天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

文字の大きさ
39 / 304

優雅なお茶会は開かれる

しおりを挟む
 私とウィルバートはゆったりと庭園で、お茶を飲み、話をしていた。

 貴重な二人の時間を楽しんでいたのに、空気を読まずに現れたのは、ガルシア将軍だった。

「楽しくお喋りか?王様と王妃様は優雅なものだな」

「……ガルシア将軍」

 ウィルバートは将軍を目の前にすると、無表情になる。先程までニコニコと優しく笑うウィルの方になっていたのに、その雰囲気は霧散し、王の顔にスッと戻る。私は苦笑する。

「無粋ね。でも良いわ。将軍も相席どうぞ」

「リアン!?」

 ウィルバートが私の名を呼び、非難の声をあげた。

「まぁ、良いじゃないの。楽しい会話に加えてあげましょうよ」

 ニッコリと笑った私はアナベルに将軍の分のお茶を淹れるように頼む。嫌がられると思っていたらしく、ガルシア将軍は少し驚きつつ、席に着いた。 

 ウィルバートはどっか行け!とばかりにガルシア将軍を無言で、鋭く睨みつけると余計に嬉しそうになるガルシア将軍。ウィルバートが不快に思うことをして満足そうとか……Sだわー。

「ウィルバート、放っておきなさいよ。こういう相手はいちいち構うと、よけいに喜ばせてしまうわよ?」

「なっ!この王妃!サラッと失礼なことを言うな!」

 間違っていないとは思うんだけど?と、花の香りがするお茶を一口飲み、無視する。

「えーっと、どこまで話していたかしら。……南方の地は落ち着かせたと言うけれど、やはり貧しいのが原因だと思うのよね。解決しない限り、乱は繰り返し、起こるわ」

「そうだな。でもな、税金を減らしたいが、あまりに減らしすぎても国が立ち行かない」

「産業を起こすしかないわね!南方は海に面しているから、ラッキーだと思うのよね」

 私がラッキーと言った意味はウィルバートに即座に伝わり、ああ、なるほどねと笑う。同じ私塾で学んできただけあって、言いたいことをすぐわかってくれ、話していると楽しい。私塾でもウィルと話してると時間を忘れてしまうことがよくあった。

 ……が、一人だけ、ポツーンとしている人がいた。

「はあ!?なんの話だ?」

「優雅で楽しい話よ?」

 ガルシア将軍がうーん……と唸る。

「乱が起きても、またねじ伏せてきてやろう。海から攻めるか?」

「今の会話のどこをどう切り取ったらそんな話になるのよ!?」

「蛮族の乱が問題なんだろう?富ませて、金をやったら、なにをしでかすかわからん」

 ガルシア将軍は根からの武人だ。そう私は思った。あの後、私は彼について調べた。勇猛果敢で、武勲をいくつもたてている。兵士たちの信頼は厚い。家は武人の家門で何百年と続く名門らしい。

「将軍はそれが仕事ですものね。数々の武勲をたてていると聞いてます。素晴らしいですわ……で、話を戻すわね」

「塩の名産地にする。あそこは日照時間も長いし、広い土地もあるから、適している」

 ウィルバートがそう言うと私はさすがだわ!とニッコリと笑う。私の笑顔につられて、ウィルバートもニッコリと笑った。

「おい!?塩の話で、なんでこんな雰囲気になれるんだよっ!?」

 傍目から見たら、微笑み合う二人の図。

 ラブラブと言える雰囲気と会話の内容があってない気がするんだが?と、ガルシア将軍が戸惑う。

 アナベルもセオドアもいつもの会話だと、慣れているため、無言である。

「塩は製塩の方法を考えて、質の良い物を作れるようにしよう」

「そうね。暮らしが豊かで楽なものになれば、民の心も自然と王家に親しみや感謝の気持ちが沸くと思うわ」

 ガルシア将軍がなんで塩!?としつこく聞く。

「人は塩を摂取しないと死ぬ」

 それが全ての答えだと言わんばかりにウィルバートは将軍に冷たく言い放つ。会話をする気は全く無く、視線は私の方しか向かない。それが面白くなかったのか、からかうように将軍は口を開く。

「陛下は王妃に骨抜きにされてしまったとウワサで聞いたが、確かにそうかもしれないな。この生意気で、変な女は口先で惑わし………」

「リアンを侮辱するなよ?言葉に気をつけろよ」

 ウィルバートがピリピリとした危険な空気を纏い出し、鋭く睨む。彼が本気になってきたと察した将軍は両手をあげて、アハハハと笑った。

「そうだ。やはり陛下はその表情が良い。王ともあろう者が、たかだか、女一人に、そんな真剣になるなよ」

 そう言うと立ち上がり、将軍は退席する。ウィルバートは胃が痛そうな顔をして、はぁ……と嘆息したのだった。表情は暗い。

 将軍を知ろうと思って、お茶会に誘ったのだが、その結果、ウィルバートのストレスを溜めてしまったようだ。いろいろと難しいわ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...