天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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真面目な騎士は真面目に仕事をする

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「アハハハッ!そりゃ陛下の心配も仕方ない!そんな無茶する王妃なんて頭が痛いだろうね~。まさか戦に参加していたなんてね」

 図書室内にクロードの笑い声が響いた。私は本を選んでいた手を止める。

「もうっ!私は、ウィルバートのこと心配してるのに……ユクドール王国へ行ったけど大丈夫かしら?」

 私がそう言うとクロードはメガネをちょっと上にあげ、真顔になった。

「陛下は残酷で怖い一面がある。その姿はリアン様が来てから、あまり見せていないけれど、容赦ないところがあって、臣下たちは皆、けっこう恐れて………トラス、別に悪口じゃないと思うよ」

 手をまいったなーと上に挙げる。私が振り返るとトラスが睨んでいた。クロードは肩をすくめる。

「つまり、心配しなくても良いってことを言ったまでだよ」

「私、優しくて、ボーッとしたウィルしか知らないんだもの。彼が何をしてきたか詳しく知りたいわ」

 私が興味を持つとトラスが難色を示した。

「暇つぶしにしては、あまり良くない話題かと思います。王妃様、どうか違う暇つぶしをしてください」

 怒られた……みたい。トントンと図書室のドアがノックされる。どうぞ~とクロードが言うと、宰相の近くにいる政務官だった。どうした?とトラスが聞くと、すいませんっと頭を下げて、手に持っている分厚い用紙を私に渡す。

「陛下が留守でどうしても決断が難しい時は一度、王妃様に聞けとおっしゃって……宰相より預かってきた事案ですっ!」

 私が受け取ろうとすると、トラスがヒョイッと手で払い除けた。

「え……?トラス?」

 気難しい顔をしている。

「宰相に仕事をしろ!と告げよ!まったく……己の仕事を王妃様に押し付けるとは……」

「ち、違うのよ」

 押し付けられたわけではない。私にできることを………私の否定の言葉はトラスの耳に届かない。

「王妃様は怠惰に過ごすようにとの陛下からの命である」

 ええっ!?そんな命令だったかしら?と私は思ったが、トラスは続ける。

「全力で王妃様の怠惰を守る!」

 このトラス、冗談を言うタイプではない。本気だ!本気で言っている!

「トラス!陛下は難しい判断のものだけを私に仰ぐようにと言い残して言ったのよ。だから……」

 トラスが書類の紙束を持ち、眉をひそめる。

「こんな分厚いものすべて王妃様の耳にいれる必要がありますか?宰相に今一度、吟味して持って来るように伝えよ!」

 は、はいー!と政務官が走り去る。

「別に私は良いのよ」

「何をおっしゃってるんです?己の仕事は己でする!それが当たり前です。宰相の仕事は宰相がするべきです。さて、王妃様、部屋へ戻る時間となりました」

「えっ……ま、まだ本を選んでないわ」

「時間です」

 ……真面目。真面目すぎる!!私がええーっ!と不満の声をあげるが、さあ!行きますよとさっさと図書室から出される。

 背後でクックッとクロードが笑いを堪える声がした。

 ウィルバート!!私はトラスと合わないわよーっ!これ人選ミスでしょー!?そう心の中で叫んだ。

 私とトラスの攻防戦はまだ始まったばかりだ。ウィルバート……早く帰ってきて!と心底思うのだった。
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