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剣と魔法の先生
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「アデル様より、ニーナ様の剣や魔法の指導を頼まれたジノ=スペンスです。あなたをお迎えに行った騎士の一人ですが、覚えていますか?」
栗毛の馬に乗っていた一人……かな?と思った。赤茶色の髪に褐色の目をした彼は穏やかで優しそうだ。背はそこまで高くない。
「なんとなく……」
「アハハ。そうですよね~。あの時のニーナ様は魔物に襲われて、それどころじゃなかったですしね!じゃあ、改めてよろしくお願いします」
明るくて爽やかな青年で、親しみやすい感じがした。
「えっ!いえ!こちらこそよろしくお願いします。時間を使わせてしまい、ごめんなさい」
「いえいえ……みんな、話を聞いて、驚いてます。アデルバード様の奥様がまさか戦おうとするなんて、思いもよらなかったと……」
私は頬が赤くなる。普通の貴族の娘を演じるなら、これはアウトよね。王女として慎ましく淑やかに育てられた記憶のある私は恥ずかしくなる。
「貴族の娘としてはあるまじき行為であることはわかってます。でもアデル様だけ戦わせて、私だけ安全なところで守ってもらっているのは嫌なんです。淑女らしくはない……ですけど……」
ジノはそんな私の言葉に優しく目を細める。
「『北の魔王』とか言われてるアデルバード様ですが、そんなあなただから好きになったのかもしれませんね」
「は!?」
今、好きとか言った!?聞き間違いかな?
「あの日、アデルバード様は妻になる女性を迎えに行く。ついて来いといきなり言い出したのでびっくりしましたよ」
違います。アデル様は買い物の受け取りにいっただけです。
「そこで魔物に襲われてるあなたを見て、居ても立っても居られず、助けに突っ込んでいった」
ま、まぁ……そうね。第三者から見たら、そういう図式ね。
「そしてあなたと見つめ合っていた」
いや、そんな雰囲気じゃなかったよね?もしかして買った人ですか?と私は見てました。アデル様は品物ってこれか?って感じだったと思います。
「あの方の心はずっと凍っていて、我々も笑顔にすることは叶いません。どうかよろしくお願いします」
丁寧に頼まれてしまった……。私の声が少し上擦る。
「わ、私にどこまでできるかはわからないけれど、お役に立てたら良いなとは思ってます」
期限付きの夫婦なのよねと騙しているようで後ろめたい。そんなことを知らないジノはハイと言って笑いかけてくれる。
さあ、剣と魔法。どちらから始めましょうかと言って、授業は始まった。気持ちを切り替えて頑張ろう!動揺してる場合ではない。
今度こそ、現世こそ、私は皆の足手まといではなく、役に立つ人になりたい。
この自由に動く手足と強い体を持っている私ならできるはず。
たとえ、周りの人に騙していることがあってもその分、頑張りたい。買われてやってきたけど、私はここに住む人達のこと、好きになっていっているのだった。
栗毛の馬に乗っていた一人……かな?と思った。赤茶色の髪に褐色の目をした彼は穏やかで優しそうだ。背はそこまで高くない。
「なんとなく……」
「アハハ。そうですよね~。あの時のニーナ様は魔物に襲われて、それどころじゃなかったですしね!じゃあ、改めてよろしくお願いします」
明るくて爽やかな青年で、親しみやすい感じがした。
「えっ!いえ!こちらこそよろしくお願いします。時間を使わせてしまい、ごめんなさい」
「いえいえ……みんな、話を聞いて、驚いてます。アデルバード様の奥様がまさか戦おうとするなんて、思いもよらなかったと……」
私は頬が赤くなる。普通の貴族の娘を演じるなら、これはアウトよね。王女として慎ましく淑やかに育てられた記憶のある私は恥ずかしくなる。
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「は!?」
今、好きとか言った!?聞き間違いかな?
「あの日、アデルバード様は妻になる女性を迎えに行く。ついて来いといきなり言い出したのでびっくりしましたよ」
違います。アデル様は買い物の受け取りにいっただけです。
「そこで魔物に襲われてるあなたを見て、居ても立っても居られず、助けに突っ込んでいった」
ま、まぁ……そうね。第三者から見たら、そういう図式ね。
「そしてあなたと見つめ合っていた」
いや、そんな雰囲気じゃなかったよね?もしかして買った人ですか?と私は見てました。アデル様は品物ってこれか?って感じだったと思います。
「あの方の心はずっと凍っていて、我々も笑顔にすることは叶いません。どうかよろしくお願いします」
丁寧に頼まれてしまった……。私の声が少し上擦る。
「わ、私にどこまでできるかはわからないけれど、お役に立てたら良いなとは思ってます」
期限付きの夫婦なのよねと騙しているようで後ろめたい。そんなことを知らないジノはハイと言って笑いかけてくれる。
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