魔王様に恋する料理人

カエデネコ

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選ぶときのうどん

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 カンカンカーンとフライパンとお玉で鳴らして合図する。

 羽根の付いた者、頭に角がある者、可愛らしい子鬼、獣人などなどハロウィン顔負けの面子が集まる。

「うわー!良い匂い」

「皿こっちに、よこせー!」

「早く!盛れよー!」

「取りすぎだろ」

 食堂は賑やかだった。今日はうどん。次々とあたしは茹であがった麺を丼にいれていく。

 自分たちで汁をかけて、好きな天ぷらをのせていくスタイル。

 とり天、芋天、エビ天、野菜のかき揚げ、ちくわ天、れんこんの天がサクサクッと揚がっていてうどんの汁にからむとジュワッと衣が溶けて味が染みていく。

 一段落したところで、魔王様達も食べたかな?と部屋へ行くと、サシャとルドルフも魔王様と一緒にうどんを食べていた。

「どうかな?美味しかった?」

 聞くまでもなかったかもしれない。ルドルフが三人分のおかわりをとりに行かされるところらしい。

「芋天がさっくりホクホクして気に入りました。あ!ルドルフ、2枚お願いしますよ」

 サシャが芋天の虜になった模様。魔王様はエビ天ととり天な!と言っている。ルドルフはもう!自分たちで行きなよといいつつも従い、ちゃんと取りに行ってあげている。

「マナ、話を聞いたそうでなにか変化はないんですか?」

 サシャが『黒薔薇姫』について言っていることに気づく。

「特に今までと変わらないかな。何もないわ」

 あたしもうどんを食べる。つるりとした麺だがモチモチしてうどんは美味しい。

「サシャも魔王候補の一人だった」

「ええええーっ!?」

 優しそうなサシャが!?魔王様に言われて肩をすくめるサシャ。

「自分には向いていないんですが……6家門があるでしょう?その中で最も力の強いものが魔王候補になるのです。それは本人の意思は関係なくね」

 サシャは嫌だったのだろうか。苦い顔をしている。そういえば『黒薔薇姫』も嫌そうだった。

「黒薔薇姫も自分には合わないと言っていたわ」

『そう思う』

 二人の言葉が重なる。どんな人だったのよ……!?

「このうどんの付加は力強さだな。なんでた?」

「あー、もしかして……DIYしようかなぁと考えていたからかも!食堂のカウンター直したかったのよ」

 魔王様がなるほどと言いながら、無心で作れないのかよと言うが……それは難しい。無意識にしちゃうもの。

「……で、マナは人の世界に帰らないのですか?今なら平穏に暮らせますよ」

「サシャは答えがわかってるのに聞くことあるのね。あたしの答えは魔界にいることよ。『黒薔薇姫』であろうとなかろうとね!魔王様の傍にいることが望みなのよ」

 魔王様は苦笑して言う。

「好きにしろ」

 あれっ?……少し前より魔王様の態度が軟化した気がした。

 ルドルフがおかわりのうどんを持ってきて言う。

「魔王軍の力がアップしちゃってない?」

「そう思ったか!?マナの仕業だ」

 魔王様があたしを指差す。ルドルフがアハハッと笑う。

「遠征の時にマナを連れてくといいかもしれませんね」

「野外炊具使ったことないわ。なんか移動式のキッチンでもないとダメかも……」

 あたしはアウトドア派ではないのだ。キャンプはしたことがない。

「そんな問題じゃない。危ないから連れて行くわけがないだろ!」

 魔王様の言葉にサシャが苦言を呈する。

「『黒薔薇姫』が危険なら大抵の者たちが危険ですよ。それにいつまでも囲っていてもマナが力をコントロールする機会がなくなります。それはそれで危険なことですよ」

「少しずつ覚えていけばいいさ……」

「魔王様はトラウマになっちゃってるんだよー。『黒薔薇姫』がいなくなったとき……いや、なんでもありませんっ!」

 ルドルフは魔王様に睨みつけられてやめる。

「あたしに力があるなら、コントロールすることは覚えたいかも……そしたら、皆がピンチの時に助けられるかもしれない」

「……っ!!その考え方はやめろ!」

 いきなり語気を荒らげ立ち上がり、怖い顔であたしを睨みつけた。

 そして部屋から怒ったように出ていった。あたしは驚いて見守るしかなかった。

 サシャが小さい声で言う。

「『黒薔薇姫』もそんな考え方でしたよ。そして魔王様のかわりに力を使って消えたのです」

「でもマナが選んだことは尊重すればいいのにね」

 ルドルフが大人びたことを言う。サシャがそうなんですけどねぇ……と笑う。

 あたしは魔界にいることをずっと前から決めているし、『黒薔薇姫』であってもなくてもあたしはあたしだ。……魔王様は『黒薔薇姫』をずっと追い続けているのかな?
 出ていった扉をみつめた。
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