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第55話
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「旦那様、どうしますか?」
オレが公爵邸に帰ってくると、シリルがそう尋ねた。
「アイヴィーを呼べ」
「かしこまりました。閉じ込め、尋問していたので、少し錯乱しておりますが、大丈夫でしょうか?」
「かまわない」
殺伐としたオレの雰囲気に圧されて、ジャネットやヴォルフは遠巻きに見ている。
「フランはどうだ?」
「あ、ああ?シア様は用事があるから、2、3日帰らへんと言っておいた。疑わしそうに見てたんやけど……ワイとアルと信用すると言ってはったわ。頼むで……せっかくフラン坊ちゃんと築いた信頼関係、ワイが嘘ついたとばれたら戻らへんわ」
「わかってる。数日内に終わらせる!」
いつまでもシアを厳しい修道院に置いておくことはオレだって気になる。そして疑われてるのも心外だ!オレは二人ととても大切に思っているのに、暴力だの酒乱だの勝手なことを!
部屋に入る前から甲高い声が扉の外から聞こえてくる。アイヴィーが来たようだ。警備兵二人に支えられて、ボサボサの髪をしている。オレの方をギョロリとした目で見た。……嫌な目だな。その病んだような目は幼い頃、アイヴィーに嫌なことをされた時を彷彿させた。自分を見失っている目だ。
「アルーーっ!この人たち、ひどいのですわよ!罰して!!あなたの大好きなわたくしに無礼なことばっかりいいますの!!」
オレに飛びつこうとするが、警備兵がガッチリと両腕を絡め取り、ジャネットとヴォルフがオレの横について、守るように警戒した。
「ひどいのはどっちだ?シアを誘拐し、修道院にいれたな?そして人を雇ってフランに嫌がらせをしていたのもおまえだろう!」
「わたくしは騙されているアルのためにしたのですわ!あんなバツイチの女、どこがよろしいんですの?聞いていますわよ。オースティン殿下から疎まれた女の話を知りませんの?貧乏貴族のくせに王家に取り入って、嫁入りし、図々しくも居座って、迷惑をかけていたそうじゃありませんの」
「シアは迷惑などかけていない。最低なのは……」
不敬罪になるか?王族への批判は不敬罪だ。だが、かまわないと思った。
「最低なのはオースティン殿下だろう。オレはある程度、シアのことを調査済みなんだ。愛人がいる身で妃を娶り、嫌がるシアと無理やり子どもを作ったにも関わらず、愛人を優遇し続けていた。その理由は陛下から『貴族との間に子どもを作らなければ、愛人は認めない』と言われたからだと調べはついている。この事実を知っている者は少ないだろうけどな。シアやフランは王家の中で、冷遇されたりシアは暴力を振るわれたりしていた」
アイヴィーよりジャネットやヴォルフの方が息をのむ。シリルは調べてきたため、知っているので、沈痛な顔をしながら、その場にいる。この事実を知った時、オレも同じような顔をしていたと思う。
「シアは何も知らずに嫁いだんだ……オースティン殿下に愛人がいるなど知らずに、周囲から言われるままに……それなのに……」
シアの絶望はどんなものだっただろう?シアのそばについていて、解雇された城のメイドの話からはシアがとても不憫だったということを聞いた。見ていられなかったと……。
「シアは愛人がいるなら、結婚はお断りしたいといったが、周囲はオースティン殿下が名指しした娘だからと家に帰さず、そのまま嫁入りさせた。しかしオースティン殿下は『夜会にいた娘を適当に指さしただけだ』と笑っていたそうだ。あいつ……4、5発殴りたい。いや、待て?今は怒ってる場合じゃない。
「それでもっ!わたくしとアルの間に入ってくるのは許せませんわ!アルは殿下のおさがりの女性を引き受けるんですの!?あなたにはもっとふさわしい女性がいるでしょう!?このわたくしがいますわよっ!」
ぐいぐい前にでようとするアイヴィーだったが、それは許されない。オレに触れることは決してできない。
「アイヴィー、オレが愛しているのはシアだけだ。声が出ないというが、何をした?」
プイッとそっぽを向くアイヴィー。オレはスッと手を挙げる、シリルがわかりましたとばかりに薬瓶を持ってきた。
「な、なんですの?」
「どうせ薬を使ったんだろうということはわかっている。同じようなものを作った。自分も味わったらどうだ?」
アイヴィーの顔が一気に蒼白になった。
「わたくしのこと、愛してませんの!?」
「繰り返すが、オレが愛しているのはシアだけだ。アイヴィーはオレにしたことを考えるべきだ。幼いオレは本当に傷ついた。さっさと報復し、二度とオレに近寄ろうと考えないようにしておけばよかったと今になって思うよ」
「な、なんでですの!わたくしはただ、アルのことが好きなのですわ!好き!好き!だーい好きよーー!」
この好きだというアイヴィーの声を聞くだけで吐き気がする。オレは薬瓶を手に持つ。
「声を失うだけでなく、多少キツイ幻覚も見るかもしれないけどな。シアとオレにしたことを考えたら、まだ優しいよな?」
オレが一歩踏み出すと、ひいいいっと悲鳴があがった。
「ごめんなさい、ごめんさない、ごめんなさい。解毒剤を渡すから許してええええ!!」
アイヴィーが自分の袖口にあるという小さな錠剤があることを白状した。オレは確認する。瓶に入っているものが本物か、後から公爵家御用達の薬師に分析を頼もう。念には念を入れたい。
「こ、これでわたくしとお父様は解放してもらえますのよね?」
シリルが薬瓶を掲げて、にっこりと不気味に笑った。オレが言うまでもなかった。背を向けて、オレは無言で、さっさと部屋を出ていく。
許してくれるって言ったじゃないいいいという断末魔のような声が背後からしたのを無視してシアを助けに向かうことにする。
こっちはあらかた片付いたと思う。二度とアイヴィーはオレの前に現れないだろう。
オレが公爵邸に帰ってくると、シリルがそう尋ねた。
「アイヴィーを呼べ」
「かしこまりました。閉じ込め、尋問していたので、少し錯乱しておりますが、大丈夫でしょうか?」
「かまわない」
殺伐としたオレの雰囲気に圧されて、ジャネットやヴォルフは遠巻きに見ている。
「フランはどうだ?」
「あ、ああ?シア様は用事があるから、2、3日帰らへんと言っておいた。疑わしそうに見てたんやけど……ワイとアルと信用すると言ってはったわ。頼むで……せっかくフラン坊ちゃんと築いた信頼関係、ワイが嘘ついたとばれたら戻らへんわ」
「わかってる。数日内に終わらせる!」
いつまでもシアを厳しい修道院に置いておくことはオレだって気になる。そして疑われてるのも心外だ!オレは二人ととても大切に思っているのに、暴力だの酒乱だの勝手なことを!
部屋に入る前から甲高い声が扉の外から聞こえてくる。アイヴィーが来たようだ。警備兵二人に支えられて、ボサボサの髪をしている。オレの方をギョロリとした目で見た。……嫌な目だな。その病んだような目は幼い頃、アイヴィーに嫌なことをされた時を彷彿させた。自分を見失っている目だ。
「アルーーっ!この人たち、ひどいのですわよ!罰して!!あなたの大好きなわたくしに無礼なことばっかりいいますの!!」
オレに飛びつこうとするが、警備兵がガッチリと両腕を絡め取り、ジャネットとヴォルフがオレの横について、守るように警戒した。
「ひどいのはどっちだ?シアを誘拐し、修道院にいれたな?そして人を雇ってフランに嫌がらせをしていたのもおまえだろう!」
「わたくしは騙されているアルのためにしたのですわ!あんなバツイチの女、どこがよろしいんですの?聞いていますわよ。オースティン殿下から疎まれた女の話を知りませんの?貧乏貴族のくせに王家に取り入って、嫁入りし、図々しくも居座って、迷惑をかけていたそうじゃありませんの」
「シアは迷惑などかけていない。最低なのは……」
不敬罪になるか?王族への批判は不敬罪だ。だが、かまわないと思った。
「最低なのはオースティン殿下だろう。オレはある程度、シアのことを調査済みなんだ。愛人がいる身で妃を娶り、嫌がるシアと無理やり子どもを作ったにも関わらず、愛人を優遇し続けていた。その理由は陛下から『貴族との間に子どもを作らなければ、愛人は認めない』と言われたからだと調べはついている。この事実を知っている者は少ないだろうけどな。シアやフランは王家の中で、冷遇されたりシアは暴力を振るわれたりしていた」
アイヴィーよりジャネットやヴォルフの方が息をのむ。シリルは調べてきたため、知っているので、沈痛な顔をしながら、その場にいる。この事実を知った時、オレも同じような顔をしていたと思う。
「シアは何も知らずに嫁いだんだ……オースティン殿下に愛人がいるなど知らずに、周囲から言われるままに……それなのに……」
シアの絶望はどんなものだっただろう?シアのそばについていて、解雇された城のメイドの話からはシアがとても不憫だったということを聞いた。見ていられなかったと……。
「シアは愛人がいるなら、結婚はお断りしたいといったが、周囲はオースティン殿下が名指しした娘だからと家に帰さず、そのまま嫁入りさせた。しかしオースティン殿下は『夜会にいた娘を適当に指さしただけだ』と笑っていたそうだ。あいつ……4、5発殴りたい。いや、待て?今は怒ってる場合じゃない。
「それでもっ!わたくしとアルの間に入ってくるのは許せませんわ!アルは殿下のおさがりの女性を引き受けるんですの!?あなたにはもっとふさわしい女性がいるでしょう!?このわたくしがいますわよっ!」
ぐいぐい前にでようとするアイヴィーだったが、それは許されない。オレに触れることは決してできない。
「アイヴィー、オレが愛しているのはシアだけだ。声が出ないというが、何をした?」
プイッとそっぽを向くアイヴィー。オレはスッと手を挙げる、シリルがわかりましたとばかりに薬瓶を持ってきた。
「な、なんですの?」
「どうせ薬を使ったんだろうということはわかっている。同じようなものを作った。自分も味わったらどうだ?」
アイヴィーの顔が一気に蒼白になった。
「わたくしのこと、愛してませんの!?」
「繰り返すが、オレが愛しているのはシアだけだ。アイヴィーはオレにしたことを考えるべきだ。幼いオレは本当に傷ついた。さっさと報復し、二度とオレに近寄ろうと考えないようにしておけばよかったと今になって思うよ」
「な、なんでですの!わたくしはただ、アルのことが好きなのですわ!好き!好き!だーい好きよーー!」
この好きだというアイヴィーの声を聞くだけで吐き気がする。オレは薬瓶を手に持つ。
「声を失うだけでなく、多少キツイ幻覚も見るかもしれないけどな。シアとオレにしたことを考えたら、まだ優しいよな?」
オレが一歩踏み出すと、ひいいいっと悲鳴があがった。
「ごめんなさい、ごめんさない、ごめんなさい。解毒剤を渡すから許してええええ!!」
アイヴィーが自分の袖口にあるという小さな錠剤があることを白状した。オレは確認する。瓶に入っているものが本物か、後から公爵家御用達の薬師に分析を頼もう。念には念を入れたい。
「こ、これでわたくしとお父様は解放してもらえますのよね?」
シリルが薬瓶を掲げて、にっこりと不気味に笑った。オレが言うまでもなかった。背を向けて、オレは無言で、さっさと部屋を出ていく。
許してくれるって言ったじゃないいいいという断末魔のような声が背後からしたのを無視してシアを助けに向かうことにする。
こっちはあらかた片付いたと思う。二度とアイヴィーはオレの前に現れないだろう。
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