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第36話
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一番良い客間などと、偉そうに言えたものだなとオレは怒りを抑えられなかった。それなのに、目の前のアイヴィーは目を輝かせてオレを見ている。どういうつもりだ?
「何しにきた。二度と近寄るなと言わなかったか?」
オレの凄みすら微笑みで流すアイヴィーは空気が読めない。昔からそうだったが、妄想で現実が見えてないタイプなんだ。そしてめんどくさいことに、オレを自分の妄想の世界に入れている。
「アル、そんな演技はもういいのよ。わたくしのこと、だーいすきでしょ?あなたのご両親がもうアルに関わらないでくれと頼んだから、わたくしはここに来れなかったけど、わたくしとアルのことを反対するご両親はもういないですわ。うふふふふ」
怖すぎる。いつからオレがアイヴィーのことを好きだと思っていた!?そんな時期ないぞ!!
「そ・れ・に!あんな女と結婚するとか言って、わたくしの嫉妬心を煽らなくても、ちゃーんとわかってますわよ。わたくしにずっと会いたかったし、結婚したかったのですわよね?」
「いや、まったく!!さっさと帰って、二度とオレの前に姿を現せるな!」
な、なんなんだ!?アイヴィーの妄想にだんだん怖くなってくる。
「アル。ひどい言葉を使わないで。いいの。わかってるわ。あなた、素直じゃないものね。そんなこと言わなくても、いいのよ。アルのことはぜーんぶ、わかってますもの。わたくし、アルと結婚してもかまいませんわ。そうお伝えしにきたの。小さい頃、庭園で約束したでしょう?」
「なんの!?」
話が通じなさすぎて、ぞっとしてくる。
「『大きくなってもずっと一緒にいて』って天使のようなアルは、わたくしに花が咲く庭園で言ってくれましたわよね」
「いやいやいやいや!あれは子どものころの純粋な思いで友だちとして一緒にいてほしいっていう意味だろ!?しかも4歳か5歳のころの話じゃないか」
それに……とオレは目を細める。
「事件前のことだしな……あんなことをしたアイヴィーとはもう会いたくなくて当然だろう?」
「あれくらいで怒るなんて、嘘ですわよね?むしろ喜びません?わたくしの愛を一生懸命伝えただけですわ」
「あれくらい!?喜ぶ!?意味がわからない!オレは嫌だった!」
アイヴィーはどんなつもりだったのかわからないが、幼いオレはものすごく傷ついた事件だった。なんなら、あれが女嫌いの始まりだったと思う。ぎりっと奥歯をかみしめる。怒りが沸き起こる。アイヴィーが女性じゃなければ、胸倉掴んで。殴っていたかもしれない。
「意地をはってるだけですわよね?そろそろ素直になってくださいません?アルはわたくしのこと大好きだって知ってますわよ!」
だめだ。通じない。もう一度はっきり言ってやろう。
「アイヴィー、もう帰れ。そして二度と顔を見せるな。オレには大事な妻がいる」
「妻?そんなのお飾りで偽物なのですわよね?わたくしが本命でしょう?」
『お飾り』『偽物』という言葉にドキッと一瞬した。……が、動揺を見せないようにする。
「いや。シアが本命だ。もう結婚承諾書も神殿へ提出し、後はお披露目するための結婚式だけだ」
部屋がシンと静まりかえった。カタカタと体を震わせるアイヴィー。
「そんなこと認めないですわ!アル!どうしてですの!?わたくしのことはもう大好きじゃありませんの!?」
絶叫ともいえる声をあげた。
「どうして?こっちが聞きたい。幼いオレになにをしたと思ってるんだ!?嫌いになって当然だろ!?」
「嫌い?嫌いって言いましたの?」
「そうだ。オレの心を無視するアイヴィーは嫌いだ」
「……わたくし、ずっとずっとずーーっとアルを想っていましたのよ!会えなくてもいつかアルが迎えに来てくれるって思ってましたのに!」
涙がポロポロと溢れていく。
「わかりましたわ。あの女ですわね?図々しくも子持ちでおしかけてきた女が原因なのですわね!?」
「いや?オレのほうから結婚は申し込んだ」
アイヴィーはオレの言葉など耳に届いていないらしく、憎々しげに顔を歪めている。
「絶対にあの女を許しませんわっ!アルの心を取り戻してみせますわ!」
「おい!シアに手を出すな!」
「後悔させてやる……絶対……絶対……許さない……あんなバツイチ女……絶対わたくしのほうが……」
ブツブツ言いながら部屋を出て行く。まさか……シアのことをどうにかするつもりか?させるかっ!シアの周辺の警備を密かに増やしておこう。
病んだような目でこちらを見るアイヴィーの目が脳裏から離れなかった。あの日のこと……幼い頃、アイヴィーにされたこともまた思い出してきた。気持ち悪くなってきて、食べたものを吐いてしまう。
シアもオレがなぜ女嫌いになったのか知りたがっていた。話さなきゃいけないと思いつつも、気まずくて言いたくなくて冷たい態度をとってしまった。情けないやつと思われたくなかったのかもしれない。
彼女に話したらどんな顔をするだろう?
「何しにきた。二度と近寄るなと言わなかったか?」
オレの凄みすら微笑みで流すアイヴィーは空気が読めない。昔からそうだったが、妄想で現実が見えてないタイプなんだ。そしてめんどくさいことに、オレを自分の妄想の世界に入れている。
「アル、そんな演技はもういいのよ。わたくしのこと、だーいすきでしょ?あなたのご両親がもうアルに関わらないでくれと頼んだから、わたくしはここに来れなかったけど、わたくしとアルのことを反対するご両親はもういないですわ。うふふふふ」
怖すぎる。いつからオレがアイヴィーのことを好きだと思っていた!?そんな時期ないぞ!!
「そ・れ・に!あんな女と結婚するとか言って、わたくしの嫉妬心を煽らなくても、ちゃーんとわかってますわよ。わたくしにずっと会いたかったし、結婚したかったのですわよね?」
「いや、まったく!!さっさと帰って、二度とオレの前に姿を現せるな!」
な、なんなんだ!?アイヴィーの妄想にだんだん怖くなってくる。
「アル。ひどい言葉を使わないで。いいの。わかってるわ。あなた、素直じゃないものね。そんなこと言わなくても、いいのよ。アルのことはぜーんぶ、わかってますもの。わたくし、アルと結婚してもかまいませんわ。そうお伝えしにきたの。小さい頃、庭園で約束したでしょう?」
「なんの!?」
話が通じなさすぎて、ぞっとしてくる。
「『大きくなってもずっと一緒にいて』って天使のようなアルは、わたくしに花が咲く庭園で言ってくれましたわよね」
「いやいやいやいや!あれは子どものころの純粋な思いで友だちとして一緒にいてほしいっていう意味だろ!?しかも4歳か5歳のころの話じゃないか」
それに……とオレは目を細める。
「事件前のことだしな……あんなことをしたアイヴィーとはもう会いたくなくて当然だろう?」
「あれくらいで怒るなんて、嘘ですわよね?むしろ喜びません?わたくしの愛を一生懸命伝えただけですわ」
「あれくらい!?喜ぶ!?意味がわからない!オレは嫌だった!」
アイヴィーはどんなつもりだったのかわからないが、幼いオレはものすごく傷ついた事件だった。なんなら、あれが女嫌いの始まりだったと思う。ぎりっと奥歯をかみしめる。怒りが沸き起こる。アイヴィーが女性じゃなければ、胸倉掴んで。殴っていたかもしれない。
「意地をはってるだけですわよね?そろそろ素直になってくださいません?アルはわたくしのこと大好きだって知ってますわよ!」
だめだ。通じない。もう一度はっきり言ってやろう。
「アイヴィー、もう帰れ。そして二度と顔を見せるな。オレには大事な妻がいる」
「妻?そんなのお飾りで偽物なのですわよね?わたくしが本命でしょう?」
『お飾り』『偽物』という言葉にドキッと一瞬した。……が、動揺を見せないようにする。
「いや。シアが本命だ。もう結婚承諾書も神殿へ提出し、後はお披露目するための結婚式だけだ」
部屋がシンと静まりかえった。カタカタと体を震わせるアイヴィー。
「そんなこと認めないですわ!アル!どうしてですの!?わたくしのことはもう大好きじゃありませんの!?」
絶叫ともいえる声をあげた。
「どうして?こっちが聞きたい。幼いオレになにをしたと思ってるんだ!?嫌いになって当然だろ!?」
「嫌い?嫌いって言いましたの?」
「そうだ。オレの心を無視するアイヴィーは嫌いだ」
「……わたくし、ずっとずっとずーーっとアルを想っていましたのよ!会えなくてもいつかアルが迎えに来てくれるって思ってましたのに!」
涙がポロポロと溢れていく。
「わかりましたわ。あの女ですわね?図々しくも子持ちでおしかけてきた女が原因なのですわね!?」
「いや?オレのほうから結婚は申し込んだ」
アイヴィーはオレの言葉など耳に届いていないらしく、憎々しげに顔を歪めている。
「絶対にあの女を許しませんわっ!アルの心を取り戻してみせますわ!」
「おい!シアに手を出すな!」
「後悔させてやる……絶対……絶対……許さない……あんなバツイチ女……絶対わたくしのほうが……」
ブツブツ言いながら部屋を出て行く。まさか……シアのことをどうにかするつもりか?させるかっ!シアの周辺の警備を密かに増やしておこう。
病んだような目でこちらを見るアイヴィーの目が脳裏から離れなかった。あの日のこと……幼い頃、アイヴィーにされたこともまた思い出してきた。気持ち悪くなってきて、食べたものを吐いてしまう。
シアもオレがなぜ女嫌いになったのか知りたがっていた。話さなきゃいけないと思いつつも、気まずくて言いたくなくて冷たい態度をとってしまった。情けないやつと思われたくなかったのかもしれない。
彼女に話したらどんな顔をするだろう?
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