天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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崇拝される者

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 ウィルが頭上に王冠を載せている。こちらを見たとたん、どこかボンヤリとした優しい彼の顔が一転する。   

『リアンはいつも勝手なことばかりする』

 冷たくて強いまなざしが私に向けられた。私が最近知った王の顔を持つウィルバートだ。それでも彼の中には本来の優しいウィルがいることを私は知っている。

 だけど今回は違った。尖った声音で言い放たれてしまう。

『もうオレはリアンに振り回されるのは懲り懲りだ』

 そう。そうよね。私、あなたのこと振り回しているわ。時々、自分がしていることも自己満足じゃないか?思うことだってあるわ。

 いつかそう言われてしまうと思っていた。背中を見せてウィルが行ってしまう。暗闇の向こう側へ。私は手を伸ばしかけたが、自分にそんな権利があるのかと一瞬、躊躇ってしまう。その間に彼は消えた。

 違うの。本当は一番にウィルのこと考えているのよ。それなのに!私はなんでこうなっちゃうんだろう?待って!と呼び止めたいが声が出なかった。

 ハッ!として目が覚めた。ゆめ……。夢を見ていたらしい。

 そうだ。今回の策は彼無しでは成り立たないのだ。もしウィルが私を切り捨てるという判断をするなら、私は覚悟を決めなきゃならない。二度と彼のもとには戻れない。だけどウィルが私を後宮に戻したいと思うなら、策は成り立つ。気持ちを利用している……その罪悪観からの夢だ。嫌になるくらい簡単に夢占いができる。

 意識を取り戻した時、私は小さな部屋の簡素なベッドに寝かされていた。

 ここ……どこ?孤児院の中を視察していて、連れ去られたというアレクを探していたら急に立っていられないほどの眠気に襲われた。そこから覚えていない。

「目覚められましたか?希望の女神よ」
 
 希望のめが……み?なんなの!?それ!?

 部屋にいた白装束に白の覆面をした姿に思わず悲鳴をあげかけた。同様の姿をした者が3人並んでいて、異様だったからだ。 

「女神をこのような場所に連れてきて良いものかと迷いましたが、一度、我々の話を聞いてほしいと思い、許してください」

 私のことなの?キョロキョロ見回して他に誰もいないことを確認した。そして私の方を見ているということは私なのだろう。

「この国を導いてくださる女神。どうか正しき道にお導きください」

 私は寝癖ついてないかしらと髪を直す。冷静になりなさいよと自分に言い聞かせる。

「私、怠惰の神なら、なれそうだけど、希望の女神にはなれないと思うのよ。あなたたち、何者なの?」   

 冗談交じりに私は返事をしたが、相手は真面目だった。

「国を救うために力を使ってくださった話は聞いております。しかしいまだ、そのことを知らずにいる愚民たちも数多くおります。リアン王妃をぜひ女王にしたいと我々は考えております」

 じょ、女王!?

「またはこの国の守護神として存在していただきたいと思ってます。しかし神聖なるリアン様を荒ぶる獅子王の傍に置くなど恐ろしく、我々がお守りしたい」

 いえ、むしろ獅子王のウィルは私に振り回されて困ってるし。

「我々はリアン様を保護するために存在する者たちです」

 一瞬、私の思考が停止しかけた。『崇拝者』その存在を調べていたから、ある程度、自分がどのように思われているか、推測はしていた。だけどここまで重症の妄想に憑りつかれているなら、話をすることは無理なような気がしてきた。

 私はベッドから立ち上がる。素足で、床が冷たい。そしてギクッとした。チャリと音がして、足を見ると、足枷をつけられている。

「保護すると言いつつ、これでは囚人ではないかしら?なんなの?これは?」

「申し訳ありません。暴れられては困ると思いまして……」

 私は猛獣扱い!?

「私を王城に帰してほしいの。あなたたちの気味悪い信仰心には付き合いたくないし、この国を導くのはエイルシア王よ」

「神は自らを神とまだ理解しておられない。我々がそれをじっくりと教えて差し上げていきたい」

「そうだ。そうしよう」

 ……まったく話が通じない。怖いくらいに通じないわ。私は頭を抱えたくなった。

「まずはゆっくりとおやすみください」

 その瞬間、再び、強い眠りに襲われた。これは?何かの術なのか、薬なのか?と判断する前に意識が途切れた。
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