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温かな夜
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私を見つけてくれた後のアデル様はすごかった。
「風呂を沸かせ!温かい飲み物を用意し、着替えを!」
「あの……そんな慌てなくても……」
「風邪をひくだろう!?」
「いえ、私は人より丈夫なので、風邪をひいたことないんです」
真実なのに、それを遠慮ととったらしく、アデル様が眉間にシワを寄せる。
「自分の体を大事にしろ!」
……それはアデル様に言えることでは?と思ったけど反論できるわけもなく。
「は、はいっ!」
私はアデル様の大きな声に驚いて、慌てて返事をする。メイドのアンリがこちらへ!と私に毛織物のストールをかけ、暖炉の火がつけられた部屋へ連れて行こうとする。
「なんの騒ぎ?」
アデル様のお母様!私はビクッとなって声の方向を見た。
「余計なことをオレの妻に言うな」
「誰に向かってそんな………!」
「スノーデン家の当主はオレだ。ニーナに何を言ったのか、あなたのことだから想像はつく」
当主という言葉と鋭く冷たい目に怯み、押し黙るお母様。屋敷のメイド達が緊迫した雰囲気にオロオロしている。
「あの……ご、ごめんなさい!私、街を見てみたかっただけなんですっ!お母様のせいではありません!」
「ニーナ、別に庇わなくてもいい。この人は昔からこんな人なんだ」
「いいえ。今日は1人で参りましたけど……あの……次はアデル様が一緒に行ってくだされば、私はとても嬉しいです」
「そういえば……街へ行く話をしていたな」
そうですと頷くと、形の良い顎に手をやり、考えるアデル様。
「明日、帰る前に一緒に行こう」
アデル様のお母様は、それ以上何も言わなかった。ただ、背中を向けた時、寂しそうな表情をしたのが私は気になった。
「私、お母様に嫌われてしまったんでしょうか。すみません。うまく……できなくて……」
「あの人はああいう人だ。どんな人物であれ母が認めるのは血筋でしかない。気にすることではない」
「そうなのでしょうか……?」
私が少し落ち込む。なにもかもうまくはいかないものね……。
「寒いと気分も落ち込む」
そう言って、ナイトテーブルに置かれたマシュマロ入りの温かなココアをアデル様は渡してくれる。
甘くてじんわりと温かさが体に染みていく。なんだか今、すごく幸せだと思う。
「美味しい。私、甘いもの好きなんです」
「知っている。ラビが言っていたからな」
ラビが?なぜアデル様に伝えたのだろう?私が首を傾げるとアデル様がああ……と言った。
「ラビに好きなものを作ってやってくれと頼んであった。後から何が好きだったか?と聞いたら。甘いものだと言っていたからな……」
私は思わず微笑む。前からそうやって何気なく気にかけてくれていたのだと知る。アデル様のことは怖くないし、冷たいとも思わない。こんなに満ち足りた気持ちになれる温かな時間をくれるのだから。
「ありがとうございます。私……アデル様に会えて良かったです」
そう言った私の顔を見て………何故か泣きたいような顔をしたアデル様だった。少し悲しげな……。
「あの……なぜ、そんな顔をするんですか?」
ハッと手で口もとを抑えるアデル様。少しためらった後、その手の間から漏れるような声で言った。
「オレの知っている人と……時々、ニーナは似ている。その笑い方もそっくりなんだ。夜会で歌った姿もまるで………悪い。変なこと言ってるよな。なんでもない」
そう言って、目を逸らした。
誰に似てるの?と聞きたかったけれど、もしかして、好きな人でもいるのかもしれないと心がザワザワした私は聞けなかった。
なんだか好きとわかってから、臆病な私になっている。以前はこんなことなかったのにとアデル様の横顔を眺め、仮の妻としてでも良いから傍にいたいと思った。いらないと言われるその日まで………できるだけ長く一緒に。
「風呂を沸かせ!温かい飲み物を用意し、着替えを!」
「あの……そんな慌てなくても……」
「風邪をひくだろう!?」
「いえ、私は人より丈夫なので、風邪をひいたことないんです」
真実なのに、それを遠慮ととったらしく、アデル様が眉間にシワを寄せる。
「自分の体を大事にしろ!」
……それはアデル様に言えることでは?と思ったけど反論できるわけもなく。
「は、はいっ!」
私はアデル様の大きな声に驚いて、慌てて返事をする。メイドのアンリがこちらへ!と私に毛織物のストールをかけ、暖炉の火がつけられた部屋へ連れて行こうとする。
「なんの騒ぎ?」
アデル様のお母様!私はビクッとなって声の方向を見た。
「余計なことをオレの妻に言うな」
「誰に向かってそんな………!」
「スノーデン家の当主はオレだ。ニーナに何を言ったのか、あなたのことだから想像はつく」
当主という言葉と鋭く冷たい目に怯み、押し黙るお母様。屋敷のメイド達が緊迫した雰囲気にオロオロしている。
「あの……ご、ごめんなさい!私、街を見てみたかっただけなんですっ!お母様のせいではありません!」
「ニーナ、別に庇わなくてもいい。この人は昔からこんな人なんだ」
「いいえ。今日は1人で参りましたけど……あの……次はアデル様が一緒に行ってくだされば、私はとても嬉しいです」
「そういえば……街へ行く話をしていたな」
そうですと頷くと、形の良い顎に手をやり、考えるアデル様。
「明日、帰る前に一緒に行こう」
アデル様のお母様は、それ以上何も言わなかった。ただ、背中を向けた時、寂しそうな表情をしたのが私は気になった。
「私、お母様に嫌われてしまったんでしょうか。すみません。うまく……できなくて……」
「あの人はああいう人だ。どんな人物であれ母が認めるのは血筋でしかない。気にすることではない」
「そうなのでしょうか……?」
私が少し落ち込む。なにもかもうまくはいかないものね……。
「寒いと気分も落ち込む」
そう言って、ナイトテーブルに置かれたマシュマロ入りの温かなココアをアデル様は渡してくれる。
甘くてじんわりと温かさが体に染みていく。なんだか今、すごく幸せだと思う。
「美味しい。私、甘いもの好きなんです」
「知っている。ラビが言っていたからな」
ラビが?なぜアデル様に伝えたのだろう?私が首を傾げるとアデル様がああ……と言った。
「ラビに好きなものを作ってやってくれと頼んであった。後から何が好きだったか?と聞いたら。甘いものだと言っていたからな……」
私は思わず微笑む。前からそうやって何気なく気にかけてくれていたのだと知る。アデル様のことは怖くないし、冷たいとも思わない。こんなに満ち足りた気持ちになれる温かな時間をくれるのだから。
「ありがとうございます。私……アデル様に会えて良かったです」
そう言った私の顔を見て………何故か泣きたいような顔をしたアデル様だった。少し悲しげな……。
「あの……なぜ、そんな顔をするんですか?」
ハッと手で口もとを抑えるアデル様。少しためらった後、その手の間から漏れるような声で言った。
「オレの知っている人と……時々、ニーナは似ている。その笑い方もそっくりなんだ。夜会で歌った姿もまるで………悪い。変なこと言ってるよな。なんでもない」
そう言って、目を逸らした。
誰に似てるの?と聞きたかったけれど、もしかして、好きな人でもいるのかもしれないと心がザワザワした私は聞けなかった。
なんだか好きとわかってから、臆病な私になっている。以前はこんなことなかったのにとアデル様の横顔を眺め、仮の妻としてでも良いから傍にいたいと思った。いらないと言われるその日まで………できるだけ長く一緒に。
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