天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

文字の大きさ
271 / 304

魅了する女王とは?

しおりを挟む
「リアン様、よく寒い北国へ行くことを決意なさいましたね。『寒い時は暖炉の前が一番好き』って言っていますよね?」

「そうよ暖炉の炎を見ながら怠惰にゴロゴロするのは最高よ!ボーーッとしながら燃える炎を見つめるだけの作業が幸せ……」
 
 アナベルがそんなの非生産的すぎますっ!とツッコミをいれる。

 馬車の窓に雪の粒がカチカチと当たる。この寒さのなかでは、御者は大変だろう。後から暖かい部屋と温かい飲み物をとれるように手配しておこうと思った。

「まぁ、シェザル王国の女王陛下が私のことをご所望しているらしいから、受けてたとうと思ったのよ」

「決闘状をもらったみたいな言い方やめてください。友好関係を築きにいくのですよね!?」

「もちろんよ。相手が築きたくなくても築きに行くのよ」

「また含みのあるような言い方をして!」

 フフフと私が笑う。アナベルが嫌な予感がしますと長年の付き合いゆえの予感を口にする。

「お嬢様、これをどうぞ」

 水筒から湯気の出るお茶を注いでくれる。ちょうど時刻はいつものお茶の時間。

「アナベル、どんな時にもお茶の時間を設けて、準備してくれているの?」

 にっこりと笑うアナベル。

「もちろんです。なるべく快適に怠惰に毎日をお過ごししてもらうのが、リアン様付きのメイドの役目だと思っています」

 さすが仕事熱心なアナベル。でもお茶……出せない時は出さなくていいのよと思う私だった。最悪の場合、お茶がなくても怠惰に過ごせるってものよ。

「そういえばシェザル王国の女王は人を魅了する魔法が使えるんじゃないかっていう噂なのよ。例えばウィル……じゃなくても、他の男性が使節として行ったとしましょう?魅了されては困るわ」

「ウィル様が好きになったら困りますよね。ウフフ。なんのかんのとリアン様は陛下のこと想っておりますものねー」

「ちっ、違うわよ!これで外交失敗してしまったならば、国の損失でもあるものっ!」

 アナベルがよーくわかっておりますよ。と意味ありげに私を見た。

「ちょっと!?ほんとなんだから!雪に閉ざされしシェザル王国の女王は美しく、流れるような銀の髪にアイスブルーの目は冷たいながらも氷のようにキラキラと反射する。美声を聞けば、どんな男もその声にうっとりするそうよ。別名『冬の魔女』よ」

「リアン様は本当に博識ですね。相手のことを調べていたんですか?」

「もちろんよ。相手のことを知るのは戦では基本のこと!」

「戦しに行くわけではないでしょう?」

「外交とは見えない戦なのよ」

「リアン様の考え方が、好戦的すぎます。ただ単なる楽しい女性同士のおしゃべりをしたいだけかもしれないじゃないですか」

「……だといいんだけどね」

 そんな理由で私をわざわざ北の地へ来いというような女王ではないだろう。だいたい後宮から出て外交する王妃などあまりいない。私が影で国政に関わってると知ってのことかもしれない。油断ならない。

 窓の外の白さを眺め、温かいお茶を飲みつつ、私は頭に思い浮かぶものがあった。

 美しい雪の女王に魅了されたものは帰れないというおとぎ話を昔読んだことがある。氷の世界に閉じ込められ、男は氷の牢獄から一生でれない。ウィルがそうなったら困るわ。これってヤキモチの一種かしら?

 ……でもね。私なら私の熱量でその氷の牢獄すら溶かしてみせるわよ!いざ!北の地へ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...