけのために。

…ま、簡単に言うと手に負えないので出禁ってことなんですけどね。」

 その時、回転しながら浮遊する四人は高速で上昇し、もはや視認できないほど彼方へと飛んでいってしまった。

__そんな…それではあの四人は…!?

専門家「全てはあの物体が世界の意思の影響範囲から逃れた瞬間に決まります。その時、あの四人が事象の空白に何を願うか…それ次第です。」

__ピキィーン

__あっ…!

 それは異様な光景だった。大空の向こう側から虹のような光が降り注いでいる。

専門家「そうですか…彼らはそれを選んだのですね。
あの光は異世界で“オーロラ”と呼ばれるものです。厳密には降り注ぐマナがそう見えているだけですが。…あなたももう立てるはずです。」

 …専門家の言う通りだ。先程までとは違って身体に力が入る。

__あの人たちは、一体何を選んだというんですか?

専門家「おそらく、奪われた全てのマナの還元…他の人々もじきに活動を再開するでしょう。」

__彼らは帰って来られるのですか?

???「さぁ…少なくともあの四人が優先したのは自らの帰還ではなく人々の回復だったようです。無事戻れるかどうかは…“神のみぞ知る”ということにしておきましょうか。
…私も時間が来てしまったようなのでこの辺で__」

__待ってください、あなたは何者…うわっ!?

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 …私は今、“何”と話していたのだろう。既に目の前に“話の相手”は居ない。あるのは不法投棄された和太鼓と吸引口に挟まり続けてぐったりした吸血鬼の姿だけだった。

 耳を澄ませば人々の喧騒が聞こえる。あたりを見渡すと倒れていた人たちが再び起き上がり始めている。

 間違いない。この街は救われたのだ。ドラゴンスレイヤーに。

__では、ドラゴンスレイヤーたちは…?



__某日

__帝国都郊外某山中

ディレクター「ひっ…ふぅ…ミズミチくぅん。あんまり飛ばさないでくれよぉ。僕ぁ一応病み上がりなんだよぉ。」

 ディレクターがまたもや泣き言を溢す。だが、ついてくると言い出したのはディレクターのほうなのだ。

__しっかりしてください。最後まで追い続けることがテレビマンの本懐なんでしょう。

ディレクター「はぁ…滅多なこと言うもんじゃなかったかなぁ。」

 あの騒ぎから数日後。実録ドラゴンスレイヤーは最終回を迎え、見事同局内歴代最高視聴率を記録した。
 それだというのに既に人々の中からドラゴンスレイヤーへの関心は薄れ、またいつもと変わらぬ日常が始まっている。
 我々も本来なら来週から始まる新番組“ホシーノ・ゼンバイヤーの憂鬱~若き天才実業家の審美眼は何を映すか~(毎週火曜19:00~20:00)”の編集作業が残っており、こんな山中で油を売っている暇などない…はずだった。
 だが、先日SNSで噂になった光る飛行物体の相次ぐ目撃情報…清々しいほどの眉唾だがそれを我々は捨て置くことなど出来なかった。そう__

 ひょっとしたら“彼ら”かもしれない。

 あの日、街を救って消えたドラゴンスレイヤーたちが今なおこの空の向こうに漂っているのだとしたら…もし仮にその光が彼らなのだとしても、我々に出来ることは何もない。   
 だが、それでもその勇姿を一瞬でも映像に収められるなら…それが彼らの生き様を一人でも多くの人に伝えることに繋がるのならと考えれば居ても立っても居られなかったのだ。

ディレクター「ふぅ…ようやく見えてきた。あそこが撮影スポットか。すげえな、こりゃ。都内にこんな星がよく見える場所があるなんて。」

__これだけ見通しの良い場所なら謎の飛行体も見えるはずです。

ディレクター「そうだな…それでも長丁場になるだろう。私はテントを設置してくるよ。
ここをキャンプ地にする。」

__そんなに長居するつもりでいいんですか?

 ディレクターの方が仕事が残っているはずだ。

ディレクター「いいんだよ、あんなスカした番組。それに僕、厳密にはもうディレクターじゃあないし。」

__それにしても、やたらとテントを張る手際がいいですね。

ディレクター「へへへ…実は最近ちょっとハマってるんだ。ソロキャ__」

__あ、あれは…!!

ディレクター「聞いてくれないの?話。」

 夜空の星の中に一際大きな光が目に入る。…いや、大きいどころではない。月と同じくらいのサイズがある。

ディレクター「っていうか、どんどん大きくなってない!?」

__違います!あれは…“近づいて”きているんです!

ディレクター「わわっ!!?」

 なんということだろう、“それ“は物凄い速さで我々の目の前に降り立った。
 円盤状の建物のように巨大なそれは輝きを帯びながら音もたてずに着地した。…聞いたことがある。異世界では《UFO》と呼ばれる伝説上の物体だ。まさか実物をカメラで収める日が来るとは。

???「ふーっ、地球の空気はやっぱうまいっピ。」

__なっ…!

 さらになんということだろう、円盤の中から現れたのはタコのようなかぶり物とアロハシャツを身につけた人間の姿だった。…聞いたことがある。UFOには宇宙の民《エイリアン》が住んでおり、彼らは軟体生物の姿をしているらしい。まさに世紀の映像だ。
 エイリアンは全部で四人。心なしか、彼ら…ドラゴンスレイヤーたちに似ている気がする。

十文っぽいエイリアン「いや~まさか地球周遊中の宇宙人さんがドラゴンスレイヤーのファンだったなんて、こんなこともあるっピねぇ。」

根鎌っぽいエイリアン「助けてもらったばかりか宇宙旅行まで連れてってもらえるとはなぁ。宇宙人の心広すぎだっピ。」

佐渡っぽいエイリアン「しかしこれで俺たちも新たなジャンルを切り開いたな。次は旅番組のロケでどうだっピ。」

海野っぽいエイリアン「あっ!よぅ!ミズミっち!フジD!久しぶりだっピ。お土産買ってきたけど、要る?パッピー星ご当地限定じゃがりこ。」



__突如、我々の前に現れた未確認生命体!

__果たして、彼らは敵か?味方か?その目的は?

__大宇宙の謎が今、解き明かされる!

未知との遭遇ドキュメンタリー
『実録!エイリアンが来た!!』

 ご期待ください。



ディレクター「これはもう追わなくていいんじゃないかな。」

-終-
提供 ほっこりTV
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