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執務室には4人がいた。
王であるオレ、リアン、ミンツ先輩、ラッセル。立場が違う四人が集まった。しかしこの四人には共通することが一つだけある。
そう……たった一つ。むしろそのためにオレは集めたと言っていい。
「シェザル王国の動き、どう思った?」
「変だよね」
ミンツ先輩がハッキリと言う。
「まるでこちらの動きが予想されたものであるような策でしたね」
ラッセルが考える込むように顎に手をやった。
「シェザル王国の女王陛下についての前情報はそれほどたいしたものではなかった。魅了の力に気をつければという点だけで、目立った内政、軍事の力があるわけでもなく、美しいだけで中身は平凡な女王陛下という評価だったよね」
ミンツ先輩が調べていた前情報を皆に向かって伝えた。
「私も実際にお会いして接してみたけれど、確かに美しいけれど、何かに突出している女王陛下じゃないわ。……でもユグドールの軍に用いた策、あれは賭けにみえてそうじゃないわ。緻密に計算された天候、地形を利用した策よ。シェザル王国で過去の天候の統計を記したものをこっそり見て調べてみたら、やはりあの時期には雪崩が起きることがわかったわ」
シェザル王国にいてそんなことしてたんですか……とラッセルが横目でみている。リアンらしいことだけどな。
「女王にはできない思い切った作戦を立てたのは誰だと思う?」
オレの言葉にシンとなる室内。だが、その静けさこそ、ここにいる4人はあの人だと確信している。無言になったので、オレは白い紙を渡す。
「皆が同じ人物を思い描いているとオレは思う。この紙に名を記し、同時に見せよう」
オレとリアン、ミンツ先輩はスラスラと迷うことなく書いていく。ラッセルは一呼吸おいて、考えていたが、それでも書いた。
「せーので出してくれ。いくぞ?せーの!」
バッと机の上に置かれた四枚のカードには全員が同じ名を記していた。
その人物とは……。
「やっぱり先生か」
「師匠だと思ったわ」
「師匠だよなぁ」
ミンツ先輩、リアン、オレがそう言うと、ラッセルが深刻な顔をした。
「全員が同じ人を思い浮かべているとなると……これは本当に先生である確率が高いですね。だとしたら先生の本気に我々は敵うものでしょうか?」
ミンツ先輩がうーんとうなる。オレも天井を見上げた。手ごわいことは間違いないだろうな。先生相手に4人の生徒が束になってかかっても……どうだろう?自信がない。
「勝つわよ」
その自信のある強い言葉にハッとした。リアンが腕を組み、勝気な表情を浮かべている。
「やる前から気持ちで負けていてどうするのよ。どんな勝負も挑まれたら勝つつもりでいなきゃダメよ!私は逃げるのはありだけど、負けるのだけは嫌よ」
ミンツ先輩が楽し気にキラッと目を光らせる。
「それでこそリアン……王妃様だ!君は昔から変わらないね!いいねぇ」
「むしろ今、王妃という権力があるだけに厄介な……いえ、なんでもありません」
賞賛するようなミンツ先輩にラッセルが苦言を言いかけるが、リアンの視線に言葉を濁す。そして三人は王であるオレを見た。決断はオレだ。先生と対峙するかどうか。
「答えは決まっている。オレたちが守らねばならないのはエイルシア王国と民だ。そしてその未来。師匠がどこかの国にいて、しかけてくるならば、受けてたつしかない」
深く頷く三人。師匠は何を考えているのだろう?シェザル王国にリアンを呼び出すこと、ユクドール王国に揺さぶりをかけたこと……。無意味なことをあの人はしない。きっと自分の存在をオレたちに気付かせたかっただけなのかもしれない。だがなんのために?
「シェザル王国の後ろにいた国を調べましょう。師匠はそれを望んでいる気がするわ。政《まつりごと》の表舞台に誰が望んでも立たなかった師匠が出てくる……何をしたいのか、何をしようとしているのか、見定める必要があるわね」
リアンが真剣な顔をした。先生相手となると、余裕などない。
「先生VS生徒か。先生を相手となると、こっちも無傷ではすまないかもしれないね」
「予言めいたことを言わないでください」
ミンツ先輩にラッセルが声を震わせる。
「いやー。まさにエイルシア王国のこの部屋で4人が集まって『先生』だと辿り着く。そこまで予想していると思うな」
ミンツ先輩の言葉にリアンもそうでしょうねと言う。
オレたちは新たな敵と戦うことになる予感がした。それも今までとは違う。助けてくれていた先生が敵に回る。場が重苦しい空気になった。
なにも気づかぬ人々は今日という日を笑って過ごしている。これからなにか起こるかもしれないということなど一つも知ることはない。
むろん、知る必要なんてない。それは王であるオレの役目だからだ。オレはこの国を守る。リアンも子どもたちも臣下も兵も民人を皆、守りたい。師匠が何を考えているのか、まだ真意はわからないが、それだけは確かなことだった。
オレに外の世界を教えてくれ、リアンと出会わせてくれた師匠は今、どこにいる?4枚のカードが机の上に並べられたのを見る。
……新たな戦いがすでに始まっていたのだった。
王であるオレ、リアン、ミンツ先輩、ラッセル。立場が違う四人が集まった。しかしこの四人には共通することが一つだけある。
そう……たった一つ。むしろそのためにオレは集めたと言っていい。
「シェザル王国の動き、どう思った?」
「変だよね」
ミンツ先輩がハッキリと言う。
「まるでこちらの動きが予想されたものであるような策でしたね」
ラッセルが考える込むように顎に手をやった。
「シェザル王国の女王陛下についての前情報はそれほどたいしたものではなかった。魅了の力に気をつければという点だけで、目立った内政、軍事の力があるわけでもなく、美しいだけで中身は平凡な女王陛下という評価だったよね」
ミンツ先輩が調べていた前情報を皆に向かって伝えた。
「私も実際にお会いして接してみたけれど、確かに美しいけれど、何かに突出している女王陛下じゃないわ。……でもユグドールの軍に用いた策、あれは賭けにみえてそうじゃないわ。緻密に計算された天候、地形を利用した策よ。シェザル王国で過去の天候の統計を記したものをこっそり見て調べてみたら、やはりあの時期には雪崩が起きることがわかったわ」
シェザル王国にいてそんなことしてたんですか……とラッセルが横目でみている。リアンらしいことだけどな。
「女王にはできない思い切った作戦を立てたのは誰だと思う?」
オレの言葉にシンとなる室内。だが、その静けさこそ、ここにいる4人はあの人だと確信している。無言になったので、オレは白い紙を渡す。
「皆が同じ人物を思い描いているとオレは思う。この紙に名を記し、同時に見せよう」
オレとリアン、ミンツ先輩はスラスラと迷うことなく書いていく。ラッセルは一呼吸おいて、考えていたが、それでも書いた。
「せーので出してくれ。いくぞ?せーの!」
バッと机の上に置かれた四枚のカードには全員が同じ名を記していた。
その人物とは……。
「やっぱり先生か」
「師匠だと思ったわ」
「師匠だよなぁ」
ミンツ先輩、リアン、オレがそう言うと、ラッセルが深刻な顔をした。
「全員が同じ人を思い浮かべているとなると……これは本当に先生である確率が高いですね。だとしたら先生の本気に我々は敵うものでしょうか?」
ミンツ先輩がうーんとうなる。オレも天井を見上げた。手ごわいことは間違いないだろうな。先生相手に4人の生徒が束になってかかっても……どうだろう?自信がない。
「勝つわよ」
その自信のある強い言葉にハッとした。リアンが腕を組み、勝気な表情を浮かべている。
「やる前から気持ちで負けていてどうするのよ。どんな勝負も挑まれたら勝つつもりでいなきゃダメよ!私は逃げるのはありだけど、負けるのだけは嫌よ」
ミンツ先輩が楽し気にキラッと目を光らせる。
「それでこそリアン……王妃様だ!君は昔から変わらないね!いいねぇ」
「むしろ今、王妃という権力があるだけに厄介な……いえ、なんでもありません」
賞賛するようなミンツ先輩にラッセルが苦言を言いかけるが、リアンの視線に言葉を濁す。そして三人は王であるオレを見た。決断はオレだ。先生と対峙するかどうか。
「答えは決まっている。オレたちが守らねばならないのはエイルシア王国と民だ。そしてその未来。師匠がどこかの国にいて、しかけてくるならば、受けてたつしかない」
深く頷く三人。師匠は何を考えているのだろう?シェザル王国にリアンを呼び出すこと、ユクドール王国に揺さぶりをかけたこと……。無意味なことをあの人はしない。きっと自分の存在をオレたちに気付かせたかっただけなのかもしれない。だがなんのために?
「シェザル王国の後ろにいた国を調べましょう。師匠はそれを望んでいる気がするわ。政《まつりごと》の表舞台に誰が望んでも立たなかった師匠が出てくる……何をしたいのか、何をしようとしているのか、見定める必要があるわね」
リアンが真剣な顔をした。先生相手となると、余裕などない。
「先生VS生徒か。先生を相手となると、こっちも無傷ではすまないかもしれないね」
「予言めいたことを言わないでください」
ミンツ先輩にラッセルが声を震わせる。
「いやー。まさにエイルシア王国のこの部屋で4人が集まって『先生』だと辿り着く。そこまで予想していると思うな」
ミンツ先輩の言葉にリアンもそうでしょうねと言う。
オレたちは新たな敵と戦うことになる予感がした。それも今までとは違う。助けてくれていた先生が敵に回る。場が重苦しい空気になった。
なにも気づかぬ人々は今日という日を笑って過ごしている。これからなにか起こるかもしれないということなど一つも知ることはない。
むろん、知る必要なんてない。それは王であるオレの役目だからだ。オレはこの国を守る。リアンも子どもたちも臣下も兵も民人を皆、守りたい。師匠が何を考えているのか、まだ真意はわからないが、それだけは確かなことだった。
オレに外の世界を教えてくれ、リアンと出会わせてくれた師匠は今、どこにいる?4枚のカードが机の上に並べられたのを見る。
……新たな戦いがすでに始まっていたのだった。
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