天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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生きる意味は必要なのか

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 母が亡くなった。一人ぼっちになった。そこからはさらに孤独だった。

 弱い者は生き残れない。もっと強く賢くならなければ、オレも殺される。得体のしれないこの王家に巣食う蛇に。だけどオレはこのまま一人で生きていきたいのだろうか?

 母が亡くなったことで、身を守るため、影武者だとオレと同じ年頃のセオドアという男の子が選ばれてやってきた。

「ウィルバート様、よろしくお願いします」

 あまり表情のないセオドアが言った。

「別に守らなくて良い。セオドアは自分の命を優先してほしい」

「なぜですか?」

「生きていく意味がわからないんだ」

 オレの言葉に、セオドアは何も返さず佇んでいた。

 もう母を殺した犯人はわかっていた。幼いオレだったが、エキドナ公爵が手を回していたことは気づいていた。囚えられたのは後宮の者だったが、狡猾に隠された犯人は……エキドナ公爵だ。

 彼は母が亡くなってからこう言った。

「もう邪魔者はいない。さぁ。王家から逃げても良いんだよ。可愛いウィルバート、怖い場所から助けてあげるよ」

 玉座がほしいんだ。オレを王家から追い出したいのだ。それがヒシヒシと伝わってくる。唯一の男児であり、唯一の王位継承者。腹違いの姉たちはいたが、この国では男児が優先される。オレがいなくなれば叔父である彼が国王になるだろう。

「ウィルバート、寂しいだろう?公爵家に遊びにおいで?おまえの好きそうなものをたくさん用意してあるんだ。一緒に過ごさないか?母を亡くしたおまえの心を癒やしてやりたいんだ」

 相変わらず優しい声でかけてくれる。逃げ道はここだと示す。子どもだと思って、何も知らないと相手は思っている。

 オレは慎重にエキドナ公爵が犯人であることに気づいていないふりを続けていた。憎しみを隠し、飛びかかりたい気持ちを堪えた。

「ありがとうございます。でも喪に服していて、今は城から出れません」

 ニッコリとオレは笑っていつも適当なことを言ってかわしていた。

 そのうち、この国で高名な先生に出会って、私塾へお忍びで通うことになった。

「ウィル、足元を見過ぎていると、先にあるものが見えなくなる」

 先生はそう言った。オレはニッコリ笑ってなんのことですか?と答えたが、先生は笑い返さず、沈痛な顔をしていた。

「いつかおまえの心に光がさす。その時、気づくだろう」

 何を言ってるんだろうか?とオレは思った。生きるために誰も信じないと決めていた。先生のことすら信用していなかった。

 そんな日々の中にリアンが入り込んできた。光は強烈だった。母とよく似た金髪の少女はキラキラと輝いていた。

「ウィル!ねぇねぇ、ちょっと付き合いなさいよ。新しい魔法試すわよ!」

「え?僕はいいよ……また共犯になって怒ら……」

 いいからっ!と魔法の実験に無理やり連れて行かれる。

 またある日は………。

「この本に書いてあることを証明してくるわよ!」

「いや、だから……僕は行きたくな……」

 無視をされて、連れて行かれる。彼女の好奇心は留まるところを知らない。私塾へ行くたびにいろいろと巻き込まれる。

 それがオレにとって、だんだん可笑しくて、楽しくなってきて、いつしかリアンといるときは笑っていた。普通の少年ウィルとして。

「ウィル、未来は見えてきたか?」

 ある日、先生……師匠は言った。

「足元にある憎しみばかりを見ていては前へ進めない。未来を描けない」

 そして気づく。そうだ。足元にいた蛇に気を取られすぎていた。憎しみと孤独の闇の中で足が動かなくなり、立ち止まっていた。

「師匠、どうしたら……この闇を抜けれるんだろう?」

 そう聞いたオレの言葉に師匠は笑った。

「その言葉を待っていた。前へ進め。良き未来を選択しろ。ウィルバートとして生きる意味を考えろ」

 師匠に生きる意味を考えろと言われてリアンに尋ねた。

「リアンは生きる意味ってわかるか?」

「なに?哲学的な質問?」

 緑の目が挑戦的に煌めいた。

「そもそも生きる意味を考えるなんて人に与えられた特権だと思うわ。人以外にそんな事考えてる生き物はいるかしら?生きる意味なんて生きてみなきゃわかんない。でも私は私の選んだ道を歩きたいわ。自分自身で生きる意味を考えながら、自分の人生を作っていきたいの」

 この先のこの国のまだ見ぬ未来を作って見せてよと言われた気がした。小さな女の子なのにナマイキだなと………思えなかった。

 いいよ……君のためにこの国の未来を……良い未来を考え、作り上げて君に見せてあげよう。それがきっとオレの生きる意味になるだろう。
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