天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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霧の向こうに

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「撃て!」

 ウィルバートは腕を上へ上げる。王の一声でドンッドンッと船の大砲の音が何度か鳴った。静かな朝の海に響く。

 今日の海上の天候は濃霧。風がない。完璧な天候条件。天候の計算通り今日は霧が出た。ニヤリと私は笑う。

「天候を利用するとはな。しかも想定通りの霧と無風の日か……」

「エイルシア王国の天候の統計をとってる人にお礼をしなくちゃね。その何十年間もの統計のデータがあってこそよ」

 見えぬ先から砲撃を受けるというのは不安を煽る。相手はさぞ浮足立っているであろう。風が無いから、この場所から安々と船は逃げれない。

 そしてこれが合図だった。

 一斉にエイルシア王国の船が前進した。見えてくるシザリア王国の船。

 船の上では抑え込まれている人々が見えた。

「うまくいったようね」

「そのようだ……まさか酒の樽の中に騎士たちが潜んでいるなんて思ってなかっただろうな」

「しかも酔い潰したから、今日は二日酔いで動けないでしょう。海上の船対船でなければ、地上戦に慣れてるエイルシア王国の騎士たちの方が強いわ」
 
 ウィルバート様ー!制圧しましたー!と相手の船から声がした。よし!とウィルバーとは強く頷く。そしてシザリア王国の船を見つめる。中央にある船の傍まで来た。そしてよく通る声で言った。

「そこにいるだろう!シザリア王!ここまで来ていることは知っている!顔を見せたらどうだ?それとも恐れて来れないか!?」

 シザリア王がいるんですか!?とエイルシアの兵達ざわめきだす。

 ウィルバートは居ると断言し、指を指したその先に抑え込まれた人々の中から立ち上がった者がいた。

「やっぱりあの人だったわね」 

「ああ。予想通りだ。顔に傷のある男の使者がシザリア王だったな」

 傷のある男はニッと不敵に笑った。まだ心が折れていないようだ。

「こんなもので勝ったと思うなよ!船を動かせと命じれば、まだいる他の船がこっちへ集まってくる!」

「できるものならしてみるが良い!あれを見ろ」

 ウィルバートが負けじと言う。だんだん時間が経過すると共に霧が少しずつ晴れてくる。

「な……なんだこれは………」

 私は目を細める。

「エイルシア王国は内海ゆえ、ここに引き寄せて地上から砲撃が可能なのよ!さあ……呼べるものなら呼んでみたらどう?この湾に入ってきた船から、どんどん木っ端微塵にするけれどね!」

「合図が早いかシザリア王の船が沈むのが早いか試してみるか!?」

 湾をぐるりと囲むように砲台がいくつもズラリと並ぶ。狙われていることを知るとシザリア王はガクッと項垂れた。
 
「エイルシア王国は戦を好まない。話し合いのテーブルを用意する!どうするか今すぐ決めろ!」

「海戦で手玉に取られるとは……くっ………話し合いの提案を受け入れる」
 
 これほどの屈辱はないと言うようにシザリア王は項垂れた。私とウィルバートは顔を見合わせた。

 ウワアアア!とエイルシア王国の者たちの歓声が起こるのだった。

 交渉のテーブルにソフィーも呼ぶことになるだろう。最後の駒の一手を間違えずに進ませたい。私とウィルバートにホッとしている間は無い。
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