天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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目の前の王には気づかず

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 ラッセルがふと、仕事をしていて、思い出したように尋ねてきた。

「そういえば、ずいぶん、俺を含め、私塾の者たちは国政について、ウィル……陛下の前で話をしていましたよね?嫌ではなかった……んですか?」

「ああ、そういうことは度々あったよな」

 オレはハハッと笑った。きっと今の私塾でだって国政の話はみんながしていることだろう。あそこはそういう場所だ。

 私塾では国のことについて、意見交換が頻繁にされていた。オレが王になった時も仲間たちは気づかずに話をしていた。

「まったく、エイルシア王は何やっていたんだ!東の地域に住むやつから聞いたか?」

「ああ……川の水が溢れて氾濫したってやつだろ」

「あそこは昔から雨季には洪水を引き起こしやすい。あの川の治水工事をすれば、作物の収穫量もあがるし、近隣の住民たちの命も守れるっていうのにな。毎年村々がやられてる!」

「金がないのか?財政面で苦労してるのかな」

「だから、その金も他国との交易に消極的だからだろう。この王国は気候が良いし、海もある。条件は良いのにまったく活かしきれてない」

 確かに!と皆が頷いている。まだこんな方法もあるだろ!?と提案するやつも出てくる。中には、王家への不満を口にするやつもいた。

 なんの遠慮もない民達の意見に耳を傾けることは、オレにとって必要だと思ったから黙って聞いていた。

 オレが必死になって、寝ずに頑張っていようが、命を賭けて守っていようが、そんなこと民には関係ない。

 良い国にするために、ここで怒るな。落ち込むな。耳を傾けろと自分の心に言い聞かせる。フッと息を吐いて、心を落ち着けてから、隣の席に静かにしている少女に声をかける。

「リアンはなにか言う事ないのか?」

 オレが聞くとリアンは本から顔をあげた。どうやら話は聞いていたらしく、頷く。

「まだ、王様は若いって言うじゃない?なったばかりなのに、蛮族の平定や内政のゴタゴタをよく片付けてるわと思うわよ。前の王様が仕事をしなかったおかげで、助かってるところもあると思うの」

「助かってること?それってなんだ?」

 助かってることがある?そんなの初耳だ。

「まず人材の面では働かない人、不正をしている人を見分けられるでしょう。どうやってこの国を治めればうまくいくか、しなきゃいけないことが明確になったんじゃないかしら?土地は今、荒れてるところが整備の足りないところなんでしょ。交易だってこれから伸びしろがあるからやりがいあるわよ。海運とか広げていければいいわよねぇ~。海からの物資の運び込みの方が早く多く運べるもの」

 そうか……足りないところが見えるか……そういう考え方もあるなとオレは驚いた。 
 
 彼女はそう言うだけ言って、また本に目を落とす。師匠からの課題を解いているようで、真剣だった。

 そんなふうに亡くなった父王のことや今のオレが置かれている現実を前向きに語った者はいなかった。

 そうだな。そうしよう。オレはリアンのように前向きに物事を考え、この状況を利用し打破することに決めた。腐敗している王宮内を立て直す一歩となったとは間違いなく、このリアンの一言からだった。

 本人は師匠からの課題で真剣で、もうこちらを向いてはくれなかったが、その時のオレは救われた気分になった。最悪の状態だと思っていたが、確かに、良いこともあるじゃないかと思ったんだ。

 オレの話を聞いて、ラッセルが面白くなさそうな顔をした。リアンが話題に出たからだと気づく。

「やっぱりそこでもリアンか……じゃなくて、リアン様は昔から俺達より先を見ている気はした……いや、しました。目先のことをああだこうだ言ってる俺達より50年先を見越してるなとは思っていた……んですよ」

 面白くないと思いつつも、リアンの実力を認めてるラッセルに可笑しくなる。

「ラッセル、二人の時は普通の話し方で良い。なんか違和感を感じるし、無理がある」

「すいません。どうしても目の前にいるのが、陛下というよりウィルになってしまう」

「ラッセルとは、王として過ごした時よりウィルとして過ごした時のほうが多いからな」

「ウィルはどうしてそんなに……」

 え?とラッセルの泣きそうな声に驚いて、顔を見ると深刻な表情をしていた。

「どうして頑張れるんだ?一人で辛くなかったのか?前王に放置されたエイルシア王国を治めることは順風満帆じゃなかっただろう?……ここでこんな会話をして許されるのかわからないが……」
 
「思ってることを言ってくれて、構わない。生きていくには、これしか道がなかったし、この国にオレの作る国を見せたい人がいたからな」

「それはリアンか?」

 オレがその問いには答えず、ただ微笑むとラッセルは目を逸らした。

「リアンとウィルの間には私塾の誰だって入る余地なんて昔からなかった……俺だってウィルが王と知っていれば……」
 
 そう言って、なぜか、寂しそうに背中を見せて出ていってしまった。なんだろうか?ラッセルはいったいなにを聞きたいんだ?なにを言いたい??

 オレは首をひねるばかりだった。
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