天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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地中の虫を喰う鳥

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「み、みず!?水ーー!?」

 ハリムは今まで見た中で一番、素っ頓狂な顔をした。そんな顔をすると、美青年が台無しよ……なんて冗談言ってる場合ではなかった。

「おまえ、本物の力を持つ呪術師か!?」

 畏怖の感情を浮かべて私を見ている。

「この国の呪術師が行うものは単なる儀式に過ぎないって自分でわかってるのね」

「くっ……当たり前だ!子どもだって知って……いやいや、なんだ!?この力の大きさは!?湖を一つ作ったんだぞ!?そこのエイルシア王は驚かないのか!?」

 ウィルが肩をすくめてみせる。

「実際の威力をこの目で見たことはなかったが、エイルシア王家の秘宝を彼女は持ってる。それが元々の魔力の才能と相まって……まぁ、つまり知っていたからこそ、この国の王宮が吹っ飛ばない限りはリアンは無事であると確信してた」

「王宮が吹っ飛ぶ!?そんな野蛮なことを女がするか!?」
 
『する』

 ウィルとコンラッドの声が重なった。し、失礼ね!少しは考える間を作りなさいよ!と言いたくて口を開こうとしたが、先にコンラッドが楽しげにハイロン王に言う。

「女は弱くて庇護されるものだという考え方が、ハイロン王の油断を生みましたね!大丈夫ですよ。あなたもこれからお仲間です」

「なんの仲間だよ!」

 ハリムがムキになり、言い返す。なんかさっきから思っていたけど、私、褒められてない気がする。水を出して人助けしたというのに。

「それはそうと、なぜ水があの位置から出ると思った?後宮からおまえは出たことがないだろう?」

 そうねと私は頷く。ちょうどパタパタと嘴が黄色く白い羽を持つ鳥が翼を広げて窓の外を飛んでいった。見てみるといいわと指を指す。

「鳥が飛んでいった方向を見て。あの鳥は湿った土に住む虫を好んで食べるの。私がよく窓から眺めていた時に気づいたのよ。鳥たちが向かう先に水があるってね」

「な、なんだと……それだけで?つまり単なる呪術ではなく、水源を調べていたってことか!?窓から景色を眺めていたのは……逃げたいとか怠惰に過ごしたいとか俺を見たいとか……そういう理由ではなかったと!?」

 ハリムの声が掠れている。

「最後の俺を見たいっていうのはまず無いわね。どこまでナルシストなのよ」

 ブツブツと私は反論する。ウィルがそーだそーだと頷く。

「でも湧き水はどの程度、保つのかわからない。だから、ユクドールにある海水をろ過する装置の支援は必要よ」

 私の言葉にハッとするハリム。察したらしい……それがなんの意味なのか。

「それがおまえを自由にする代償ってわけか?水とリアンを引き換えにしろというわけか?」

「そのとおりよ。私が今、水を作ってあげたのは、あなたはエイルシアの王妃と知っていて、丁重に私に手を出さずに守ってくれたお礼も兼ねてるわ」

「……それも見抜かれてたか」

「噂の他の女性に対する態度と私に対する態度には差があったもの。多少無礼な口をきいてみても、許してくれていたわよね」

「試していたのか!?」

 そうよと笑うとハリムが怖い女だなと頬をひきつらせる。

「もし……俺が無礼だと剣を握ったらどうするつもりだったんだ!?」
 
「魔法で吹っ飛ばされてたな。城ごと。良かったなぁ城が残っていて」

 ウィルが遠慮なく結果だけ述べる。

「エイルシア王ならどうする?王として民のために水を選ぶか、初めて愛すことができそうな女性を選ぶか……どうする?」

 ウィルバードはハリムではなく、私の方を見て、ニッコリ笑った。その笑顔は王としての彼の時に見るものではなく、ウィルが良く見せていた温かみのある笑顔だった。
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