13 / 304
カードゲームはほどほどに
しおりを挟む
カードがテーブルに並べられている。
「あなたの負けね?」
そう得意気に言うのは、バスク伯爵令嬢。ウェーブした黒髪に妖艶な赤い口紅をいつもつけている。
「じゃあ、あなたの一番大切な物をもらうわね」
そんなぁと泣き出しそうなのはタイロッド男爵令嬢。
ざわりとざわめく空気も読まず、特大の宝石がついたネックレスを満足気に奪うバスク伯爵令嬢。
なぜ後宮で賭け事のようなことをしているのかと言うと事は一時間ほど遡る。
お世話係が、皆の様子はどうか?と聞くために全員がホールに集まったのだ。大した話でもなく、私は特に話すこともないし、めんどくさいだけだった。終わって部屋へ帰ろうとした時だった。
バスク伯爵令嬢が得意気に言い出したのだ。
「陛下はカードゲームやチェスがお好きだと聞きましたわ。どなたか、わたくしと陛下の趣味を学びませんこと?」
初耳である。私はどうでもいいわと部屋に帰ろうとしたが、アナベルが難色を示し、私の足を止めた。
「お嬢様、なんだかおかしいと思いませんか?本当に陛下の趣味なんでしょうか?」
さあ?と私は肩をすくめる。カードゲームやチェスの遊びは貴族たちなら、嗜み程度していることであり、みんな知っている。
だけどこんな話、誰ものらないだろうと思った……が、意外とみんな暇らしく、部屋に帰らない。また何人かが勝負にのったのだ。
シエラ公爵令嬢やミリー伯爵令嬢は賭け事など嫌ですわと言って、自分は勝負に参加しないくせに取り巻きの一人に『やってみなさい』と命令している。
半泣きで取り巻きのなかでも下っ端らしい令嬢達が勝負に参加したが、言い出したバスク伯爵令嬢はかなり強かった。勝つたびに、どんどん、令嬢たちの物を奪う。ただの遊びにしては悪質だわ。
「他愛ないですわー」
オホホホと高笑いするバスク伯爵令嬢。傍観者の私と目が合う。巻き込まれたくないので、咄嗟にサッ!と身を隠したが、それを弱気ととったらしい。失敗した。
「そこのあなた!してみませんこと?それとも逃げますの?」
「いえ、めんどくさいなあって……」
「あら?そんなこと言って、自信がないのでしょう?」
その解釈で良いですと、私はへへっと笑ってごまかす。アナベルがお嬢様助けてあげたらどうですか……とボソッと呟く。ええええ!?怠惰を目指す私が人助け!?
「あなたがわたくしに勝てたら、他の方から貰ったものをお返しするわ。ただし、負けたら、あなたのその靴をもらうわ!裸足で部屋まで帰りなさい!」
笑い者にするつもり?しかし適当な物しか身に着けて来ていない私の中で欲しい物はないのだろう。
「勝手ねぇ……まあ、いいわ。わかりました。私が勝ったら、皆に物を返して、後宮での賭け事は止めていただくということでいいですか?」
さっさと終わらせよう。そろそろいつものティータイムの時間になってしまう。
「いいですわよ!」
相当自信があるらしい。カードが配られる。先手はバスク伯爵令嬢。
カードを捨てないようだ……私はポイッと捨てて、カードをめくる。
「運も勝負のうちですわ」
そう言われる。3回ほど繰り返し、勝負に出たのはバスク伯爵令嬢だった。
「オープン!ジャックナイト」
パラリとカードが並べられた。ざわめく周囲の令嬢達。勝ったわと笑うバスク伯爵令嬢。
「じゃあ、私のを………キングオブソード!」
『えっ!?』
周囲の声がハモった。一番強い手。
「この手が、そろったところ初めてみましたわ!」
「まさか!このカードをつくれるなんて!」
私は席を立つ。
「じゃあ、約束通りお願いします」
さっさと自室へ帰って行く私の背後で、詐欺ですわ!と負け惜しみを言う声がした。
その話をウィルにすると、目を丸くした。
「陛下は嗜み程度にはするけど、そんなお好きではないよ。それに後宮で賭け事なんて感心しないな」
「二度とないわよ。めんどくさいことをする人だったわ」
私が読もうと思っている本が取れずにハシゴを持ってこようとすると、ウィルがヒョイッと取ってくれた。そしてアハハと笑う。
「リアンに敵うわけないよなぁ。僕だって昔からずーーーっと勝てない。何度も聞くけど、イカサマじゃないんだよね?」
「失礼ね。違うわよ。なぜかキングオブソードのカードのほうが仲間にしてくださーいって手元に来るのよ」
強運すぎるよと肩をすくめるウィル。
私は無言になる……彼はいつまで騙されてくれるのだろう?賭け事はいつも騙し合いだ。いつまでも、ボケーッとした純粋なウィルでいてちょうだいと心のなかで思ったのだった。
「あなたの負けね?」
そう得意気に言うのは、バスク伯爵令嬢。ウェーブした黒髪に妖艶な赤い口紅をいつもつけている。
「じゃあ、あなたの一番大切な物をもらうわね」
そんなぁと泣き出しそうなのはタイロッド男爵令嬢。
ざわりとざわめく空気も読まず、特大の宝石がついたネックレスを満足気に奪うバスク伯爵令嬢。
なぜ後宮で賭け事のようなことをしているのかと言うと事は一時間ほど遡る。
お世話係が、皆の様子はどうか?と聞くために全員がホールに集まったのだ。大した話でもなく、私は特に話すこともないし、めんどくさいだけだった。終わって部屋へ帰ろうとした時だった。
バスク伯爵令嬢が得意気に言い出したのだ。
「陛下はカードゲームやチェスがお好きだと聞きましたわ。どなたか、わたくしと陛下の趣味を学びませんこと?」
初耳である。私はどうでもいいわと部屋に帰ろうとしたが、アナベルが難色を示し、私の足を止めた。
「お嬢様、なんだかおかしいと思いませんか?本当に陛下の趣味なんでしょうか?」
さあ?と私は肩をすくめる。カードゲームやチェスの遊びは貴族たちなら、嗜み程度していることであり、みんな知っている。
だけどこんな話、誰ものらないだろうと思った……が、意外とみんな暇らしく、部屋に帰らない。また何人かが勝負にのったのだ。
シエラ公爵令嬢やミリー伯爵令嬢は賭け事など嫌ですわと言って、自分は勝負に参加しないくせに取り巻きの一人に『やってみなさい』と命令している。
半泣きで取り巻きのなかでも下っ端らしい令嬢達が勝負に参加したが、言い出したバスク伯爵令嬢はかなり強かった。勝つたびに、どんどん、令嬢たちの物を奪う。ただの遊びにしては悪質だわ。
「他愛ないですわー」
オホホホと高笑いするバスク伯爵令嬢。傍観者の私と目が合う。巻き込まれたくないので、咄嗟にサッ!と身を隠したが、それを弱気ととったらしい。失敗した。
「そこのあなた!してみませんこと?それとも逃げますの?」
「いえ、めんどくさいなあって……」
「あら?そんなこと言って、自信がないのでしょう?」
その解釈で良いですと、私はへへっと笑ってごまかす。アナベルがお嬢様助けてあげたらどうですか……とボソッと呟く。ええええ!?怠惰を目指す私が人助け!?
「あなたがわたくしに勝てたら、他の方から貰ったものをお返しするわ。ただし、負けたら、あなたのその靴をもらうわ!裸足で部屋まで帰りなさい!」
笑い者にするつもり?しかし適当な物しか身に着けて来ていない私の中で欲しい物はないのだろう。
「勝手ねぇ……まあ、いいわ。わかりました。私が勝ったら、皆に物を返して、後宮での賭け事は止めていただくということでいいですか?」
さっさと終わらせよう。そろそろいつものティータイムの時間になってしまう。
「いいですわよ!」
相当自信があるらしい。カードが配られる。先手はバスク伯爵令嬢。
カードを捨てないようだ……私はポイッと捨てて、カードをめくる。
「運も勝負のうちですわ」
そう言われる。3回ほど繰り返し、勝負に出たのはバスク伯爵令嬢だった。
「オープン!ジャックナイト」
パラリとカードが並べられた。ざわめく周囲の令嬢達。勝ったわと笑うバスク伯爵令嬢。
「じゃあ、私のを………キングオブソード!」
『えっ!?』
周囲の声がハモった。一番強い手。
「この手が、そろったところ初めてみましたわ!」
「まさか!このカードをつくれるなんて!」
私は席を立つ。
「じゃあ、約束通りお願いします」
さっさと自室へ帰って行く私の背後で、詐欺ですわ!と負け惜しみを言う声がした。
その話をウィルにすると、目を丸くした。
「陛下は嗜み程度にはするけど、そんなお好きではないよ。それに後宮で賭け事なんて感心しないな」
「二度とないわよ。めんどくさいことをする人だったわ」
私が読もうと思っている本が取れずにハシゴを持ってこようとすると、ウィルがヒョイッと取ってくれた。そしてアハハと笑う。
「リアンに敵うわけないよなぁ。僕だって昔からずーーーっと勝てない。何度も聞くけど、イカサマじゃないんだよね?」
「失礼ね。違うわよ。なぜかキングオブソードのカードのほうが仲間にしてくださーいって手元に来るのよ」
強運すぎるよと肩をすくめるウィル。
私は無言になる……彼はいつまで騙されてくれるのだろう?賭け事はいつも騙し合いだ。いつまでも、ボケーッとした純粋なウィルでいてちょうだいと心のなかで思ったのだった。
17
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる