天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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現実は焦りを生む

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 部屋に帰るなり、オレはバンッと机を叩く。机の上の物が揺れる。

「落ち着いてください」

 そうコンラッドが苛立ちを隠せずにいるオレを見て、とりあえず座りましょうよと促す。

「落ち着けるわけがない!見ただろ!?リアンがハイロン王に仕えさせられている姿を!」

「仕えさせられて……まぁ、けっこう気に入られているようにみえましたが?ハイロン王もリアン様の被害者………じゃなくて、魅力に落ちてしまったのでは?」

「それはそれで危険だろう!?」

 コンラッドは砂漠の独特の香りがするお茶を優雅な所作でカップに注いで、飲みながら苦笑した。

「ウィルバート、落ち着いてください。リアン様がそんな相手のよいようにされてるわけがないでしょう。ここから出るタイミングを虎視眈々と狙ってるに違いないですよ。ウィルバートすら、彼女の脳内ではその駒の一つにしているんじゃないですか?」

 そういわれると……まぁ、そうだろうなと思わずにはいられない。確かにキングの駒がここに来てしまったことには驚きを隠せず、きっと今、作戦の配置換えを頭の中でしてる気がした。

「『ウィルバート助けて』なんて殊勝に頼ってくるタイプじゃないでしょう。しかも我々を手厚くもてなしてくれてどうしたのだろうかと思っていたら、楽しませてあげたのだから、お代を支払ってから帰れと言われる気分ですよ。2国の王をこんなふうに駒にして利用するのはリアン様くらいですよ」

「だが、リアンの策と知っているならば、手助けするかどうかは自身で選べただろう?コンラッドもシザリア王も」

 コンラッドは肩をすくめた。

「断れないことをわかってしてるんですよ。ウィルバートのことを僕は兄のように思っていますし、僕が動くとなれば、負けられるか!と単純なあの海賊のシザリア王がのってくることなんて目に見えてますよ。……さて、ここから先はどうするおつもりですか?」

「リアンを連れ戻す。ただそれだけだ」

 何か案はありますよね?と聞きたそうな顔をしていたコンラッドだったが、口を閉ざす。休暇の続きをまだしているという雰囲気で、お茶を一口飲んで穏やかに笑ったのだった。この状況を完全に楽しんでいる。

 オレは部屋を出た。窓から砂紋を描く砂だらけの地が続いている。独特な雰囲気の国だなと思う。

 リアンが相手の良いようにされるわけがないのは重々承知している。

 たが……っ!それでも不安になるだろ!?窓の端に手をかけてグッと拳を作る。

 砂漠の国が気に入っていて、ここにいるなんて言い出さないよな!?異国の雰囲気が漂う、自信に満ち溢れた褐色の肌の王はオレから見ても魅力的に見えた。リアンが惹かれている可能性はあるか?いやいや、そんなわけないよな?

「妄想中、失礼します。行くならお手伝いしますよ」

 背後からの声にハッとして振り返ると、ワクワクしているような顔をし、ニヤリと笑うエリックが立っていた。

「行くってどこに?」

「とぼけないでくださいよー。長い付き合いなんですから、わかってますよ」

 エリックはふふふと楽しげにしている。バレていたか……オレは嘆息し、観念する。

「協力を頼む」

 最初からそう言えばいいんですってばー!とエリックは快く共犯になってくれた。
 
 今からリアンに会いに行く。
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